35・対パーティ戦
身の丈もある金棒を振り回す俺の攻撃を盾を使い器用に捌くダン。ダンは片手剣なのでリーチは俺の方がある。
俺が動いて死角になった場所からキースが投げナイフで攻撃を仕掛けてくる。レベルがあるのでかなり鋭い危険な攻撃だ。
俺はそれを避けたり金棒で受け流したりして食らわないように注意するが、躱したところにダンがタイミング良く攻撃を合わせてくるからかなわない。
実に息の合った良い攻撃だ。だが、やられた方にしてみればたまったものではない。
攻撃はそれだけじゃない。ハンナの攻撃魔法はパーティメンバーを目隠しに使い、人の陰からいきなり飛んで来るように見えて避けるのが大変だ。コンビネーションが取れているし、信頼がなければできない芸当だよな。
時折大きめの範囲魔法を使ってくるので範囲から逃れきれない時がある。当然それなりのダメージも食らってしまう。
俺の攻撃は当たっても余程の致命傷でない限り、直ぐにリッカに回復されてしまう。おまけに彼女が魔法で作った障壁が厄介で、こちらの攻撃が中々ヒットしない。
想像していたがパーティ戦って思っていた以上に厄介だな。
この世界に転生するならあちらの立場が良かったな。まさか逆の討伐される立場の方だとは……泣ける。
泣き言は言ったが、当然負けてやる気はこれっぽっちもないが。
「セシリィ、本気で来ないと俺達に倒されてしまいますよ?」
ダンの表情からは挑発なのか、それとも本気で言っているのかは読み取れない。
「じゃあ、そろそろ本気出していきますか」
「え?!」
本当に力を抑えていると思っていなかったようだ。
俺の明らかに一段上がった速度に一瞬翻弄されるダン。
しかし流石高位冒険者の仲間入りをしたパーティのリーダーだけはある。直ぐに俺の速さに対応してパーティの仲間を守る。
どうやら俺の上げたパワーとスピードに対抗する為に、ダンは身体強化を使ったようだ。
ゴンザレスやハルクが使っていたアレだ。
一緒に行動を共にしていた頃には持っていなかったスキルだな。いいなぁ習得したのか。
これで戦力は拮抗したか? いや相手がパーティの分だけ俺の方が分が悪い?
残念、これでもまだ身体強化の使えない俺の方が強かったようだ。
実はアンデッドは身体強化を使えないという事実をアリスから聞いた。
いや、どうやって使えるか聞いたら、「何を言ってるんだ、使えないぞ」と、当然だという顔で言われたのだ。
身体強化系はおろか、剣術スキル等の武器スキルも習得できないと言われ、膝から崩れ落ちた俺の気持ちは分かってもらえると思う。
アンデッドは身体強化や武器スキルが使えない代わりに、種族特性として何もしなくても物理攻撃力や物理防御力が異常に高いらしい。
成程、進化をしてレベルを上げたらその効果が顕著に表れたという事だな。
俺の攻撃に盾を持ったダンが押され始め、やがて彼は盾役が務まらなくなっていく。態勢を崩したダンが踏ん張り直して前を向くが、既にそこに俺の姿はない。
移動した俺にキースが目聡く俺の前に立ち塞がる。斥候であるキースは素早いが速さは俺も負けてはいない。
接近したキースに金棒で攻撃を仕掛ける。振りぬく寸前に片手を放し、死角から手刀で攻撃を加えた。
金棒は囮だと気付いたようだが、もう遅い。キースは大きく吹っ飛んでいった。スケルトンやゾンビの控えるアンデッドの中へ……。
一時待機を命じていたアンデッド兵だが、攻撃を受けたと判断したらしく普通に反撃をしていた。待機だと命令したのに聞かない奴らだ。
お~いキース、気絶していたら死ぬぞ、大丈夫か?
