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17・登録

 取りあえずは町を出て、他の領主の治める土地に行くことに決まった。

 ニコニコと俺を見るグレースの視線が「じゃあ俺はこれで!」と別行動しようとする俺の気持ちを萎えさせる。

 ……彼女達に暫く付き合う事になりそうである。

 

「今居る町から王都方面と逆方向に向うと冥王国ですから、また魔の森を通って王都側に戻りましょう……魔の森を抜けたら俺達が来たルートとは別の地域に向いましょうか。俺達も初めて行く場所の方が新鮮で良いですし」


 リーダーのダンの意見に反対意見は出ず、皆ニンマリと笑って頷く。冒険者は冒険してなんぼだ。そもそも冒険者ってそういった人種なんだろうな。


 魔物を倒しながら無事に難所である魔の森を抜けた俺達。

 道中、国や領地の事などについて、色々と話を聞くことができた。

 今俺達の居る王国、アルグレイド王国は敵対する冥王国と領地を接している。

 冥王国と接していないアルグレイド王国の反対側には中小の国が複数存在し、その国々はアルグレイド王国に支援を行なっているらしい。

 万が一大国であるアルグレイド王国が冥王国に負ければ、戦力に乏しい中小国はあっという間に滅ぼされてしまうからだ。

 この国の事をよく知らない俺は、どうやらその中小国地域の出身だと思われている様だ。わざわざ否定はしない、その方が都合が良いのでそういう事にしておこう。

 ただグレースだけは、意味ありげに首を傾げる。

 うん、疑われているな……俺はセシリアじゃないからな?


 グレースの目的地だった町と、その前の魔の森の近くの町はここ数十年の間にできた新しい町なんだそうだ。

 道理で真新しい町だと思った。

 そもそもこの魔の森周辺は元冥王国の領地だったらしいのだ。

 魔の森からアルグレイド王国の王都方面に巨大な砦があり、以前はそこが国境だったらしい。

 数十年前に砦周辺地域を治めていた辺境伯軍と王都軍が協力して冥王国に攻め込み、魔の森周辺を手に入れたのだそうだ。

 そしてこの先数年内に、領土が広がり力をつけた辺境伯軍と王都軍が再び合同軍を組み、冥王国への大規模な侵攻作戦が行なわれるとか噂されているらしい。

 人間側が押しているのか……それを聞いてちょっと違和感がある俺だった。

 冥王国って事はアンデッドの国だよな?

 魔の森には死者の迷宮以外にアンデッドが全くいなかったのだ。

 元冥王国の領土だったのにおかしくはないか? いくら人族の領土となったからって、森全体からアンデッドを排除するのは難しいと思う。

 俺がグレーターゾンビの時に出会ったメリアは俺に驚いていた。それは俺が変異種だった事もあるが、迷宮以外にゾンビがいた事に驚いていたからだ。

 死者の迷宮を除き、あの地で他にいたアンデッドはメリアが召喚したゾンビやスケルトン等だけだった。

 ……今更ながらメリアを襲った賊の中に神官がいたのは、メリアの従えているアンデッドを排除する為だったのは明白だろう。迷宮に入らなければアンデッドは徘徊していないのだから。

 話が逸れたな。

 繰り返すが元冥王国の領地だった場所に、死者の迷宮の様なダンジョンを除き、アンデッドが全くいなくなるのはおかしい気がする。

 冥王国が意図的にアンデッドを引き下げているように感じるのは、俺の気のせいなのだろうか?

