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97・タイミング

 俺は身体の調子を確認する。

 まだ身体は痺れるが動けない程ではない。しかしただ動けるという程度ではプロキオンに対抗できないだろう。

 魔素を強引に魔力に変換した際に身体中の、人で言う神経みたいなもの……いや魔力回路? う~ん違うな、ともかく身体を動かす伝達回路みたいなものが焼き切れたのではないかと思う、多分。

 体液をぶち撒けて酷く見える外観だが、実は目に見える表面上の傷は大した事はない。どちらかというと身体の内部の方が損傷が激しいようだ。

 体力が僅かばかり回復してきてるのに、身体が全然動かなかったのは、身体の内部組織が再生してなかった為だろう。

 でもまぁ正直無茶をし過ぎた、通常なら有り得ない事をしたんだと改めて反省した。でもああしないと今こうして生きて(?)る事もなかったしな。他に良い手が思い浮かばなかったし……。

 ゾンビの身体は黙っていても千切れた身体はくっ付いたりして自己修復力があったが、進化する度にその修復力も上がっていった。

 アルティメイトゾンビになった今ではかなりの修復速度になってる筈だ。俺が考えているよりも早く治るかもしれない。実際に短時間で身体の痺れは薄れ、全快はまだ無理だが動かせる程度には回復している。


 俺は回復を待つ間、密かにステータス画面を調べていた。主にアルティメイトゾンビの特性とかをだ。少しでもプロキオンより有利に立ちたい。

 単に身体能力が上がり、回復力や体力、魔力、そしてステータスが向上しただけではないだろうと思う。

 ステータス画面を開いて直ぐに以前と違う点が目に入る。

 実はアルティメイトゾンビに進化した時に気付いていたが、ゴーレムとの戦闘中だったので確認は後回しにしてしまっていた。だがその後もプロキオンとの戦闘で余裕もなく、簡単に目を通しただけで、しっかりとは確認していない。

 言うまでもなく進化のお陰で各ステータスが強化されているが、ステータスを表示するレーダーチャートの表示が今までとは大きく違っていた。

 従来通りにあるレーダーチャート内のステータス値を表示する黒線のグラフラインの外側に、緑色のグラフラインが追加されていた。

 レーダーチャートの外側には分かり易いようにステータスの数値も記載されている。ステータス値の後ろに+マークがついており、その+の後にも数字が記入されていた。

 まるでゲームのステータス画面で見るボーナスポイントのようだ。いやボーナスポイントで間違いないか。

 緑色のグラフラインはこのボーナス値を加算したグラフみたいだな。

 そしてこのボーナスポイントの数字だが、常に一定という訳ではなく変動している。

 具体的に言うとアルティメイトゾンビになった時と俺が魔素を魔力に変換して体力を消耗した時の数字が全然違う。

 体力が減った時の方がボーナスポイントが多い。

 今徐々に体力が回復しているが、ボーナスポイントはそれに合わせ徐々に減ってきている。

 ……つまり体力が元に戻っていくにつれボーナスポイントが減少し、体力が減ればボーナスポイントが加算されていくようだ。

 弱れば弱るほど攻撃力や防御力、速力等が向上すると考えればいいのか?

 そもそもアンデッドは生きている人や他の魔物と違い、体力……HPが少なくなっても動きが鈍る事はなかったり多少緩慢になるくらいで弱っているようには見えないし感じられない。戦っている相手にしたら戦いにくい敵だろう。

 とは言え、竜の咆哮を使った直後の冥王プロキオンのように、体力、魔力そして魔素の大半を失ったりしたら、流石に見た目で分かる程度にはふらつくようだ。

 

 ようやくプロキオンの身体から白煙が収まったところで奴は前に歩み出る。


「貴様等は予想外が多すぎる。しかしそれでもまだ想定内ではある。我が負けるような事は有り得ん」


 そう口にするプロキオンだが、きっと顔が骸骨ではなく表情が分かるのなら顔を顰めているに違いない。

 そもそも俺やセシリアを鑑定して進化種族を確認した時に、「想定できるか!」と叫んでなかったか? 嘘はいけないな、嘘は。


「どうした、もう薬品は切れたか? まぁ、もしまだあったとしても来る事が分かっていれば躱すのは容易いがな」


 しかし台詞とは裏腹にゆっくりと慎重にクレアとの間合いを詰める。流石に警戒はしているようだ。

 鑑定が使えないから正確な体力残が分からないが、結構なダメージをプロキオンは受けているはずだ。想定内とか言っているが、きっとフルポーションは想定外だったに違いない。変な奇声を上げていたし。


 俺やセシリア、そしてアリスはアンデッドだ。冥王の城が建っていたこの場所は魔素が濃く、他の地域に比べ比較的体力が回復しやすい。

 とは言え、身体が千切れたセシリアやアリスが元に戻るのにはかなりの時間を要する。

 クレアがプロキオンに善戦してくれたお陰で時間も少々稼げ、俺の身体の修復も進んでいる。身体はまだ僅かに痺れている。動くこそは動くが、戦うとなるとまだ不十分だ。だが多分もう少しで戦闘が可能な程度には回復すると思う。

 幸いな事にアルティメイトゾンビの特性のお陰で、アリスや分離したセシリアより回復、修復速度が早いようだ。

 冥王は鑑定を使えるので俺を鑑定すれば、体力が心許ないくらいとは言え回復しているのに気付く筈である。鑑定は魔法ではなくスキルらしいし使える筈だしな。

 クレアの予想外の攻撃で俺への注意は薄れ、俺を構う事はせずに放置しているように思う。全身から体液をぶち撒かしていて動けない俺を見ていたから、直ぐには回復などしないと判断しているのかもしれない。

