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117 天界

 いや~、意外と天界って殺風景な所だなぁ

 ここに始めて来た時にそんな感想を抱いた俺だ。その印象は今も変わらない。

 俺は今、紆余曲折あって天界に住んでいる。


 俺が死者の迷宮の四十九層のボスを倒し、その先の階段を下った先にあった場所、それが天界だった。

 いや~、迷宮を下っていたのに五十階層に降りた直ぐにあった扉を開けたら、雲の上に浮かぶ天空の島だったからな。つい「おかしいだろ!」っと一人で突っ込みを入れてしまったくらいだ。

 ほ~らほら、天空島の端から下を覗き込むと雲の間から下界が見えるぞ。うわぁ高っ!


 ちなみに四十九層のボスなんだが、勇者サンから没収した聖剣ライトニングレイを使ってみたらギリギリ倒す事ができた。

 あの聖剣、ライトニングレイは結構チートな剣で、実は武器技ライトニングスラッシュを放つ事ができる剣だったのだ。

 そう、つまり勇者サン自身がライトニングスラッシュを使える訳ではなかった訳だ。あいつズルしやがって。

 無論俺は初めて武器技を使えた喜びで大はしゃぎしてしまった。

 いや別に喜んでもいいだろ? 種族特性で基本的にアンデッドは武器技を使えないんだからさ。ブレイブゾンビのセシリアみたいな変異種以外は。

 ライトニングレイから放たれるライトニングスラッシュは只のライトニングスラッシュではなく、聖剣らしく聖属性が上乗せされた強化バージョンだったりする。つまり対アンデッド用の武器としては破格の性能を持っていたのだ。

 俺やセシリアのように聖属性耐性を持っていれば何とかなるが、耐性の無い、むしろ聖属性が弱点の普通のアンデッドなら一撃で昇天させられかねない代物だったりする。

 道理でイーリス王国が勇者を送り出し、彼等が冥王を倒せる筈だと過信するわけだ。

 彼等の誤算は俺のような聖属性耐性を持つ、普通なら有り得ない特異種のアンデッドが冥王だった事だろう。

 まぁ俺としたら良い武器を手に入れられたので結果オーライだったがな。

 そんな訳でライトニングレイのお陰で天界に辿り着いた訳である。

 ……とは言え、かれこれもう一年以上前の話になるけどな。


 しかし天界……意外とやる事がなくて暇だ。

 まぁ景色は良いし、スローライフをしていると思えば悪くはない環境だとは思う。

 俺は日課の自主練を終え、天空島の中心にある宮殿のような場所に足を向ける。

 宮殿の中に入る……わけではなく、宮殿の入り口を素通りして宮殿のすぐ横にある小さめの館へ。

 館に入り廊下を進み、微妙に狭く懐かしい間取りの畳がひかれた四畳半の部屋へ。

 そこに彼女はいた。

 いやこの方に彼女という言い方はよろしくないか。

 この方はこの天界の主、女神エメローラ様なのだから。

 まぁ女神と言っても亜神で、本当の神様はこの世界の更に上の世界、神界におられるらしい……とエメローラ様が言っていた。

 亜神は神から地上界の管理を一任されている存在だそうだ。


 エメローラ様の私室……いや趣味部屋? に着くと俺はつい小さな溜息をついてしまった。

 部屋には複数のテレビとそれに接続された多数のゲーム機。そして携帯型の各種ゲーム機が無造作に置かれている。そして積まれたソフトの数々。

 パソコンもあるが、その中身はゲームしかインストールされていない。

 壁際の天井まで届く程の本棚には漫画本とラノベ小説が並び、アニメのブルーレイやDVD、懐かしのビデオテープも所狭しと並んでいる。当然再生する各種再生機も完備されていた。

 こんな狭い部屋なのにフィギュアまで置いてある……ん? また増えてないか?

 やれやれ、まさにオタク部屋と言っても過言ではない部屋だな。


 さて……と。


「何時までゲームをやっているんですか。また徹夜でしょう? そうなんでしょう?」

「うわっ、セシリィ氏! 部屋に入る時はノックくらいしなさいよ!」

「しましたよ。エメローラ様が気付かなかっただけでしょう。失礼な」

「……そ、そうなの? それは悪かったわね……で、でもちゃんと寝たわよ、一時間くらいは……」


 目の下に薄っすらとクマを浮かべた顔で目を泳がせるエメローラ様。

 本当はノックなどしていないのだが、いつもの会話なので気にしないことにする。

 部屋は足の踏み場がない程に乱雑に物が溢れている。

 俺は押し入れに敷かれている万年床の布団を見ながら「はぁ~」と大きな溜息をつく。何で女神様が押し入れで寝ているんだが……某猫型ロボットですか貴方は?


