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102・冒険の続き

 今日も俺の本拠地となる予定の、冥王城の建城に励む俺。

 とは言え、もう殆ど完成しているんだけどな。

 次は森を切り開き拡張して、人の住めるような場所を作ろうかと思案していた時だ……。


「なんじゃ、こりゃああああ!」


 アリスの絶叫が新しい冥王城に響き渡った。

 はて、そんなに大声を出すほど驚くような事はないと思うが?

 まぁ、確かに中々立派な城になったとは思うが。


「自覚無いのか?! 崩壊した冥王城を立て直し始めてまだ一年も経っとらんのだぞ、一体どんなペースで作ったらこうなるんだ?!」

「え? 普通に……確かに途中から楽しくなって、ほぼ不眠不休で作業してたけど」

「……もっと早く様子を見に来ればよかった。しかし元近衛兵もいたのに皆死んだような目をしてるじゃないか。一体どれだけこき使ったらああなるのか……」

「失礼な。仕事を放り出さないように目を光らせていただけだぞ。俺の元の世界にいたブラック企業の社畜程は酷い事はしてないって」

「……お前の元の世界の労働状況を基準にするな……少なくとも戦闘ではなく過労で亡くなるような真似はやめてくれ」


 意外とホワイトな事を言うアリスだった。

 部下達は俺やアンデッド兵達みたいに不眠不休だったわけじゃないし、ちゃんと食事と睡眠を取ってもらっていた。まぁ確かに俺の事を馬鹿にしていた最初の方は、ほぼ不眠不休でかなり酷使したけど。

 俺の前の職場みたいに実質一カ月休み無しとか、何日も泊まり込みなんて事はなかった筈だけどなぁ。


 そんな話をしてたら、アリスはハァと溜息をついて俺に暫く休むようにと言った。

 いいのか? まだ冥王軍を再編して一年経ってないぞ?


「お前の下で働かすと死者が出る。私の様なアンデッドだって精神的には疲れるのだ。お前はどうかは知らんが……」


 などと俺に文句を言う。

 アリスはちゃんと公的な場所では俺の事を冥王様と呼ぶが、私的ではこんな感じだ。俺もその方が堅苦しくなくていいけど。

 

「私を手伝っていたクレアにも休みを出すから彼女も連れていけ」


 どうやら公務はいいからどっか行けということらしい。

 ちなみにクレアはアルグレイド王国には戻らず、アリスの城にいた人族の世話を主に行なっている。

 一旦は城内に人族の居を構えたが、ちゃんとした村……いや規模としたら町を城の外に作ったらしい。

 そもそも魔の森から冥王国側にある、アルグレイド王国への侵攻作戦の時に占領した町もあるので、アリスの治める赤の冥将の領地には人族の住む町が複数ある。

 アリスはその占領した地域から摂取したり等はしてないので、それらの町はアルグレイド王国が管理していた時とそう変わらないようだ。

 町にしてみれば領主がアルグレイド王国から冥王国に変わっただけだ……まぁ普通なら絶対にそうはならない。アンデッドの国だぞ? 有り得ない事だと分かっているが、実際そうなっているのだから仕方がない。

 アンデッド蔓延る国に普通の人間が住んでいるって……うんまぁ、別にいいんじゃないか。 


 話は戻るが、アリスが言うには数年から数十年かかるかもしれない城造りを、一年もかからない異常なまでのハイペースで城を作るな、と言う事らしい。手を抜いているわけじゃないし、早いに越したことは無いと思うが……解せぬ。


 <>


 久しぶりのクレアは俺と会った途端、突撃するように抱きついて来た。


「セシリィ、会いたかったです!」


 身長は俺の方が低い為、クレアの胸が顔に当たる。

 むぅ、食生活が良くなったのか、ちゃんと成長しているようで何よりだ。


 何だかんだで、クレアと共にアルグレイド王国へ。

 何処に行くかと言われても、アルグレイド王国しかない。冥王国内を回ってもつまらないし。アルグレイド王国の周辺国を回っても良かったが、アルグレイド王国がどうなったのか気になる。

 アリスに言ったら止められるかもと思ったが、「今のアルグレイド王国にお前達を止める猛者が居るとは思えん」と言われて、あっさりと許可が下りた。部下に許可を貰わねばならない冥王……笑いたければ笑え。

 でも、いいのか一応俺冥王だぞ?

