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27・マッチョ序列将

 突然背後から轟音を伴って襲い掛かる物体を屈んで躱す。

 振り向くと巨大で長い棍棒……いや鉄の棒を持った大男が俺に鋭い目を向け立っている。


「よく躱したな。俺はゴンザレスの様に油断はしない。赤の序列将第六位ハルク、参る!」


 巨体に見合わず素早い動きで間合いを調節し、大きな体と長い武器のリーチを活かして俺の攻撃が届かない場所から攻撃を仕掛けてくるハルク。


「俺の相手はそこの十人じゃなかったのか? その人数はどうかと思うが」

「貴様よりも上位の序列将がやられたのだ。こいつ等では歯が立たんのは明白だ!」


 そうは言うがお前が戦う必要はないだろう?

 お仲間がやられたからと言われれば納得しないでもないが、お前等仇をとるほど仲は良さそうには見えないぞ。


 奴の攻撃は大振りの一撃が多いが、たまに素早い突きを混ぜて戦闘を単調にしない工夫がされていた。流石は序列六位だけはあるという事か。

 パワーはゴンザレスより上だが、スピードは若干落ちる。とは言えリーチがある為、ハルクの身体に俺の剣が届かない。

 奴の攻撃に合わせ、躱すか受け流すかして懐に入るしか方法がない。

 魔法が使えるならいいが生憎魔法は使えないし、せめて弓の様な遠距離武器があれば良かったのだが。ないものは仕方がない

 ……いや、弓を使ったことがないので、あっても同じだった。


「フン!」


 ハルクの横薙ぎの一振りに合わせ間合いを詰める。

 想定はしていたようで回避に移るハルクだが、残念ながら俺の方が早い。

 しかし俺の剣はハルクの身体を掠っただけだった。血を滲ませるだけで致命傷には程遠い。

 リーチが違うので俺の剣が届く間合いに入るのに、若干時間がかかるのだ。しかもハルクは意外と素早い。

 その後も何度も懐に潜り込むが、切り傷が精一杯で致命傷になる程の一撃を入れれないでいた。


「そんな攻撃など何度入れても無駄だ!」

「そっちは俺に攻撃を一度も入れてないじゃないか?」

「ふん、一発当てればそれでいい、それでお前は終わるからな」

「……当たればな」


 当たらなければどうという事はないというやつだ。

 それ以前に一発当てても俺は終わらないと思うが。こいつ等まだ俺を過小評価してやがるな。まぁ見た目で判断すれば一撃で沈みそうではあるが。

 しかしながらハルクは軽く切った程度の攻撃を何度当てても無駄だと言っているが、とてもそうは見えない。

 体中傷だらけで血が流れ落ちている。確かに致命傷ではないが全身傷だらけだ。

 本人がタフなせいもあるが、深い一撃を食らってないのでダメージを軽く見ているようだ。


「埒が明かない……ならば」


 ハルクが両手に持った金棒を大きく振りかぶり、力を溜めるように身体の動きを一時止める。

 これをチャンスと思って踏み込む愚かな真似はしない。明らかに何かを仕掛けてくる。

 例えばそう、先程のゴンザレスの様な武器技とか……。


「おおおおおおっ、パワースィング!」


 ビンゴだ。

 ハルクは武器技の名を叫び、今までとは比べ物にならない速度の横薙ぎの一撃を放つ。

 迂闊に近付いていたら、金棒と言えど身体を真っ二つにされていたかもしれない。

 警戒していたこともあり技の発動前に後ろに飛んで避けたが、予想以上の速度と威力で、当たらなかったのに風圧だけで身体が持っていかれた。何とか体勢を立て直し、事なきを得る。


「あれを避けるか……ちょこまかと逃げるのが上手い奴だ……それならば、バーサーク!」


 今程のパワースィング程ではないが、明らかに速度と威力が増した攻撃で俺を襲うハルク。

 バーサークって思考力……もしくは理性を失う代わりに攻撃力を上げるスキルだっけ? ゲームとかならそんな能力だったはずだ。

 案の定、避けきる事が難しくなって剣で受け流したりするのだが、威力を増したハルクの攻撃に剣が折れそうだ。

 これだけ金棒を振り回す速度が速いと、間合いに入って切り付ける事もちょっと無理っぽい。

 まぁハルクが激しく動くので、今まで付けた傷から血が止まらずに流れているから、奴の体力の消耗は早そうではある。

 バーサーク自体は使用時間が長くないようで、数分でその効果が切れた。


「むぅ、仕留めきれなかったか……」


 元に戻っただけなのだが、急激に攻撃速度が落ちたような錯覚をするくらいに、ハルクの戦闘力が落ちたように見える。

 いや、実際に落ちているのかもしれない。

 

