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83・特異種

 予想外だったのか、アリスは俺の進化回数を聞いて驚いている。

 間抜け面が実に可愛らしいが、口に出すと怒りそうなので黙っておこう。


「えっと……も、もう一度聞くが、何回だって?」

「七回です」


 ゾンビからハイゾンビになって、そこからマスター、グレーター、アーク、エルダー、エンシェント、そしてセイクリッドだ。


「嘘……ではなさそうだな……ならお前の強さも頷ける。例えそれが最弱種のゾンビだったとしてもだ」


 アリスはまたまた天を仰ぐ。

 見えるのは結構高さがあるとはいえ、天井だけだけどな。


「しかし七回の進化ともなると……セシリィお前はゾンビとなって何年経つのだ? 四百年かそれとも五百年以上か?」

「え? そんな訳ないじゃないですか。二~三年くらいだったかな」

「……えっと、二~三百年?」

「桁が二桁も違いますって、二~三年ですってば」

「……」

「……?」

「何じゃとぉおおおおおっ!?」


 今日一番の驚いた顔と大声が冥将の間に響き渡った。


 アリスは手を頭に当てて唸っていた。


「そうだった、考えれば分かる事だったな。お前と初めて出会った魔の森で、お前は進化をしたではないか、それから私の所へ来てから、そうカノープスと戦っている時にも進化をした。こんな短期間に二回もだ……」


 やっと納得してくれたようだ。

 確かに自分でも早いとは思っていたが、しかし大声を出して驚くほどとは思わなかった。


「いや、その、すみません」


 悪くないけど、つい謝ってしまった。


「いや、謝る必要はない。ただあまりにも非常識なので驚いただけだ。参考までに言うと冥王様は四回進化するのに二百年かかったそうだ。それでも異常に早い進化なのだがな」


 そうなんだ。

 あれ? じゃあ人間は? 俺達魔物の進化の代わりに転職して強くなるんだよな?

 

「人間は成長が早い代わりに短命だ。我々から見ればお手軽に強くなれるが、その強さも長くはない訳だ」


 成程。

 ……そうだ、進化と言えば気になっていた事があったんだった。


「あのアリス様、進化できる時期にきたら分かるものなのですか?」

「変な事を聞く奴だな、お前は何回も進化しているのだろう?」

「いや、俺の場合……もう知っている事として話しますが、この身体は元々勇者セシリアでした、そして俺とは別人格です。勇者と繋がりを持っていた聖剣ルーンラ……」

「ちょっと待て!」


 話の途中でアリスに止められる。


「すまん、確認させてくれ……やはりその身体のベースはアルグレイド王国第一王女そして勇者でもあるセシリアなんだな? さっきの二~三年しかたってないって事が本当なら、別のゾンビだったお前がセシリアを取り込んだわけではなく、セシリアそのものなのだな?」

「取り込んだ訳ではないですね。俺は気付けば性別も分からないくらいに腐乱したゾンビで、進化してからセシリアだった……いえ、セシリアの身体だったと知ったくらいですから」


 アリスはそうかと何度目か分からない溜息をつき天を仰ぐ。俺が悪いわけではないんだけど……なんかごめん。

 アリスは「話を中断させて悪かった」と言ってから、話の先を促す。


「えっと、何故か勇者との繋がりが残ったままだった聖剣ルーンライズが、進化できる時期が来たら教えてくれるのです。便利ですよ、離れていても大丈夫ですし、何より直ぐに進化もできますし」


 初めてあの音声ガイダンスのような声を聞いた時は、一体誰が喋っているのか疑問だったが、セシリアの夢を見た時にあれがルーンライズが発していた声だと分かったのだ。

 セシリアは全然感情の乗っていない喋り方のルーンライズを残念がっていたよな。

 俺の台詞を聞いて、アリスは口の端を引きつらせている。

 どうやら今聞いた事も予想の遥か上を行き過ぎているようだ。少しふらついて見えるが気のせいだろうか?

