104・四王会議(2)
会議とは名ばかりで、その実は王同士が戦闘を行なう過酷な場だった事が発覚した。もう疲れたし、溜息しか出ない。
何でこんな事をしてるのか聞いてみた所、以外にもちゃんと答えが返ってきた。
簡単に言うとレベル上げだ。
王になっても何故レベル上げ?
答えは……俺の所で言うと、死者の迷宮とかの攻略の為らしい。
ええっと、分かりにくかったな。
つまりは冥王領には迷宮があり、竜王領には高い山、魔王領には塔、獣王領には深い森がある。
それぞれの領地にあるそれを、各自が攻略する為らしい。
迷宮の最下層には何があるのかと聞いたところ、昔噂で聞いた魔界ではなく天界に繋がっているらしい。地下に潜っているのに天界? そんなツッコミは無しだ。
そしてどうやら山も塔も森も天界に繋がっているそうなのだ。
天界には女神がいるらしい。
そう以前セシリアが言っていた、転生者にユニークスキルを与えていた女神が。
だとしたらこいつ等は女神に戦いを挑むつもりなのか? それとも何らかの話し合いに行くつもりなのだろうか?
ともあれ、天界に行く為にはレベルが足りないそうだ。
少なくともレベル50はないと迷宮、塔、山、森の最終ボスは倒せないという。そして女神はレベル50以上あるらしい。
レベル上げなら各領土にある塔やら山やら森で上げればいいんじゃないかと思ったのだが、一応そこでもレベル上げをしているそうだ。
ただここでの模擬戦闘の方が多少効率は落ちるが、安全にレベル上げができるからだという。
……あれで安全?
こいつ等の常識って一体……俺には理解できん。
ちなみに最年長の竜王は現在レベル49でレベルを見れば50に手が届きそうだ。とはいえ今のペースならまだ数百年はかかるとか。残り一レベルで数百年とかどれだけ経験値が必要なんだ?
獣王はレベル48、魔王はレベル47だそうだ。
前冥王プロキオンはレベル46だったな。
俺は死者の迷宮である程度レベル上げをしたが、それでもレベル44だ。
確かに俺は転生者特典でレベルアップが早い。加えてセシリアと分離してもまだバグが直っていないのか、転生者の中でも異常な程レベルが上がり易いようだ。
しかも複数回における進化でステータスが高いからレベル上げも捗りもするしな。
同じくらいに俺と一緒に戦闘を繰り返していたクレアはレベル42まで上がったが、俺はそれをあっさりと追い越してしまった。正に特典様々である。
多分セシリアも俺と同じだと思うが、俺みたいにレベル上げに勤しんではいないようだ。それでもレベル40は越えているけどな。
三王から会議中は冥王の外套は装備するなと言われた。まぁ装備はしてなかったから忠告なのだろう。
冥王の外套……冥王の証で纏っている間は上乗せのボーナスがある冥王特典の特殊装備だ。
この冥王の外套なのだが、装備したしたままだとレベルが上がりにくくなる弊害があるそうだ。
うん、実は知っていた。
死者の迷宮でレベル上げしてた時に中々レベルが上がらなかったので、色々調べたらその冥王の外套が原因だったのだ。
なので俺は普段から冥王の外套を外したままだった。ピンチに陥った時や、将来勇者と相対する事があったら礼儀として装備しようかと思う。
ちなみに他の三王も同じ様な装備を持っているようだ。王……ボス特典みたいなものなのだろうか。まぁ皆この世界の最強の一角同士だ、弱いよりいいし、より強くないと話にならないしな。
それはともかくだが、俺がもしレベル50に達しても天界には行かない方がいいかもしれない。
セシリアの話だと魔物に転生した者を排除したがっているって言ってたし、それが本当ならむざむざ消されに行くようなものだ。
そう言えば次に進化があるとしたらレベル50か……ちょっと現実的じゃないよな。だって話が本当なら神様の足元に手が届くレベルって事じゃん。
そもそも今でもレベルが上がりにくいのに、これ以上レベルをあげるのはキツい……レベル50なんて無理っす。
三王はこの手の世界観に関しては割と惜しみもなく教えてくれる。
彼等の知識は王同士の情報の共有や、過去の歴史を解析して得たものらしい。竜王なんかは世襲で竜王を継いだらしいので、前竜王が持っていた知識も加わる。彼の言う事はかなり信憑性が高いだろう。
嘘や出まかせの可能性もあるが、俺をだましても意味はないので多分本当の事を教えてくれていると思う。
前冥王プロキオンが妙に色々な事を知っていたのは、彼等から知識を得ていたんだろうな。
そしてまた俺の様な無知な者が来たので、ウンチクを披露したかったのかもしれない。
そんな中でまた例の女神の話が出てきた。
何でも女神と言っても下級神とか亜神とか言われる存在で、上級神になる為に神力を集めているらしい。
転生者を使って人々の信仰心を上げたり、能力を与えた者が活躍したりすると神力が増えるとか。
……ちょっと待て、神聖魔法って女神は関係ないのか? 排除したがっている魔物に転生した俺が使えているんだぞ?
