6・遭遇戦
そろそろか頃合いか?
何がって? ああ、そろそろ夜になったかなって思ってさ。
日差しがあると思うように動けない事が発覚したからな。
まずは予定通りダンジョンから出て付近の探索からだ。
探索って言っても見て回るくらいだしな。だがこの手の世界のパターン的には、夜は危険な魔物も増える筈なので気を引き締めて行こう……いないかもしれないけど。
結論、魔物は居た。
どう見ても動物とは思えない禍々しい姿だったので、魔物だと判断した。異世界だしあれが動物なんだと言われれば納得するしかないが、多分違うと思う。
それ以外の情報の収穫は無く、後はただ森が広がっているだけだった。
今の所、拠点をダンジョンに決めていたので、朝になるまで戻れるくらいの距離で引き返していたのだ。
試しに弱そうな魔物と一戦してみた……と言うより、たまたまばったり遭遇してしまっただけだけど。
戦った魔物の強さはそれほど脅威ではなく、今の俺、マスターゾンビなら問題なく対処できる程度だ。
でも多分、最初のゾンビだったなら倒されていたのは俺だろうけど。
まぁ森の奥に行けばもっと強い魔物も出るかもしれないが……いや、そもそもこのダンジョンの位置が、森の奥なのか森の外れにあるのか分からないけど。
まぁ分からん事は保留だな。
ともかく朝になるまでにダンジョンに戻ろう。
夜の間、森の隙間からはずっと星が見えてたし、間違いなく日中も晴れるだろう。今の俺には直射日光は辛い。
ダンジョン入り口辺りは日差しを遮るものが何も無い草原になっているから、夜が明ける前に戻りたいのだ。
ちなみに夜の森だが、俺がゾンビ系の魔物のせいか暗い場所でも良く見える。使ったことはないがナイトスコープってこんな感じなのだろうか。
ダンジョンに居た俺がいうのも何だが、ちょっと夜の森って怖いかも……なんて思っていたが、意外と大丈夫だった。
まぁゾンビって事で恐怖心とかに耐性があるんじゃないかな。
ダンジョンまで戻ると正面は壁。中から出た時と同じ様に、中に入る為のスイッチを壁を弄り探す。
えっと壁の外側にある方のスイッチは……おっ、あった、ここだ、ここ。スイッチオン、ポチっとな。
グゴゴゴゴッと音がして壁が動き、入り口現れる。
よし、日中はダンジョンで過ごし、また日が暮れてから探索に出るとしよう……等と考え事をしながら歩いていたのが悪かった。
入り口から入って直ぐの場所で、俺は遭遇したくない人達と遭遇してしまったのである。
「何故こんな所にゾンビがいるんだ?!」
「しかもこのゾンビ、何だがちょっと変じゃない?」
「そ、そうだターンアンデッドをって、魔力無いんだったぁ!」
「……マズいな」
以前俺がダンジョンから出る時に擦れ違った冒険者達だ。
見かけないと思ったら、ずっとダンジョンに潜っていたのか。大変だな冒険者(多分)。
ふむぅ、こちらは戦う気なんか全然無いのだが……でもそうだよな。ダンジョンで魔物と鉢合わせなんかしたら戦うよな。
しかもダンジョンの出入り口で、俺が通せん坊している形になってるしな。
よし、先ずは敵意が無い事を伝えて……。
「気を付けろ、襲ってくるぞ!」
あっれぇ~?
両手を上げたポーズを襲ってくると勘違いされてしまった。
前衛の戦士と盗賊らしき男性二人が俺の前に立ちふさがる。
「あぁて、おえぅわ、でぎじゃなぁ……うごっ」
上手く喋れないんだった、会話は無理。くそっ!
しかも、戦士が切りかかって来たし。
出入り口の壁は閉じてしまって、改めて開閉スイッチを押してる暇はないので外には出れない。逆にダンジョンの奥に行くには冒険者達が邪魔だ。
ど、ど、どうしよう?