 ……いや聞かれなかったから、話さなかっただけだけどな。アリスの事は信用していたから隠していたわけではない。


「……普通の進化だが、進化ができる時期に来たら何となく違和感を覚えるものなのだ。進化するにしても、何かのきっかけが必要だったりする事もある。進化時期は種族で決まってはおらず、個体によってもバラバラだ。つくづく滅茶苦茶な奴だよ、お前は」


 誉め言葉として受け取っておこう。

 もう話し疲れてきたし、話す事もないかなと思ったので、一礼してクレアとダライアを連れ部屋から出ようとしたのだが、アリスは疲れた顔をしながらそれを止めた。


「待て、まだ話は終わっとらん……この際だ、お前が知ってる事を全て話せ。もう一蓮托生だ」

「全てと言っても……大体の事は話したと思いますが」


 アリスはクレアとダライアを見る。一人と一頭は無言で首を縦に振っていた。ん? 他言無用にしますって事?

 う~ん、他に何か言ってない事があったかな?


「こいつ等は私と同様に今更裏切ったりはせん。お前まだ話してない事があるだろう? 例えば……冥王様や勇者と同じ転生者だとかな」

「……あ、忘れてた。言ってなかったっけ」


 真剣な眼差しで、覚悟を決めたように俺にそう告げたアリスだが、俺の緊張感のない返事を聞いて椅子から転げ落ちそうになっていた。

 いや流石に言いふらしていいような話ではないが、身内に隠す様なことでもない……え、隠すものなのか?

 それにこんな話、普通は信じないだろ? いくら魔法がある世界であってもさ。荒唐無稽過ぎるし。

 しかしそれを聞いて驚いたのは俺ではなく、クレアとダライアの方だった。特にクレアが身を乗り出して驚いていた。


「お伽噺で聞いたことのある、あの転生者?! この世界を救うために他の世界から遣わされたと言う……あの……」


 おおい、クレアの目がキラキラしているんだけど。

 しかしお伽噺であるのか、そんな話が。子供に聞かせる童話みたいな感じなのだろうか。


「魔物の冥王やセシリィ様も転生者だとしたら、世界を救うと言うのは人族の作った誤った言い伝えでしょう。ですが常識外れの共通点はそこにあったのですね。勇者セシリアは成長前に亡くなりましたが、そもそも勇者自体常識外れな存在ですからね」


 成程とダライアがそう言いながら納得していた。


「あ、あの……こんな事を聞くのはアレなんですけど……セシリィはひょっとして元は男性だったとか?」


 あ~、確かに今でも男言葉だ。そう思われても仕方がない。

 何故かアリスも興味深そうに俺を凝視する。

 嘘を言っても意味がないしな。所謂TSだけど、俺がなりたくてなったわけではない。


「まぁ……そういう事だ。今は女だが、もう何年も経つのに一向に慣れん」


 そう言うと何故かクレアはほっと胸を撫で下ろす。


「いえ、私女性に興味がある訳じゃないのに、何故かセシリィにドキドキする時があったんですよ。そういう事だったのかぁ……そっかぁ」


 頬に両手を当て何故か嬉しそうにしているクレア。

 いや、今は女性同士だぞ? 百合だぞ?


「クレア、そう嬉しそうにするでない」

「アリス様も嬉しそうですよ」

「わ、私は最初から性別など気にしとらんからな」

「基本的には私もですよ。一応確認しただけですから」


 君達何を言ってるのかね?

 ダライアが「セシリィ様はモテモテですね~」とニヤニヤしている。馬面なので分かりにくいが、あの顔は間違いなくニヤついている。くそっ。


 そんなこんなで取りあえず俺の隠し事もなくなったかな。まだある気もするがこんなものだろう。

 あ、そうだ。


「今、俺のレベルは38ですが、多分40になるとまた進化できますよ」


 今までのパターンから考えて同じレベルで二回ずつ進化しているしな。

 それを伝えるとアリスが今日何度目かになるか分からない驚いた顔を俺に向けた。


「もう驚くこともないと思っていたんだがな……いやそれよりもだ、セシリィお前は早急に死者の迷宮に潜ってレベルを40まで上げろ。そして進化してから可能な限りレベルを上げるんだ。冥王様との戦いを有利にできる!」


 次の進化がレベル40なら今までの経験上、進化後のレベルが20を越えれば進化前のステータスを越える筈だ。レベルは上げれれば上げれる程良い。


 てっきり俺とクレアの二人で行くのかと思ったが、なんとアリスも付いてきた。


「私もレベルアップに付き合うぞ。少しでも強くならねばならんしな」


 赤の冥将の城にはアリスの序列将一位、二位の側近の二人がいるしな。アルグレイド王国も攻めてくる程の余裕もないし大丈夫だろう。

 後はいつ冥王が四王会議から帰って来るかだが……それまでに少しでも強くならないとな。

 

