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紅い龍騎士  作者: Ringo
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第1章 居候の「虫」

新しく始めました!これから地道に完結まで頑張っていきたいです。応援よろしくお願いします。

 店のドアベルが小さく鳴ったのに気づいてテトは事務的に声をかけて出迎えた。片づけの最中であったが、お客の接待の方が優先的だった。


 気付けばまたいつもの登場にテトはクスッと笑顔を見せた。


「今日もお花買いに来てくれたんですか?」


 店内に現れた客の男は照れくさそうに後ろ髪を掻き、頬を可愛げに赤く染めていた。


「……えっと、その……」


 男は何か物言いたそうに口をもごもごしている。はっきりと話さず、照れ隠しながら。


「いつもの…ですよね」


 優しく微笑む彼女のおかげで緊張の張り詰めた糸が緩み、心がなんだかほんわり温まった気がした。


――――――チャンスは今しかない――――――

 

 男は生唾を飲み込み、口を開いた。


「―――あの、俺っ! 前から…テトさんの事………っ! ずっとずっと、………す、すすすすす好きでしたッ!!」


 思いっきり舌をかみまくった。こんな時に…不器用すぎる自分を恨んだ。全力で頭を下げた。もう、後戻りは出来ない。後は、返事を待………。


「ごめんなさい!」


 目が点になる程不意すぎる即答。あまりに唐突で男はマヌケな声を上げた。


「私、婚約者がいるの。だから…」


 悲しそうに瞳を潤し彼女はそう言った。男は自分が考えもしなかった事態に驚きを隠せずにいたままだった。そして、震える声でもう一つ訪ねた。


「ちな…みに…お相手は………?」


 その台詞を合図かのように、見覚えのある金髪の感じ良い男が現れた。その男は馴れ馴れしく彼女の傍によって肩にそっと触れた。そしてテトもそれを許し、互いに愛し合っているのを示した。


 何だ。何で一体どこで間違えたんだ。


 男は目の前の現実から逃れようと必死に頭を掻き毟った。それでも現実は彼に冷たくのし掛かっていたのだった………。




「うあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突然宙を泳ぐ感覚と全身に伝わる激痛。顔を上げるとそこは紛れもなく自宅のベッドの横だった。はっと気づいた。


「夢か………」


 先ほどの一劇が悪夢であったことがわかり胸を撫で下ろした。


 そうとわかれば安心のものの、いまいち心の隅でムズムズしたわだかまりが残る気がした。そして脳裏にテトという美しい女性の笑顔が浮かんだ。


「………テトさん………」





 世界でもっとも星が美しく輝いて見える街、アーテック。王族国の首都でもあるこの町には100年に一度降る不思議な流星群が見える夜を「聖夜祭」と祭り上げていた。


 またこの町には樹齢2000年の桜の大木が存在する。圧倒的な大きさを誇るその大樹は、流星群が流れる期間の間だけまるで妖精がその木に宿り、優しく温かい光を放ちながら不思議と輝くのだった。特別な力を桜の大木に宿す流星群。誰もがその神秘的な星々を眼にするのに待ちこがれていた。


 そして、聖夜祭まで残り一週間を切った今日………。




 朝っぱらから顔を妙に火照らす夢を見たファルヴァンはその熱を冷ますように冷たい水で顔を洗った。普段と変わらぬ手際良いく朝食を作っている最中、何やら獣が唸るような声が聞こえた。


 ………今日も、か。


 肩を落として心の中で呟く。出来上がった朝食を皿に盛り付けるが、一人にしては量が多すぎた。のせきれない分をもう一枚の皿に盛り付け、朝食が出来上がったのだった。


 一人暮らしを始めてから自炊はもちろん家事全般を完璧にこなせるようになった。出来るようになったのは良いだろう。だが、そのおかげで「余計な虫」がこの家に住み着いてしまったのだ。


 その「余計な虫」が今眠る部屋にファルヴァンは堂々と入り込んだ。もうカーテンの隙間から朝日がとっくに射しているというのに、虫はそうとは知らず心地良さそうにヨダレまでを垂らして………。


 ファルヴァンは空気をたっぷりと吸い、その虫に向かって怒鳴った。


「いつまで寝てる気だこの居候!!」


 その「虫」はファルヴァンの怒鳴り声にベッドから飛び跳ねた。目が半分しか開かずフワフワとまた夢の中へ飛んでいってしまいそうな「虫」にファルヴァンは言った。


「朝飯できたってのに何時になっても起きやしないから。ほら、早く顔洗って」


 ファルヴァンへの返事のつもりなのか、低い声で「あー」だの、「うー」だの不明確にぼやいた。


 洗面所から顔を洗いさっぱりとした姿で帰ってきた「虫」こと「リーナ」は、席についてようやく朝食にありついた。


「おはよ~」


 マイペースに挨拶したリーナ。短めに切り整えた癖気味のショートカットに華奢な手足。それに眼鏡の21歳の女性だ。


「俺はいつからあんたのお母さんになったんだよ。いい加減自分で起きてくれ、居候さん」


「あれーパンもう冷めちゃってるぅ」


「って、人の話を聞けっ!」


 冷めたパンを口にくわえたリーナを素早く叩いた。勿論手加減はしているがリーナは叩かれた頭を痛そうに抱えていた。


「いふぁーい! はひふんほほー」


 パンは加えたままで、何を言っているのか分からなかった。


「俺今日から訓練だけじゃなくて聖夜祭に向けての準備もあって色々大変だってのに…」


 ファルヴァンが愚痴を漏らしているとパンを一旦食べ終えたリーナが訊いた。


「えーまた帰ってくるの遅いの? 私のご飯どうするんですかー?!」


 直後、再びリーナの頭に拳が振り下りた。


「あいたっ!」


「俺の帰りを待つ前に自分で作れっ! てかいつになったら家を出てく気だ!」


 するとリーナ子供が拗ねるように口を尖らせた。


「だってー、この町綺麗で空気もご飯も美味しいし、寝心地は良いし、自分でご飯作る必要ないし…」


「今の5割方が俺の家での生活に限られてるぞ。大体絵描きで旅をしてるって言うが、家に来てから2週間! 一度もペンに触れた姿を目にしたことがないだけど」


 ふとリーナを見ると彼女はボーっと上を見つめていた。


「時間大丈夫なんですか?」


 どきっとしたファルヴァンは壁のちょっと高い位置にある時計を見つめた。一瞬にして彼の顔は真っ青に染まった。


「―――っ遅刻だ!」


 掴んでいたフォークを机に叩き付け、荷物を詰めたバッグを背負った。


「食器洗っておいて!」


「えー私が?」


 メンドクサそうに嫌がるリーナにファルヴァンは言った。


「十四宿四十五飯の恩ぐらい返せ!」


 そう言って勢い良く家を飛ぶ出していった。


 第2章へ続く…

ブログもよろしくお願いします。

http://ameblo.jp/ringo724f

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