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9・進化(4)

もうすぐ夜の帳が降りてくる夕刻時、俺は森の中を疾走している。

 一体何が起こったのか? それは俺が聞きたいくらいだ。

 あのライゼルとかいう騎士達が来た数日後に俺は、いや俺達は戦いに巻き込まれていた。

 いや巻き込まれたと言う表現は違うな。

 これは俺達、というかメリアを狙ったものだろう。


 数台の馬車を引いた商人らしき一団が湖畔に現れた。

 情報通りならあの中に奴隷が居て、ここで行なわれるだろう非合法の取引に来たのかもしれない。

 メリアが話を聞こうと声をかけると、待っていたかのように囲まれてしまったのだ。

 非合法の奴隷商人なら見知らぬ人間が寄って来れば警戒するだろうし、場合によっては暴力に訴える可能性も無きにして非ずだ。

 だが今回は違う。

 馬車から飛び出してきたのは奴隷ではなく、武器と鎧で装備を整えた奴等であるからだ。


 予め待機していた俺とメリア配下のアンデッドは彼女を助ける為に動き出した。

 ここで予想外の展開が……ゾンビがスケルトンが、そしてゴーストやレイスまで次々と消えていく。

 ターンアンデッド。この一団の中に神官が居るのか?

 身体の大きい俺が狙われなかったのは、アンデッドと思われていなかったのかもしれない。別の大きな魔物と思われていたのだろう。ゾンビにしては大きいし、身体もちょいと奇怪な形に変形しているしな。

 メリアに近付いてきた戦士風の奴と交戦した所で、俺が巨大なゾンビだったことに気付いた様で神官が魔法を唱え始めた。

 流石に神聖魔法はマズい。

 俺は呆然としていたメリアを抱え、全力で逃げたのだった。

 襲ってきた奴等やあのイケメン騎士達の通って来た、草に半場覆われた道ではなく、鬱蒼と茂る獣道も無い様な森の方へ。


 恐らくダンジョンのある方角とは別の方角へ逃げたのだろう。夜になる頃には森を抜け、見たことのない岩場の様な場所に出ていた。


「……な、何故? いえ分かってる。きっと殿下を攫った奴が放った刺客ね……」


 そうだろうな。しかもご丁寧に神官付きだ。ネクロマンサーのメリアを想定しての事なのは明白だ。

 こっちの戦力は随分と減ってしまった……スケルトンが三体だけか。アンデッドは歩みが遅いから戦力を削る意味もあって、倒されてしまったのだろう。

 今居るスケルトンはメリアが魔法陣から出してなかったアンデッドだけだ。

 夜になれば俺達アンデッドは強くはなる。しかしこの数ではなぁ。

 しかも相手はアンデッドの天敵である神官がいるのだ、できればもう少し逃げておきたいがメリアが結構疲弊している。俺が抱えていたと言っても疲れはするだろう……ん?

 メリアの身体から血が滴り落ちている。

 し、しまった! 怪我してんじゃん、大丈夫か?

 おろおろする俺を見て、顰めていた顔を緩ませるメリア。


「本当、自我があるような動きをするのね……それとも本当に……っつ!」


 彼女は再び顔を顰める、かなり痛そうだ。

 荷物はあの湖の畔に張ったテントの中に置きっぱなしで、ポーションや手当をする道具も無い。

 メリアは服の一部を破り傷跡に巻きつける。それだけでは血は止まらす僅かに血が滲んでいる。

 ここから動かすにはメリアの体力が心配だ。

 やはり彼女は回復魔法が使えない様だった。ネクロマンサーだしな。

 


「大丈夫、かなり距離は稼げたと思うわ……もう少し休んだら、また逃げましょう……」


 ! 目を閉じたから死んだのかと思ったら寝息を立てていた。

 ほっ、良かった。ここで死なれたら目覚めが悪い。

 この世界、この身体になって初めての人との付き合いだ。流石に情が湧いているしな。なんとかどこかの町とかまで行ければいいのだが。

 まぁ俺の事は何とかなるさ。一応死霊魔法で操られていることになっているんだし。


 ここで俺は判断を誤った。

 神官がいるのだ。斥候がいないわけがないじゃないか。

 いつの間にか俺達は囲まれていた。


「……!」


 異変に気付いたメリアが目を覚ます。彼女を岩場の隙間に隠し、俺は奴等の前へその身を晒した。

 神官の魔法……ターンアンデッドがこない?

