2ガルムのお家「小野さん登場!」
「ん……? やばい、なにか白いものが降ってきた。これは・・・毒か!?」
あたり一面には雪が降りしきり、肌をも凍らす寒い夜。
そんな時、ガルムは……雪に埋もれていた!
なぜかその理由はガルム本人にもわからない。だが、何故か埋もれているのだ。
「ずも、ずももお〜! (誰か、助けてくれ〜!)」
*****
私は小野、【黒髪、ミディアム、女、ちょい太眉、社畜】それが私の説明書だ。
一般的な家庭に生まれ、そこら辺の会社で働き、少し大きめのマンションに住んでるだけの平凡な人生・・・
今夜は寒い、雪も降ってきた。
痛いし、辛いし、早く帰ろう。
そう思った時だったーー
ーー道端で、なんか見つけた。
これは、一体なんだろう? 雪の中に埋もれてて、あんまりわからないけど……人?
でも、ぴょこっとした耳が生えてるように見える・・・あぁ、なんだ夢か。
私は死ぬのだろうか、こんな寒空の元で。
そんなことを考えていた時、死にかけていたからだろうか、何か足元から声らしきものが聞こえてきた気がした。
「人間……おい人間!」
でも、その声は段々と鮮明になっていって。
・・・はっ!? 先程聞こえてきた何者かの声で目が覚めた。
これは……夢じゃない? じゃあ、さっきの子は・・・あ!
私が下を向いた時、その子は私の靴の下敷きになっていた。
その事実に気がついた私は気が動転し慌てふためき、その場で何回も地面を踏みつけてしまった。
その時、下に埋もれていた彼女が怒り狂った表情と共に飛び起きた。
「痛いわ〜! なんだお前、さっきから頭をドスドスと踏みつけおって!」
そう彼女は、地団駄を踏みながら怒りの言葉をぶつけてくる。
でも……よかった。見た感じ怪我などはしておらず、ぴんぴんとしていて大丈夫そうだ。
”もし怪我でもさせたら”そんな不安が消え去り、安堵の気持ちがこみ上げて来たその時、私は夢では片付けられないそれに気がついた。
彼女の頭、そこには”耳”がついていたのだ。何を言っているのか分かりづらいとは思うが、いわなれば犬。
そう、ピョコッとした犬耳がついていたのだ。
彼女はずっと怒って何かを言っているが、私はとにかくそれが気になってしまった。
”どうせこのままでも”と思い、試しにそれを聞いてみることにした。
「その耳、コ……コスプレ?」
その時、私の質問に対して彼女は、一瞬キョトンとした様子を見せた後にさらなる怒りの炎を燃やして返答した。
「は? 舐めとるんかお前えぇ! これのどこがコスプレに見えるんだ! しばき倒すぞ!」
どうしよう。私が気になってしまったがあまりに、彼女の怒りを更にヒートアップさせてしまった。
いまなら、先程までの欲に満ちた自分をぶん殴って止めることができるが、起きてしまったことはしょうがない。
でも、一体なぜ彼女はこんな場所で雪に埋もれていたんだろう。
そうして考えて見ると、彼女に対してなんだかまた色々なことが気になってきた。
でも、そんな事、私が知る必要は無いのだろう。
私は、彼女の全身を見てそう思った。
だって、あんな胸とかの重要部分だけを隠した……”痴女みたいな格好”をしているのだから・・・。
彼女も色々な苦労をしてきたのだろう。
よくよく彼女を見てみると、全身に鳥肌がたち、今にも凍えそうなほど震えているではないか。
こんな私で力になれるなら、助けたい。
いや、助けなければいけない。
多少陰キャよりの私には柄にもない考えだが、なんだか今はそう思った。
そうして私は、彼女に一つの提案を申し出る。
「あなた、行くとこ無いんでしょ? 使ってない部屋があるから、私の家……来ない?」
私の申し出に、彼女は不意をつかれたかの様にまた一瞬キョトンとしていたが、私の言葉を理解した彼女は眉をハの字にして、ここまでの経緯を話しだした。
さぞかし辛いことでもあったのだろう。私は、泣き出す彼女を抱きしめながら頭を撫で、家に迎え入れた。
*****
「お前ムカつくけど良いやつだな。私の子分くらいにはしてやっても良いぞ。」
お風呂上がりの彼女は、先程までの出来事を忘れたかのようにそう生意気な言葉を話しかける。
別に、私はこんなことで怒るほど小さい人間ではない。
だが、ここの主人は私だ。
で、あるから、まぁ冗談ではあるが、ここは強気に行かせてもらおう。
