3・進化(2)
進化しますかとの問いにYを選び進化する事を決定させると、進化先のスケルトンとハイゾンビの文字が点滅した。
どちらかを選べって事だよな。
ハイゾンビなる謎進化を選ぶ為に指を伸ばすが、触れる直前で手を止めた。
そうだ……確かこんな時、小説やアニメでは進化が完了するまで、意識を失って無防備とかになるんじゃなかったか?
やばいやばい、あり得る展開だ。
俺は今まで徘徊した部屋の中で魔物が一度も居なかった、恐らく安全地帯と思われる場所まで移動してから、進化を行なう事にした。
結果的に言うと進化中の僅かな時間さえ安全が確保できれば、問題ないようだった。
意識を失う事はなかったし、進化中は身体があちこち変化しているので、一時的に動けなくはなるが、進化にかかる時間自体は短時間で終了した。
ふぅ良かった。何時間もかかるパターンとかだと大変だしな。
だがこれからも進化があると仮定して、いつもいつも安全な場所があるとは限らないしなぁ。僅かな時間でも無防備になるのはいただけないが、仕方がないか。
改めて身体を見る。
鏡が無いので俺の目から見た視点だけになるが、身体の破損個所が減っている気がする……いや、減っているな。
スケルトンの方がゾンビよりレベルが高かったみたいだったので、進化した場合はスケルトンに近い状態、つまり腐乱箇所が増えていたりして骨等がより剥き出しの状態になるかもと思っていたが、実際はその逆だったようだ。
ふむ、しかもゾンビの時より身体が動きやすい気がする。
これなら武器持ちスケルトンの団体にも勝てるかもしれない。
いや、直ぐには行かないよ、まずはレベル上げしないとな。レベルは1に戻ってしまったし。
そんな訳で早速レベリング開始だ。
無論武器を持つのも忘れない。倒した武器持ちスケルトンの中に結構いい武器を持っていたのがいたので、それを拝借させてもらった。ドロップ品みたいなものだ。
……そういや、ゲームっぽい世界観なのにドロップ品とか無いんだよな。残念だ。
流石上位種(?)だ、明らかに攻撃力も高くなっている。
お陰で前回と同じレベル1からやり直しだったが、只のゾンビの時よりかなり早くレベルが上がる。
時間にして半分くらいのスピードで……いやもっと早いペースでレベルが上がっていく。
数日でレベル7に到達した。確か前回レベル7で武器持ちスケルトンの団体から逃げ出したが、今回は問題ない。
団体と言っても四~五体くらいで連携もしないので順番に倒していくだけだ。大体一体あたり二~三発で倒せるしな。
調子に乗ってスケルトンを倒して行き、前回進めなかった未踏破区域の奥に足を踏み入れる。
調子に乗り過ぎてついうっかり、明らかに普通の扉とは違う大きめの複雑な模様の入った扉を開き、勢いよく中に突入してしまった。
「うぁ……?」
ハイゾンビでもゾンビと変わらず上手く発音ができない為に、「あ」が「うぁ」の様な間の抜けた言葉になってしまう。
いや、今は発音を気にしている場合じゃなかった。
俺が考え無しに入室した部屋は、明らかに今まであった部屋とは一線を画していた。
この部屋は他の部屋と違い、広く天井も高い。何より今までの様な何もない殺風景な部屋ではなく、レリーフの入った石柱が左右に立ち並び、部屋奥に向って赤色の石畳がまるで赤い絨毯を模した様に続いている。
そして部屋の最奥には……複数の魔物が待ち構えていた。
……いや、既に部屋に突入した俺目がけて、ゆっくりと歩を進めて来ていた。
そうか、この部屋はゲームで言う所謂ボス部屋だ。
油断大敵、時すでに遅し、後悔先に立たず、注意一秒怪我一生……。
そんな言葉が次々と頭をかすめる。
いや、落ち着いてよく見てみろ、俺。
確かに中心に居る一体は強そうだ。通常のスケルトンの1.5倍くらいの大きさで、鉄製の鎧に身を包み大剣と盾を持っている。
他は武器持ちスケルトンが二体にゾンビが六体だけだ。
脅威は中心に居るスケルトンの大ボスだけだろう。
しいて言うなら武器持ちスケルトンがスケルトンソルジャー、大ボスがスケルトンナイトってところか。知らんけど。
敵は確かに強そうだ、しかしこちらとてゾンビの上位種ハイゾンビである。スケルトンの上位種となら戦える筈……と、思う。
先行してきたスケルトンソルジャーの攻撃を避けながら手持ちの武器で反撃をする。当初持っていた鈍ら剣より多少刃も鋭く丈夫な剣だ。まぁ相手がスケルトンなので刃はあまり関係ないかもしれないけど。
スケルトンソルジャーは見た目通り、今までの武器持ちスケルトンと同一らしく、実にあっさりと二体を倒せた。
よし、行ける。ゾンビは歩みが遅い為に先にスケルトンナイトと相対することになった。
ビュン!