 その後、俺達は死者の迷宮でレベルアップという名の修行をこなす。

 アルの居る隠し部屋から一階下の階層には赤の冥将の城と繋がる転移の魔法陣が設置してあるので、移動は簡単だ。

 アリスは折角なのでアルデバランから独立したアルと面会していた。

 ちなみに二十九階層のあの超強い階層ボスは出てこなかった。やはり金の鍵を所持している者が一緒だとスルーできるらしい。

 金の鍵を持っている者が一緒だとボス部屋スルーどころか、転移の魔法陣も使えるようだ。アリスは二十九階層のボスを倒してないのに魔法陣を使って三十層まで来れたしな。


「誰だあいつ? アルデバラン~? う、嘘だろ?」


 アルと初めて会ったアリスの最初の言葉がこれだ。

 うん、あの骸骨からは想像できない別嬪さんだよな。


「久しいのぅ赤の。まぁ会っていたのは本体の方じゃったがな。しかし主殿と行動を共にするか、お主も変わり者よの~くくくっ実に興味深い……いや失礼」

「……やっぱりお前はアルデバランだ。その台詞、間違いない」


 見た目と一致しない独特の話し方のお陰で、アルを元アルデバランであったと認めたアリス。

 アリスもアルの事を残念美女と思っているようで、彼女を見ながら顔を引きつらせていた。

 うん、気持ちは分かる。本当に勿体ない。

 

 <>


 迷宮に潜り数か月経った今では、俺のレベルは39に到達しており40も目前だと思う。

 たまに見ているステータス画面は、残念ながら後どのくらいでレベルアップできるかまでは分からない。

 とは言え文句は言わない。ルーンライズが見せてくれるこのステータス画面は、鑑定持ち以外なら見れないもので便利でありがたいものだ。

 まぁ俺の場合メリアの形見の鑑定の眼鏡も持っているけど、これも何でも分かるほど親切設計ではない。

 アリスのハイアナライズなら多少詳しく分かるかもしれないが、今ではアリスよりも俺の方がレベルが低くても格上扱いらしく、ステータスを覗けないみたいだ。

 

 それはそうと俺と一緒に迷宮に潜っているクレアもレベル39に到達した。

 聖女は生まれながらの上級職らしく、レベルが40に到達しても転職はないとか。大聖女とかにはならないらしい。大器晩成型で転職をしなくてもステータス等は右肩上がりで、異常なまでにグングンと成長していく。

 ちなみに神官と魔法使いの魔法を両方覚える事ができる賢者という職業も聖女と同じ大器晩成型だそうだ。

 聖女も賢者も勇者のようなランクアップはないが、レベルを一からやり直す必要がないので、経験値が無駄にならず、尚且つレベルダウンで途中で弱くなる事がないのが強みか。


 アリスは元々レベル40越えで、俺達より更にレベルは上がりにくい。だが元々溜まってた経験値もあったのか、レベル41から42にレベルアップしていた。

 このレベル帯のレベルアップは超大変だ。但しそれに見合った強さは得られる。低レベル帯の一レベルとは全く異なるものと言ってもいいだろう。

 レベルアップの為の時間は、いくらあってもいい。

 経験値を稼ぐ為には魔物が強くなる階下に進んだ方が効率が良い。

 既に転移の魔法陣から三階層は下に潜っているので、襲ってくる魔物もかなり強くなっている。

 このくらいの強さの魔物が大量に地上に出てきたら、アルグレイド王国は壊滅するんじゃないのか?

 アンデッドが中心の冥王国だってただでは済まないだろう。

 この迷宮の地下は冥界に繋がっているとか、冥神が住んでいるだとか言われているらしいが、あながち嘘じゃないかもしれないな。

 スタンビートとか起きないよな?

 どうも元冥王城、現赤の冥将の城への転移の魔法陣があるあの階層から下は別物の階層らしく、そこの魔物達が上の階に上がっていくことはない……とのアルの見解だ。

 ちなみに死者の迷宮みたいな解明できてない場所はまだあるらしく、有名なのは竜王国にある頂上が見えない天空の山や、獣王国にある奥が何処まであるか分からない永遠の森、魔王国には魔神の塔と呼ばれるこれまた最上階が見えない建造物があるらしい。

 現四大王でさえ攻略が不可能で、噂では神になる為の試練のものとも言わているらしい。ふ~ん、四大王でさえ手に負えないんなら攻略は無理ゲーじゃね?

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