「ぬっ?」


 ハルクは大振りの攻撃をした後にバランスを崩した。自身の流した血で足が滑ったのだ。

 その頃になってようやく自身の身体の状態に気付いたようだ。

 滑って足を取られた身体を立て直そうとしたが、ふらついて腰を突いたハルク。その状況に信じられないという顔をしている。余程体力には自信があったのだろう。

 深手を負ったわけでもなく切り傷だけの出血で、ふらつく程に血が足りなくなるとは思わなかったようだ。

 実際に自身の周りの血溜まりを見て驚いた顔で目を見開いている。

 加えてバーサークの使用で体力を消耗しすぎていた。


 当然俺はそんな隙を見逃すほど甘くはない。

 こいつも俺を殺す気で金棒を振り回していたのだ、手加減してやる道理はない。

 血溜まりで足を取られぬように気を付けながら、素早く奴に近寄った俺。

 それに気付いたハルクは腰を地面につけながらも金棒を俺に叩きつけようと振りかぶる。

 だがもう遅い。

 俺の剣はハルクの肩口から反対側の腰に抜ける。所謂袈裟切りだ。

 奴の巨体は二つに分割され、ハルクは驚いた表情を浮かべたまま絶命していたのであった。


 あ~あ。

 ハルクの金棒を何度か受け流したせいで俺の短剣はボロボロだ。

 所詮は冥王軍で一般に流通している程度の支給品だ。ハルクの馬鹿力の攻撃を受け流しているだけでこれだ、まともに奴の金棒を受けていたら折れていたかもしれない。

 今のこの状態だと、あと何度か普通に剣で攻撃を受け流しただけで折れてしまうだろうな。

 ……目の前にハルクの持っていた金棒が目に入る。

 俺の背ぐらいある長さで先端に行くほど太くなる野球のバットを長くした様な形状だ。

 持ってみると長いわりに意外とバランスが良い。

 よし、頂こう。戦利品である。

 ……え、いつも盗人みたいな真似をしてるって? 煩いよ、リユースだよリユース! 再利用は大事だろ?

 ……一応亡骸となったハルクにありがたく使わせてもらいますと断りを入れておいた。うん、直ぐ使わせてもらうので、なんとなく言っておきたかっただけだ。


 今俺のいる中央の広場にはハルクとゴンザレスの死体、そしてゴンザレスに殴られ亡くなった村人が放置され、俺以外には不機嫌な顔で腕を組む序列三位であるロダンと、俺に序列十位をかけて挑む筈の十人の男達がいる。

 ちなみに村人は逃げ出し、何人かは遠く離れた家や物陰からこちらを窺っていた。

 序列六位と七位の亡骸を見つめ、腰が引けている十人の男達。そいつ等に大声で声をかけたのはロダンだった。


「何をビビってやがる! 十人全員でかかればいいだろう。せっかく序列が二つ多く空いたんだ、上手くすればお前等の中から三人序列将入りができるチャンスだぞ!」


 十人がかりとは卑怯な。

 それ以前に序列が二席空いただけで十分じゃないか。俺を倒す意味などないだろう? 

 仇討ち? 違うな、舐められたまま引けないだけなんだろう。そっちから突っかかって来たくせに迷惑な話だ。

 へっぴり腰気味になっていた十人はロダンに発破をかけられ、一気にやる気を出したようだった。俺を取り囲むように集まって来る。

 早速背後にいた奴が俺に切りかかって来た。死角にいたが気配を消している訳でもないし、何より遅い。余裕をもって躱す。

 奴等は俺一人に対し十人で囲んでいる為、隣が邪魔をして上手く武器を振れないようだ。連携をしている訳でもない。バラバラに襲い掛かって来るだけである。

 同じ程度のレベルの筈だが十人で襲い掛かってきても負ける気がしない。無論これは慢心でも油断でもない。

 実際に牽制の為に振り回しただけの金棒を、避け切れずに数名が吹き飛ばされていたからだ。正直言って反応が遅い。


「んっ?!」


 不意に俺に向って黒い棒状の物体が数本飛んで来る。矢より長くて太い投げ槍のような物だ。

 それを何とか寸前で避ける。服の端が破れたり肌に掠ったので本当にギリギリで避けたのだった。

 地面や壁に突き刺さった黒い槍は暫くするとスッと霧のように消えた。


「チッ、避けやがったか」


 黒い槍を放った主はこの集団のリーダー序列三位のロダンだった。

 ……あいつ魔法を使うのか? そう言えばここに来た一団は魔族ばかりだな、魔族なのに魔法を使わない脳筋ばかりだなと思っていたら、ちゃんと魔法を使う奴もいたんだ。

 そう言えば鑑定の眼鏡で見た時にロダンは魔法戦士だったな。

 ちなみにハルクは狂戦士だったし、ゴンザレスは武道家だった。

 俺に序列入れ替えに挑戦する奴等は全員が戦士だな。

 戦士は基本職であるが決して弱いわけではない。上位職程のステータスアップは望めないが、必要経験値が上位職より少なくて済む為にレベルアップが早いらしい。

 転職すればレべル1からやり直さないといけないので、基本職のままだと経験値が無駄にならないですむメリットもある。

 冒険者の時に聞いた話だが、斥候なんかは転職せずにそのままレベルアップする者も多いと聞いた。

 確かに転職は強くはなるが、魔物の進化程の恩恵はないのかもしれない。知らんけど。

 だって俺には関係ない話だしな。ゾンビは魔物。魔物は職ではなく進化で強くなる訳だから。

 おっと戦闘中だ、集中しないと。


「何をしているお前達、ちゃんと身体強化を使っているんだろうな? ハルクやゴンザレスのような無様な真似は許さんからな!」


 ロダンの言葉に俺に敵対している奴等は顔を引きつらせながら頷く。

 うん、ゴンザレスが途中で急に早くなったのは身体強化だった訳だ。ハルクは最初から身体強化を使っていたんだろう、そのせいで血を流し過ぎた事に気付くのが遅れたのかもしれない。

 しかし流石は序列将に入ろうとしている奴等だけはある、ちゃんと身体強化の魔法だかスキルだかは使える様だ。だが話や状況を考えてみると身体強化は長時間使えないようだな。

 俺を襲ってる十人……既に半分の五人しかいないがそいつらのスピードが一気に上がる。

 ……だが、それでもゴンザレスのスピードには及ばない。空振って地面にめり込む武器の威力を見るとパワーも上がっているようだが、ハルクのパワーには当然敵わない。

 そして持久力はもっと顕著に現れた。僅か数分で目に見えてフラフラとなり、地面に倒れていった。

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