18・調査隊
グレースは改名してクレアと名乗っていた。名前の由来は聞いてないので知らん。某冒険映画の主人公みたいに、昔飼っていたペットの名前だとかではないだろうな?
さてクレアがまだグレースだった頃に俺はダン達と出会ったのだが、その時の彼等の印象と今の印象がほぼ変わらない。
裏表のない奴等だと思う。俺にとっては付き合いやすい好ましい奴等だ。
仲間を引っ張るリーダーであり、タンク兼アタッカーの戦士であるダン。しかも割とイケメンだ。
パーティがきちんと機能してるのは彼の人徳の賜物だろう。
前の世界で彼の様な友人がいたら、間違いなく女子は彼に好意を寄せて、俺は寂しいモブになり下がる自信がある。
キースは斥候として優秀で、無駄な事は喋らない割と寡黙な男だ。
未だにチラチラと見られる事があるのだが、流石にもう俺が怪しい者だと疑ってはいないよな? 何でだ?
まぁ彼は背が高く、ダンにも引けを取らない好青年だしモテるだろうなとは思う。羨ましい。
リッカは幼く見える容姿とは違って神官としての力はかなりのものだが、少し天然な所がある。
パーティ内では一番年少で、言葉使いも「だよ」とか「なんだ~」と結構緩い喋り方だ。でもそれが似合ってるから問題はない。ユルフワ系の少女だ。
魔法使いのハンナは一見クールだが、意外とおっちょこちょいな所がある残念系の美少女だ。
リッカよりは年上らしいが年を聞くのは何となく憚れる。
だって攻撃の際に魔法より先に杖が出る事がある、所謂脳筋っぽい所があるからな。迂闊な事を言って殴られたくはない。
そんな四人に元公爵令嬢のグレース改めクレアと俺がパーティに加わった。
ちなみにクレアは神官で冒険者登録をしている。
初めて彼女達と出会った時に賊に襲撃されていた彼女等だが、クレア……当時のグレースは俺が戦いに加わるまでの間、ダン達に魔法で支援をしていたと聞いた。確かレベルが低くて、直ぐに魔力切れを起こしたと言っていたな。
つまり彼女は元々神官としての能力はあったのだ。
そもそも偽物と判断されたが、最初の鑑定結果は聖女と出たらしいから神聖魔法を使えてもおかしくはない。
ただ不思議なことに彼女は攻撃魔法が何故か使えないらしい。
神官も攻撃魔法は使える、光系の魔法だ。
シャイニング何々とかホーリー何々みたいなやつだな。リッカが何度か使っていたのを見た事がある。
攻撃魔法も使えない、神官にも劣る者が聖女の筈がないとされ、彼女は聖女の偽物と判断されたらしい。
最後には欠陥神官とも揶揄されたようだ。
なのでクレアは神官として冒険者登録しても、攻撃魔法が使えないのを補うために、武器による攻撃を身に付ける事にしたようだ。
腰の左右にメイスを装備し、戦闘の際には二刀流のように二本持ちをする戦う神官だ。遠距離用に弓まで装備して練習も欠かさない。
神官にメイスは分かるが弓はどうなんだ? とは思うが、別に禁止などはされていないし、構わないだろう。
剣ではなくメイスなのは、剣より扱いが簡単だからだそうだ。ちょっとは神官ぽいよね? と聞いてくるが右と左、夫々にメイスを持って戦闘をする様子は神官には程遠い姿だと思う。口には出さないけど。
リッカの様に如何にも神官と見られたいのなら、彼女のように杖を持つべきだと思うが、まぁメイスで暴れる神官も俺は嫌いではない。
前の世界のゲームで、回復職がメイスを持ち直接攻撃をしているゲームがあったのを思い出していた。俺の頭の中はゲーム脳のままのようだ。
俺は魔法を使えないので当然前衛だ。メイン盾役のダンと遊撃のキースの間の軽戦士って感じかな。
相変わらず俺には剣術スキルはないが、剣術スキルを持っているらしいダン達と変わらない攻撃力なので問題はないと思う。
ただ剣術スキルを持っていると、必殺技みたいな武器技を使えるので、それが羨ましい。
以前クレア達と出会った時に彼女達を襲っていた騎士が、本気の攻撃だとか言って異常に早い剣撃を放ったことがあったが、多分あれが武器技というものなんだろう。その時に剣が光ったように感じたのは気のせいではなかったみたいだ。
魔物を武器技で切り伏せる姿は正直カッコいいと思う。
まぁこの世界、剣術スキルを持っていなくても戦士にはなれるらしい。そもそもスキル自体が貴重なものらしいのだ。
ある意味エリート扱いなんだそうだ。そう簡単に身に付くものでもないし、生まれながらに持ってる者もいるらしいが、そういう人はかなり稀らしい。
まぁ神官の神聖魔法とか魔法使いの属性魔法も同じような感じだ。
低レベルのパーティなんかは全員が戦士なんて事も、冗談無しであるそうだし。
ちなみに斥候のキースは探査索敵のスキルを持っているらしい。道理で斥候として優秀だなと思った。
彼等がシルバーランクなのは伊達じゃない訳だ。
そんな彼等と気付けば約一年もの間、冒険者活動を共にしていた。
元々ダン達は期待の若手だという事もあって、彼等とそれなりの難度の依頼をこなしているうちにレベルも結構上がっている。
現在、ダン達のレベルは27~28程で、初心者だったクレアもダン達の指導が良かった上に、本人の才能も合わさってグングンレベルが上がり、今ではレベル20に手が届きそうだった。元々登録時にレベルが10くらいはあったらしい。
冒険者になって一年でレベル20はダン達より成長が早いそうだ。貴族より冒険者の才能の方があるのでは?
