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29・冥王城

 あれ、何でこんな事になっているのかな?

 ロダン一味が村で大暴れした一件から数日も経たないうちに、俺は冥将アリスに連れられ、ある場所に居たのだった。


「はぁ、全く困った事をしてくれたものだ……誰かさんのせいで幹部三名が欠けてしまったではないか。奴等は性格はアレでも戦闘面では役に立っていたのだがな」


 誰かさんとは無論俺の事である。


「それはあいつ等が……いや、その、申し訳なかったです」


 反論しようとしたが、凍てつく様な冷たい目で睨まれたので素直に謝っておく。

 グスタブの時は逆に嬉しそうにしてたのに……まぁ一名と三名とでは違うけどさ。


「幹部の選定と兵の再編は急務なのに……私は軍議があるので冥王城に来なくてはならなかった。しかもその軍議にセシリィを連れて来いと冥王様が……報告しなければよかったな」


 ブツブツ文句を言うアリス。独り言のように聞こえるが明らかに俺に聞こえるように言っている。いや俺も被害者ですよ? それに何故に冥王が俺を連れて来いなどと……嫌な予感しかしない。

 ちなみに軍の再編と新しい序列幹部の選考は、アリスの側近の序列一位と二位がやる事になっているらしい。アリスの城でアリスの横に立っていた美形の男女の奴らだ。

 一応村の方の再建も行なってくれるらしい。村人達は血の提供者……言い方が悪くなるが、あいつ等にとっては牧場と同じ感覚なんだろうけど。ともかく無下にされないで良かった。


 おっとそうだ、俺が今何処に居るかだが、何となく会話で分かるかもしれないが冥王の城に来ているのだ。

 各冥将は配下を一人付けて来るのが慣習となっている。今回アリスと共に冥王城に来たのは俺だ。

 参考までに俺は序列七位まで上がってしまった。上の者が居なくなったので繰り上げ出世と言う訳である、勿論嬉しくはない。

 ちなみに序列三位のロダンを倒しても序列が三位に上がる訳ではない。ものには順番というものがあるのだ。

 但し冥将であるアリスの権限で命令すれば、序列をすっ飛ばす事が可能らしい。俺が面倒臭がって上に上がりたがらないのをアリスが知っているので、順当に序列を上げでくれたんだと思う。


 とても待合室とは思えない豪奢な部屋で、まだ文句をブツブツ呟いているアリスの独り言を遮るように、ノックと共に扉の向こうから声が掛かった。


「アリス様。準備が整いました」


 その声を聞いて大きく溜息をついた後に首をブンブン振ると、ようやく元の表情に戻ったアリス。


「さて行くか」


 アリスと共に部屋を出る。いよいよ冥王や他の冥将と顔を合わせる事になる……まぁ俺はアリスの後ろで控えているだけなんだけどな。


 こんなにただっ広い部屋で会議なんてしなくてもよくない? と突っ込みを入れたくなるほどの豪華で広い部屋に足を踏み入れると、そこには既に二名の冥将と思われる者が席に着いていた。その奴等の後ろには各一名ずつ配下が控えている。冥王はまだ来てないようだ。

 見上げると高い天井とその周りの壁には、よく分からない幾何学模様が描かれ、周りを見回すと高価そうなオブジェが飾られている。

 ……何だろう、確かに高級そうな部屋なのだが……言っちゃなんだが成金趣味が丸出しと言うかなんというか。

 いや、俺はセンスに自信がないし、この世界ではこういうのが普通なのかもしれない。


「相変わらず趣味の悪い……」


 アリスがポツリと呟く。

 あっ、やっぱりセンスが悪かったんだね。やはり冥王の趣味なのだろうか?

 そのアリスの独り言を聞いてか、席に着いていた男の一人がこちらに顔を向ける。


「滅多な事を言うものではないぞ、赤の」

「失礼した、失言だった」


 男がアリスに苦言を呈する。

 直ぐに受け入れ、謝罪を口にしたアリス。

 事前にアリスから情報を得ていたので、この男の事はある程度知っている。

 黒の冥将アルデバラン。

 確かセシリアの夢で出てきた奴だ。

 黒いローブを身に纏い、フードの下には白骨が見える。席に座っているのにも関わらず、手には杖を持ったままだ。その杖と身に付けているローブは見ただけで高級感が溢れ、高性能だと思われる代物だった。

