66・双子
公爵と笑いあう俺達を呆然と見ているダン達。まぁ片方が上級貴族だしな。
「閣下失礼します。私は冒険者ギルドから依頼を受け参りましたダンと申します。失礼ですがゲルト公爵閣下とセシリィはお知り合いなのですか」
ダンが畏まって公爵にそう問う。
「ああ、セシリィ君は私の客人だ。ふむセシリィ君と仲の良い冒険者のダン君か。そうか君達が……」
ダン達四人を見てゲルト公爵が頷く。
どうやらダン達の事も調べてあるみたいだな。抜け目がない。
当のダン達は何のことだか分からず、顔を見合わせて首を捻っていた。
ダン達をつれクレアの居るテントへ。
クレアの魔力が切れそうだったので丁度良かった。
しかし俺を迎えに来たのがゲルト公爵とは……流石に何人か護衛をつけてはいたが、いいのか?
「クレア?」
「え、ダン? キースにリッカにハンナも、何で?」
予想外のダン達四人の登場に驚くクレア。
クレアは一人一人と手を取り合い再会を喜んでいる。
うむ、はしゃぐ皆を見てると俺も嬉しくなるな。
再会を喜び合った後、名残り惜しいがダン達は俺達と別れ、冒険者ギルドに報告へ向かった。
ゲルド公爵がダン達に護衛に付いていた者を一名同行させ、一筆簡単にしたためた物を持たせていた。
これで冒険者ギルドからは何も言われないだろう。
クレアは多分問題はないが、俺の方は以前レオンハルトの奴がどういう報告をして、どう処理がされているのか分からないしな。
まぁ各冒険者ギルドで情報を共有していると言っても、当時俺は低ランク冒険者のアイアンクラスだったし、名前だけでは何も分からないと思うが。
その後ダン達はゲルト公爵の屋敷に呼ばれ、暫くクレアの護衛に雇うことになった。粋な計らいである。全く、気が利く公爵だよ。
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さぁ困った。
王都に着いてからも冥王が喜ぶどころか、文句を言われそうなことしかしていない。文句で済めばいいが、それだけでは済むはずもないな。
そろそろ戻るか?
クレアはどうするのかな、ゲルト公爵はクレアを好意的に受け入れているしな。
万が一俺が居なくなっても、今回みたいな魔力が枯渇するまでの無茶な治療作業はさせないだろう。しないよな?
公爵はその辺の常識はあると思うし、人の使い方や限度をわきまえている筈だ。そうじゃなきゃ人の良いバレン達に慕われる筈がない……と思う。
公爵がクレアを手放す気はないと思うが……まぁ、クレアに希望を聞いてからかな。
今後の事を考えながら数日たったそんなある日の事だ。
ゲルド公爵の屋敷の入り口が何やら騒がしい。
何事だと近付いてみると……丁度、屋敷に来ていた者が帰った所だった。
「旦那様自らお相手にならなくても……」
「ああいう輩は、それなりの立場の者が対応せぬと図に乗るからな」
呆れた表情の公爵と主に頭を下げる執事が話をしていた。
大したことは無かったようだなと思い、ここを離れようとしたら……。
「おやセシリィ君、何処へ行くのかな?」
と声をかけられてしまった。
ちっ、見つかったか。よく俺がいるのが分かったな。
「声がしたので様子を見に来ただけですよ。他意はありませんから」
「ふむ……今来た者なのだが……」
「は、はぁ」
俺の台詞聞いてたか? 何故に無理矢理、会話を続けようとするんだ、公爵?
「今来た男爵はランドルフ侯爵の使いで私の所へ来たのだ」
男爵って下級だけど貴族だろ? 貴族を使いに出すってどうなんだ? その貴族を使いに出したランドルフ侯爵って誰?
「あの名前を言われても分かりませんが、来たのは貴族なんですよね? 部屋に通さなくてもよかったんですか?」
「その必要があるのかね? あれは下らん会議に私も参加するように言いに来ただけだ。ちなみにランドルフと言うのはこの国の宰相だな」
「……ソウデスカ」
これ関わっちゃいけないやつだ。
そっと視線を外し、立ち去ろうとする俺の手をガシッと掴む公爵。おっさんのくせに、中々力があるじゃねぇか。
無理矢理振り解く事もできるが……くそ、俺とクレアが世話になっているしな、頼んだわけじゃないが泊まらせてもらっている訳だし。こっちはそれ以上の貢献はしているけどな。
公爵に引きずられ彼の執務室へ。部屋にはセシルもいた。何やら大量の書類を片付けているようだ、大変だな。
「おやセシリィいらっしゃい。もしかして手伝ってくれるのかな?」
「そんな訳ねぇだろ!」
「うん、知ってた。それで、父上どうでした?」
俺との会話をサラリと流してセシルは先程の貴族が来た件についてだろう、公爵に聞いていた。
「無論断った。当然だろう、今のアルグレイド王国の状況を見て、オーガスト領に再度出兵などできる訳ないだろうに」
「……それはまた」
え? 俺の聞き間違いじゃなければ、あんな惨敗があったのにも関わらず、また軍を出すのか? 嘘だろ。
「宰相という立場にいながらランドルフが推し進めているらしい。おめおめと逃げ帰ってきた第一騎士団のレイド伯爵が総指揮を執るそうだ。奴め汚名返上とばかりに躍起になっているらしい」
「……それはそれは」
流石にセシルも呆れて碌な返事もできないようだ。
「今回は敵の兵数を上回る兵を用意するそうだ。確かに数は力だ、間違いではないが……」
「父上、その兵は何処にいるのです? それに度重なる戦闘に難民問題、我が国の経済は破綻寸前だと思いますが?」
「その通りだ、かの地を取り返しても破壊され荒らされて何もなくなった場所だ、得るものは何もない」
「仮に取り戻して復興するにも金と時間がかかりますしね。確かに冥王国が王国の内部深くに領地を得ている現状は危険な状態ではありますが」
二人で溜息をつく公爵親子。俺いなくても良くない? 何故呼ばれたの?
