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7・進化(3)

 冒険者と戦ってみてから何となくステータス画面を呼び出してみて、現状を確認してみたところレベルが上がっていたことに気付いた。

 確かこのダンジョンを出た時はレベルは17で、森で何体か遭遇した魔物と戦っているうちにレベルは18になり、夜明けが近くなったのでダンジョンに戻ろうと足を向けたのだ。ダンジョンに着く頃には丁度日が昇る直前で、もう少し余裕をもって早く戻ろうと反省しながらダンジョンの中に入った。

 そして冒険者達と遭遇し戦闘があったのだ。

 幸いにして冒険者達はダンジョン探索で疲弊しており、加えて魔力も底をついていて俺が負ける事は無かった。

 結果として俺は彼等を殺さなかったが、あの戦闘でレベルが1上がってレベル19になっていたのである。

 そうか、別に敵を殺さなくても経験値は入るんだな。

 考えてみれば模擬戦や稽古、修行でも強くなる事ができる筈だ。つまりそれでレベルが上がってもおかしな話ではない。

 しかしあれだけでレベルが上がるって、彼等の方が格上だったって事なのだろう。疲労で弱体化している彼等からでも、ちゃんと経験値がもらえるなんて変な所でゲームっぽいよな。


 夜になった頃にまたまたダンジョンを出て、辺りの探索を開始した。

 ふむ、今回は一方向に絞りちょっと奥まで足を伸ばそうかと考える。

 前回はダンジョンのある草原から見て、森の浅い場所を満遍なく探索したからな。

 しかし結構奥まで行ったのだが、森が深くなるだけで特に変わった様子もなかった。相変わらず魔物とは遭遇したが倒せない程の強さではない。

 おっと、時間的にそろそろ戻らないと夜が明けるまでにダンジョンに戻れないな。次回は別方向に行ってみるとするか。

 俺は歩いて来た道なき道を引き返しダンジョンに戻った。

 そんな行動を何日か繰り返し、夜のうちに返ってこられる範囲を歩き回る。

 このダンジョン付近には、あの冒険者達が来たと思われる道くらいしか目立ったものは無かった。

 数時間歩いた距離くらいでは目新しいものは見つからなかったのだ。

 どうしようかと悩んでいたそんなある日……またまた冒険者の姿を見つけた。 

 以前遭遇した者達とは違う人間達で、しかも結構な人数がいる。

 俺は森を探索していて、夜が明けるまでにダンジョンへ戻ろうと森からダンジョンのある草原に足を踏み入れようとした時に、ダンジョンの入り口付近でキャンプをしている冒険者の一団を見つけたのだ。

 一体何でこんなに沢山の冒険者が居るんだ?

 恐らく森を抜けてここに着いた時には夜になっていて、ここで朝まで身体を休めてからダンジョンに潜るつもりなんだろう。

 ダンジョンに入れば昼も夜も関係ないが、人としての生活サイクルを変えない方が体調を保てるのは道理である。

 気になったのでそっと気付かれないように近付いてみる。無論安全な距離は空けてだ。

 後になって気付いたのだが、彼等の中に斥候とか盗賊とかが居たならば、哨戒中に見つかってしまう可能性もあった。

 今回はたまたま見つからなかったから良かったものの、今後は迂闊に近付き過ぎないように気を付けよう。


 見張りが数人起きていて、焚火の周りで何か喋っているが、距離があって良く聞きとれない……ん、あれ?

 耳をすまして集中すると僅かに聞こえる?

 凄ぇ流石はマスターゾンビだ、やるじゃん俺。

 何々、浅い階層……変異種……ゾンビ……?

 あっれ~? これって、もしかしなくても……俺の事?

 ま、まさか、俺を討伐しに来た冒険者達なのか?

 俺は回れ右で森に向かって、その場を離れるのだった。


 <>


 別段、朝日に当たっても灰になって滅びるわけじゃない、身体が非常に重くなるだけだ。だが日陰なら多少怠くなるだけで移動する分には問題ない。

 森の中は鬱蒼としていて日差しが届かない場所が多い。

 しかも今日は運の良い事に曇っていた。そう日差しが無いのである。

 冒険者の一団から逃げるのには正に打って付けの天気である。


「あ~ううう~」


 うむ、実にゾンビらしい呻き声だ。

 いやいや、別に好きで呻き声を上げている訳ではない。未だに上手く喋れないのもあるが、何となく身体の動きが鈍くなってきているのである。

 歩行速度も心なしか遅くなってきている気がする。

 おかしいな、日差しは出てないのにな?

