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53・魔剣

 目の前には地面に突き立てられたカノープスの持っていた魔剣がある。それを囲むように俺達は立っていた。


「魔剣ブラックロウです」


 へぇ、そんな名前なんだ。どうでもいいが、縮んだ俺の身の丈以上あるんだけど、これ。


「これをセシリィ様に。カノープス様から譲渡された事になっている筈です」


 ぶっ! 様付けかよ。柄じゃないし、慣れないだろうなぁ

 ともかく譲渡されているのか。譲渡されてないとルーンライズのように十分に性能を使いこなせないのかな? 

 取りあえず手に取ってみると大きさの割に軽い。


「譲渡されてなければ、数分で身体が腐ります」

「うをっ、怖っ!」


 俺は思わすブラックロウから手を放す。


「大丈夫です。その剣は見た目以上に重いのですが、軽々と片手で持っていたという事は所有者として認められたという事ですよ」

「そ、そうなのか。脅かすなよ」

「それにセシリィ様はゾンビでしょう? 今更腐った所でどうだというんです」

「ま、まぁそうだけど……」


 早速毒を吐きやがった。

 やはり毒舌キャラかこいつ。

 まぁ今の身体はゾンビだけど腐ったようには見えない容姿なので、本来の見た目が腐ったゾンビに戻るのは遠慮したい。

 俺は所有者だと認めてもらえているようで、ほっと胸を撫で下ろす。

 ……そう言えばただでさえ慎ましい胸だったが、幼くなって完全にツルペタになってしまったな。

 まぁ、胸があっても邪魔だったしいいか……邪魔な程には大きくはなかったけど。


「それを持ってアルグレイド王国に駐在している序列将三名の所へ行きましょう。変わり者ですのでその剣があれば配下に収まってくれるかもしれません」

「カノープスの後継者みたいな感じになるのか? そんな簡単にいくのか?」

「変わり者と言ったでしょう? ここにカノープス様と一緒に来た俺様的な序列将達とは違って、ちゃんと話が通じると思いますよ……多分」


 多分ね。

 何気にここに来た序列将の事をディスっているよな。嫌いだったのだろうか?


 その後、妖しく黒光する魔剣を眺めながらダライアから話を聞く。

 カノープスが攻め落としたフォーブル砦には序列五位の将が、アルデバランの配下が攻め落としたハルナラ砦には序列七位の将が就いているらしい。

 そしてハルナラ砦から王都側に進んで、アルデバランの配下が攻め落とした大都市を抱えるオーガスト公爵領には、序列三位の将が駐在しているらしい。


 アルデバランの配下は、新たなアルデバランの命令がないと、どんな事があっても受けた命令を中断しないで行なってしまうと聞いている。

 要は勝手な事をしないように自我を抑えられているか、もしくは自我自体を無くされているのだ。命令を忠実に聞く人形のように。

 黒の冥将アルデバラン率いる黒の冥王軍は、アルグレイド王国の王都方面に進軍を続けよと命を受けた部下達が忠実に命令を守った結果、最後の一兵になるまで進行を続ける事になったのである。

 それは俺……セシリアがアルデバランを倒した為に、新たな命令が無かったからだ。

 よって黒の冥将軍が攻め落としたハルナラ砦やオーガスト公爵領の領都にはアルデバランの配下がいない為、カノープスの配下がそこに駐在することになったらしい。

 そこに行って俺にあいつ等の、序列将の主だと示してこいと言っているのだ、このダライアは。

 いやいや、冥王の許可なくそんな事はできんだろう?

 そもそもこの事を冥王が知ったら俺、殺されるわ! ゾンビだけど。


「ここまでやっておいて、今更じゃのう」


 とアリスが言葉をこぼす。

 だって、降りかかる火の粉を払っていたらいつの間にかこうなってたんだよ! 断じて俺の意思ではない!

 俺が心の中でそう憤慨してた所、クレアが視界に入る。彼女の顔色がすぐれない。


「オーガスト公爵領が……」


 ああっ、そうだった、オーガスト公爵領はクレアの地元だった。

 くぅ、いずれバレる事だけど、傷付くだろうからどうやって話そうかと思っていたんだが、ダライアの説明で暴露するかたちになってしまった。


「クレアそのなんだ、何と言うか……」


 俺はしどろもどろになってクレアに話しかけるが、何を言っていいのか分からない。


「いえ、私がオーガスト公爵領にいたのは小さな子供の頃だけで、殆どは王都の公爵邸にいましたから、知り合いも殆どいませんでしたし……」


 そう言ってちょっと寂しそうな表情で返事を返す。

 領都が襲われたんだから、そこにクレアの家族もいただろう。父であるオーガスト公爵もいたかもしれない。

 冥王軍の先端は王都まで届いたと言うし、侵攻途中にあったオーガスト公爵領も無事ではない筈だ。


 アルデバランの軍が暴走し全滅するまで侵攻したのだ、アルグレイド王国もかなりのダメージを受けたはずである。

 カノープス軍が王都に進行すればアルグレイド王国は滅んだんじゃないのか?

