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49・冥将戦(灰)

 ふぅ、ヤバかったな。

 おっと、アーロンを倒してもまだ安心できる状況ではなかった。

 村人の避難も終わっているようだし、俺の事を心配してまだここに残っていたクレアを連れてここから逃げるか。


「想像以上だぞ……新しく序列将を決めねばならぬ手間が増えたが、それ以上の収穫だ」


 おおい、今まで微動だにしなかったカノープスが俺の直ぐ背後まで迫っていた件について……誰か説明しろ!

 まぁ俺が奴の配下の序列将を倒したからなんだけど。

 いやいや、アーロンでさえ手こずっていたのにカノープスと戦うのは自殺行為だろ!

 アーロンは冥将クラスらしいが、当然その上官である冥将カノープスは更に強い。少なくとも同じ冥将のアリスよりは強いと、アリス本人から聞いた事がある。

 そう、俺と戦った時みたいに若干手を抜いていたアリスではなく、全開の状態のアリスより強いって、それなんてムリゲーみたいな感じだ。


「逃げるぞクレア。村人は避難した、もうここに居座る意味はない」

「え、ええ、そうですね分かりました」


 村人が暮らしていたこの区域は、元の村のように家が並びある程度は整理されてはいるが、入り組んだ造りになっている。アリスの兵達やカノープスの兵達もまだ混戦状態だ。紛れて逃げるに限る。


「何処へ行くつもりだ?」


 アンデットの馬に跨ったまま目にも止まらぬ高速で回り込まれ、馬上からアーロンの持っていた大剣よりも長い剣を俺に振り下ろすカノープス。


「うげっ」


 聖剣で受けるが地面の石畳に足が少しめり込んだ。聖剣と魔剣の反発もあって凄い衝撃が俺を襲う。

 速い、それ以上に威力が凄い。

 身体中の細かい傷はかなり修復しているが、左腕の肩口はまだ完全に復元しておらず、片手の状態でカノープスの一撃を受けねばならない状況だった。

 その為にカノープスの剣撃を受けきれず、折角治りかけている左の肩口に再度大剣が食い込む。

 うがっ、片手じゃ捌ききれねぇ!

 カノープスは頭部が収められている兜を片手で抱えている為、奴も武器を片手で振るっている。しかもその武器は巨大な大剣だ。

 同じ片手で剣を扱っている状況だが、完全に俺の方が押されている。

 カノープスの持つ魔剣はアーロンの魔剣以上の業物らしく、刃こぼれもおこしていない。

 流石は冥将の所持する魔剣だ。

 聖剣ルーンライズに引けを取らない名剣なのだろう。アーロンの時と違い剣の性能差は有利とはいかないようだ。

 それでも俺の攻撃はカノープスに掠りもしないという訳ではなく、何度かの攻防の内、数回はカノープスの身体に擦り傷程度の攻撃を当てる事はできた。その代わり俺の方はもっと深い傷を負う事になったが。

 しかし聖剣の与えるダメージは序列将の鎧騎士の時よりも更に弱い感じだ。聖剣の掠った場所は表面が溶けるが、直ぐに元通りになってしまっていた。

 同じ冥将のアルデバランやアリスの様に当たれば大ダメージとはいかないかもしれない。同じアンデットなのに鎧が本体の鎧騎士だと聖剣の効果が下がるのか? いや逆に今までの敵だった奴等に特効があり過ぎただけかもしれないな。


