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89・怒れる冥王

 突如現れた白色の女に冥王は一瞬目を奪われていた様だ。


「アイスストーム」


 冥王の怒りと葛藤など知らぬとばかりに、元アルデバランのアルの作った白色の女性、カオスブライドは呪文を完成させていた。


「むっ、ファイアストーム!」


 カオスブライドが呪文を唱えていると知った直後に相対する魔法を唱え始めたプロキオンだが、高速詠唱と呪文短縮の併せ技を使っても一歩遅かった。カオスブライド自身も同じスキルを持っているようだ。アルは凄い物を作ってくれたものだ。


 先に発動した氷の嵐が大部屋に吹き荒れる。

 部屋と言ってもかなりの広さだ。だが氷の嵐はほぼ部屋中に効果を表す。氷の塊がゴーレムをなぎ倒し、床の大半は凍てついていく。


「やったか……と言いたいところだがな……」


 アリスが呟く。

 フラグを立てたいわけじゃない。このくらいで冥王であるプロキオンが倒されるはずがないのは、アリス自身分かっているだろう。


 暫くすると氷が少しずつ溶けていく。。

 気温が徐々に上昇し、やがて熱風が吹き抜ける。

 プロキオンはファイアストームでアイスストームを相殺しただけじゃなく、それ以上の熱量を発生させたようだ。当然ながら魔力は冥王の方が上だしな、威力も比例する。

 余剰分の炎が俺達を襲うが、クレアが結界を張り防いだ。


「おのれぇええ! アルデバラン、貴様もかぁあああああ!」 


 冥王の居た氷の塊だった場所が急激に熱せられて爆発を起こす。そこから絶叫しながら黒いローブの骸骨が現れた。

 怒れる冥王プロキオンである。

 氷を解かし中途半端に熱された部屋は湿度が高い。まるで冥王プロキオンの不快な気分を表しているようだった。


「ふーはー、ふーはー」


 全身骸骨で息を吸う事もない筈なのに、肩で息をするように深呼吸を繰り返す冥王プロキオン。


「我が間違っておった……そう、後悔させながら嬲り殺そうと考えていた我が間違っておったのだ」


 低く重い口調に「アンデッドなのに殺すって?」、等と突っ込みを入れれる雰囲気ではなかった。


「そもそも王たるこの我が何故一人で戦っておるのだ? そうだ、こ奴が我の物を殆ど奪ったからではないか……我になり替わり冥王になろうとしている奴に、我は何を悠長に戦っておったのだ?」


 結果的にそうなっただけで、冥王になろうなんてこれっぽっちも考えてはいない。無論今もだ。そう言っても信じてもらえないと思うが。

 ただこいつ……プロキオンのやってきたこと、やろうとしていることには不快感を感じてしまうのは確かだ。きっとプロキオンも俺に対し同じように思っているだろうからお互い様だ。


 そんな事を考えてる間にも、冥王プロキオンの圧……プレッシャーが跳あがる。

 マズい。とうとう本気になりやがった。手心を加えられていても負けそうだったのに、これはヤバいな……。

 予想以上に戦闘力が高そうだと感じた俺は、今更だがせめてクレアだけでも逃がせないものか、という考えが一瞬頭を過った。

 聖女が生き残ればいずれ現れるかもしれない勇者の手助けにはなるだう。

 ……だが、残念ながらどう考えてもここから逃げ出す手段はありそうにない。


「……遊びは終わりである。可及的速やかに我の敵を排除する」


 シリアスモードのプロキオンに「似合わないからやめろ」とは言えない雰囲気である。

 プロキオンは今度は懐から竜の形をした掌大の彫像を取り出した。

 勝ち誇るでもなく、驕ることもなく竜像を掲げる。


「終わりだ。竜の咆哮」


 名からして竜王からの貰い物なのだろう。そしてその効果も冥王は知っているようだ。

 その名の通りの竜が吠え猛るだけの生易しいものではなかった。

 そう、それはブレス。全てを焼きつくす竜のブレスのようだった……竜のブレスは見た事はないが、そう思わせる程の圧倒的な火力が俺達を襲う。

 俺達は炎と光に飲まれる前に、クレアの元に集まり結界と障壁を全開で展開させる。

 本能があれはマズいと警鐘をあげる。アリスもそう感じたのか顔が引きつっていた。


「来ます!」


 クレアが声を上げた瞬間、世界が白く包まれた。


 <>


 白い世界だったのに、いつの間にか俺の周りは黒い世界に包まれていた。

 何処だ、ここ?

 すると俺の前方にキラキラと輝く綺麗な川が現れる。

 川向うに何処かで見た人が手を振っていた……あれ? メリアじゃないか。相変わらずの若作りで美人だよな。俺の考えてる事が分かる筈がないのに、彼女は少し不機嫌そうになった。

 頬を膨らませ、手で戻りなさいとジェスチャーをしている。

 久しぶりに会ったのにつれない奴だ。

 不意に足を掴まれ下を見る。

 ゲッ、ギルバートが恨めしそうな顔で俺の足を引っ張ってやがる。おおっいつの間にかマリアンヌも現れて反対側の足を掴みやがった。

 お前を殺したのはゾンビになった国王だろ? 俺は関係ないじゃないか! ああ、王都で聖女とか呼ばれていた俺が憎いってか?

 知らないよ。そんなの俺が頼んだわけじゃないし!

 必死に抵抗をしている間に、いつの間にかレオンハルトも俺の足にぶら下がっていた。

 お前を殺したのはセシリアだ、俺じゃねぇよ!