「さっさと公務にいきますよ。仕事の時間です」

「え~、仕事ぉ。その言い方やめてほしいなぁ。何だが、やる気がごっそり削がれるし」

「時間厳守で朝早くから仕事に赴くなんて、貴方の大好きなオタク文化の発祥の地、日本みたいじゃないですか。むしろ喜んでくださいよ」

「私は夢と希望があるゲームやアニメが好きなの。夢も希望もないブラックな仕事は嫌いなのよ!」


 俺は肩を竦め、何度目かの溜息をつく。


「週休三日以上、残業無し、有給休暇も長期休暇もちゃんと取れる上に、フレックスタイム制なのに何処がブラックなんですか。ご希望でしたら本当にブラックなスケジュールを組みますけど、どうしますかエメローラ様?」


 ゲームのコントローラーを持ったまま、ギギギッと音がしそうなくらいぎこちない様子で顔を俺に向けるエメローラ様。


「……そ、それは遠慮しとくわ。し、仕事すればいいんでしょ、すれば……で、でも切りの良い所まで……ね、ね?」

「ゲームはセーブしときゃいいでしょ。さぁ行きますよ」

「ああああっ、鬼、悪魔!」

「……ゾンビですが何か?」


 エメローラ様を引きずって宮殿の最上階の神の間へ。

 まぁいつもは仕事と言っても殆ど何もせず、窓際管理職? のようなエメローラ様だが今日はちゃんと仕事をしてもらう。してもらわないと駄目な日なのだ。

 今日は絶対に外せない仕事……大事な儀式がある。

 エメローラ様もやっとやる気を出したようで、上下のピンクのジャージ姿から清楚で純白のドレスを纏い、いつもの猫背ではなく背筋を伸ばして凛とした姿で佇んでいる。


「さぁ始めましょうかセシリィ。準備は整っていますね?」

「……エメローラ様が本当の女神みたいだ」

「思考レベルを元に戻しました。貴方も真面目になさい」

「……失礼しましたエメローラ様」


 ……娯楽を楽しむ時は思考レベルを落とした方が楽しめるとかで、先程まで駄女神全開だったエメローラ様だが、本来の高いレベルの状態の今のエメローラ様は神々しい女神そのものだ。

 ギャップが凄いが、これから会う者達に普段のエメローラ様を会わせる訳にはいかないからな。


「来たようです、エメローラ様」

「そのようですね、セシリィ」


 翼を持った白い衣の天使のような容姿の男に引きつられ、彼等はやって来た。

 五人の老若男女で、俺がセシリィとして転生する前の世界の服装をしている。

 そう、彼等はこれから彼等にとって異世界であるこの世界に生まれ変わる転生者なのだ。


 ちなみに彼等を率いてきた天使のような男性だが、天界の住人だ。

 天界に住む住人は彼のように天使の姿をしていて、亜神のエメローラ様や俺のサポートや世話をしてくれる存在だ。

 詳しくは知らないが、この天界に自力で辿り着いた亜神となった者を支えるのが、遥か昔からの彼等の使命らしい。

 勿論自我はあるし人数もそこそこいる。宮殿の近くには彼等の村があり、慎ましい生活を営んでいた。

 彼等は非常に温厚で真面目だ。争いが苦手な俺としてはとても好意が持てる。

 そこ、嘘だと疑いの目を向けない! 俺は本来平和主義者なんだよ!


