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14・進化(5)

 森をもうすぐ抜けそうな場所で夜になってしまった。

 こんな事態だし強引に進む意見もあったが、安全を取って野宿で一夜を過ごすことになった。

 本来は暗くなる前に場所を確保するものだが、なるべく早く町に着きたい為にギリギリまで進む事にしたのである。

 この森は魔の森と言われているが、この辺りはもう中心地からはかなり離れている為、もう一般の森と変わらないらしい。

 とは言え危険な場所には違いない。俺を含み順番に二~三人、二組ずつに別れて夜間番をする。勿論護衛対象のグレースは含まれない。

 夜が明け次第、町に向かうそうだ。


 俺は用を足すと言い、少し野営地から離れる。俺の強さを知ってるので心配はされなかった。

 怪しまれもしなかったみたいで、そんな事を一々言わなくてもいいと一緒に番をしていたハンナが笑い、その横に居たダンは顔を赤くしていた。


 さて、ゾンビは用を足さない。

 何故森に入ったかというと進化をする為だ。

 こんな所で不用心? 確かにそうだが、進化しておいた方がいい気がするんだよなぁ。

 俺は俺のカンを信じる。

 進化するつもりのエルダーゾンビはアークゾンビの上位種なのは間違いはない。進化してレベル1に戻っても、今居る場所はもう既に魔の森の出入り口に近く、魔物が出てもそんなに強くはない筈だ。

 一番最初の只のゾンビのレベル1の時に戦っても勝てない魔物がいても、これだけ何回も進化した後のレベル1だったら、多分勝てると思う。

 ……同じレベル1でも進化後の方がステータスは断然高いのだ。レベルの概念って何だ? と思わなくもない。

 そんな訳でこっそりと進化をしてみる事にした。別に光ったり等はしないし時間もそうかからないので、バレはしない筈だ。


 俺はステータス画面を呼び出し、エルダーゾンビに進化する為にYをタップする。

 暗闇でも夜目が利くため問題はない。それに今は森の中で開けた場所に居て月明かりもある。

 こんな所でなんだが、肌を曝け出し身体を見る。

 うん、肌の色が人の肌の色に近付いた気がする。

 アークの時は日の当たる場所で見たら、どう見てもアンデッド以外には見えない程に青白い肌の色だった。

 エルダーの場合、肌の色が白いがギリギリ人として言い張れるくらいの色だと思う。

 実際に日の光の中で確認しないと分からないが、許容範囲だろう。

 アークの時も思ったが、進化するほどに人に近付くってどういう事? 進化バグってない? ゾンビなのに損傷して失った身体の部位もなければ、腐ってもいないのだ。

 まぁ、その方がありがたいからいいんだけど。

 アークの時には致命傷に見える様な傷が身体の所々にあったり、皮が捲れていたりしている個所があったりしたが、エルダーの場合、それが無くなっていた。

 黒ずんだ所や痣の様なものは身体の彼方此方にあるが、幸い肌の露出した場所にはなかった。

 進化時にグレーターからアークの時の様に明らかに体躯が変わってしまった場合、このまま行方をくらませようと考えていたが、服を着込んでしまえば変化は見られないので、このまま戻ろうと思う。 


 それはそうと、いくら人に見えるからって、なるべく人前で顔を出したりはしない方がいいだろうな。

 何故なら俺の顔って、この国の王女様と同じ顔なんだろ?

 進化して顔が変わっていないか収納鞄に入れてた鏡で確認してみたが、案の定同じ顔が鏡に映っただけだった。

 グレースは貴族令嬢みたいだし、王女の顔を知ってる可能性もあるな……確認するわけにもいかないので、やはり顔は隠す方針にする。

 まぁ行動を共にしてたらいずれはバレるし、そもそも顔を隠したまま町に入れるのかも分からない。

 ここで別れた方がいい気がするが……まぁいいか、何とかなるだろう。


 夜が明け町へ向って歩を進める。

 ダンの言った通り森を抜け、暫く行くと大きめの町が見えた。

 門の前には町に入る為の順番待ちもなかったので、直ぐに門に向う。

 魔の森の近くにある町だからか、町を囲む壁が高く、そして丈夫そうだ。

 町に入るのにダン達冒険者四人は、プレートのような物を門番に見せて中に入れてもらっている。もしやあれは冒険者証とか言われる物か?

 グレースも何かの書状を見せるとあっさりと中に入れてもらえた。

 問題は俺だ。

 身分を証明するのもは何も無い。何故なら俺はゾンビだからだ!