それを聞いてみたが、魔王も獣王も竜王も「神聖魔法は使えんので知らん!」との事だった。使えん奴らめ。
回復は一部の精霊魔法でも回復ができるし、一部の竜族に至っては竜語魔法とかいう専用魔法があって回復も可能らしい。
女神の話の流れで、死者の迷宮の金の鍵に似たような話が出てきた。
突っ込んで三王に聞いてみると、どうやら竜王の山や獣王の森、魔王の塔にも似たようなカラクリというか、ギミックがあったらしい。
弱体アイテムが聖杯だったり、賢者の杖だったりとバラバラで先へ進む為のギミックなんかも違っているらしい。
更に困った事に、定期的にそのギミックが変わるらしいのだ。まぁそのスパンはかなりの年数……数百年から数千年単位らしいが。
その難易度なのだが、簡単な場合もあるし解くのが無理な程に難しいものもあるとか。
どうも俺の金の鍵のギミックは超難度にあたるようだ。
金の鍵の詳細がかかれた黄金の書のような攻略本と呼ぶべき書は、三王の敵対している人族側に厳重に管理されているようで、当然ギミックが変わればその書の内容も変わる。女神が関わっている事は明白だから、ギミックが変われば書の内容も変わるのは当然か。
定期的に変わるとはいえ同じギミックは無いようで、自力で解かねばならなかった獣王と魔王は非常に苦労したとぼやいていた。
竜王は先代からの世襲だった為に攻略方法が分かっており、ギミックの変更も無かったのであっさりとクリアしたらしい。実に羨ましい。
成程、前冥王プロキオンがここで攻略の情報を得られなかったのはそれが原因か。
三王が俺と話をする時は教えている立場もあり上機嫌だが、三王同士だと話が弾み過ぎて、結構過激な罵り合い……ゴホン、会話になっている。
「儂が竜神になったら、お主等を信者に加えてやってもいいぞ」
「ぬかせ、貴様より自分が先だ。直ぐに追い抜いて自分が獣神となり貴様等に同じことを言ってやろう!」
「てめーらは神になる前にお死んじまう方が先だぜ! 俺は魔神になるからな。地獄で悔しがるがいいぜ!」
どうやら皆、神になるのが目的の様だ。分かり易いな。
レベルが上がればなれる様なものではないだろうし、天界に行けば何とかなるものなのか?
……まだ俺に教えていない情報がありそうだ。新人の俺にはまだ教えられない情報なのだろうか。もしくは自分で解き明かせって事か? 何でもかんでも教えて貰えるほど、甘くはないよな。それでも結構な情報を教えてもらったけど。
まぁレベル49の竜王でさえ何百年も先の話だ。今はどうでもいいだろう。
俺は一人納得したように頷く。
その様子を見て竜王が俺にウインクしながら口を開く。
……超渋いとは言え、爺さんにウインクされてもなぁ、それに俺中身は男だし……。
「冥王よ、何故神に? などという顔をしとるの。良かろうヒントじゃ、『自力で天界まで辿り着いた者は神になる資格を得る』そう言われておる」
……ヒントじゃなくて正解言っちゃってるよね?! まぁ正解かどうかは確かめようがないけど。
この場合の神は間違いなく亜神って意味だろう。
恐らく自力でってのがミソなんだろうな。セシリア達人族に転生した奴等が女神に会ったのは天界かもしれないけど、招かれただけでは駄目と言う事だろうな。
女神は神力を上げるために人族に転生した者達に魔物に転生した者達を討伐するように命じたんだよな。転生者ではない魔物は分からないが、勇者を倒し神に近付いた転生者の魔物を同じ神……亜神として受け入れるのか? それとも天界に至れる者ならば邪魔ができない、もしくは干渉できないとか……?