 でもまぁそんな事は俺には関係ないし、気にしても仕方がない。

 俺達は魔の森周辺地域から元冥王国との国境だった砦を抜け、別の領地へ行くつもりだから、もし魔の森の辺りで何かあっても関係はないしな。


 取りあえずは魔の森と砦のある辺境伯領を抜けて、辺境伯領より小さな子爵領に入った町でグレースの冒険者登録をする事になった。

 本当に離れた別の領地まで行って登録をするつもりらしい……なるべく足取りを残さないように、念には念を入れてって事なんだろう。


 道中だが、やはり問題があった。そう俺だ、原因は回復。

 気を付けてはいたが、たまたま襲われた魔物に傷を負わされた。

 ゾンビなので血も出ないし、その内治るので治療は不要なのだが、そんな事は言えない。

 神官のリッカは勿論、まだ冒険者登録もしていないが回復魔法を使えるグレースが回復魔法を俺にかけそうになって、慌てて止めてもらった。


「治した方がいいよ、ね」

「そうです、折角回復魔法が使える者が二人もいるんですから、遠慮はいりません」

「えっと、その俺……呪われていて回復魔法はちょっと……」

「「え?」」


 あっ、呪われているはないか。

 咄嗟に言い訳してしまったが、回復とは関係ない様な気がするし……あ~、マズいな。やっぱり不自然だよな。それに今度は解呪しましょうとか言われそうだ。

 やはり一緒に行くのは無理か……等と考えていたところ、キースが口を挟んできた。


「呪われている? もしかしてセシリィ殿はアンデッドアイテムを装備しているのか?」


 そう俺に質問してきたのだ。

 アンデッドアイテム? なんだそりゃ?


「ああ、随分肌が白いなとは思っていたんですよ。その腰の剣も死者の迷宮で手に入れた物ではないですか? あの迷宮で稀に手に入る割といい剣ですよね」


 ダンも勝手にそう話し始めた。

 確かに俺の剣はスケルトンナイト(多分)を倒した時に宝箱に入っていた物だ。

 キースの言うアンデッドアイテムも死者の迷宮で手に入るものなのか?