 困っていたが、どうやら入町税を払えば入れてくれるらしい。

 前の世界の漫画や小説でたまにあるような、何かの魔道具とかを使ってのチェック等は無いようだ。

 一応ダン達が俺が何かしたら責任を取ると言ってくれたらしいが、いいのだろうか? 彼等の中では俺は命の恩人になっている様だ。

 お金の方はメリアを襲った賊が結構持っていたので問題ない。グレースを襲っていた賊共からも小銭を頂いたしな。

 ただ問題が……やはり顔を見せろと言われた。

 顔を隠した怪しい奴を町に入れる訳ないか……冒険者じゃないから身分の証明もできないし。

 ……まぁいいか。

 渋々フードを外し、マフラーを下げる。

 あれ? 何で固まっちゃっているんだ、門番の人達?

 まさか王女と似てるとか思われてないよな? それはないか。町の門番が王女の顔を知っている訳がない。

 おや? ダン達も固まっているのは何でだ?

 俺の顔を見た全員が顔を少し赤めている。


「セシリィさんて美人さんだねぇ~」


 リッカが口を開くと皆うんうんと首を縦に振る。

 何故か門番も同じ様に頷いていた。

 もういいかと思い。フードとマフラーを元に戻す。

 皆……特に男共が見て分かるくらいに残念がっている。

 え~、俺、中身は男だし別に嬉しくはないんだけど……それにどちらかと言うと、俺はグレースの方が美人だと思うけどなぁ。

 グレースを見ると驚いた顔をしている……やっぱりマズかったか?

 俺の視線に気付いたグレースは、慌てて何でもないですと言って手を横に振っていたが……本当か~?


 町に入るとダンとリッカが冒険者ギルドに向い、キースとハンナはグレースの護衛に残った。

 ダン達は報告に時間がかかるらしく別行動だ。残りの俺達は泊まる宿に向かった。

 貴族令嬢だと思うグレースと一緒なので、どんな凄い宿に泊まるのかと思ったが、外見は何の変哲もない普通の宿だった。

 何でこのランクの宿なんだ?

 一緒にいたキースとハンナは理由を知っていそうだったが、護衛主のグレースの断りもなく勝手に聞くわけにもいかない。

 勿論当人に聞くのも憚れる気がしたので、気にしないことにした。

 まぁ治安が良いとの評価の宿らしいので構わないだろう。


 案の定、報告は一日では終わらず、数日間町に拘束される事になり、護衛任務を続行して町を出るのは四日後になると言う。

 まぁ貴族令嬢が襲われて、護衛の騎士も死んでいるのだ、それでも早い方だろう。

 明らかに高貴な生まれの者が襲われたのに何故引き返さないのか?

 それは一番厄介な魔の森を抜けたのに、また魔の森を抜けて戻る方が危険度が高い為だ。一応迂回路もあるらしいが、何倍も時間がかかるらしい。

 身分が高い者なら時間をかけても安全な道を行った方が良いと思うが……俺が意見するような事ではないか。

 

 グレースが本来向う目的の町まではまだ距離があり、馬車で進んでもまだ数日かかるとの事だ。

 ちなみに追加の護衛として俺がついて行くことになってしまった。

 俺は冒険者ではないので冒険者ギルドの依頼とかではなく、個人的に雇われた形になる。

 貴族令嬢だが手持ちが少なく大した金額を払えませんがと、お願いされたが現状金に困っている訳でもないので構わない。

 貴族令嬢なら護衛代を本人が払わなくてもいいと思うが、それは何か事情があるのだろう。

 まぁゾンビは食べ物を食べないし、寝ないので寝床もいらないから金がかからないので大した問題ではない。

 それに俺には賊から奪った……もとい無許可で貰った金がそこそこあるからな。

 ちなみにゾンビでもちゃんと食べ物を食べる事ができる。何故か全て消化? しているのかトイレに行くこともない……流石に栄養にはなっていないと思うのだが……なっているのか? どうなんだろう、自分でも分からん。


 町の宿でグレース達と出発日までの数日を過ごす。

 一応契約としては町を出発してからという事になっていたので、俺は町を出て魔の森とは別の近くにある森で魔物を倒し、レベルを上げておくことにした。まぁレベル15くらいまで上げれば大丈夫だろう。

 経験上、進化レベルが30だった場合、進化後半分のレベル15程で同程度以上のステータスになる筈だ。

 出会った頃と強さが変わらない様になれば怪しまれないだろう。

 ちなみに入町税は毎回払わなくてもいい。旅人扱いで十日までは免除されるらしい。

 俺はこの顔のせいで門番に覚えられていて、町の出入りは文字通り顔パスだった。毎回顔を見せろと言われるのはちょっとウザかったけど。

 俺の顔を見てだらしなくデレっとした表情の門番共……ちゃんと仕事しろ!

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