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42・呼び出し

 翌朝、カーテンを開けると眩しいくらいの青空だった。

 いい天気だなぁ。俺は差し込む朝日に対し、眩し気に目を細める。

 ……これってゾンビとしてどうよ? おかしくない?

 本来ゾンビは夜行性だろ? しかも日光耐性があるから日の光が辛くないという。

 ……俺に対しての突っ込みは不要だ、もう今更である。


「おはようございますセシリィ。あの、その……色々心配させてごめんなさい……そしてありがとうございます」


 ……凄いな、俺なら一週間……いや一か月は立ち直れないぞ?

 何にせよ元気になってくれたのなら良い。それが空元気でもな。それだけ心に余裕ができたって事だと思う事にする。

 クレアは何故かポフンと俺に抱きついてくる。

 聖女とゾンビなのでちょっとピリッとするが問題はない。別に俺がMになったわけじゃないぞ。

 しかしこんなに抵抗もなく抱きついてくるのは、以前一緒に旅をしていた頃には無かった行動だ。

 俺は抱きついた身体を放すことはせずに、頭を撫でながら「おはよう」と返事を返す。

 そうすると実に嬉しそうに二へラと笑いながら、顔を胸に埋めてくるクレア。こんな妙に甘えた行動も以前には無かったものだ。

 ……うむ、この愛い奴め。


「あの……セシリィはアンデッドなんですよね? それで私はやっぱり聖女なんですよね? 聖女の私といてセシリィは何ともないのですか?」


 暫し俺に抱きついていたクレアがハッと顔を上げ、密着していた身体を少し空けて俺に問うてきた。

 ああ、もしかして俺が我慢をしていると思ったのか、 鋭いな。

 う~む、正直に言ってもいいものか?

 俺の容姿はセシリアの容姿なので女性の身体だ、ゾンビだけど。

 そんな見た目が女の俺だが、心は男のままだったりする。

 よく言われるように身体に心が引っ張られることなく、美少女に抱きつかれたなら嬉しい事この上ない。

 なので俺的には全然気にしなくてもいいのだが、嘘を付くのも憚れる。

 クレアのレベルが上がれば、いずれ聖剣ルーンライズのように火傷みたいになる可能性もあるからだ。

 ……悩んだあげく、現状では聖女としてのスキルを使うとか、神聖魔法を使わなければ問題ないとだけ伝えておいた。

 だがクレアはそれだけでも何か察したようだ。


「セシリィが少しでも痛いとか苦しいとか感じたら、絶対に言って下さいね。約束ですよ」


 再び俺に抱きつき、上目使いでそんな台詞を口にするクレア。

 ……暫くは、抱きつくのを止める気はないようだ。


 さて、一日は自由にさせてくれたが、アリスの方もゆっくりしていられない状況だろう。

 様子を見に来た兵士が「アリス様がお呼びです」と俺に用件を話す。クレアを見て「そちらの方も一緒にとの事です」と言葉を付け足した。

 ……ふむ、そうか。

 やはりこのまま問答無用で冥王の下に送る事はしないで、一度クレアと対面で話をするようだ。アリスらしいな。


 外郭にある、人の住む区画から城に赴く。

 腐っても序列七位、城門をフリーパスで抜けてアリスがいるだろう最上階へ向う。

 一応断っておくが「腐っても」は、ゾンビをかけたダジャレではない……いや面白ければ笑ってくれてもいい。むしろ緊張が和らぐから笑ってくれ。

 ……クレアを連れてのアリスとの面会に、俺も少々気を張っているからな。少し気を楽にしないと。


 途中クレアの事を知っていたのか後ずさる者が何名かいる。冥王軍はアンデッドが多いので天敵とも言えるからな。

 それを考えたらアリスの肝は据わっているな。ヴァンパイア種だろ、あいつ。


「お呼びにより序列七位、セシリィ入ります」


 ふざけずにきちんと言葉をかけ、アリスの居る最上階の部屋にクレアと共に入る。

 冥将の間には玉座の様な立派な椅子に足を組み座ったアリスと、その背後左右両側に一人ずつ、腕を後ろに回し直立する美形が居た。序列一位のカストルと二位のポルックスだ。

 冥将が鎮座する広い部屋には他には誰もいなかった。

 相変わらず無用な取り巻きを傍に置かないスタイルだ。その点は好感が持てる。


「来たかセシリィ。してその者がクレア……元アルグレイド王国、公爵家が娘グレース・オーガストか?」

「はい、左様でございます」


 クレアは頭を下げたまま返事をする。


「頭を上げよ、元より我らは敵同士だ、必要以上の礼などいらぬ」

「はい」


 顔を上げ背筋を伸ばし、毅然とした態度でアリスに答える。

 昨日の弱気な様子は微塵も感じさせない立派なものだ。正直俺も見習いたいくらいだ。


 一昨日の死者の迷宮にいた時の事柄について色々と問われるが、クレアはそれ程語る事はできない。

 ほぼ気を失ったままだったからな。

 何となく分かっていたようで、気にしないで今度は俺に矛先が向く。まぁアリスの本命は俺から話を引き出す事なんだろうからな。

 ……しかし困ったな。

 アリスには厄介なスキルがある。

 一つは鑑定能力。実はアリスの鑑定は只の鑑定ではなく上位鑑定スキルだ。

 ハイアナライズと呼ばれるそれは、かなりの情報を引き出す事ができる実に恐ろしい能力だった。

 冥王や黒の冥将アルデバランも鑑定スキルを持っているらしいが、下位版……と言うか通常の鑑定スキルでそこまで詳しい詳細は分からないらしい。でもまぁ鑑定スキル自体がレアなスキルだし、そもそも情報を程度の差はあるにせよ、見て意識するだけで相手の情報が分かってしまうのは充分チートだと俺は思う。

 そしてもう一つ、アリスには看破のスキルがある。ハイアナライズの様な上位版ではないが、嘘をつかれると何となく分かる程度のものらしい。それでも厄介な能力だ。こちらに隠したい情報がある時は特にな。

 そう言えばアルデバランも看破を持っているような感じだったな。


「セシリィよ、知っている事を隠し立てせずに全て話せ」

「え、嫌です」


 そう答えてしまうのも当然だろう。

 うをっ、凄んげぇ睨んでる、うわっ怖!