キースの妨害を排除し、俺が向ったのはリッカだ。パーティ戦は先ず回復魔法を使う者を倒すのがセオリーだしな。
ちなみにリッカのターンアンデッドは範囲攻撃で避けにくいので、最優先で効果範囲から逃げるようにしている。アレは食らったら洒落にならないしな。
ターンアンデッドは詠唱時間も長いが、再詠唱が可能になるリキャスト時間も長いので、咄嗟に使ってみたり、常に使ったりできないのが欠点だ。
リッカまで後一歩の所で火の玉が俺を襲った。
ハンナの攻撃魔法だ。
火の玉を避けた俺にハンナは杖を振りかぶって、物理攻撃を俺に仕掛けてきた。物理でも戦う魔法使い、それがハンナだ。相変わらずの脳筋である。
とは言え、そもそも後衛。杖の攻撃を躱され、反撃する俺の攻撃を慌てて杖を引き戻し防ごうとしたが……。
「ぎゃふん!」
防御が間に合う筈もなく、面白い叫び声を出して地面に倒れた。
「あ、あは、あははっ」
そして目の前に立った俺を見て、涙目で笑うリッカ。人間どうしようもない時は笑ってしまうものらしい。
「へにゃ!」
俺の攻撃でリッカもハンナに負けないくらい変な叫び声を上げて倒れる。
「キース、ハンナ、リッカ!」
ダンが盾を捨て剣を両手に握る。
そして全身全霊の一撃を俺に叩き込もうと俺に突進をかけてきた。
いいだろう、受けて立つ。
正直かなり危険だと頭の中で警報が鳴るが、それを無視して迎え撃つ。
次の瞬間、やっぱり止めておけば良かったと少し後悔してしまった。
消えた! まではいかなかったが目にも止まらぬ速さの突進で対応が遅れる。
ダンの武器技『ライトニングスラッシュ』だ。イメージ的には、まるで稲妻が駆け抜けてきたような感じだ。
ダンは元々剣術スキルを持っていたし、ファストスラッシュという武器技も持っていた。ライトニングスラッシュは新しく覚えた上級の技だと思う。
武器スキルを持つと武器技を覚えられるが、通常は一つか二つらしい。中には三つ以上覚える天才もいるらしいが。
何はともあれ、武器のリーチの差が関係なくなる程の接近を許してしまう。
金棒を振り下ろすのは間に合いそうにない。咄嗟に金棒を握ったまま柄頭の部分で殴りつける。
俺の左腕は宙に舞い、そして身体の胴の半分はダンの斬撃で切られていた。
いや~、人間だったら死んでいたかも……いや、死んでたな。
超高速で俺を切り裂いたダンは俺に追撃をしてこなかった。いやできなかったのだ。
だってダンは地面に伏しているんだから。
しかし苦し紛れとはいえ狙ってやった事だが、こんなに上手くいくとは……タイミングを合わせ金棒の柄頭とダンの頭が当たるようにカウンターを仕掛けたのだ。
咄嗟の事で成功するか分からなかったが、攻撃することに集中しすぎていたダンはまともに攻撃を食らってしまったようだ。
確かにカウンターはマズい、カウンターは。
突進してきたスピードがそのままダメージに上乗せされる訳だしな。
俺は切られた左腕を拾って切り口を合わせくっ付けている間に、切られた左胴半分の切り傷も徐々に塞がっていく。
一瞬だけ気を失っていたダンが、その様子を倒れながら見ている。
「本当に魔物だったんですねセシリィは……でもそれ、ズルくないですか」
ああ、我ながら俺もそう思う。
でもそれを言ったら君はどうなんだ?
「それならダンも十分にズルいだろう。何だあの武器技は? まるでチートスキルみたいだぞ」
実際にはチートスキル程の能力ではないが、思わずそう文句をつけてしまいそうなくらいには驚いた。
「チートスキル? ああ、勇者様とかが持っているというユニークスキルみたいなものですか。そんな大層なものではないですよ……でも俺の奥の手だったのは間違いないですね、やっと身につけたのに残念です」
……え? 勇者はユニークスキルを持っていたんだ。
それでも殺される時は殺されるのか。セシリアはどんなスキルを持っていたのだろうな。
俺の目の前にはさっきまで戦っていた四人の冒険者達が地面に座っている。
戦闘後、暫くして目を覚ましたリッカとハンナ。
ダンは目を覚ましたリッカに回復魔法をかけてもらって、やっと起き上がれるまで回復した。
ヤバかったのはキースだ。
アンデッド兵に突っ込んでしまったキースは反撃を受け、助け出すのがもう少し遅れてたら死んでいたところだった。
俺がもう一度待機を命じて、攻撃停止させておけばこんな惨事にならなくて済んだのだが……戦闘に参加されると面倒だから放っておいたのだ。すまん。
「クレアは今もセシリィを探しています」
起き上ったダンが再び大の字に寝ころんで、空を見上げながらそう言葉を漏らした。