 冥将アルデバランは魔道を極めし者と言われている、リッチというやつだ。凄いな全く勝てる気がしない。

 アルデバランの後ろには同じく黒のローブを着た者が立っている。ただ持っている武器は杖ではなく大鎌だ。


 アリスとアルデバランの僅かな会話に我関せずと、身動きもしないで席に着くもう一人の男は灰の冥将カノープスだ。

 全身鎧のその男は腕を組み椅子に座っている。

 兜だけは机の上に置かれているがその兜からは赤い瞳が見えている。そして鎧に包まれた身体には頭部が無かった。

 灰の冥将カノープスはデュラハンだ。

 こいつも凄い強そうだよな。いや冥将だから絶対に強いけど。

 その後ろには巨漢の鎧の大男が、その身に見合った大剣を携え控えている。

 しかし会議とか言っていたけど、武器の持ち込みはOKなんだな。俺もハルクから奪った……もとい無断で譲ってもらった金棒を持ったままだしな。

 う~ん、でもなんか俺の武器だけ浮いている気がする。棒だしな……。


 不意に俺達が入って来た入り口とは反対側の大扉がゆっくりと開き、そこから金の刺繡が入った黒のローブに金の装飾品をジャラジャラと付けた大柄の男が現れた。

 ローブの中身は黒の冥将アルデバランの様な骸骨姿だが、アルデバランより一回り大きい上に、金を基本にした装備が浮いている感が否めない

 そんな少々残念なセンスとは裏腹に身に纏った圧倒的なプレッシャーは、ちょっと洒落にならない程だ。

 見れば分かる、冥王だ。こいつもセシリアの夢で見た姿そのままだ。

 夢ではなく実際に目の前で見た冥王は何と言うか、他の者達とは明らかに別格だった。

 しいて言うなら肌で感じる桁違いの迫力と言えばいいのだろうか、正にその溢れ出る暴力的な力こそが冥王が冥王たる所以と言われれば納得してしまうだろう。


 冥王は一段フロアの上がった上座の席に座り、俺達をゆっくりと見渡す。

 俺の所に視線を向けた時に一瞬止まった気がしたが、気のせいだと思いたい。


「そろっているようだな。軍議を始めようではないか」


 冥王は椅子に深く座り胸を張りながらそう言葉を発したのだった。


 冥王プロキオン。

 アリスの話だと、スケルトンの特異上位種らしい。特異上位種……つまり俺と同じな訳だ。道理で俺を冥王城まで連れて来いと言う筈である。


「早速だが……諸君、戦争だ」


 ……はい?

 いやいや、何ですと?

 いきなりの爆弾発言で滅茶苦茶驚いたが、表情に出さないように努める。

 そっと見渡すと俺以外の奴等には驚いた様子はない。

 だが俺のように表情を出さないようにしている訳ではないと思う。つまり知っていたのか、驚くほどの事ではないと考えているかのどちらかだろう。

 軍議が開かれたのは、人族が再び冥王国に攻め込む準備を始めた事が理由らしい。


「くっくっく、戯れ生かされていたことにも気付かんとは、なんと人族とは愚かなのだ。そんなに滅びたいのか」


 骸骨の表情なんて分からないが、言葉の調子から冥王は嬉しそうだ。

 しかし冥王軍に入ってまだそれ程の期間が経っていない俺が、こんな場所でこんな重要な話を聞いてもいいものか?

 色々やらかしてアリスの配下に入り、幹部入りもしたとはいえ、まだ序列は七位だぞ? リッチやデュラハンの冥将の後ろに控えている奴等は、各冥将配下の序列の上位者なんじゃないの? 俺、場違い感が半端ないんだけど。

 そうは思いつつ、軍議はしっかりと聞く俺。

 人族の方はまだ準備段階で実際に進行を開始するのはまだ先らしい。

 こちらも人族の動きを見て、早急に準備を行なう事になったのだろう。

 ……いや違うな。ここに居る者達の落ち着き様を見るに、事前に知っていて、ある程度準備は済んでいると見るべきか。

 ああ、そうかアリスが早急に軍を立て直そうとしてたのはこういう事か。軍備を充実させないといけない時期に、俺が幹部を減らしてしまったからな。アリスには悪い事をした。まぁ、そもそも俺のせいではなかったのだが。


 その後はこれからの大まかな指針が冥王より語られ、各冥将はそれを席に着いたまま微動だにせずに黙って聞いている。

 冥王の横にも一応副官らしき者が立っているが、そいつも一言も発してはいない。

 何だろう。冥王は大げさに手を広げ、時折嬉しそうに上を向き笑い出す。多分冥王自身が偉そうに……ゴホン、尊大に喋りたいだけなんだろうな。


 軍議はそんなに長い時間はかからず、内容としては冥王の宣言と各冥将の配置地域が命じられるくらいだった。命じられたというより確認した感じだな。やはり事前に準備はある程度整っているみたいだ。

 細かい指示は追って命令が来るらしい。

 解散が宣言され、やれやれ終わったと思ったのも束の間、冥王が俺を見てニヤリと笑う……笑った気がした。

 そうだった、俺冥王に呼ばれているんだった……ああ、嫌だな~、帰ったら駄目かな? 駄目だろうな。

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