 ……しかし、これはアレだな……死んだのか?

 いやゾンビだし死んだって表現はおかしいか。

 さて俺はどうなるんだろう。また転生するのかそれとも……。

 そう考えていると腕を掴まれ上空に引っ張られた。

 そこにはもうギルバートもマリアンヌもレオンハルトも、そしてメリアも居ない。振り向き腕を掴んだ人物を見て俺は息を飲んだ。


『何をしているの? 戻るわよ』


 確かに彼女はそう言った。

 そこにはエンシェントゾンビの時の俺……いや、セシリアが居たのだった。


 音が戻る。

 ガラガラと何かが崩れる音と、ジュウジュウと焼け焦げる音。

 そして埃と焦げた臭いが辺りを立ち込め、白煙で碌に前も見えない。


「カストル、ポルックス……」


 アリスの声が聞こえる。

 良かった無事だったんだな。


「アリス様、その名前はもう捨てました……何故私達はあんな事をしたのでしょう? 思い返せば冥王に名付けをされてからおかしかったのです」

「私達が愚かだったのです。冥王の言う事は全てアリス様の為になると本気で思っていたのですから……私達は操られていたのですね」

「もう、喋るな二人共……」


 白煙で姿は見えないがアリスは側近の二人と話をしているようだ。

 あいつ等、よく無事だったな。


「……本来なら敵である筈の……あのお人好しの聖女が結界で、気を失っていた私達をずっと守っていたようです。無事だったお陰で先程のあの冥王の攻撃から、我々が盾になってアリス様を守る事ができました」

「ええ、粋な事をするものです聖女も……ああ、もっとお話がしたかったのですが、もう時間が無いようです。我々の残った力をアリス様に……」

「お、おい待て。私を置いていくな!」


 白煙が立ち込め、破壊された壁や柱が崩れ落ちる雑音が響く中、会話が止んでいた。やがて一人僅かにすすり泣く声が聞こえてきた。

 そうか、クレアは気を失っていたあの二人を結界で守っていたんだな。

 俺は正直、アリスが俺達と合流した時にアリスが二人に止めを刺したと思っていたよ。

 すれた考えをしていて、すまなかった……反省。


 そうだ、クレアはどうなった?

 あの閃光の中、俺は咄嗟にクレアの前に立ったのだが……。

 俺の更に前には俺を守る様にカオスブライドが盾になってくれたが、流石に蒸発してしまったようだ。

 だが、本体であるハルバードは無事だった。手元に触れていたカオスブライドを見ると、ひびが入っていたり一部溶けていたりして結構ボロボロだ。こいつが無ければ俺も蒸発していたのかもしれないな。

 なにせ一瞬あの世に行きかけたみたいだし……多分だけど。


 少しずつ煙が晴れていくと、俺の目の前に黒焦げになったクレアが倒れていた。

 それを見た瞬間、背筋が凍る。

 くそ、守り切れなかったのか? クレアは聖女で強力な防御魔法が使えるといっても生身の人間だ。魔物の俺とは違って素の耐久力が俺より低いのだ……。

 俺と一緒に居たら何時かはこうなる事が分かっていた筈だ。分かっていた筈なのに……。

 僅かにクレアの身体が動く。

 まだ生きている?!

 俺の魔力もまだ尽きてはいない。瀕死の状態でも回復できるエキストラヒールを唱えようとボロボロになった手を翳す。

 ここで復活させてもまた苦しめるだけだという考えが頭を過るが、それを振り払い魔法を唱えた。

 一瞬淡い光がクレアを包むと火傷の跡も苦し気な表情も消えてなくなった。

 まだ白煙が濃くて今の光はプロキオンからは見えていないとは思うが……。

 次の瞬間、俺の頭にチャイムの様な機械的な音が響く。え、これってまさか?


「ん、セシリィ……?」


 クレアは直ぐに目を覚まし俺を見て名を呼んだ。


「良かった無事だったか。こんな状況で悪いがプロキオンが襲ってきたら結界を頼む」

「わ、わかりました」


 クレアはこんな状況でも悲観してはいない。流石は本物の聖女様だ。


 俺はステータス画面を開き、直ぐにログ欄を確認する。


『レベル40に達しました。進化が可能です』


 クレアに回復魔法を使った事で、レベルアップに必要な経験値が溜まったらしい。

 いつもなら進化するかしないかの選択画面が出るのだが今回は少し違っていた。


『分離が可能となりました。ブレイブゾンビと分離いたしますか? Y/N』


 ……ブレイブって勇者の事だよな。

 分離ってまさか……迷っている暇はないよな。どの道このままじゃ全滅は必死だ。

 俺は迷わず分離するを、つまりYをクリックをした。


『分離いたします。暫くお待ちください』

『レベル40に達成しました。進化しますか? Y/N』


 続けて俺の進化も可能らしい。

 俺はこちらも迷わずYをクリックした。


『セイクリッドゾンビレベル40→アルティメイトゾンビレベル1or進化しない』


 今回は前回と違い一つだけだ。他の魔物への進化もない。

 迷う必要がなくて助かる。

 三度目のYをクリックした俺。

 さて究極のゾンビとはどんなものだろう。冥王に太刀打ちできたらいいが……その前にレベル1なのをどうしようか。

名前の間違え、誤字脱字報告ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 別個体として分離するわけだから…… セシリアはエンシェントゾンビ相当の姿で セシリィは……ロリ化が進む? 色々終わった後セシル達にからかわれそう(良いぞ!)
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