 俺はそもそも正々堂々戦う気もないので、カノープスの跨っている馬にも攻撃を加えていた。

 将を射んとする者はまず馬を射よだ……例えでも何でもなく、そのまんまだな。

 アンデットの馬にはカノープス程の耐久力はないらしく、聖剣が当たればかなり痛がるような素振りを見せる。アンデットが痛みを感じるのは唯一、聖属性の攻撃だけだしな。

 しかしカノープスもそれは分かっているらしく、馬に致命傷を与える事はできない。

 馬を倒す前に俺がカノープスに倒されそうである。この作戦は駄目だな。

 逃げさせてもくれない状況で有効な手段も無いまま戦闘が進み、やがて俺の方が防戦一辺倒となってしまっていた。


「ふむ、そこそこ楽しめたが……これまでか」


 カノープスの剣に更に重みが加わる。

 僅かに掌に違和感が……。

 碌に動かない左腕は防御が疎かになっていて、何度も攻撃を受けてしまい傷が塞がっていない。お陰で左腕が使えずにずっと右手で聖剣を握ったままだった。

 俺は耐性はあるにしても聖属性を完全に防げてない為に、掌は常に火傷を負っていたのを忘れていた。いつもは持ち手を変えて自己修復をしながらだったからな。


 本気になったのか、カノープスの攻撃が明らかに重くなった。

 奴の重い剣撃は連撃となり何度も俺を襲う。


「くっ!」


 連撃で体制が崩れた所に強烈な一撃を食らい、衝撃で聖剣が手から弾け飛ぶ。火傷で握力も限界だったようだ。

 俺も聖剣同様に大きく後ろに吹っ飛ばされる。クレアの張った障壁に当たったが衝撃で障壁が壊れる程だ。

 とは言え、障壁自体が消耗していて壊れる寸前だったみたいだが。


「セ、セシリィ! 大丈夫ですか?」


 駆け寄るクレアに大丈夫だと言ってやりたいが、大丈夫ではなさそうだ。

 身体を起こそうとするが上手く起き上がれない。視界に馬に跨った巨大な鎧騎士がその手の大剣を振り下ろそうとする様子が見えた。

 俺は何とか声を振り絞りクレアに「逃げろ!」と、それだけを言い放った。

 カノープスから逃げるのは難しいと思うが、それでも上手く逃げてくれよ。

 さて、俺は……詰んだな。

 次の瞬間ガキンッと大きな音が鳴り響く。


「逃げるわけないです!」


 クレアは村人を守っていた広範囲の障壁ではなく、半球型の結界を張って俺を守っていた。

 凄い神聖力だな、あのカノープスの一撃を防いだぞ。

 これはイケるか? などと一瞬頭をよぎったが、その甘い考えは次の瞬間に打ち砕かれた。


「うっくぅ……」


 二撃目で鈍い音がしたと思ったら数撃でひびが入り、遂には結界が破壊されてしまった。

 続けざまに結界を展開させるが今度の結界は妙に透明度が高い。本来の結界は淡い青色なのだが……急いで張った為に魔力の練り込みが足りなかったか? 無論それもあるだろうが、これは……。


「ごめんセシリィ。私もう魔力が無くて……」


 それはそうか、クレアは強力な魔法を使いっぱなしである。いくら聖女が普通の神官より魔力量が多いといっても限度がある。

 クレアが台詞を言い終わった直後、結界は脆い音を立てて破壊された。


「ちっ!」

「きゃっ!」


 身体に鞭打ち、無理矢理にクレアを庇うようにカノープスの剣筋から飛び退く。

 ダメージが残っていて素早く動けなかった事と、カノープスの剣の速度が速すぎた為に避けきることはできなかった。

 カノープスの剣は俺の腹の部分を半分切り裂き、そしてその剣筋は俺が庇ったクレアにまで達していた。


「ん、かはっ!」


 クレアが俺の腕の中で血を吐く。

 回復魔法を……と考えたが、クレアはもう魔力が無いのだった。もし魔力が残っていたとしても、吐血の為に呪文を唱えるのは難しいだろう。

 参ったな、折角助け出したのに、こんな事になるとは……意識の無いクレアを抱えカノープスを見上げる。

 流石にもう駄目かと半場諦めかけたその時……カノープスの背後から目にも止まらぬ赤い物体が高速で飛んで来た。何だあれ?


「何をやっとんのじゃぁ、ワレェ――――!」

「ぐほぁ!」


 背後から頭突きでカノープスに体当たりを食らわせたアリスがそこに居た。


 アリスの奇襲で馬から転げ落ちたカノープス。

 アリスはまだ足が完全に再生してないので翼を使って飛んできたらしい。


「くくくっやるなアリス、流石は我と同じ冥将だけはある」

「カノープスお前、分かってて我が城を襲ってきおったな?」

「さてな、我は謀反を沈めてくれと頼まれたにすぎん」


 起き上がっても馬には乗らずに、アリスに向き合うカノープス。

 アリスは片方の手を腰に当て、もう片方の手には愛用の赤い魔石のついた十字槍を握っている。カノープスを見る目は怒りで溢れかえっていた。


「謀反など起こっておらん! こんな騒ぎになるまで気付かなかった私も悪いが……ブランの奴め、戻って来てから様子がおかしかったが、道理で私を部屋から出さぬようにしようとする訳だ」

「ああ、我の所に来た赤の序列将の事か、お陰でここまですんなりと来れたぞ。同じ冥将と言えど、それなりの大軍を連れていては目立つからな」

「やはり確信犯か、ブランの戯言に乗じて戦いをしたかっただけだろう? アルグレイド王国を攻めただけじゃ足らんかったのか!」

「足りんよ、それにその内に謀反は起こる。例えばその者とかがな」


 俺の方に剣を向けてカノープスはそう答える。

 俺とクレアの様子を改めて見たアリスは、持っていた槍の石突の部分をドンと地面に荒々しく叩きつけた。


「私が保護している者と部下に随分としてくれたな……覚悟はできてるだろうな?」


 冥将同士の戦いが俺の目の前で始まったのだった。

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