5.5「ガルムが居なくなってから」
――場所は飛んで天界〜〜
ガルムが人間界に旅立った後、偉い人達に怒られ続け、天界内での行き場が無くなった側近達は、その怒りを全て”|ガルムを押し出した根源”にぶつけようとしていた――
天界北東部にある、山岳地帯を抜けた先に広がっている宿場町”カルタニア”。
その町の外れにある”なぜか開発途中の荒れた一本道”を進むと、少し丘になっている土地の上にオレンジ色の瓦屋根が輝く白レンガの一軒家がある。
そこは、”全ての大地を意のままに操る”と言われている「大地の神」カーディネリアの住処だった。
先の事で完全に吹っ切れた側近達は、8○3の様な形相をしながら、まるで”抗争復讐に来たのか”と言う感じでドアを叩いてネリアを呼び出す。
「カーディネリア様ァ! 今日は確か休みで、家に居るはずでしょう? 早く出てきてくださいよォ? この落とし前、どうつけてくれるんですかァ!?」
側近達がいくら怒鳴っても、家の中から返答はない。
その後、小1時間ほどこの問答を続けている内に、我慢の限界に達した側近の一人が「もう面倒くさいから、ドア突き破っちゃいましょう!」と、渋谷パリピ系JKでも考えもしなさそうなレベルの、ありえない提案をしだした。
普段であれば、”法を重んじる事を生き様”とする側近の長が直ぐにでも却下するであろうこの”ふざけた提案”。
しかし、生憎今日の彼らは普通ではない。
故に、最後の砦である長さえも協力し、”フクロテナガザル”の奇声の様な声を上げ、”ネリアの家に取り立て”するために一致団結をし、復讐の士気を上げ始めたのだ。
そして、それに感化された”1人の側近”が覚悟の意を放つ。
「今から突撃して敵対するは、十二神の1角”大地の神カーディネリア”! まともに戦って、というか”どんな手を使っても”勝てる相手じゃない。……だが、我々に残された道はこれしかない。そう、やるしかない。やるしかないのだ!」
すると、その場に居た誰しもがその言葉につられ、各自が出せる最大の鼓舞を披露し始めた。
だが、残酷にも時というのは必ずやってくるもの。
気がついた頃には、口に言葉を残す者は誰1人として居なかった。
そして、長が放った言葉を最後に、彼らは進撃を始める。
「お前ら、準備はいいか? 味方の屍は超えて行け! 行くぞッ……突撃ィ!」
そうして、皆誰しもが決戦を覚悟し、命を賭けたその時だった。
”総勢5人”、彼らが突撃して響いた音は、ドアに当たった微かな音のみ。
何かがおかしい――
そう、人数に対して威力が無さすぎるのだ。
刹那、”ただ一人”ドアまでたどり着いた長は、「ゴクリ……」と息を飲み込みながら後方を顧みる。
「あが、あがが……」
その光景を見た長は絶句した。
なぜならば、そこに居たからだ。
”|触手のような不自然な大地のうねり《ネリアの魔法》”に飲み込まれる仲間と、大地の神カーディネリアが・・・
「あら、ガルちゃんの側近さん方ではありませんか。どうしたんです? 私に何かご用ですか?」
”この事態”を飲み込みきれていない彼女は、頭にはてなマークを浮かべながら首をかしげる。
だが、先程の衝撃によって”文字通り”開いた口が塞がらなくなってしまった長は、どうしようにも回答することはできない。
そこで、普段はよく”ガルムの困った話をしに来る”長がなかなか言葉を口にしない事を感じ取ったネリアは、「そう言うことですか」となにかわかった風な態度をとり、側近達を家の中に案内した。
*****
「いやぁ、でもびっくりしましたよ。家に帰ってきたら、防犯用のトラップに引っかかっている側近さん方が居たんですから。」
白くゆとりのあるキトンを着た黄緑と黄色の髪が混じり合う彼女は、そう少し談笑を交えながら凍りついた場の空気を頑張って和らげようとする。
しかし、先程までこの家を破壊しようとしていた彼らにその様な慈悲は無意味。
罪悪感と惨めさで潰れそうな心を、ギリギリの状態で抑え込んで今ここに座っているのだ。
そんな側近達のこともつゆ知らず、ネリアは話の本題へと踏み込む。
「ガルちゃんの事……ですよね」
「はい……」
「辛いですよね、自分の愛する方がいなくなってしまうと」
ガルムが居なくなった苦しさを分かち合って、慰めようとするネリア。
だがその時、側近達は悟った。
「あっ、この神何もわかってねえな――」と。
ネリアはテーブルに置いてあった飲み物が無くなったのを見て、”新しいものを作ってきます”と席を立った。
すると、先程『覚悟の意(笑)』を放った若者が、再度意見を述べ始めた。
「あの、今ならやれるんじゃないですか? 流石に家の仲間では”トラップ”無いだろうし」
「いや、もう帰ろう。これ以上何かして無駄に死にたくないし……」
巻き添えを食らいたくない他の側近も、自分の意見を述べ始める。
そうして言い合いがデットヒートしてきた頃、そろそろネリアが戻ってくると確信した長が”話し合い”を止めようとする。
「お前ら、もうやめんか! 謝るんじゃ。謝れば何とか――」
「何いってんだこのじじい! 大体お前が報復行くぞとか言い出したんだろうが!」
「は〜? わしもあそこまでやるとは思っとらんかったし〜。ドア壊そうとか言ったのお前だろ!」
崩壊したこの組織で、もう上の者に従うものなど居なかった。
しまいには、止めようとした長が入ったことでさらなるデットヒートを展開してしまう側近達。
このまま、どうしようもない言い争いが続くと思っていたその時――
「今の話、どういうことですか?」
新しい飲み物を作っていたはずのネリアが、ものすごく怒った顔で側近達を見つめている。
それもそのはず、”長い時間”、”外まで響く大声”でこんな事を言われていれば、それは誰だって気づきざるを得ない。
怒った”十二神”の怖さをガルムで体験済みの側近達は、惨めにも自分だけは助かろうと仲間を売って逃げようとする。
しかし、ネリアはそれを、まるで道端のに生えている雑草を踏み潰すかのように一蹴した。
「愚かですね。ガルちゃんの為に悔いを改めて心を入れ替えてください。」
普段温厚な性格のネリアも流石にこれは許せなかったのか、”|触手のような不自然な大地のうねり《お得意の魔法》”を使って側近達にお仕置きを開始した。
久しぶりにガルムに仕えていた彼らを見て、ガルムが恋しくなったネリアは、人間界に降り立った彼女に思いを馳せる。
「はぁ……側近さん達があんなんじゃ、そりゃガルちゃんも逃げちゃいますよね。でも、いいな〜ガルちゃん! 会いたい、遊びたい、抱きしめたい。・・・そうだ! 私も”人間界”に行けば良いのでは!?」
そうして、そんな突拍子もない事を思いついてしまった彼女は、早く人間界に行くためガルムの残した仕事をおわらせにかかった。