あっ、俺の方なんだが行動を共にし始めた頃にエルダーゾンビに進化して、レベル1に戻ってしまっていたが、直ぐにレベル15まで上げて、アークゾンビのレベル30と同じくらいの力に戻していた為に、特に怪しまれる事はなかった。
冒険者登録も自己申告なのでレベルが違っていても問題はない。アイアンランクまでは自己申告制なので、まだ大丈夫だろう。
現在俺のレベルは25だ。
ソロの時と比べて随分とゆっくりだが、別に無理をする必要もないからな。ダン達と足並みを揃えている。
いかに俺がソロの時に無茶で異常なレベリングをしていたのかが分かるというものだ。
ただクレアの成長速度と俺の成長速度がかなり違う様だ。
明らかに俺の方がレベルの上がりが早い。
同じ10レベルアップなのだがレベルが高い分、本来なら必要な経験値が俺の方が多くなる筈なのだ。
これは俺が魔物だからか? いやそれとも転生者の特典か?
どうでもいいが、レベルが上がりにくいよりはずっといい。イージーモード万歳である。
俺の場合、レベルアップが進化に直結するから特にレベルアップしやすいのはありがたい。
ちなみに冒険者が上位クラスに転職をすればレベルが1に戻るそうなので、それを上手く使えば進化してレベルが低くなっても誤魔化せたのかもしれない。まぁ今更だが。
そうそう冒険者が強くなる為の転職と同じ様に、魔物も進化して強くなるのだが、その進化する魔物自体はそう多くはないらしい。特に俺の様に何度もというのは異常みたいだ。
マジか……どうなっているんだ?
俺の件はいいとして、現在シルバーランクのダン達は、レベル30に到達すれば、ゴールドランクも夢ではないらしい。事実、依頼や討伐等で実績もあるからな。
いや、凄いな、その若さで。
ダン達の同世代の冒険者はアイアン~カッパーランク程度なので、如何にダン達が優れているのかがわかる。
ちなみに俺とクレアはウッドランクからアイアンランクに上がっている。
ダン達と一緒に依頼をこなしてると勝手に評価が上がり、今ではカッパーランクが視野に入って来ていた。
しかし困ったな。
次のカッパーランクに上がる場合はちょっとした身元審査や、鑑定検査があるらしいからな。流石にマズいだろう。
まぁ、その時はその時だ、断るなり逃げるなりすればいいか。
その時まではクレア達と一緒にいようとは思うが。
「どうしたのセシリィ?」
「ああ、何でもないよクレア」
クレアとは呼び捨てになるほど仲良くなった。
ちなみにダン達とも遠慮なしの呼び捨てで呼び合っている。
前の世界では学生時代ならまだしも、社会人になってからは呼び捨てで付き合える友人がいなかったので、何だかむず痒い。でも、これはこれで良いものだ。うん。
<>
更に依頼や討伐を繰り返し数か月たった頃、とある大規模な依頼が俺達に巡って来た。
その大規模依頼は合同で行なわれ、俺達が拠点にしている領都からはダンのパーティの他に二パーティ、王都からも三パーティ参加し、更に他の地域からも上位冒険者達が何組か参加する手筈となっていた。
今回の依頼は国からの依頼で目的地に乗り込み調査、場合によっては討伐もあるとの事だ。
依頼主が依頼主だ、そりゃあ国中の精鋭が集まるよな。
ダン達はまだシルバーランクだったが優秀な若手という事で声が掛かったらしい。ダン達の他にも将来ゴールドランクが確実な冒険者パーティも何組か加わっていた。
何だか怪しい依頼の様な気がする。国が動く前にまずは冒険者を送り込み様子を見ようという事かな?
まぁ、国が絡んでの依頼ならそんなところだろう。
そしてその調査対象なのだが……冥王国絡みらしい。
数年内に大規模な冥王国への進行計画が立てられていると噂されているが、その関係なのだろうか?