分かるわけないか。流石に竜王達だってそんな事は分からないだろう……いや、知っているのかもしれないな。例えば亜神まで至った何者かが王達に教えた、もしくは過去に教えた記録があるとかだ。
竜王の言葉に腕を組み考え事をしている俺を気にもせず、三王の口論は続く。
従者のアリスはポカンと口を開けて呆けているが、他の従者の三名は頭を痛そうに抱えている。
どうやらいつもの事らしい。
「おいコラ竜王、なに冥王にそこまであっさり教えてやがんだ! 俺の時は中々教えてくれなかったのによ! やっぱり容姿か? ロリコンエロ爺め!」
「確かに魔王の言う通りだな、竜王貴様は女子に甘すぎる。だが、魔王貴様も言葉使いを改めよ。全く双方とも常識と礼儀がなっとらん!」
「なんじゃ獣王、貴様も骸骨より可愛い女の子の方がいいと、鼻の下を伸ばしていたではないか! それに魔王、お主そんな態度じゃから情報を中々教えてもらえんかったのだぞ。態度を改めい!」
「ああん? 喧嘩売ってんのかぁ竜王、獣王!」
「態度を改めよと注意しただけで喧嘩など売っておらんぞ魔王。それに自分は鼻の下など伸ばしてはおらんからな竜王!」
もう口論とは言えない只の暴言が飛び交う。
そんな彼等を見て俺は思う……仲良いな、お前等。
「ぬかしたな小僧共、身の程を教えてやるわい!」
「最低限の礼儀を自分が教えてやろう!」
「ふん、俺様が引導を渡してやるぜ!」
そう言うや否や、またテーブルが光る。
気付くと今度は岩肌が覗く山岳地帯だった。
休憩は終わりで、もう戦闘を開始するらしい。
前冥王プロキオンの苦労が分かった気がした俺だった。
一度戦闘に入ると短くても一日、長い時は一週間程続く。それを何回も、何度でも繰り返すのだ。
休憩はその時その時で時間はバラバラだ。一週間休む時もあるし、数分で再開する時もある。
四名揃わなくても三名、二名で戦う時もあった。全くもって自由過ぎる。
何だかんだで、やっと四王会議は終幕した。
俺は天を仰ぎ考える。会議とは一体?
道理で前冥王だったプロキオンが何か月も戻って来ない訳だよ。
……こんな会議とは名ばかりのどつき合いみたいな戦闘に、周期的に呼び出されるのか……誰か冥王を代わってほしいと思ってしまっても、それは仕方のない事だろう、な?
「いやお前、こういうのむいてるんじゃないか?」
などとアリスが俺に言うが、そんな訳ないだろう。あんな脳筋共と同じに扱わないでもらいたものだ。失礼な奴である。
帰りしなに竜王に呼び止められた。
「ふむ、前のと違って見どころのある奴だ。特別にお主にはこれをやろう」
そして何処かで見た魔道具を手渡された。
これって竜の咆哮じゃねぇか!
顔を引きつらせながら礼を言い、それを受け取る。
「使い所に気を付けろ」とだけ言ってくれたが、これって滅茶苦茶なとんでもアイテムだぞ? 言う事それだけ?
前冥王プロキオンにも、こんな調子で渡したのかも。注意事項を話さないままに……。
てっきりアンデッドドラゴンを使役していたから、わざと説明も無し渡したんじゃないかと思っていたが、どうやら悪気はないのかもしれない。
「おお居たか。就任祝いだこれをやろう。なに気にするな、前の奴にもせがまれて仕方なく渡した物と同じ物であるが、受け取るがいい。気持ちだ」
そう言って爪の付いた小手を獣王から渡された。一応「ありがとうございます」と微笑みながら受け取る。
うん、スキルワイルドラッシュを使える小手だな。
前冥王のプロキオンと戦った時に、俺達を苦しめた魔道具をこんなにポンポン貰えるとは……気前のいい事だ。
彼等からしたら大したことのない魔道具なのかもしれないが。
そこに別の者に声をかけられる。
え、まさかな?
「おお、こんな所に居やがったか、探したぜ。こいつをくれてやる。なにテストと趣味を兼ねて作ったもんだ、一番弱っちいてめぇには役に立つ物だろうぜ」
あのゴーレムを次々と排出する魔道具をポンと放り投げる魔王。
受け取ってみたが、案の定プロキオンの持っていた物と同じだ。
何でも開発して要らなくなったゴーレムを適当に百体ほど詰め込んだ物らしい。
つまりあの前冥王との戦いでも百体くらい倒せば打ち止めだったらしい。
あいつあの時サウザンドゴーレムとか言ってなかったか?
サウザンド、千じゃなくてハンドレッド百、じゃねぇか!
「じゃあな、また会おうぜ」
魔王は黒いマントを翻しながら去って行った。
もう会いたくはないぞ、という言葉は飲み込み俺は彼を見送った。
冥王城に帰った俺とアリスは溜息をつく。
一応帰りも竜王の配慮で飛竜に送ってもらった。
何でも前冥王プロキオンは四王会議を嫌がって中々会議場……いや会議城に行かなかった為、飛竜に連れ去られるのが恒例だったらしい。
そう言えば迎えに来た飛竜は一体だけじゃなくて、護衛と称した竜人の乗る飛竜も数体ついてきていた。逃げないように監視されていたようだな。
元冥王プロキオンも竜王には逆らえなかったようだ。
しかし……これから俺がその立場になるの?
アリスから頑張れと生温かい目を向けられる。こいつ絶対次はセシリアに振るつもりだ。狡い……。