そうして、私は持ち前のちょいつり目を更に尖らせ、威圧感マックスで話始める。
【へぇ……。お前、舐めてっとまた埋めるぞ。】
私の言葉を前に、彼女はビクビクと震えだした。その様子を見て”これで態度も治るかな”と、そう思っていた時だった。
なぜか、彼女も負けじと反論しだしてきたのだ。
でも、体の様子は先程までとはなんら変わりはない。そこで私は、このノリに乗じて一芝居打つことにした。
それからというもの、私は彼女とバトルを繰り広げた。
ここでは、その一部始終をお見せしよう。
「お前、こっから出てけよ。」
「は? いやだ! お前が出てけや!」
「追い出すぞまじ。」
「ふん、やれるもんならやってみろ! もし、こんなかわいい私にそんなことをすれば……お前の良心はズタボロじゃあ! まあ、こうして家に入れてくれていることには感謝するが、別にこのくらい普通だし〜(笑)」
冗談とはいえ、そこまで言われたら誰だって頭に来る。そうして、私は彼女を追い出すこと(仮)に決めた。
それから私は、無言で彼女を持ち上げ、玄関に続く廊下を歩き始めた。
そして、彼女にわざとらしい別れの言葉をかける。
「じゃあね」
そう言った瞬間に、彼女は手を抜け出そうとしながら謝り倒す。
「ごめん、私が悪かったから! 謝るから!」
「これに懲りたら改心しろよ?」
彼女は先程の展開で大丈夫だと思ったのか、余裕の表情を浮かべながら先程までの発言を撤回するかのように話し始める。
「はぁ? そんなのするわけーーー」
「じゃあ出す。」
「嫌だ〜! 改心するから! 大人しくするから!」
はぁ、こんな週末の夜に何やってんだろう。
彼女も大人しくなりはじめたことだし、もう寝るか。
・・・ここまでで彼女も意気消沈し、流石に3回連続で同じ流れはない。
そう油断した時だった。
寝室に向かう廊下の最中、いきなり彼女が発狂しだしドロップキックをかまそうとしてきたのだ。
「油断したな雑魚め! 出てけ〜!」
「お前がな!」
彼女が放った殺意むき出しのそれに対して、高校時代レスリング部に一週間だけ存在した私は、彼女の勢いをそのままにして外へ投げやった。
「嫌〜!」
そして、彼女はまたマンションの下に積もった雪山に埋もれるのであった。
*****
「名前、なんて言うの?」
私がそう聞くと、彼女はよく見る日朝戦隊モノみたいなポーズを取り、まるでこれを待ちわびていたかのように意気揚々と話し出す。
「私の名は”ガルム・マーガテシウム”この世界の神だ!」
「この世界のゴミ?」
「ちが〜う!」
どうやら、この子は”神様”という設定らしい。
あぁ、この世の中で他に頼るものがなかったんだ。
そう考えると、初めてガルムと合ったときの感情が蘇る。
なんてーーー。そんなことを考えて居た時、ガルムが強めに話しかけてきた。
「おい、それやめろ。まるで私が憐れ者みたいじゃないか。」
「え……? なんで?」
「なんでも何も、私神だし。」
・・・ガルムの言葉を聞いた時、とてつもないほどびっくりした。
まるで心の中を隅々まで見られたかのようで、ちょっと気持ちわるい。
でも、どうやらガルムは”本物”っぽいようだ。
そうとは言っても、まだ信じ切ることができない私は、また試しに聞いてみることにした。
「本当に神様……?」
「そうだと言っておるだろ」
「空とか……飛べる?」
「おん。」
私がそうやって無理難題を問いかけると、ガルムは全てできるという。
しかも、宙を浮きながらそれを言うのだからこれは信じざるを得ない。
だが、ここで”ガルムは褒めると調子に乗る”と感覚的に悟った私は、一つ面白いことに挑戦してみた。
「ガルム! 凄い、凄いよ! 本当に神様だったんだね!」
「お、おう。も、もっと私を褒めても……いいんだぞ?」
「ガルムは天才!」
「おう!」
「ガルムは有能!」
「おう!」
「ガルムは最強!」
「うおおおおおおおおお!」
私が思ったとおり、褒めちぎられるとガルムはめちゃくちゃ調子に乗るタイプだった。
しかし、私の計画はここで終わるほどやわではない。
私は、ガルムに神の力を見せてもらうことにした。
「ねぇガルム? 神様の力って何でもできるの?」
「おう、大体は結構できるぞ!」
「じゃあ、部屋の掃除とかって……できたりする?」
これこそが、私の狙いそのもの。
名付けて「ガルムを褒めちぎって、めんどくさいこと全部やってもらおう作戦」だ!