魔法使いと神官っぽい女性二人は杖を握りしめているが、魔法を唱える様子がない。ああ、さっき魔力が無いみたいな事を言ってたな。
魔法を使いそうな後衛二人の女の子は魔力が尽きていたようだ。
破邪の魔法……神官っぽい娘が言ってたターンアンデッドとかいう、多分対アンデッド用の浄化魔法だと思う、それをを食らう心配はないようだ。うん、ちょっとだけ安心した。
若い冒険者達だが、見た目に反して結構な手練れの様だ。
魔法による支援は無しで、更に疲れが見えていた前衛二人だったが、それでも彼等の相手をするのには中々骨が折れた。
二段階進化したマスターゾンビでこれである。彼等が万全の状態だったらあっさり倒されていたに違いない。
……まぁマスターゾンビが魔物の中でどれだけの強さなのかが分からないので、一概に彼等が強いとは言い切れないが。
いや、俺はあのボス部屋のスケルトンナイトを倒したのだから、マスターゾンビは決して弱くはない筈だ。やはり彼等はそれなりにレベルの高い冒険者なのだろう……と思う。
慢心をしたのか、それとも一階層には強い魔物が居ないと油断をしたのか、どちらにせよ彼等が疲労をしていて俺はついていた。
当初彼等とは戦う気は無かったが、あちらが俺を倒す気で来るのだ、手を抜くことはできない。
結果彼等を倒す……殺す事になるかもしれないが仕方がない事だ。逆に俺が倒される可能性もあるからな。
見た目通り疲労困憊の冒険者達は徐々に俺の攻撃に押され、遂に俺の攻撃が戦士を捉える。攻撃がクリーンヒットした彼は壁に叩きつけられた。
死角から嫌らしい攻撃を仕掛けてきた盗賊も疲れがピークに来ていたのだろう、俺が一瞬の隙をついて攻撃を当てると、そのまま床を転がっていった。
二人共起き上がってはこない、多分まだ死んでないと思うが……。
前衛の男二人の止めは刺さずに、身を寄せ合っている後衛の女二人に向き合う。
手出しをしてこないなら引いてもいいのだが……あっ、魔法使いが杖を振り上げ俺に殴りかかってきた。
「畜生、こんな所で死んでなるものですか!」
せめて一矢報いようって訳か。
魔力切れで魔法の使えない魔法使いは只の人と変わらない。
……筈なのだが、意外とキレがいい。
なんとか魔法使いの攻撃を躱し、剣ではなく拳で一撃を入れる。
やはり元人間だったからか、それとも殴る相手が女性だったからか、つい手心を加えてしまった。
……ああ、マズいな。今の俺は魔物だ。冒険者相手に手加減をしていると、いずれ倒されるのは自分だぞ……反省。
分かってはいるんだ、分かっては。
魔法使いも気を失い、残りは神官の少女だけだ。
目に涙を浮かべ、ブルブル震えながら杖を握りしめている。魔法使いと違い殴りかかってくることはなさそうだ。
はぁ、やれやれ。
俺は背を向け塞がって壁になっている出入り口に向うと、隠し扉のスイッチを入れ扉を開く。
明るい……外はもう日が昇っている様だ。
俺は気を失っている三人の冒険者を抱え外に放りだした。
外に日差しがあるなら俺が外に出るのは嫌だ。なら冒険者達に外に出てもらおう。
ダンジョンから出た直ぐの開けた草原は恐らく魔物が来ないと思う。昨日草原では一度も魔物を見なかったし。たまたまかもしれないけど。
まぁ、彼等が魔物に襲われないかなんて、俺が心配する事ではないか。
「……え、ええ?」
俺の行動に訳も分からず混乱している神官の少女。
俺が外へ出ろとジェスチャーすると、やっと理解したのか恐る恐るダンジョンの外へ出て行った。
冒険者が出て行った後、扉が閉まるのを確認してから俺はダンジョンの少し奥に引っ込む事にした。
冒険者が直ぐに戻って来る可能性は無いと思うが、流石に出入り口に居るのは危険だ。
進化をした場所以外にも、魔物が湧かない安全地帯と思われる場所があるので、そこに行って夜まで一休みするつもりだ。
しかしこの世界に来て初めて遭遇した人達と戦闘になるとは……今の俺は魔物だから仕方がないと思うが、何だかやるせない気分だよなぁ。