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52/119

52・契約

 ああ、マジでヤバかった。

 カノープスはいずれ俺が冥王と相対するみたいな事を言っていたが冗談ではない。間違いなくカノープスより強い冥王と戦うなんて考えたくはないな。

 ……でも冥王が怒りそうな事をかなりやってしまっているからなぁ、俺は。


 しかしカノープスは随分と気前が良かったな。俺に色々くれたし。

 まぁ戦利品として考えればいいだろう。

 後で倒した序列将の武器とかも頂いておこう。

 武器の回収よりも、今は直ぐにでもやらねばならないことがある。


「……あの娘を助けなくていいのですか?」


 ダライアがクレアに顔を向けてそう呟く。

 言われるまでもない、俺は急いでクレアの下へ向かった。

 彼女の顔色は青白く血色が悪い。ハイヒール程度では回復しきれていないのだ。ハイヒールを何度も何度も常に掛け続けていれば死ぬことはないが、完治することは難しい。

 根本的に傷の深さに比例して適切な回復魔法を使わねばいけないのだ。魔力を多めに消費することで効果を上げる事はできるが限度がある。

 例えばだが、千切れた腕をくっ付けるのにエクストラヒールなら一発で完治するが、数百回のヒールでくっ付けた場合は付きはしたが腕が動かない状況になりかねない訳だ。

 俺はステータス画面で自分のレベルを確認する。

 はぁ?! レベル35って……流石に冥将カノープスを倒しただけはある。

 カノープスと戦う前はレベル25くらいしかなかったのに一気に十もレベルも上がるとは。

 上がり易いレベル帯を通り越して、上がりにくくなるレベル30を五レベルも超えるとは思わなかった。

 カノープスはアルデバランよりレベルが高かったみたいだしな。

 しかしよく勝てたな俺。セイクリッドゾンビ、マジチートだな。

 目標のレベル30を大きく越えたが、レベルは高い程良いので文句など出る筈もない。

 ともかくこれで俺はエクストラヒールを使える筈だ。


 クレアが淡い光に包まれる。

 何処に傷があったのか分からない程に怪我が直ると、徐々に顔色も良くなっていくのが分かった。


「……ん? あれ、ここは?」

「おおっ目が覚めおったか、クレアよ! 良かった、良かったのう! うをっ!」


 感極まったのか、ついクレアを抱き上げたアリスが大声を上げてクレアを手放す。

 おっと、危ないな。アリスに代わって俺がクレアを支える。

 アリスさぁ、自分がアンデッドでクレアが聖女だってこと忘れてたな、気を付けろよ。


「セシリィとアリスさん? え……セシリィ、ちょっと姿が変わってないですか?」


 あ、そうだった。

 進化したら姿がちょっと変わったって言ってたな。鏡が無いから分からないんだけど。


「ほれ」


 おっ、アリスの魔法だろうか、姿見の様な大きな鏡を宙に出した。それを覗き込む俺。

 おやぁ~?

 少し背が縮んだのか、全体的に幼くなった感じだ。

 進化して若返る……いや、幼くなるって一体?

 腰まであった長い髪は肩より少し下くらいまで短くなっている。

 そして髪の色もだ。金髪なのは変わらないが、濃い目の綺麗な金髪だったのが白が混ざったような淡い金髪に変わっていた。

 ついでに瞳の色も碧から藍に変わっていた。

 エンシェントゾンビの姿はセシリアとほぼ同じだったらしいが、今の俺は非常に似ているそっくりさんくらいになっている。


「セシリィ、可愛い……」

「じゃな、可愛くなったのぅ」


 いやいやアリスには言われたくないぞ。まだアリスの方が幼く見えるからな。


「あっ、そうです! あの凄く強い、頭の無い鎧の人はどうなったんですか?」

「カノープスならセシリィが倒しおったぞ。上位種に進化したらカノープスと互角以上になりおった。全くセシリィは滅茶苦茶だのぅ」

「えええ、そうなんですか。凄いんですねセシリィ」


 クレアには最初に別れた時にゾンビだと話していたし、ここに来てから進化する事も既に教えてあった。なので進化については驚いてはいないようだ。カノープスに勝った事には驚いているようだが。


「……あと気になったのですが、私を治したのは誰なんですか? 結構深い傷を負ったと思ったのに……」

「驚くなよ、それもセシリィじゃ。進化後の種族がセイクリッドゾンビとかいう、聞いた事もないふざけたゾンビになったからの。ゾンビなのに回復魔法を使えるようなのだ……訳が分からんことに」