さぁ、うまく決まるかはこの後、ここが正念場。
どうだ! そうして私は、ほしいおもちゃに目がない子供のように輝いた期待の眼差しをガルムに向けた。
そして肝心の返答は・・・
「任せておけ!」
ーー大成功だった。
ここまでくればその後も簡単、なにか頼むたびにガルムが「そんなの余裕だ!」とかなんとか言って全部やってくれる。
完全に調子に乗ったガルムは、こんなにも神らしいのか。そう思う私だった。
*****
その後ーーー
「ガルム〜椅子ないから這いつくばって〜」
「まかせろぉ〜」
『ペットぺとぺと山田! あなたのお家に新しい家族が、わんさかわんさかでっきあっがり〜! 夢にまで見たマイホーム。楽しい家族の嬉しい空間。それらのすっべてがここにあ〜る。ペットパニッシャー・山田!』
私がゆったりまったりとしていたその時、不意に流れたペットのテレビのCM”ペットパニッシャー・山田”。
その歌は、全国民の内約80%が知っているといった普及ぶりで、聞いたことがない者は居ないという。
「うちも欲しいねぇ〜ペット。あ、ここにいたか〜」
「そうだな〜ここにーーー。あ? ペット? どこに? もしかして私が……ペット? どういうことだおいーーー!」
ガルムの洗脳は解けた。
*****
私は今……人間の住処にいる。
マンションという建物の四階、少ししか無いベランダで、ゆったりと空を眺める。
あぁ、ネリア達は元気だろうか。
もし、今の私を見たら彼女たちはどう思うだろう。
劣等種と言われた人間のだぼった服を着て、住まいを分けてもらい、こうして生きながらえている。
そんな感じで、改めて自分の在り方に沈思黙考していたその時、家の中にいた小野が話しかけてきた。
なにか渡したいものがあるらしく、少しもじもじしているのが目に見える。
まぁ、心を読めば全てわかるのだが、初めて小野と合ったあの時に”家に住まわせる代わりに、神の力は極力使わないこと”という制約をかけられているので、今ではそれも、ただの空想論である。
そうこうしている内に、私は小野の前に辿り着いた。
「ううい、来てやったぞ。なんか用か?」
「ガルム、あのね? これ……どうかな?」
そうして小野が差し出した物は”淡い桜色の髪留め”だった。
別に、長い髪の対策に困っているわけでは無いし特別欲しいものなんかじゃない。
だけど……なんでだろう? 少しだけ、心がざわつく。
この髪飾りは、いつも見ている世界よりも、なんだか少し輝いて見えた。
「ありがとう……。」
いつもの私であれば”いらない”とか”じゃまだ”とか言っていたとこだろう。
でも、こんな気分は初めてだ。だからこそ、今回は素直に受け取った。
やはり、私は変わってしまったのだろうか?
いや、こんな事”長い命の気まぐれ”に過ぎない。
どうにも説明のつかない私は、そう思うことにした。
その後、もらった髪留めを付けて小野に見せた。
「ガルムかわいいじゃん。」
私を評価するその小野の言葉に、なんだか耳がぴょこってしまう私だった。
第2話です。小野さんが出場しました。メインキャラです。