そんな俺の疑問を無視するように二人の会話は続いていた。
「兵の話の方だが総勢五万だそうだ……徴兵を行なうらしい」
「募兵ではそんなに集まらないでしょうからね。それしかないでしょう」
「以前僅かだが実際に冥王軍の一端が王都に攻めてきただろう? これを踏まえて自分の国を守れ、家族を守れと大々的に国民を煽るつもりらしい」
「プロパガンダですね」
「そうだな」
徴兵とは兵を徴集する事でつまり強制的に兵を集める事、募兵は徴募の事で任意で兵を募る事だ。
強制的に集められた兵の愛国心を煽るように先導して、戦場に送り出すつもりらしい。
王国のそんな話に俺を巻き込まないでほしい……俺は前をむいたまま、ゆっくりと後ずさる。
「おや、何処に行くのかねセシリィ君?」
「……いや、その、お国のそんな話を聞いちゃっていいのかな……と。では俺はこれで!」
シュッタっと片手を上げた腕をまたまた公爵に掴まれ、部屋の中央まで引き戻された。うぉ~離せぇ!
「すまんね。つい息子と話し込んでしまった」
「いえ……別にいいんですけど」
「実はセシリィ君に聞きたい事があってね。その答え次第ではセシリィ君が知りたいであろう情報を教えようと思うのだ……とは言っても既に知っている事かもしれんし、もしかしたら興味がない話かもしれんがね」
これはアレか? 一応ある程度は信用して情報を交換したいと? かと言って俺が知ってる情報なんてたかが知れてるしな。
「公爵が欲しがる情報なんて俺は何も持ってませんよ」
そう答える俺。
「ああ、敵の……あちらの話ではないぞ。いや、関係はあるが個人的な事だ」
ほほぅ。それは冥王国の事ではないと。だとすると……。
「君は何者かね? 何故セシルとセシリアの姿に似ているのだ?」
だよな。
ん、あれ?
……セシルとセシリアもよく似ているが血縁関係はないよな?
セシリアは王族、セシルは公爵家だ。公爵家が王族と親戚だった場合でも似すぎだ。
「僕とセシリアはね、双子の兄妹だったんだよ。大昔にね双子は不吉と言われてた時代があるんだ。今はそうでもないんだけど、それでも王侯貴族の中には気にする者もいてね。加えて僕とセシリアの母は伏せられているけど訳ありの平民なのさ。多くの家臣の反対で王妃として迎い入れられることはなかった。そんなこともあって僕は第一王子だったけど次期王には相応しくないと考える者達が多かったんだよ」
セシルが自分の出生に関する事を俺に語ってくれた。
つまりセシリアの母であるメリアはセシルの母でもある訳だ。
続けてゲルト公爵が口を開く。
「当時の私、ゲルト公爵家には長い間、子ができなくてね。生まれたセシルを養子に迎えたのだ。セシリアの方は何処かの上級貴族に嫁入りさせることになっていたのだが」
……成程、そう言う訳か。
「その後セシリアは勇者だと分かって神輿に担がれ、一方セシルには弟ができたと」
俺がそう言うと公爵とセシルはタイミングを合わせたように肩を竦めた。
血が繋がっていなくても息ピッタリじゃないか。
「そう、僕の方は血の繋がりのある本物の跡取りが公爵家に生まれた訳だ」
「勘違いしないでほしい。私はセシルに公爵家を継いでもらうつもりだったのだ。そして領都に居る次男のオルソンもそのつもりだった。オルソンはあまり権力に固執してはいなかったからな」
へぇ、その話が本当ならオルソンとかいう次男は有能だな。公爵本人が王都に居て領都を留守にできるのも彼を信用しているからか。
「僕がどうしてもオルソンに公爵家を継いでもらいたかったのさ。僕にはやる事ができたからね」
そう言って俺を真剣な眼で見つめた。
「勇者セシリアの従者として冥王を倒す旅に出たんだ。妹を手助けする為にね」
え……マジ?!