「え……えええ! それってゾンビって言えるんですか!?」


 アリスの疑問とクレアの突っ込みはもっともだ。俺自身、訳が分からんからな。

 しかしクレアの質問に何でアリスが答えるんだ? しかも若干ドヤ顔をして。


「全くです。私も長い間アンデッドをやっておりますし、色々なタイプのアンデッドを見てきましたが、セイクリッドゾンビなど初めて知りました」

「……え、誰? 馬が喋ってる!?」


 突然会話に参加してきたダライアを見て、クレアが目を白黒させている。そりゃ驚くよな。


「初めまして聖女クレア。私はダライアと申します。以後お見知りおきを」

「え、あ、はい。クレアです、よろしくお願いいたします」


 丁寧に挨拶をするダライアにクレアもつられて丁寧に頭を下げ挨拶を交わす。

 意外と腰が低いのか、ダライアは? そう思ってダライアを見ていると、俺の視線の意味に気付いたのか……。


「カノープス様の配下は皆が皆、カノープス様と同じ脳筋ばかりではないですよ」


 と答えた。

 脳筋って……この世界でもそんな言葉があるんだな。

 いやそれよりも、今シレっと毒吐きやがったぞこいつ。上官に脳筋ってさ……。


 そういやダライアはカノープスに俺に仕えるように言われていたけど……いいのか? そう考えていたらダライアが俺に向き直り頭を垂れた。


「さて早速ですが契約をいたしましょう」

「契約?」

「はい、私は貴方程珍しい特異種ではありませんが、かなり珍しい類のアンデッドであります。本来は獣を率いて戦う将でしたが、何故か……いつの間にかカノープス様の愛馬にされていましたが」


 契約の話が逸れ、空を見上げて溜息をつく。

 ああ、序列将だもんな、乗馬されるために将になった訳ではないだろうしな。


「まぁそれはいいのですが、契約の話です」


 いいのかよ! まぁ本人(馬)が言うんならいいんだけどさ。


「私は契約者の特性に合うように変化するのです。つまり貴方と契約すれば聖属性に耐性ができるかもしれません……契約してみないとはっきとは分かりませんが」

「ほほぅ、上手くすれば聖属性も怖くなくなる訳だ」

「ええ、カノープス様を乗せて戦っている時、貴方から受けた聖剣の攻撃はとても痛かったですからね」

「……その、なんだ……ゴメン」


 しっかりと恨まれていたようだ。

 その後ダライアと契約を交わす。

 血を交える訳でもなく、派手に魔法陣を出して契約をする訳でもない。


「契約完了です」

「え、もう?」


 ただダライアの額に手を当てただけである。

 そういや進化とかも派手なエフェクトとか出ないしな。聖剣ルーンライズとの(再)契約もあっさりとしたものだったし。

 ……などと考えているとダライアがブルンと嘶きをした。

 え……?

 一瞬光った後、ダライアはその姿を変えたのだった。

 おおっ、俺の進化とは違って光りやがった! く、悔しくなんかないぞ、本当だぞ!

 しかし契約がアッサリ済んだので、本当に契約されたのか心配だったが、ちゃんと契約されてなによりだ。

 ダライアの大きくて黒かった身体は一回り小さくなり色も白くなった。

 ……うむ、艶のある白馬に変わったな、こいつ。


「おお、いいですね。私好みの色艶です」


 当のダライアも満足そうだ。前の強そうな黒馬よりこっちの方が好みらしい。


 クレアの身体を治したし、ダライアとの契約も済んだ。

 俺はいそいそと倒した序列将の武器を集め、収納鞄に詰め込んでいた。


「セシリィは初めて会った時にも、倒した盗賊からそうやって売れる物を剝ぎ取っていましたね」

「なんだと、貧乏くさい奴だな」


 クレアはただ思い出した事を悪気の無い口調でそう喋っただけだが、それを聞いたアリスが顔を顰めて失礼な事をぬかしている。

 失礼な、無駄になるかもしれないものを、俺の為に再利用しようとしただけではないか。


 カノープスの大剣は収納する前に話があるとダライアが言ったので、一番最後に収納する事にして、そのまま地面に突き立ててある。

 一体何の話なのだろうか?

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