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79・合成

 巨大な半透明の容器に入れられた魔物を見ながら、アルは肩を竦める。


「冗談はさておき、以前冥王様はお主、セシリィにも儂やカノープスと同じように『イカス、カッコE~ネームを付けてやろう』などと言っておったの。その時は気に入れられていたようじゃが……今までのお主の行動を知ったら、存在を消したいと思うだろうがのぅ、くくくっ」


 だろうな。冥王プロキオンに逆らった行動ばかりしてるからなぁ。

 冥王と始めて会った時は情報を引き出す為に胡麻をすっていたからな。

 それはそうと……イカス、カッコE~ネームって……冥王のセンスってどうなのさ?!


「じゃ、じゃあアルデバランやカノープスは冥将になってから名前をつけられたのか?」

「そうじゃ、名付けというやつじゃな」


 おおっ、名付けだと?!

 ファンタジーの小説や漫画なんかでは配下の魔物に名前を付けてあげると、強くなったりするやつだよな。

 お約束通りにここでもそうなのか?


「主……つまり冥王様から力を得るわけじゃ。名付け親の特性を強めに引き継ぎ、儂等みたいなアンデッド同士なら暗黒系の力が特に強くなる」


 やっぱりそうか。俺の知る名付けと同じだな。


「じゃあ冥王のプロキオンって名前も誰かに名付けられたのかな?」

「いや、冥王様はご自分で名前を決められたそうで、名付けはされてないそうじゃ」


 それの意味する事はつまり、誰かに名付けされなくても滅茶苦茶強かったって事じゃないか! ……マジかよ。

 しかしプロキオン、アルデバラン、カノープス……前の世界の一等星の名前だよな。転生者丸出しの名付けだよ。

 名前の意味を知ってて付けてるのかな? 俺は知らんけど。

 やれやれと少し呆れた俺の顔を「どうかしたのか」と首を傾げるアル。俺は何でもないと首を横に振った。

 あ、名付けといえば……。


「なぁ同じ冥将のアリスはどうなんだ? 一等……いや冥王が付けた名前じゃないだろう?」

「ほう、よく分かったのぅ。あれは前冥王の孫娘じゃしな。まぁ色々あって冥将に就いておるんじゃ」


 ……そうなのか。自分の爺さんだか婆さんだかが冥王だったんだ。


「なんでも今の冥王様が冥王となる為に、前冥王の身内を人質にとったとか、冥将だったアリスの父を冷遇したとか聞いたのぅ。現冥将のアリスは大人しくしているようじゃが」


 あ~成程な、道理でアリスが毛嫌いしている訳だ。まぁ性格的に合わないってのもあるかもしれんが。


 この部屋を珍し気にキョロキョロと見回すクレアとダライア。ダライアはともかくクレアはもうこの部屋の不気味な雰囲気に慣れたのか。逞しい。


「ここの魔物達がセシリィの戦力になったらよかったのにね」

「確かに、冥将クラスなら強力な手駒になったでしょう」


 クレアとダライアがとんでもない事を言いだす。


「破損も酷い上に既に亡骸じゃ、それは無理じゃのぅ」


 アルが首を横に揺り、言葉と態度で否定をする。


「では何故我々……いえセシリィ様をここに案内したのですかアル殿?」


 流石空気の読める馬ダライアだ、ちゃんとアルデバランの事をアルと呼んでいた。


「なに、儂とセシリィが互いにウィンウィンになる方法じゃ。この部屋の奥に魔法陣があるじゃろ。それに用がある」


 ウィンウィンって……。

 しかし魔法陣に用があるのか。この部屋の左右に並ぶ巨大な容器に入れられた魔物は関係ないのか? いや、もしかしてあの魔法陣で何かする為にここに設置されているのだろうか?

 よく見ると魔物の入った容器と魔法陣がコードの様な線で繋がっている。

 うん、関係ありそうだ。


「……カノープス居るのじゃろ?」

「な?!」


 俺の腰あたりを見ながらアルはそう口にした。

 カノープスは倒したはずだ……いる訳がない。まさかアルデバランのように分体がいるのか?