「そっかぁ、あれは確か回復魔法は厳禁だったね……セシリィさん酷い怪我だったら、ディスペルで呪いを浄化した後にヒールするからね。痛かったら言ってね、いい?」

「あ、ああ、分かった」


 何か知らんが、誤魔化せたらしい。

 アンデッドアイテムを知らないグレースに説明をしてくれたお陰で、俺もそのアンデッドアイテムとやらを知る事ができた。

 死者の迷宮で手に入れる事の出来るアイテムで、装備すると呪われるが、その代わりに色々なステータスを向上させる魔道具らしい。

 物によって効果はバラバラだが、中には回復できないのを差し引いても余りある、特殊効果のあるアンデッドアイテムもあるらしい。

 デメリットはさっきも言った通りに回復できない事だ。まるでアンデッドのように回復魔法を受けるとダメージを負ってしまう。

 おまけに容姿もアンデッドの様に血色が悪くなったり、物によっては傷ができたりもするようだ。

 神官のディスペルで解除が可能だが、アンデッドアイテムは壊れてしまうので、余程の怪我をしない限り解呪はしないとか。

 まぁ回復できないので、好んで装備する者は少ないようだが。

 余談だが、俺とダン達が迷宮で遭遇したのは、彼等が依頼でアンデッドアイテムを手に入れる為の途中だったらしい。

 勿論その時に遭遇したゾンビが俺だったとは、彼等は知る由もない。


 <>


 子爵領に入りグレースの冒険者登録を行なおうとしたがグレースが悩んでいた。あれ程冒険者登録をしたがっていたのに、どうしたのだろうと思って聞いてみたところ……。


「実はこの領地の子爵はあまり良い噂を聞かないのです。でも冒険者登録をするだけですから関係はないのですが……」

「グレースさん、俺達は何処でも構いませんよ。どうせ登録したら俺達のパーティに入るんですから」

「……はい!」


 嬉しそうにグレースが答える。

 子爵領に入ったこの町で一泊するつもりだったので、宿を取る為に移動していた時の話だ。

 まぁ基本的に人の良いダン達なら、グレースを仲間にしてくれると思っていた。

 今俺達が居る町はそこそこ大きな町で、冒険者ギルドもある。

 冒険者登録した場所と活動する拠点は別に同じでなくてもよく、王国内なら何処で登録しても問題はないようだ。

 追放先の町のある辺境伯領で冒険者登録をしなかったのは、気持ち的な面もあったのだろう。

 そう言った意味でも良い噂をきかないという子爵領で冒険者登録をするのは気持ちが乗らないのだと思う。

 子爵領を突っ切り、抜けた先の公爵領が経済と治安も良く、領主も大変優秀な人らしい。そこで冒険者登録を行ない、暫く拠点にするのが良いのではないかと話がまとまった。

 まぁ焦る必要などないし、グレースの好きなようにしてもらっても全然問題はない。

 ちなみにその公爵領はグレースの父とは別の公爵領との事だ。

 しかし流石は元王太子の婚約者だな、王国内の情勢に明るい。

 グレースは可愛いし頭も悪くはない、こんな彼女を婚約破棄する王子や、追放した父親の気持ちが俺には分からない。

 そもそも聞いた話通りなら、偽聖女問題も彼女のせいではないからな。


 数週間後俺達は公爵領に入り、どうせなら領都で冒険者登録を行なう事にした。更に数日後、高い壁に覆われた巨大な領都に俺達は足を踏み入れた。

 グレースの言った通り人が溢れ活気がある。パッと見た目だが治安もよさそうだ。

 早速冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドに着くなり、案の定グレースに一緒に冒険者登録をしましょうと持ちかけられた。

 旅人のままじゃ駄目か?

 この世界には冒険者だけでなく傭兵もいるし、護衛任務だけなら傭兵でもいい。傭兵の方にも傭兵ギルドがある。ただ登録は必須ではないようだが。

 俺は冒険者登録の際に色々調べられるだろうから、流石にそれはちょっと……と一度は断ったのだが……。


「登録して最初は木札……ウッドランクの冒険者になります。いわば仮冒険者ですね。登録も簡単な書類を提出するだけです」


 グレースに腕を引っ張られ冒険者ギルドに入ると、ギルドのカウンターで冒険者登録の話を一緒に聞く事になってしまっていた。というか今聞いている。


「その上の本冒険者であるアイアンランクになっても、そんなに難しい審査などはありません。その上のカッパーランクから素行や犯罪歴が問われたりします。簡単な鑑定検査もその時に受ける事になりますね」


 冒険者ギルドの受付嬢にそう説明されて、それならばと冒険者登録を行なう事にした。

 ウッド、アイアンランクはギルドが冒険者をふるいにかけ、見極める為のランクなんだろう。

 ギルドとしての本当の意味での冒険者はカッパーランク以上という事だ。

 ちなみにダン達四人はその上のシルバーランクらしい。最近昇格したばかりでシルバーランクの中では下の方らしいが、この若さでシルバーランクに上がれるのはかなり優秀なんだそうだ。

 シルバーランクの上にはゴールドランクがあり、国に数人から数十人程しかいないらしい。

 その更に上にはプラチナランクがあるが、これはもう世界に数人という、英雄クラスのランクらしい。あってないようなランクだよな。

 前の世界の小説やアニメの影響だろうか……つい冒険者ランクってSとかAとかじゃないんだな、とかつい思ってしまった。

 しかしそうか、これはお金と同じか。ウッドはないが、アイアン、カッパー、シルバー、ゴールド、プラチナは夫々、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨に当てはまる。実に分かり易くていい。

 しかし白金貨はまだ見た事がないな。


 あっそうそう、グレースなんだが、冒険者登録の際に名前を変えた。

 この世界は戸籍とかは無いようで、名前を変えても問題はあまりないようだ。ただそうなると名前を変えた場合は鑑定結果はどうなるんだろう?

 ダン達の話によると、簡単な身元調査があるカッパーランク以上にランクが上がると鑑定結果で元の名がバレる可能性もあるが、殆どはその時に名乗っていた名前になるらしい。偽名を頻繁に沢山使っていた人はそれが全部出たりするような事例もあったとかなかったとか。

 まぁ最初の登録自体は簡単に済むようなので、手続きを済ませる。

 俺の横にはニッコリと嬉しそうに微笑むグレースが居た。


「そういう訳で今日から私はクレアです、セシリィさん」


 しまった、俺もいい機会だから名前を変えときゃよかった。

 気が付いた時には書類を出した後だった。後悔後に立たずである。

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