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32・本物と偽物

 結構長い間、冥王プロキオンと話をして知りたかった情報も得たし、さて帰ろうとしたがプロキオンの話はまだ終わってはいなかった。

 そう、まるでインターバルを取ったような休憩を挟み、会話は続く。

 ……会話と言うか、ほぼ冥王プロキオンが一方的にお喋りをしているだけだが。

 俺もこの世界の情報が不足しているので、合いの手を入れながらヨイショをしている為に余計に図に乗ってお喋りに拍車がかかっていた。


「セシリアの前の勇者……その前勇者の仲間には聖女がおった。その女は当時の勇者が我に倒された後、王国に強力な結界を張りおったのだ。中々厄介な結界だったが、やっとその効果も切れ、アルグレイド王国に攻め込む算段がついた訳だ」

「それで『諸君、戦争だ』と、申されたのですね」

「うむ、そういう事だ」


 冥将が集まった会議室で冥王が言った言葉だ。

 俺が成程と頷くのを見て、冥王プロキオンも満足そうに大きく頷いた。


「その新しい聖女がレベルアップ……成長するまでに何とかしないといかん。セシリアの様にな」


 ああ、また結界を張られても面倒だからな。張られた当時は破れなかったみたいだし。


「できればその聖女を捕えて色々実験をしてみたいのだ。勇者の方はセシリアの以前に我に挑んだ者が何名もいたのでな、捕まえて大方の検証は済んでおるのだがな……聖女は必ずしも勇者と共に現れるとも限らんし、いてもパーティに入るとも限らん。守りの要となるので王城から出ない聖女もいる。前回の聖女は正にそれで、勇者の仲間であったが勇者とは行動を共にせず王城で守りを固めておったしな」


 ……じ、実験? 検証?

 マジか。つまりは、えげつない事をしてる訳だな。

 まぁ、とりあえずクレアは偽聖女と言われていたらしいし、本物の聖女ではないから大丈夫だろう。


「貴様はアルグレイド王国におったのだろう、何か聖女の情報はないか? 我も部下に命じて集めておるが、情報は多い方が良い」

「……そうですね。確か聖女は王国の伯爵令嬢で名前は……マリアンヌだったかと」


 確かクレアがそう言っていた筈だ。よく覚えていたな、偉いぞ俺。


「ふむ、それは我の得た情報と同じだな」


 そうだよね、冥王ならそのくらいの情報は直ぐに集められるよね。何より王国でも隠していない情報だし。


「後学の為に貴様には我の知る聖女の特徴を教えておこう。聖女は回復や防御に特化している為に攻撃魔法が一切使えん。攻撃魔法が使えん女神官がいたらその者が聖女であると見ていいだろう。だが今回は既に聖女が見つかっているからな、参考までに憶えておくと良いぞ」


 ふふんと自慢気に話す冥王。


「そうだったんですね、知りませんでした。流石冥王様、博識ですね!」


 そう驚く俺の様子を見て、「そうだろう、そうだろう、もっと我を褒め称えよ」と、満足そうに何度も頷く冥王プロキオン。

 いや本当にそりゃ驚くよ。それクレアじゃん!

 クレアはグレース……オーガスト公爵令嬢の時に聖女と分かったが、攻撃魔法も使えない神官より劣る者が聖女の筈がないとかで、偽聖女の烙印を押されて追放されたのだ。

 その話の流れだと王国のいう本物の聖女は、ちゃんと攻撃魔法が使える事になるのだが……。

 王国は正しい聖女の見分け方を知らなかったのだろうか? 

 それはともかくクレアは安全なのか? 

 今は冒険者の筈だし、ランクが上がれば人物鑑定を受けねばならないそうだしな……その鑑定結果がどうなるかだな。

 ……あれ、そう言えば俺がアリスと会った時……クレア達と別れた魔の森で上位鑑定を使えるアリスがクレアの事に触れなかったな。

 アリスの上位鑑定ならクレアが本物の聖女だった場合、それが分かった筈だ……。

 アリスは聖女を実験の為に手に入れたい冥王プロキオンの意思を無視したことになる。

 本来なら冥王軍の将なのだから、聖女を見つけたら何らかの対処をしないといけない筈だ。それが何故?

 アリスの意図は分からないが、彼女はプロキオンの為になる事をしたくないように思えるのだが……仲が悪いのか?


 冥王との話はその後のアルグレイド王国内の話でやっと終わった。

 知りたい事を知れて良かったのだが、時間を拘束され過ぎだ。

 まぁアリスを待たせているだけで、俺が急いで戻る必要もなから別に構わないのだが。

 後に聞いた話では、冥王プロキオンとこんなに長い時間……冥王が満足するまで会話をした者は今まで誰一人いなかったそうだ。

 まぁ俺の方も根掘り葉掘り知りたい事があったので、向うから勝手に情報をくれたから、こちらから会話を止めることなんて事はしなかったからな。


 ちなみにアルグレイド王国内の話はまず王様が病で伏せっているらしい。

 第一王女のセシリアも表向きは病で亡くなった事になっているとか。

 ただ問題なのは王太子である第一王子のギルバートの弟、妹の事だ。

 第二王子、第二王女以下の王位継承権を持つ者が全員幼くして亡くなっている。

 当然公になってはいないがセシリアを殺したのはギルバートである。

 ……もはや疑いようはないと思うな。間違いなく弟王子、妹王女を亡き者にしたのは王太子のギルバートだろ!

 アルグレイド王国の未来は暗いと言わざるを得ないだろうな。


 <>


 冥王城から赤の冥将アリスの城へ戻って半年が過ぎた。

 冥王の「諸君、戦争だ」宣言から半年経ってやっとアルグレイド王国軍は動き始める。

 対して我等冥王国側はかなり前に準備は完了していた。

 冥王国に侵攻してくる人族、つまりアルグレイド王国軍に対して手ぐすねを引いて待っていたと言うのが正しい。

 冥王城で冥王が戦争宣言をした時には、既にアルグレイド王国軍は戦の準備を進めていた筈なので、アルグレイド王国の戦争準備が遅いと言えなくもない。

 まぁ、あちらは生きてる人間が多い上に物資も多く必要だろうから、時間が掛かるのも仕方がない事なのだろう。

 対してこちらは兵数が多いと言っても手の掛からないアンデッド中心だし、急遽編成が必要だったのは俺がやらかした赤の冥将の軍だけだったからな。しかも俺の居る赤の冥将の軍は守備が中心の役割になる為に万全の状態が求められる。

 アルグレイド王国の軍備が遅れてアリスが喜んだのは言うまでもない。


 では灰と黒の冥将軍は?

 詳しくは教えてもらってないが二軍共アルグレイド王国に攻め入るらしい。片方は魔の森を大きく迂回して山脈を越えて、もう片方も魔の森を迂回して山脈と反対方向にある険しい峡谷を抜けるとの事だ。

 当然アルグレイド王国に気付かれないように極秘にだ。気取られない為に色々手を尽くし、準備も万端らしい。

 そうなると一軍でアルグレイド王国軍を迎え撃つ赤の冥将軍が大変だが、テキパキと指示を出すアリスに焦りはない。様子を見るに何とかなりそうな感じだ。

 万が一赤の冥将軍が抜かれても、冥王率いる冥王軍本体が後に控えているので万が一にも冥王軍が負けるような事はない……らしい。

 いやでも、侵攻して来るアルグレイド王国軍も冥王軍への対抗策もあるだろうし……攻めてくるんだから当然あるよな?

 まぁ俺が今更あれこれ考えても意味がないけどな。

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