 何気なくステータス画面を見てみると、HP……ヒットポイントが僅かに減っていた。

 HPが減っていたのは直射日光を浴びてないとは言え、やはり太陽の日が原因ではないだろうか。アンデッドは本来、日中に活動しないものなのかもしれない。

 現に夜の森を探索していた時はHPの減少は見られなかった。


 減ったHP……体力を回復するのには単純に休めばいい。時間と共に少しずつだが勝手に回復していく、所謂自然回復が基本だ。

 実はダンジョンから出た時に気付いたんだが、森にいる時よりダンジョンの中に居た時の方が自然回復が早かった。

 俺のラノベ脳を駆使して考えてみる。

 ゾンビの頭にちゃんと考えられる脳があるのか? と言うツッコミは不要である。

 考えられる事はファンタジーものの設定によくある、例のマナとか魔素だ。

 アンデッドが蔓延るダンジョンだ。そんな迷宮だと回復に必要なエネルギーの元となるマナとか魔素みたいなものが豊富にあるのではないのかと推測する。

 つまりダンジョン内はアンデッドにとってHP……つまり体力が回復しやすい環境なんだと思う。

 まぁ、あくまでも俺の推理で本当の事は分からないが……でもいい線いっているんじゃないかな。


 そして実は以前から気付いていたのだが、森で遭遇した魔物を倒すと、ほんの少しだがHPが回復していたのだ。

 これの原因は分かっている。

 実はマスターゾンビに進化してからスキル欄に、ライフスティールなるスキルが記載されていたのである。

 感じからすると体力、HPを奪うスキルだと思うのだが、その発動方法が分からなかったのだ。

 ダンジョンにいた時も冒険者を撃退した時も、そのスキルが発動した感覚はない。

 スキルを使おうと強く念じてみても効果はなかった。

 なので、初めてスキル欄に記載されたスキルなのに放置する以外なかったのである。

 それがダンジョンから出てみて魔物を倒すと、僅かだがHPが回復したのだ。

 ライフスティールは命のある魔物……つまり生き物を殺した時に発動するスキルなのだろう。

 ちなみに夜目がきくのはゾンビの種族能力みたいだし、ダンジョン入り口で遠くの冒険者達の話が聞こえたのは聴力が強化されたマスターゾンビの身体能力のようでスキルには含まれないみたいだ。

 ……正直言ってスキルの基準が曖昧で、よく分からんのが本音だ。


 そして現状、曇ってはいるが日中である。当然雲を通して太陽光は降り注いでいるのだ。なので休んでいてもHPが回復しないのである。困ったことに僅かながら逆に減るくらいだ。

 動かなければHPの減少は微々たるもので、ずっと動かず夜まで待つことも可能だ。しかし動き回ると気になるくらいは減ってしまう。

 動きながらHPを維持もしくは回復する為には、森を徘徊する魔物を倒しまわればいい。

 魔物を倒すことでライフスティールを発動させ、減ったHPを補う事ができる。森の魔物は生きてる魔物でアンデッドではないからな。

 よし、早速ジェノサイド開始である。

 当然、狩る魔物は格下の魔物である。同格以上の魔物と戦って攻撃を受けてしまうとHPは減るからな。反撃されない事が大前提だ。

 そんな調子で森を進む。

 流石にダンジョンには戻れないからな、少なくとも冒険者が居なくなるまでは。

 今までは夜のうちにダンジョンに戻れる範囲しか探索してなかったから、こんな遠くに来る機会ができたと思う事にしよう。

 そして夕刻になる頃、俺は突然開けた場所に出たのだった。


 池だ……いや湖だなこれは。

 水を飲むわけではないが何となく水辺に近付いてしまい、激しく後悔する事になる俺。

 波の無い湖畔に映った自分を見て、思わず声の無い悲鳴を上げてしまう。

 夕刻でしかも湖面だから鏡みたいにはっきりとした姿ではなかったが、それでも驚いた。

 だって湖面に移ったのゾンビだぜ?

 確かにマスターゾンビは一般のゾンビと比べて腐食部分が少なく、筋組織は見えるが骨が剥き出しになっている場所もない。

 しかし、しかしだな。

 凄ぇ怖い姿だよ! 皮とか無い所多いし、十分怖い見た目だよ!

