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59・女神と聖女?

 一旦、怪我人の治癒は終えたが、まだ怪我を負った兵士達がこの駐屯地に集まってきているらしい。

 幸いな事に冥王軍の追撃はないようだった。良かったな、ここを襲われると全滅必死だしな。

 まだ魔力には余裕があるし再開するか。

 魔力の譲渡は魔力の尽きた衛生班の神官達にも行ってあげた。

 用意してきた魔力ポーションの在庫が切れたらしい。

 ここまで消費するとは思わなかったのか、それとも先の魔の森の戦闘で消費されすぎて今回数が足りなくなったのか、それは分からないが。

譲渡した総魔力量がかなり多くなったので神官達に不思議がられたが、冒険者には秘密が多いものだとはぐらかしておいた。

 決して俺が少しでも楽がしたいためではない、作業は皆でやるものなのさ。そう言う事にしておけ。

 あれだけあった魔力が尽きそうになる頃、ようやく怪我人が落ち着いたようだ。一体どれだけの人を治癒したんだ?

 上がりにくいレベル帯にいる俺のレベルが、一上がっていたので余程だったのだろう。


 流石にぐったりしていた所にバランをはじめ隊長クラスの者が集まってきた。いや、感謝されるのはいいのだが……。


「聖女様、ありがとうございます」


 ときたものだ。

 クレアにではない俺にだぞ?

 ちなみにクレアなのだが……。


「おお、正に女神様……」


 である。

 聖女越えたよ。

 聞けば欠損部を再生せる魔法を使える者が、現在アルグレイド王国にはいないそうだ。

 本来なら神官系レベル40が必要な魔法だが、本物の聖女であるクレアは聖女の特性でレベル35で使用可能となっていた。レベル35も一般的にはかなりの高レベルではあるが。

 そうなると更に高度な蘇生魔法を使える者はアルグレイド王国にはいないことになる。

 長年冥王国と戦争がなかった為に、神官達のレベルも上がらなかったのかもしれないな。


「バレン、何処でこんな優秀で可愛い娘達を拾ってきたのさ。何はともあれ大手柄だよ!」


 衛生班のまとめ役の金髪の女性はバンバンとバレンの肩を叩く。

 おいおい、いいのか? バレンって下っ端だけど一応貴族だろ?

 バレンはどうやら手柄を立てて貴族になったパターンらしく、いまだに平民と言うか兵士らしさが抜けないらしい。

 貴族としてもエセ貴族と呼ばれる名誉騎士爵なので、公でなければ普通に接してくれて構わないとの事だ。


「痛てぇよセシル。そんななりして男なんだから力一杯叩くな、阿呆」


 ……は?

 今バレンは何って言った? この綺麗な姉ぇちゃんが男だと?

 クレアも口に手を当てて驚いた顔をしている。

 面白いのは近くにいたダライアがこちらを向いたまま、口を開けて呆けていた事だ。あいつもこの展開は読めなかったらしいな。


「ん? あれ、やっぱり勘違いしてた?」

「ええ、はい、そうですね」


 俺に綺麗な顔を向けてニカっと笑う美女の様な男性。


「綺麗ですよね……男性だった事にも驚きましたが……その、セシリィと並んでも立ってもらってもいいですか?」


 クレアがセシルと呼ばれた美男と俺を横に並ぶように言うので、俺とセシルは顔を見合せた後、横に並ぶ。


「ああ。俺も気になっていたんだ。セシルちょいとそのフードを下ろしてくれ。セシリィの嬢ちゃんは眼鏡を外してくれ」


 言われた通りにセシルはフードを、俺は眼鏡を外した。

 ちなみに眼鏡は例の鑑定眼鏡だ。何となく変装する気分で眼鏡をかけていた。姿が多少変わったと言っても俺の姿はこの国の王女であり、勇者のセシリアに似ているからな。

 ……ちなみに鑑定眼鏡をしていてセシルが男だと気付かなかったのは、性別欄をきちんと見てなかったからだ。女だと思い込んでいた為に見落としていた訳だ。思い込みはよくないな。