 俺に万が一があってもアリスやセシリアがいるので、どうにとでもなるか。

 まぁそのセシリアの方は情報収集とかこつけて、頻繁にアルグレイド王国に行っているらしいけど。


 <>


 そして目の前には呆ける冒険者。


「え、セシリィなんですか?」


 クレアと一緒に居る俺を見て言ったダンの一言がこれだ。

 そうだった、前に会った時はセイクリッドゾンビの時で、アルティメイトゾンビになって更に小さくなったんだった。


「まぁいろいろあってな……何故かこうなった……」

「きゃあ! 可愛いーっ!」

「ええ、もうお姉さん我慢できなくなるわぁ」


 リッカとハンナがおかしくなっている。


「駄目です! セシリィは渡しません!」


 クレアも何を言っているのやら。


「セシリィ殿……小さくなっても美しさは変わらぬな……」


 キースがふぅと溜息をつく。お前ロリコンもOKなのか……強者だな。

 当然俺にその気はないから、そんな目で俺を見ないでほしい。


 ダン達と再会する少し前……王国に入る際に一応持ったままだった冒険者証を見せるとあっさりと入国できた。

 まだ使えるんだとクレアと共に宿でゆっくりしていたら冒険者ギルドの職員が宿に押しかけて来て、書状を手渡された。

 その時居た町は冥王国と隣接している町だった。どうやら俺が来たら渡すように言われていたらしい。

 差出人はやはりゲルト公爵だった。

 冒険者証を使えるままにしてくれたのはゲルド公爵だろうし、俺達が何処かで冒険者証を提示したら書状を渡すように手筈していたんだろう。相変わらず抜け目のない人である。

 恐らく同時に公爵に連絡がいくように手を打ってあるんだろうな、あの人の事だし。

 書状の内容は王都かゲルト公爵領まで顔を見せに来てほしいとの事だった。

 行ったら何をさせられるか分からないな……等と思いつつゲルト公爵領の領都までやって来た時にダン達に再会したのだ。

 案の定、公爵がダン達に知らせてくれたらしい。


「会えて嬉しいですがセシリィ。公爵領に来たと言う事はオルソン様に会うんですか?」


 ダンがそんな事を言いだした。

 オルソンって誰だっけ?

 俺が首を傾げていると、誰か分からなかったのか、ダンが説明してくれた。


「オスカー・ゲルド公爵のご子息ですよ。王都に居るゲルト公爵の代わりに公爵領を治めている方です。有能な方なんですがちょっと変わった所がありまして……」


 ああ、そうだそうだ、確かそんな名前だった。

 確か俺がアルグレイド王国から冥王領に帰る時に会ってもらいたいとかゲルド公爵が言っていたな。

 変わったって……どんな奴なんだろうと考えていたら、ダンがポツリと言葉を漏らす。


「前のセシリィもマズいと思いますが、今のセシリィの方がマズいですね……」

「ああ、ドストライクだろうな」

「そうよ、そうだわ、大変な事になるわよ!」

「セシリィ、会わない方がいいわ!」


 ……え?

 店のテラスで食事をしながら話を聞いていたが、そんなにヤバい奴なのか?


「成程、父上が仰った通り……いやそれ以上の可憐さだ」


 いつの間にかテラスの周りが兵に取り囲まれ、その中心に花束を持った青少年が背筋を伸ばして立っていた。

 ゲルト公爵を若くしたイケメンだが、その視線は少し怪しい……。


「セシリィ様どうぞ私の城までおいで下さい。つきましては式の予定などを相談いたしましょう」

「……は?」

「いえいえご心配はいりません。貴方があちらの方だとは存じております。世継ぎなどは側室を娶りますので心配はいりませんから」


 ニコッと笑い、訳の分からないことをほざくイケメン。

 俺の返事を待たずに近寄り、俺の手を持とうとしたオルソンがピタリと止まる。

 いや止めさせられた。


「そんな馬鹿な話は認められませんね~」


 いつもと違う低めの声で言葉を吐いたのはクレアだった。目が笑っていない。

 オルソンの周りと俺達を取り囲んでいる護衛の兵士達一人一人の周りには結界が張られていた。クレアが張った結界に閉じ込められているのだ。

 結界を内側からドンドン叩いて大声で騒いでいるようだが、外には一切漏れていない。


「馬鹿は放っておいて行きましょうセシリィ。ほらダン達も行きますよ」


 何時になく積極的なクレアだ。ダン達も顔を引きつらせながら俺達と共にテラスから移動をする。

 前冥王の魔法を防ぐ結界だ、何をどうしたって外には出れないだろうな。

 領都を出て暫くした所で、結界は解除したらしい。


「クレア、やるわね」


 リッカはニカっと笑いクレアをよくやったと褒める。


「まぁオルソン様ってイケメンだけど変態だしねぇ」


 ハンナはオルソンを何気に酷評していた。


「あの方はゲルト公爵の子息だし、意外だがあんな事では怒る方でもない。しかし暫く領都には行けないな」


 やれやれと言う表情でキースは語る。しかしその顔は反対に楽しそうだ。


 ゲルト公爵がアルグレイド王国へ俺が来たら、王都か領都まで来てくれと言うから領都に寄ったのに……まさかオルソンと会う事が用事と言う訳ではないだろうな?

 まさかあわよくば俺を取り込もうという魂胆か?

 まぁそうだとしてもゲルト公爵の事だ。上手くいけば良いくらいにしか考えていないだろう。

 本当にゾンビの俺を一族に取り込もうなんて考えてないよな? な?

 まぁ本当にちゃんとした用件があるのかもしれないし、王都に行くことがあったのならゲルト公爵に会えばいいだろう。

 多分王になったセシルの補佐をする為に王都にいるだろうからな。


「じゃあ、折角ですしどこか冒険しましょうか。このメンバーはあの時以来だよね」


 先頭を歩いていたリーダーのダンは、俺達に振り返りそう話す。

 そうだな、久しぶりだな。

 多分一~二年くらいは帰らなくても大丈夫だろう。

 俺の立場なんかは大きく変わったが、あの時の冒険の続きをしようじゃないか。


「行きましょうセシリィ」


 クレアは嬉しそうに俺の手を取って微笑む。

 数年経っても変わらない空の下、俺達は再び冒険を始めたのだった。

ありがとうございました。

本編はここで終わりますが、その後として魔王、獣王、竜王の三王の話や女神の話等を数話投稿する予定です。

作品を憶えていましたらまた読んでいただきたく思います。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば迷宮でゾンビゾンビしてるときにダン達と接敵したのってダン達にまだ言ってない……よね? [一言] 10日が楽しみ
[一言] まさかの完結…… あと数話で終わりってマジ!? 外伝とか書く予定はないんですか?
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