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93・再開

 一気に険悪な雰囲気になったな。まぁ本来俺達は戦闘を繰り広げていたんだし、本来の状況に戻っただけか。

 そう一人納得した俺に冥王プロキオンは指をさして口を開く。


「セシリィ、何故お前は自分がまるで関係のないような面をしておるのだ? そもそもお前が諸悪の根源だろうに」

「……え、俺?」

「お前以外の誰がいるというのだ、惚けおって! 我が一番許せんのはお前だという事は分かっているだろうが!」


 冥王は杖をドンと床に突き怒りを露わにしたが、その後はしまったと言わんばかりに骸骨になった顔に手を当て暫く沈黙していた。


「……おっといかん、またこ奴のペースに乗せられるところだったわい。そう何度も調子を乱される我ではないぞ」


 いや、そんな事は全然意図してませんが?


「じゃあ、お喋りはもういいのかしら?」

「ふん、そもそもセシリア、貴様が勝手に喋りだしたのだろう……だが実に面白く、意味のある内容だったがな」

「そう? それは良かったわ」


 冥王プロキオンがジリジリと後ろへ下がる。魔法攻撃が中心の奴は間合いを空けるのが基本戦術だ。

 そのまま竜の咆哮で空いた穴に落ちたらギャグなのだが、流石にそんな阿呆な事にはなる筈もなく、ダッシュで間合いを詰めてくるセシリアに対し、杖を構え備えている。

 冥王は竜の咆哮で空いた大穴ギリギリ手前まで下がった後、迫って来たセシリアに対し魔法を発動させた。


「アイスウォール!」

「ちっ、またなの? いい加減にしなさいよ!」


 プロキオンが杖の石突をドンと床に突くと氷の壁が現れ、セシリアの行く手を塞ぐ。

 詠唱無しで使える魔道具の杖は本当に厄介だ。クールタイムがあるので続けて使えない事がこちらにしては救いだが。

 氷壁を破壊する為にセシリアは聖剣を叩きつける。

 アイスウォールは中々の強度を持っているようで、聖剣をもってしても一撃では氷壁を破壊しきれない。

 冥王プロキオンは氷壁の向うで次の魔法を発動させる。

 おいおい、詠唱はどうした? あっ無声詠唱か。会話中に密かに詠唱を終えていたんだな。冥将アルデバランが使っていたスキルを冥王であるプロキオンが使えない筈はない。


「くくくっ、サモンアンデッド」


 魔王と見紛うばかりに魔法を連発していた冥王だが、ここに来て本来得意であろう死霊魔法を使用した。

 まぁこちらには聖女が居るから、アンデッドをけしかけるのはいい手ではなかったのだろうけど。

 大部屋の彼方此方の床に何個も現れた円形の黒い召喚陣から、スケルトンやゾンビが大量に出現した。


「ターンアンデッド!」


 当然、対抗処置としてクレアが浄化魔法を唱える。

 クレアが唱えた浄化魔法がキラキラ光る白い光となって敵を包み込み、その範囲に居たアンデッドは灰となって天に帰る。

 しかし冥王のサモンアンデッドで召喚されたアンデッドはかなりの数に上る。

 先程俺達が手を焼いていた召喚ゴーレムの様に、場に現れる数に上限などは無いようで、ターンアンデッドで浄化させても次々とアンデッドが湧いて出てくる。


「フレアボム!」


 アリスが爆発系の魔法でアンデッドを吹き飛ばす。

 アリスは魔法を使い直接戦闘もこなす魔法戦士の戦闘スタイルだが、種族特性のお陰か魔法適性が非常に高く、魔法の威力自体は高位の魔法使いと何ら劣る事はない。

 今もフレアボムを放った後に新たな魔法の詠唱を始め、呪文の完成したファイアストームがアンデッドの集団を巻き込み灰に変えている。

 冷却系の魔法を好むアリスだが、対アンデッドにはよく効く燃焼系の魔法をよく使う。好き好みがあるだけで苦手では無いようだ。


 セシリアの連続攻撃でアイスウォールを破壊されたプロキオンは、直ぐに障壁を展開してセシリアの攻撃を防ぐ。


「ふはっ、こいつは中々厳しいわい!」


 冥王と言えど流石に四対一では分が悪いみたいだが、その口調にはまだまだ余裕があるように感じる。


「なら、もうあきらめてもいいのよ!」


 セシリアが障壁を破ろうと聖剣を振りかぶる。

 一方俺は、進行方向にいるアンデッドをターンアンデッドで浄化しながら、セシリアから少し遅れてプロキオンに詰め寄っていた。

 手には魔剣ブラックロウ、聖剣の様に圧倒的大ダメージを与える事はできないが、当たれば暗黒系の吸収と同時にそれなりのダメージを与える事も出来る。

 武器である以上、冥王と同じ闇属性でも無効化される事はない。但し同属性の場合、他の属性より与えるダメージは若干落ちる事にはなる。