あながち間違いでは無いようだが、どうやら魔の森に今まで現れなかったアンデッドの魔物が目撃されているらしい。
あの魔の森は既にアルグレイド王国の一部となっているので、見過ごすわけには行かないのだろう。
冥王国を攻めるのに国内にアンデッドが出る様では、侵攻計画に支障が出る事は容易に考えられる。
国にとってみれば、取りあえず経験値と名声を欲しがる冒険者を動かせれば、無駄に軍を動かさなくても済む。
冒険者達で調査、討伐を完了させる事ができればそれでよし、冒険者が手に負えないない場合は冒険者からの情報を元に、有利な状態で無傷の国軍が討伐に出撃すればいいとか考えてる……のだろう。
余談になるが、この世界には人族と敵対する勢力が複数存在する。
流石に一年以上も冒険者生活をしているとそのくらいの情報は手に入る。
今回俺達が調査に向う魔の森に出没した様な、アンデッドが中心の冥王率いる冥王の国。
その外にも定番とも言える魔族率いる魔王の魔王国、そして獣人等の亜人を纏める獣王の獣王国、絶対数は少ないが強力な種族が多い竜王を頂点とした竜王国がある……らしい。
まぁこのアルグレイド王国にいたら冥王国としか領土が接していないから他の王の事は聞いただけで殆ど知らないんだけどな。
ちなみに冥王国とアルグレイド王国のように、対となる人族の国が夫々の王の国と敵対しているのだそうだ。
この大陸の全体の地図を見た事はないが、きっと国同士が凄く複雑な配置の地図になっているんじゃないかと思う。いつか見てみたいものだ。
調査隊の総数は約五十名にもなった。
調査目的ではあるが冥王国の部隊と一戦する可能性も捨てきれない。
魔の森周辺地域がアルグレイド王国の領地となった今でも、冥王軍が入り込まないように砦やそれに連なる壁などが作られているわけではない。
それに魔の森はアンデッド以外の魔物が徘徊する危険な場所だ。ちょっと手に負えない高レベルの魔物が住みついている場所もある。
そうなるとこちらは中隊規模の人数しかいないので多少不安にもなる。
しかしながらここに居る者達の半数以上が高ランクの精鋭冒険者であるし、他の者も足手まといにはならない程度の力量はあるらしい。
……まぁ、何とかなるだろうと思うことにする。
一応国内ではあるし、間違っても冥王の大軍と相対する様な事はないだろう。
仮に戦闘があっても小競り合い程度ですむだろうと、討伐隊の誰かが話していた。
調査依頼ではあるが、アンデッドと遭遇すれば間違いなく戦闘になるだろう。その戦闘は小競り合い程度で楽勝だと楽観視する冒険者達。
共に歩を進める調査隊の冒険者達の殆どは、万一にも負ける事なんか考えてもいない様子で、所持している武器や自身の自慢話に花を咲かせている。
自分達が国内でもトップクラスの冒険者だという、自負からの自信だろうか? 油断して足元をすくわれない事を祈るばかりだ。
「今回の調査依頼はこちらのレオンハルト様がおられれば何の心配もない。万が一にも冥王の部隊が発見されても、王より賜れたレオンハルト様の聖剣があればアンデッドしかおらぬ奴等など恐れるに足らぬ!」
特に王都から来たトップクラスの冒険者パーティのリーダー自慢が凄い。
持ち上げられたレオンハルトとかいうイケメンの冒険者は満更でもないようだ。彼は金色の目立った鎧に腰には細やかな装飾の成された鞘に入った剣をぶら下げている。あれが聖剣か……凄いな。
「そんなに俺を持ち上げないでくれないか。確かに俺はこの中でレベルが一番高く、加えてこの聖剣もある。だが今回の依頼は皆の協力が必要だ、それを忘れないでほしい」
彼は名のあるゴールドランクの冒険者で腕も確からしい。
しかも角の立たない台詞を吐くよな。本当は自分以外は引き立て役だと思っているんじゃないかと、つい卑屈な事を考えてしまうのは転生前の俺がモテない男だったからか。
隊に居る殆どの女性はレオンハルトを憧れの目で見ているし、男性の半数以上も羨望の眼差しを向けている。べ、別に悔しくなんかないんだからね!
「レオンハルト様。今回はアンデッドが目撃されたとの事で、我々神官を増やしたメンバーです。何も心配する事はないでしょう」
白を基調としたローブに青のラインが入った神官達がレオンハルトに話しかける。今回の依頼はアンデッドの調査なので、国から神聖魔法を使える神官を多く同行させたらしい。
しかし、そのなんだ……その神官達、全員がうら若き女性ばかりなんだが……偶然なのか? そんな偶然がある訳ないよな。