「……死にたいようだな?」

「じょ、冗談ですよ、アリス様!」

「……嘘か」


 な、厄介だろ?


「……」

「…………」


 今にも殺しにかかるんじゃないかと思うほど、鋭い目つきで俺を睨むアリス。俺は顔を引きつりながら笑うしかない。


「はぁ、取りあえず私が聞いたことには答えよ、よいな?」

「善処させてもらいます」

「はぁ……」


 こういった会話は今までも多くあった。お陰でアリスの後ろに控えている側近の二人も、もう何も言わなくなっていた。

 さっきから俺とアリスの会話でオロオロしているクレア。自分の時は毅然としていたのに……。

 他の人……いや俺の事だと心配になるようだ。


「聖女の件は冥王様とアルデバランが動いていた。私の配下である筈のアインバッハも冥王の勅命で聖女と接触していたらしいが……そのアインバッハと連絡がつかん……セシリィ、お前アインバッハが何処にいるか知っているか?」

「知りません」


 今何処に居るのかは知らんよ。だって消えてしまったんだからな……聖剣で存在ごとだけど。いるとしたらあの世なんじゃないか、知らんけど。


「……む、そうか。念の為に聞くが……アインバッハを殺したのはお前かセシリィ?」

「いいえ」


 ほう、どうやらアリスは俺がアインバッハを殺したと考えているようだな。

 残念、殺したのは俺ではなくセシリアだ。身体が一緒だというツッコミは断じて認めん! 殺す意思を持って実際に殺したのはセシリアなのだ。


「そ、そうか……違うのか」


 首を傾げるアリス。

 そうだぞ、セシリアがやったんだ。死んだ筈の人間が行なった怪奇現象だよ。


「で、では質問を変えよう。黒の冥将アルデバランを知っておるな? 冥王の城で見たはずだ。奴の行方も分からなくなっているらしい。奴は転移魔法が使える為に冥王の命令で彼方此方飛び回っているが、あやつとも連絡がつかずに困っているのだ。アルデバランを見たか?」

「はい、死者の迷宮にて目撃しました」


 流石にその質問は、はぐらかせんよな。


「そ、そうか! あやつは嫌な奴だが冥王軍の諜報も担っておる。居らぬと困る重要な奴なのだ! 何処へ行ったのか知らぬか? 何でもそこの聖女を冥王様の下へ送る任務を受けていたと聞いたのだが」

「何処へ行ったのかは存じません」


 本当に何処に行ったんだろうな、アインバッハと同じように聖剣で消えてしまったのだし。地獄? 天国でないのは間違いない。

 まさかこの世界でも亡くなったら他の世界に転生とか……無いかそれは。

 まぁどちらにせよ消えたんだから、何処へ行ったのかは知らないのだ。うむ、そう言う事にしておけ。断固そう思う事にする。


「そ、そうか……奴ほどの将が敵に遅れを取るとは思えんしな……何をしておるのだ。お陰で冥王様がお怒りだと言うのに」


 ほうほう、冥王がお怒りか……どうやら何かの連絡方法があるようだな。通信の魔道具とかかな?

 しかしアルデバランって結構重要な奴だったんだな。まぁ冥将だし当たり前か。

 ひょっとして冥王軍のダメージが結構でかい?


「アルデバランの配下がハルナラ砦を落とし王都に向けて進軍したと言うし、カノープスはフォーブル砦を落とした後、魔の森から反転してきた無傷の一軍と交えているらしいからな。アルグレイド王国の軍をかなり弱体化する事に成功した筈だ。この結果を聞けば冥王様も機嫌を直すだろう……」


 顎に指を当て、眉間に皺を寄せながらブツブツとそう呟くアリス。

 将の筈なんだが、なんだか中間管理職みたいだよな。

 ところで魔の森から反転してきた無傷の一軍て、王子の率いてた部隊の事か? せっかく逃げたのにザマァってな感じだ。

 確か今回のアルグレイド王国の侵攻では冥王国と王子が繋がっていて、王子が王になる事を反対している貴族が率いる部隊を壊滅させ、勢力を落とす事も王子の策略の一つだったらしい。確か死者の迷宮で王子とアインバッハがそう話していた筈だ。

 自分が王になる為に王国自体を弱体化させている事に気付いていない訳がないだろうけど……やはり例の薬とかでアルデバランに洗脳状態にされていたのだろうか? 元から阿呆だった可能性もなくはないけど。


 ともかく今回の出兵でかなりの軍事力を落としたアルグレイド王国だ。

 一方こちらはアルグレイド王国の侵攻にカウンターを当てるように攻めていた、二方の内の片方を指揮をしていたアルデバランがおらず、状況が混乱しているようだが。

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