 スケルトン系に特効があるらしい金棒を出そうかと思ったが、ウォール系の魔法や障壁を破らねばならない場合、金棒では攻撃力不足になるので止めておいた。


「ふははっ、良いのか? 我に気を取られていても」

「!?」


 プロキオンの直ぐ目の前の床が黒くなった場所から巨躯の黒鎧が二体現れ、セシリアのプロキオンへの攻撃は阻止された。

 カノープスの様な意思のある鎧騎士ではなく、ただ単に邪魔者を排除するだけのアンデッド騎士の様だ。

 それぞれ一体づつ俺とセシリアの前に立ち、プロキオンへの接近を阻まれる。俺達の接近を阻止する事に成功した冥王プロキオン。

 くそっ、こんなのも出てくるのか。プロキオンの『サモンアンデッド』は中々厄介な魔法だ。


「もう少し待っておれ、あの魔法の呪文は長いからな」


 恐らく俺以外は聞きとれないような呟くような小さな声で、プロキオンが不穏な言葉を口にした。

 そうだ思い出した。

 王都で戦ったアルデバランの分体は、通常の魔法を使っている間に別の呪文詠唱を密かに唱えていた。

 確かダブルスペルとか言うスキルだった筈だ。

 そして今、冥王プロキオンは魔法を放っている陰で別の呪文を唱えているという訳だ。長い呪文と言うからにはかなりの大魔法なのかもしれない。

 通常、魔法の詠唱は術者が戦闘の攻防していたり、激しく動き回ったりしていると、呪文が中断してしまい魔法が失敗してしまう事がある。

 だが、そこは流石冥王、俺達の攻撃を避け、尚且つ別の魔法を連発させながらも影で別の魔法の詠唱を続けているようだ。

 恐らくダメージを入れればかなりの確率で呪文を中断させられる事ができると思うが……。

 確かダブルスキルは高速詠唱や呪文短縮の恩恵を受けれないと聞いたことがあるので、詠唱にはかなりの時間がかかる筈だ、魔法が発動する前に何とかしないと……。

 

 武器特性の違いか、それともブレイブとアルティメイトの違いか、それぞれの前に立ちはだかる黒い鎧騎士を倒すのにかかった時間はセシリアの方が早かった。

 俺がようやく鎧騎士を倒した時には、セシリアは冥王プロキオンの直ぐ目の前まで接近をしていた。

 しかしプロキオンに慌てた様子はない。


「残念じゃったな、サモンアンデッドドラゴン」


 冥王の直ぐ手前、今正にセシリアの居る場所の真下から、巨大な物体が湧き出てくる。


「なっ、きゃっ!?」


 冥王プロキオンの召喚魔法で突如現れたその大きな物体にセシリアが吹き飛ばされた。

 プロキオンを守る様に現れたのは身体が腐食しているとはいえ、見紛うことなく竜……つまり冥王が言った通り、アンデッドドラゴン……ドラゴンゾンビだった。

 どうやら最初に発動したサモンアンデッドとは別の召喚魔法のようだ。何せアンデッドとはいえドラゴンの召喚だしな。


 突如と現れた巨大なアンデッドの竜を見上げ俺は思った。

 使用者の力を代償にとんでもない破壊力を生み出した竜の咆哮という魔道具。竜王があの魔道具のデメリットを教えないままプロキオンに渡したのは、わざとなのではないだろうか。

 竜王にしたら面白くないんじゃないのか? アンデッドとはいえ死した竜を使役されているのは。

 前の世界の物語とかに出てくる竜族ってプライドとか高いし、有り得ない話でもない気がする。

 更に冥王プロキオンは「それは怒る様な事か?」なんて空気の読めない事を悪気もなく言いそうだ。

 おのれ竜王とか呟いていたけど、原因は冥王自身なのかもしれないよな。まぁ俺が勝手にそう思っただけで、違うかもしれないけど。


 戦闘中に余計な事を考えてたら、いつの間にかドラゴンゾンビは口を大きく開け息を大きく吸い込んでいた。

 あっ、やっぱり腐ったアンデッドでもブレス吐くんだ?!

 竜のブレスは息を吸い込む動作をするが、そのブレス自体は魔法なのだそうだ。身体の中にブレスを吐く器官などはないらしい。

 よってドラゴンゾンビでもブレスは吐くらしい。

 

 確かに竜のブレスは脅威だ。だがドラゴンゾンビのブレスは先程の魔道具竜の咆哮程の威力は無いと思う。竜の咆哮の方は冥王プロキオンの魔力と体力、そしてアンデッドとして存在する為の体内の魔素の大半を代償にしたものだったからだ。

 とは言え、高威力の攻撃なのは間違いないだろう。

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[一言] ドラゴンゾンビが吐くブレス……くさそう
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