は、速!
たまたま倒したスケルトンソルジャーの骨に足を引っ掛け、躓いた俺の上空に目にも止まらぬ速さの大剣が空を切った。
いやいやいや、冗談じゃない! 辛うじて避けれたのは単なる偶然で、運が良かったからだ。
あっ、マズい!
スケルトンナイトは剣を返し、今度は反対側から剣撃が迫る。
距離を取るべく後ろに下がろうとするが、奴の攻撃の方が早かった。
俺は剣を盾に攻撃を受けるが、踏ん張るどころかあっさりと吹き飛ばされる。受けた剣は見事に折れ、飛ばされた俺は入ってきた扉の横の壁に叩きつけられた。
ぐぉおおおおっ! い、痛……くない?
……ゾンビに痛覚はなかった。
痛みで動けなくなることはないようだ、直ぐに動かないとやられる。
立とうとするが、何故かゴロンとその場で転がってしまった。
あ、あれ?
足を見るとあり得ない方向に曲がっている。
痛覚が無かったから分かんなかったじゃん!
前を向くとスケルトンナイトは余裕そうにこちらに向かってくる。同時に敵ゾンビ達も俺を取り囲むように徐々に近付いて来ている。
うっわぁ、どうするよ俺?
横を向くと入ってきた扉がある、扉は閉まっていた……これ開かないかな?
這い蹲ってなんとか扉に近付きドアを押す。
ああ、やっぱり開かないじゃん!
あっ、そう言えば……。
ガシャリという音と共に扉は開き、俺はボス部屋から脱出できた。
……そういえば入って来た時は押し扉だった。出る時は引かなきゃ開かないよな。
何にせよ扉がロックされてなくて良かったよ。親切設計万歳。
いや、まだ安心するにはまだ早い。
この扉からあいつ等が出てくる可能性だってある。ゲームっぽい世界でもゲームと同じとは限らないのだから。
暫くたっても部屋から出て来る気配はない。
良かった。ここで追い打ちされたら絶対に殺される……ゾンビだし死んでいるけど。
しかしこれからどうしようと考えて足元を見ると、曲がった足がポロリと取れた……取れたぁ?!
マジか、どうする? 歩けなくなったら超マズいじゃんか!
咄嗟に千切れた足を切断面に押し当てるが、付くはずも……あ、あれ、くっ付いた?
凄ぇゾンビ、どんな仕組みかは分からんが助かった。
それでも歩けるくらいにちゃんとくっ付くには暫くかかったが、足が無くなるよりは遥かにマシだろう。
千切れた足がここにあったから良かったものの、ボス部屋に置いてきたなんて事になっていたら大変だったな。
あと、完全に喪失したら多分生えたりなんかはしないだろうから、気を付けないとな。
ステータス画面を見るとレベルは9になっていた。
突入前は8だったので、丁度スケルトンソルジャー二体を倒してレベルが上がった様だ。
……レベル10になったら、また進化とかないのかな?
とりあえずはレベル10に上げてみる事にする。
レベル9だと武器持ちスケルトン……スケルトンソルジャーを倒しても、なかなかレベルが上がらない。
それでも頑張って経験値を稼ぎ続け、なんとかレベル10に到達した。
『レベル10に達成しました。進化しますか? Y/N』
きたーっ!
『ハイゾンビ・レベル10→ハイスケルトン・レベル5orマスターゾンビ・レベル1or進化しない』
マスターゾンビですと?!
もうこのままゾンビで進化を続けようと考え始めた俺。今更骨に進化も何だかなぁという感じだ。ハイスケルトンも気になるけど骨だしなぁ。
レベルが1に戻るし、僅かな時間でも動けなくなるので安全の為に、ハイゾンビに進化した時と同じく、安全地帯まで戻ってから進化を移行したのだった。