「……やっぱり似てるな。お前等兄妹なんじゃねぇのか? 名前も似てるしよ」


 ……いや、実は俺もそんな気がしてた。

 セシルは顎に手を当てながら、首を傾げながら端正な顔を俺に向ける。

 そしてフッと笑うと……。


「やっぱり妹だったのかセシリィ!」

「お兄ちゃん! やはりお兄ちゃんだったのですね!」


 セシルのノリに付き合い、二人でヒシッと抱き合う。

 傍目から見たら美しい兄妹の再開に見えるだろう。


「え、えええっ?!」

「なんだよ、この茶番は……驚かなくていいぞクレアの嬢ちゃん、この二人はふざけているだけだ。ほら顔が笑ってやがるだろ?」


 混乱しているクレアに、質の悪い冗談だと呆れた顔のバレンが肩を竦めて説明する。


「ちぇっ、つまんないな。でもさ本当に僕達は似てるよねセシリィちゃん」

「そ、そうですね」


 ……遂にちゃん付けで呼ばれてしまった。

 でもまぁ、これはこれでいいか。いいのか? 見た目が幼いから仕方がないと諦めるしかないか……。


 <>


 日も暮れたので撤退の為の移動は明日の早朝からになるとの事だ。

 最もそれも冥王軍次第だ。追撃がここまで来るようなら直ぐにも移動せねばならないだろう。

 今のところ斥候隊の報告ではその様子はないらしい。

 活躍した俺とクレアには特別にテントが与えられた。しかも女性兵士による護衛付きだ。

 一応ダライアもテント脇に控えているし、俺もアンデッドなので寝る必要はないが、魔素を多く吸収して魔力を早く回復するには実は寝た方がいい。

 なので護衛を信じて寝る事にする。まぁ何かあっても直ぐに起きれる筈だが。

 流石にクレアは疲れていたんだろう、テントに入ると直ぐに寝入ってしまった。

 寝息をたてて眠るクレア……冒険者時代、一緒に旅をして同じテントで眠ったがクレアは育ちのせいか、非常に寝相が良かった。

 逆にリッカやハンナは寝相が凄かったなぁ~。

 俺は思い出し笑いをしながら眠りについた。


 翌朝テントの外は慌ただしくなっていた。

 もう撤退の準備をしているのかとテントのカーテンを開けようとしたら、直ぐそこで大きな声が響いた。


「ここにその冒険者がいるのか!」

「こ、困りますバルター千人隊長。中に居るのは女性の冒険者ですので!」

「儂は構わん、さっさとそいつ等を叩き起こしてくれる」


 その言葉の後、テントの出入り口が捲られ、中年太りの脂ぎった顔がテントの中に現れた。


「おい小娘、お前等が聖女とか女神とか持て囃されてる冒険者か? 儂自ら顔を出してやったのだ。さっさと準備をせよ! 準備が終わり次第、儂の天幕に来い。五分以内だ、いいな!」


 そう捲し上げてドスドスと音が聞こえそうなくらいの歩き方で去っていく中年男。


「ごめんなさいねセシリィちゃん。今朝方残存兵を集めて駐屯地まで戻って来たバルター千人隊長よ。あんな性格だからクレアさんを連れて直ぐに行った方がいいわ」


 護衛に付いている女性兵士からもちゃん付けか……見た感じクレアの方がお姉ちゃんだしなぁ。

 俺が口をへの字にしているのを見て、テントの横にいたダライアがいい笑顔で笑っている……気がする。馬の表情なんてわかんからな。

 ともかくクレアを起こして行くか。

 ここから逃げるかどうかはその時に決めよう。


 天幕に入るなり「遅い!」と怒鳴られた。クレアが思わずビクッと身体を振るわす。遅くねぇよ、きっかり五分で来た筈だぞ。

 天幕の中には一番奥に椅子に座ったバルター千人隊長が、中央には簡易なテーブルが置かれ、そこに左右に別れて何人か座っている。

 その中にはバレンとセシルもいた。

 バレンは名誉騎士爵だが百人隊長だ、バルターより役職が低い為配下の席だ。もしかするとバルターも爵位持ちかもしれないな。

 俺達には席は用意されず入り口から入った所で立たされっぱなしだ。

 ……昨日バレンが貴族の名にかけて報酬の件は任せておけと言ってた気がするが、バルターの様子を見ると少し怪しく思えてくる。まぁ最初から期待はしてないけどな……と言うかきっと冒険者を除名されていて、貰えないだろうし。

 バレンをみると少し顔が引きつっていて、視線を俺に向けてすまなそうにしている。

 ああ、バルターは話が通じないタイプの上官みたいだな。


 俺とクレアを立たせたままバルターは髭を摩りながら話をはじめた。

 どうやらバルターはバレンの直接の上官ではないようだ。

 ここにいるのは上座に千人隊長のバルター、部下の席にバレンと同じ百人隊長達、そして衛生隊の隊長のセシルだ。

 第一兵団は一万人以上の兵で構成され、総指令官の兵団長の下に数十人の千人隊長がいて、その下に百人隊長がいる。

 兵団が冥王軍に返り討ちにあい、兵団は散り散りとなってしまった。

 今居る幹部達は、元はバラバラの隊に所属していたらしい。


「腰抜けの第一騎士団は逃げ出し、第一兵団は兵団長が討ち死にをした。だがしかし千人隊長の儂が健在である! 騎士団の奴等のように尻尾を巻いて逃げた臆病者の兵団員もいたようだが、ここにはまだ勇敢で誇り高い二千人以上の兵がおる!」


 バルターが拳を突き上げそう言い立てる。

 あ、これ嫌な予感がするんだけど?


「幸いにして使える冒険者がここにいるようだ、早速儂の連れてきた兵士を治すのだ、いいな小娘共!」

「失礼ですがバルター千人隊長、彼女らは冒険者で協力の要請はできますが、我らに命令権はありません!」


 そう答えたのはバレンだ。

 おお、口答えするなんてやるじゃん。


「冒険者なら強制従軍させればよかろう、馬鹿か貴様は」

「……冒険者の強制従軍は冒険者ギルドと国王陛下が承認しないと認められません。また冒険者ランクもシルバーランク以上でないといけません」

「承認など後でよかろう、聞いた話が本当ならこの小娘共はゴールドランクはあるだろう! ったく」


 俺はオズオズとまだ持っていた冒険者証を出し、目の前に掲げる。


「あの、俺……じゃなくて私の冒険者ランクはアイアンランクですが?」

「あ、私はカッパーランクです」

「な、何ぃいいいい?!」


 俺達がランクを言うと、バルターだけでなくバレン以外の皆が驚いた顔をして叫んだ。

 バレンには彼を助けて自己紹介をした時に教えておいた。彼も随分驚いていたな。


「おかしいだろ! 儂も傷一つない兵士達を見たが、あんな人数を完全な状態で治せる神官がアイアンとカッパーランクだと? 冒険者ギルドは才能がある者のランクを上げる事をせんのか、無能共め!」


 そう憤慨するバルター。一応俺達の事は才ある者と認めてはいるんだな。

 セシルが「お前の様な無能が上に立っているからだろ」と殆ど聞こえないような小声で呟いていたのを、俺は聞き逃さなかった。

 バルターが嫌いなんだな。まぁ、確かに奴は好かれそうではないけど。

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