 周りを見ると斥候らしき者が一人と軽装備の戦士が三人だ。

 そうか、足の速い奴だけ先行して来たんだな。

 仲間を待たずに俺の目の前に出たって事は自分達で十分かと思ったか、もしくは仲間が追いつくまで逃げない様に足止めをするつもりか。


 俺のレベルは19。

 この世界でレベル19がどのくらいの強さなのかは実はよく分からない。

 同じレベルでも種族や進化具合でも強さが変わるので余計にだ。

 どこまでやれるか? 少なくともスケルトンナイトを倒す力はあるし、何より今はアンデッドが力を得る事のできる夜だ。

 この敵対する四人の実力は分からないが、斥候に軽戦士だ。攻撃を当てる事ができれば倒すことができるかもしれない。

 ただかなり素早そうではある。だが、このナリのでかいグレーターゾンビも見かけによらず素早いのだ。


「なんだコレは?」

「湖から逃げる時も思ったが、ゾンビの動きじゃねぇ!」

「慌てるなこちらは四人いる」

「ああ、しかも奴は主をおいて逃げれんのだからな」


 一対四でも何とかなっている。

 スケルトンはどうした、四対四だろって?

 いや、早々に倒されて、メリアを守っているのは今や俺だけだったりする。

 そんな訳で、俺は前と左右から囲まれ非常にピンチだ。

 昔ゲームでモンスターを倒す時に数人のパーティを組んで、一体のモンスターを倒して遊んでいたなぁ。

 もっとも今は立場が逆でモンスターの立場だけどな、俺魔物だし。しかも負けるわけにはいかないときたものだ。

 メリアのいる背後に回られないように動きながら奴等と戦う。

 斥候も軽装備の戦士もそれ程のレベルではないのか、苦戦はしたものの倒す事ができた。

 ……こいつらはメリアを亡き者にしようとしていた。当然この俺の事もだ。

 なら情けをかける必要はない。

 ……ああ、身体が魔物だと思考も魔物化していくものなのだろうか?

 動かなくなってしまった奴等に対して、俺が心配していたような罪悪感があまり湧かなかった。


 メリアは腰を上げ歩き始める。

 奴等の仲間が追ってくるかもしれないし、もし今倒した斥候と軽戦士達が偵察に来ていただけだとしたら、帰ってこない彼等を探しに来るはずだ。

 ここから動かないと危険であることは間違いない。

 予想以上に後続隊は離れていなかった様で、俺は暫く歩いた後で立ち止まり、メリアを先に行く様にジェスチャーで伝えた。


「先に行けって事? 貴方本当に……いえ、なんでもないわ」


 背を向けた後に「ありがとう」と聞こえたのは気のせいだろう。彼女は俺の事をネクロマンスで操っている魔物だと思っているはずだからな。


 俺はゆったりとした動きから一瞬で追跡者達の間合いに入った。

 案の定、俺に対しターンアンデッドを唱えていた。

 俺の事は神官に任せたのだろう、残りの奴等は俺を無視してメリアを追って行った。くそっ。

 メリアは怪我を負っている、追いつかれるのは時間の問題か。

 しかし今追う事はできない。何故なら……。


「ぐおおおおっ!」


 情けない事に俺の叫びだ。

 一瞬で間合いを詰めた俺は神官を倒した……ただし一人目のな。

 ……そう、神官は二人いたのだった。

 身体が悲鳴を上げる、溶けるとも蒸発するとも違う感覚が俺を襲う。

 死者を天に返すターンアンデッドは決して安らかなものではなく、苦痛を伴うものだった。

 あるいは天に帰るのを望んでいれば、安らかなものになるのかもしれない。

 残念ながら俺は未練タラタラだ。


「う、うわわわわわーっ、ふごっ!」


 俺にターンアンデッドを食らわせていた神官の首が飛ぶ。

 必殺だと思っていた魔法の途中で反撃にあうとは思ってもみなかったのだろう。

 ……いや、ターンアンデッドは圧倒的な一撃である事は間違いない。

 ここにもし他の者が残っていたら確実に殺されていただろう。

 メリアを追いかけたいが……身体が思うように動かない。


 身体の状態を確認しようとステータス画面を呼び出す。


 『レベル20に達成しました。進化しますか? Y/N』


 ログ欄にそんな文字が……。

 レベルアップ音を聞き逃すくらいダメージを受けていたのか

 そうか前回と同じでレベル20で進化か。

 俺はよく働かない頭でYesをクリックした。


『グレーターゾンビレベル20→ワイト・レベル10orアークゾンビ・レベル1or進化しない』


 どんな風に進化するか分からない未知数なアークゾンビだが、何となくそれにした方がいい気がした。根拠はないのだが。


 アークゾンビを選択すると身体の痛みが消え、靄のかかったような思考がはっきりとした。

 ……そう言えばゾンビになってから初めての痛みだったな。今まで物理的な痛覚がなかったし。

 相変わらず夜目は利く。

 しかし何だこの違和感? 視線がかなり低くなっている。

 グレーターゾンビでかなり大きくなったのに今度は逆に縮まったのか?

 いや、今は検証よりメリアだ、追わないと。

 レベルは1だが、何とかするしかない。

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