 ダンジョンでの冒険者達はこんな姿の俺といきなり遭遇して、よく気を失わなかったな、流石だよ。

 そんな項垂れる俺に水面から何かが俺に向かって飛び出して来た。

 牙の様な歯を持った大魚……魔物の魚だ。俺に襲い掛かって来やがった。

 くそっゾンビの上位種を舐めるな!

 間一髪で躱し、そのまま横から魚の頭部に拳を打ち込んだ。

 うをっ、腕が変な方向に曲がった? 硬ぇ! 流石魔物の魚だ。

 しかし俺の一撃が効いていた様で魔物の魚は水中に戻った後、暫くしてからプッカリ浮いてきた。

 ちゃんと持っていた剣で止めを刺す俺。ふっ、勝った。


 同時にピロリンと頭の中で音が鳴る。

 おお、レベルアップだ!

 そうかマスターゾンビはレベル20で進化できるのか。

 ステータス画面を呼び出すと……。


『レベル20に達成しました。進化しますか? Y/N』


 勿論Yesだ!


『マスターゾンビ・レベル20→グール・レベル10orグレーターゾンビ・レベル1or進化しない』


 グ、グレーターゾンビだと?

 名前からするとでかくなるのか?

 どうする俺?

 仕方がない、ここまでゾンビで進化しておいて他に選択肢などある訳がない。

 そんな訳でグレーターゾンビをポチっとな!

 俺は新たなるゾンビに進化する事を選択したのだった。


 <>


 「う、うおおおっ」


 湖面に映った自分を見て声を上げた。

 マスターゾンビよりは流暢に喋れる様にはなった様だ。

 そして何よりこの身体。

 何かゾンビと言うより、フランケンシュタインみたいな感じになっているんですが?

 いや、確かに皮が捲れて筋繊維も見えているし、ゾンビと言えばゾンビに見えるけどね。

 でもまぁ強そうではある。


「見たことのない魔物ね。アンデッドなのかしら、こんな所に……珍しいわね」


 背後から現れた者の気配に気付いた時には、彼女はもう独り言を呟いていた。

 黒いローブに赤い宝玉の付いた杖、魔法使いの様な出で立ちのオバ……もとい、女性。


「むっ、何か馬鹿にされたような気がするわね……気のせいかしら? まぁいいわ」


 魔法使いの女性は持っていた杖を翳し、呪文を唱えだした。

 むっ、いかん。やはり人間、魔物に対しては問答無用か?!

 一気に間を詰めるが俺は忘れていた。今の俺はレベル1じゃん! いくら上位種に進化してもレベル1では十分な力は発揮されない。

 それでもマスターゾンビのレベル10の時くらいの速度で移動できたと思う。巨体の割にかなり素早さもある様だ。


「っつ!」


 魔法使いの呪文は思っていたよりもずっと短く、俺は彼女まで後一歩の所で動けなくなってしまった。


「驚いたわね、ゾンビの変異種だと思うけど素早過ぎでしょ。硬直の魔法がギリギリだったわよ」


 心底驚いた顔を俺に向ける魔法使い。

 年齢は三十才くらい? 四十才……はいってないと思う。今も十分に美しく見えるが若い頃はきっとモテたであろう容姿だ。

 そうだよな、レベル1とは言え魔法でゾンビの上位種グレーターゾンビの足を止める程の術者だ。年に見合った実力はあるのだろう。いやそれ以上なのかもしれない。


「ネクロマンス」


 彼女が新たな呪文を唱えると俺の足元に魔法陣の様なものが浮かび上がる。今度の魔法の呪文は少し長めの詠唱だった。

 魔法名を呟くと同時に足元の魔法陣が一瞬輝き……そして魔法陣が消える。

 ん? 何が起こったんだ? 既に身体の硬直は切れているし、他に異常は見当たらない。

 俺はステータス画面を呼び出し、ログ欄を確認すると納得した。


『死霊魔法ネクロマンスを受けました』

『レジストしました』


 つまり彼女はネクロマンサーで俺を操ろうと術をかけたと。そして俺はレジスト……抵抗して術が失敗した訳だ。

 ネクロマンスの魔法は名前からしてアンデッドを使役する魔法だと思う、成功率は硬直の魔法よりは低いのかもしれない。

 たまたま効かなかっただけかもしれないけど。


「ふぅ、これはいいわ。いい駒が手に入ったわね」


 どうやら彼女は俺に魔法が効いていない事に気付いてないようだった。

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