 その問いにアリスが答える。


「そこまでアルグレイド王国は弱くはない。王都にはまだ城を守る第一騎士団及び第一兵団が残っておるからな。遊撃の第二騎士団と第二兵団は馬鹿王子のお陰で、魔の森で半壊しおったがな」


 黒の冥将軍が王都に向って侵攻中、被害を受けたのはオーガスト公爵領だけではない。いくつかの領が被害を被っており、その地域の戦力はほぼ残ってはいないだろう。

 それでもまだアルグレイド王国を滅ぼすには戦力が足りないらしい。


「そもそもカノープス様はフォーブル砦より先に進む気は無かったようですよ」


 ダライアの意外な台詞に俺は驚いた。

 あの戦いラブなカノープスがか? 嘘だろ?


「かつてカノープス様と互角に戦ったことのあるプラチナランクの冒険者は数年前に老衰で亡くなったそうで、カノープス様は残念に思われていたようです」

「おお、セシリアの前の勇者の従者だった男じゃな。厄介な相手だったと聞いておる」


 ほう、そのプラチナランクのお爺ちゃんがどうしたんだ?


「カノープス様は『数十年待つだけで我を楽しませる戦士が生まれるのだぞ、滅ぼしたらつまらんだろう』と仰ってましたね……流石脳筋ですね」


 成程な、如何にもカノープスらしいな。

 別に人族に好意を持っているわけではなく、単に好敵手を生むかもしれない人間を滅ぼしたくはなかっただけだと。


 しかし、アルグレイド王国へ行くって言っても時間がかかるだろ? そろそろ冥王もこの異変に気付くだろうし……いや、まだ気付いてないのはおかしくないか? 情報を管理していただろうアルデバランがいなくなったとしてもだ。


「冥王様は今冥王城にいないぞ」


 アリスがそう教えてくれた。

 いない? じゃあ今何処にいるんだ?


「私が直ぐにカノープスに気付かなかったのはブランが足止めしてたのもあるが、冥王様から連絡があったのだよ」


 そうなのか。そう言えば赤の序列将四位のブランは何処へ行ったんだ? 見かけないけど。

 まぁ何処でもいいけどさ。それより今回のカノープス襲撃はブランの奴が起こした事なんだろ?

 ダライアの話ではフォーブル砦でカノープスの灰の冥将軍と、王都へ逃げ帰る途中のギルバート王子達の軍との戦闘中にブランが現れたそうだ。

 ブランはアルデバランの名を出して騒ぐギルバート王子とカノープスを引き合わせ、カノープスにギルバート王子にはまだ利用価値があると逃がすように提案したとか。

 そしてブランはそんな些細な事よりも、俺の反乱を止めに行くように進言したという。

 アリス配下である変異種ゾンビの俺の噂を聞いていたカノープスは、ブランの話を受け入れアリスの城に来たと言う訳だ。

 ……どんな噂だよ、俺なんて言われてたの?

 それよりあの馬鹿王子を逃がしたのか、信じられねぇ。


 おっと、今はそんな事よりプロキオンの行方の方が大事だ。


「四王会議に連行……出席させられておる」

「四王会議?」


 聞くと、竜王、魔王、獣王、そして冥王が一堂に集まって会議を開くらしい。

 その内容は誰も知らないが、ただ冥王は行くのをとても嫌がっていたらしい。アリスがつい連行と口走ったが、実際に他の王達に無理矢理連れ去られたらしい。

 冥王にしたら準備に長年かかった計画の実行途中に、会議なんか出たくなかっただろうに。

 ……アリスの話では会議云々よりも他の王と会うのが嫌だったらしい。他の三王って怖いのか? 怖いだろうな。 竜王に魔王に獣王だしな。


「四王会義はどんなに短くても一か月、長ければ数か月は続く。アルグレイド王国に行く暇はあると思うぞ。その間私が冥王軍をできる範囲で纏めておこう」


 冥王軍は纏まっても冥王からの俺への処罰は軽いものにはならんだろうな、絶対に。

 この際アルグレイド王国に行って何か凄くプロキオンが喜ぶような事を……うん、無理だな。何をやっても冥王から恨まれる事しかできない気がする。

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