「その収納バッグの中におるんじゃろう?」


 ……あ、そうかブラックロウとホワイトカオスか。あれはカノープスの身体の一部だとか言ってた気がする。

 今更罠とは思えないが、俺は慎重にバッグから黒い大剣と白い大斧を取り出した。

 取り出した両武器が喋りだしたり動き回るような事は無かった。ふぅ。


「くくくっザマないのぅ……いや儂もお主の事は言えんか。さて……白い方は使ってないのじゃろ? 儂に譲れカノープス」


 そう言うや否や、それに応えるように白い大斧ホワイトカオスの刃が僅かに光る。


「セシリィよ、その斧をくれんか? なに心配はいらん、ここはアンデッドしかおらんしの神聖属性を習得した超特異種のお主と聖女がおるのだ、悪巧みもできんからの」


 アルの言葉を全て鵜呑みにはできないが、取りあえずホワイトカオスを渡す。ホワイトカオス自体が嫌がっていない感じがするのだ。気のせいかもしれないけど。


「ではこいつ等を使わせてもらうかの……どの道、儂が消えればこいつ等も朽ちていくだけじゃ」


 そう言って立ち並ぶ魔物の入っている巨大な容器に近付き声をかけた。当然半透明の容器の中の魔物達は答えない。

 やはりこの魔物達を使うのか。触媒とかいうやつなのか、それとも合成?


「理論は完璧な筈じゃが、まさか実験台に儂自身がなるとはのぅ……しかし黒に浸食されてないコレが手に入るとは、こんなチャンスはないわい」


 どうやら今からやる事は理論上は完成しているらしい。

 材料……カノープスの大斧のような物が足りなかったらしい。確かに白い色の武器だし黒に浸食されていないが。

 確か以前ダライアがブラックロウはカノープスの闇の部分を集めた武器だと言っていた。ホワイトカオスはその逆で闇の部分がないって事なのかな?


「この魔法陣はな、元々エリクサーを作る為に苦労して作成したものじゃ。黒の妙薬と白の妙薬を合成する為にの。つまり黒の儂と白のホワイトカオスを合成するのにも使えると言う事じゃ。くくくっ成功すればいいがのぅ」


 自らも実験材料になるのにまるで他人事のように喋るアル。

 ……実に楽しそうに魔法陣内で呪文を唱える美女。実にマッドでシュールな光景だ。

 魔法陣に接続されている魔物達が取り込まれたのか姿を消し、魔法陣の中心にいる大斧ホワイトカオスを持ったアルが光に飲み込まれていく。

 あの魔物達はやはり素材として使っているんだろうな。

 呪文を唱え終わったアルが「実に、実に興味深いぃいいい!」と狂喜乱舞しながら消えた。

 儀式が失敗してあれが最後の叫びにならなきゃいいなと思う反面、このまま消えた方がこの世界の為のような気もしてきた。


「……消えましたね」

「失敗したんでしょうか?」

「さぁな……」


 クレア、ダライア、俺が順番に静まり返った部屋でそう呟いた。

 魔法陣はまだ薄っすらと発光しているので成功なのか失敗なのかは分からない。


「ドーン!」


 何もなくなった筈の魔法陣にいきなり大声と共に女性が現れた。ドーンってなんだよドーンって!

 驚いて思わす悲鳴を上げそうになったぞ。クレアなんて硬直しちゃったじゃないか。ダライアは目と口をだらしなく開けて呆けていた。しっかりしろお前達。

 魔法陣の中心から現れたのは勿論アルだ……しかし少し容姿がかわっていた。


「ふむ、成功じゃな。む、中々せくしぃ~な身体になりおったのぅ」


 そうなのだ。元々美女と呼べるような容姿だったが、より美しく出る所は出ているグラマーな体つきになっていた。髪色も白髪……いや銀髪に肌も透き通る程に白い。なにそれ狡い。

 ……いや、本当は羨ましくはないけどな。言ってみただけだ。

 それよりもだ、何がどうなったんだ? 今更だがそう聞こうとしたら新生アルが口を開いた。


「ほっ? 冥王様とのリンクが切れおった。成程のぅ、やはりそういう事か」


 一人で納得してウンウン頷くアル。冥王とのリンクが切れたって? 例の名付けで繋がっていたのが切れたってことか?

 俺が訳が分からないと言う顔をしていたのを見たのだろう、アルがニヤリと笑って言葉を続けた。


「カノープスはあの状態になって既に冥王様との繋がりは切れておるし、儂もこの状態になって繋がりは切れた。今は儂もカノープスもお主の所有物じゃ、よろしくの主殿」

「……は?」


 俺はつい間抜けな声を出してしまったのは仕方の無い事だと思う。

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