 エメローラ様が転生者となる者達に話しかけ、彼等に今の状況を説明する。

 基本的に彼等は向うの世界……俺の転生前の世界で亡くなった者達だ。前の世界に生まれ変わる事はできない。この世界で生まれ変わる事になる。

 俺が元居た世界からこの世界へ流れてくる魂は僅かではあるが、それでも一定数はいる。今回女神様が魂を受け止める事ができたこの五名もそうだ。

 眩しい程の神々しさと圧倒的な存在感のせいで、五人はエメローラ様の言葉に口を挟まない……いや挟めないのだろう。

 俺と分離したセシリアは俺と同じ転生者だった。

 魔物に転生した為にここに来なかった俺と違い、彼女はここで彼等と同じ様に女神様から話を聞いたのだろう。

 転生者は基本的に裕福な家庭に生まれ変わるらしい。勿論スキル等も授かる。

 普通のスキルだけじゃない、ユニークスキルもだ。

 いや~、ユニークスキルは本当にソシャゲ……ソーシャルゲームのガチャみたいな感じで彼等に与えられていた。

 ……ゲームを参考にこの世界を作っているエメローラ様らしいなぁ、どれだけゲームが好きなんだよ。

 あちらの世界……転生前の世界の神様からゲームや漫画本等のオタク物資を送ってもらっているだけはある。


 無事五人を転生させ儀式は終了した。

 だが、これで全ての仕事が終わった訳ではない。


「こぼれ出た者はどうなりましたか?」

「そのまま下界に落ちたようです。こぼれ出た人数はおよそ二十名程ですね」

「そうですか、思ったより多いですね……」


 こぼれ出たもの……つまり俺やプロキオンのように魔物に転生した者だ。女神が受け取れなかった魂は魔物に転生するらしい。

 しかも魔物に転生した者は殆どが途中でリタイアする。

 生き残る者は非常に稀で、プロキオンのように冥王まで駆け上った者は奇跡に等しい。

 それほど魔物に転生した者の生存率は低いのだ。

 ……俺? 俺はアレだ。例のセシリアのユニークスキルのせいでバグが起こり(本当にバグだったらしい)、異常成長と異常進化のせいで生き延びる事ができたのだ。単に運が良かった訳だ。

 ……しかも俺が天界に来るまでエメローラ様は、そのバグが起きたことも知らなかったらしい。

 俺が来るまでは転生者が来た時だけ真の女神モードになって、普段は駄女神モードでオタク部屋に引き籠っていたせいだ。

 そんなごく潰し同然の生活をしていたんだから、今のホワイトな環境でも働いたと考えてしまうのかもしれない。

 ああ、もう一つ、例の四王を弱体させる為のギミック……俺の時だと金の鍵だな、そのシステムを定期的に制作する時だけ真の女神モードに戻っているな。駄女神の時に考えたシステムを本気モードの真の女神で作る……元に戻った思考レベルの高い時にそんな下らない事は止めようとは思わなかったのだろうか?

 ……思わなかったんだろうな。基本的にゲームのような娯楽が好きなんだろう、むしろノリノリだったに違いない。

 まぁ、だから俺とも気が合うのだが。


 一応亜神となった俺に今更設定は変えられないようで、俺はそのまま……バグ状態のまま、天界に住むことになったのだ。

 亜神だが、基本種族はゾンビという訳の分からない設定だ……設定言うな!

 ちなみにエメローラ様は竜種の亜神らしい。

 俺は密かに竜王にえこひいきしていたんじゃないかと睨んでいるが、あながち間違いじゃない気がする。


 俺の一件があったので、魔物に転生してしまった転生者を探し出し、場合によっては監視する事が新たな仕事に加わった。

 まぁ実際に探し出すのはエメローラ様に命令された俺の仕事になるのだが。

 監視するだけで手助けはしない訳ね。

 正確に言うと手助けできないのだが。天界から直接干渉してはいけないルールがあるらしい。

 何でもレベル50を超えた者が地上に干渉すると、世界の彼方此方で歪が生まれるらしい。それほどレベル50は強力な力を持っている。

 でもまぁ何処の世界でも裏技はある訳で、エメローラ様が普段やっている思考レベルを落とす方法……レベルを抑え込むように落とす事で、問題なく地上で動けるらしいが。

 本当の所、特定の勢力に肩入れしないために干渉していないだけである。

 あとエメローラ様が地上に干渉しない理由として、基本的にズボラなので、信仰を糧に楽にレベル上げをしたいだけという事がある。

 亜神になってもレベル上げには勤しむ事になる、何故ならレベル60になれば神界に行けるらしいのだ。

 は? レベル60って……他の者と違い異常にレベルの上がり易い俺でさえレベル50に上がるのに凄く苦労したのに、それ以上って事だろ? だって更にレベルは上がりにくくなるだろうからさ。

 一体どのくらいの膨大な時間がかかるんだか……まぁそんな遥か先の事を今考えても仕方がないけどな。

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[一言] エメローラ……駄女神か( ˘ω˘ ) 他のメンバーもそのうち天界に追い付いてくるかな?
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