 俺が一番気に食わないと言っていたし、先に皆に止めを刺して俺に絶望感を与えてから、最後に止めをさすつもりなんじゃないかな。


 プロキオンはゆっくりとクレアの方に歩みを進めて、やがてお互いの物理攻撃の範囲近くまで近付いた。

 俺の伏せっている場所はクレアとプロキオンが対面している所から少々離れた床の上だ。位置的にプロキオンの斜め後ろ位か。

 プロキオンの視界から外れた俺は身体を確認するように僅かに体を起こしてみる。

 クレアの視界内で俺が身体を動かした為に、クレアがつい視線を俺に巡らせてしまう。そのクレアの様子を見たプロキオンが、一瞬だけ背後を確認するように視線を走らせた。


「……セシリィが心配か? 安心せい貴様らを倒したら直ぐに後を追わせてやるからな。仲間を失った絶望を味わせながら滅してやるわ。くくくっ」


 慌てて死んだふり……違った、動けないふりをしていた俺を見てプロキオンが笑う。

 やっぱり俺を最後に殺す……消すつもりだったか。嫌らしい奴だな。

 ……まぁ俺も奴の眷属であるアルデバランとカノープスを奪っている形だからな。文句は言えない……のか?


 俺はプロキオンに対峙するクレアに頭を上げ一つ頷いてみる。

 それを何かの合図だと理解してくれたクレアは、プロキオンに気付かれないように口の端を上げる事で俺に答えた。

 クレアのそんな表情に、プロキオンは馬鹿にされたと思ったのか、手に持つ杖を振り上げる。


「気に食わんな聖女、貴様に何ができる?!」


 散々ポーションを浴びせられ苦しんでいたのは誰だよ?

 冥王プロキオンに対しクレアはメイスを振り上げ突撃をかけていた。

 ……え?

 違――――うっ! そうじゃねぇえええ!

 俺が頷き合図を送ったのは、プロキオンと対峙せずに退け……という意味だったんだけどな! 決して囮になって気を引いてくれという意味ではない。

 プロキオンの背後いる俺の奴への奇襲は成功するかどうかは分からないが、後は俺に任せろという意味で合図を送ったつもりだったのだが……。

 ポーションの残りが有るのか無いのかも分からない、しかも俺達の中で耐久力の一番低いクレアに突撃なんて望むはずがない。

 自己犠牲旺盛な聖女様に遠慮なく杖を叩きつけるプロキオン。


「ふはははっ、聖女と言えど所詮は人間、所詮は魔法を使えぬ後衛、我に立ち向かったことを褒めてはやるが、それだけだ!」


 プロキオンも魔法使いタイプの後衛だ……とは言い切れない。

 そもそも奴はこの世界ではボスの一角である冥王である。高位戦士並みの戦闘力と、高位魔法使いを遥かに上回る魔力を持っている正真正銘の化け物だ。

 近接戦闘を身に付けたとは言え、人族の後衛職では太刀打ちできるものではない。


「っ!」


 プロキオンの杖による一撃とクレアの銀色のメイスが衝突して、大きな衝突音を上げる。

 プロキオンは体勢を全く崩すことなく杖を振りぬき、逆に突撃をかけたクレアは大きく弾き飛ばされる。


「ん、きゃっ!」


 一度床に叩きつけられた後に後方に数回転がり蹲るクレア。だが直ぐに立ち上がりメイスを構え直す。

 俺が予想していなかったクレアの突撃につい呆気に取られ、奇襲のチャンスだったのにも関わらず仕掛けるタイミングを逃してしまった。

 こうなったらクレアを信じて、俺の身体の痺れが完全になくなってから奇襲をかけた方がいいかもしれない。HP……体力は不十分だが、身体は自由に動いた方が断然いい。

 ……いやでも、人であるクレアは当たり所が悪ければ即死しかねないし、直ぐにでも奇襲をかけた方がいいのか?

 俺が判断を迷っている間にプロキオンはクレアに間合いを詰めて、杖を振りかぶった。

 プロキオンの奴、追撃しやがった! 俺はクレアの下に走ろうと身体を起こす。

 プロキオンの一撃をクレアはメイスを盾に防ごうとするが、耐えきれずにメイスが押し下げられ、杖はクレアの肩に当たる。衝撃を逃そうとクレアは身体を捻り躱そうとするが、プロキオンの杖はそのまま振り切られクレアは肩から指先まで深手を負う。

 腕の衣服が破れ血が吹き出るが、手は千切れてないようだ。

 プロキオンの武器が杖ではなく剣だったら完全に致命傷だっただろう。

 怪我を負い、歯を食いしばるクレアは一旦背後に下がるのかと思ったのだが、なんと彼女は後ろには下がらず、逆に一歩踏み込み、傷を負っていない手で握ったメイスをプロキオンに叩き込んだ。その一撃は見事なカウンターとなってプロキオンを襲った。


「ふがっ?!」


 バキンという音と同時にプロキオンの頭部が揺れる。メイスが奴の頭にクリーンヒットしたのだ。


「お、おのれぇ! 無礼にも我に攻撃を与えるとはぁ! 聖女ぉ!」

「……倒せないか……残念」


 クレアの攻撃で多少よろけたものの、プロキオンを倒すような致命的な一撃にはなりえなかった。

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[一言] メイスで叩かれた衝撃でプロキオンの首が縮んでそう
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