8「神様襲来」②
さっきのバトルで荒れた家の中を片付けて、布団がはずされたこたつを4人それぞれが別の方向で座る。
普段はガルムと2人きりだからか、この光景はなんだか新鮮だ。
「あ、あの……。まずは自己紹介でもしますか?」
「そうですね、小野さんは私達のこと知りませんから。とりあえず私から始めますか?」
「よろしくおねがいします」
全体的に透き通った、黄緑と黄の2色の髪。
白いキトン(天使が着ている様な服)を身につける彼女が、私のフォローをする。
「では、私は天界十二神『大地の神』カーディネリアと申します。ガルちゃんとは小さい頃からの付き合いで、今でも仲良くさせて頂いてます。これから、色々とご迷惑をおかけするかも知れませんが、どうかよろしくおねがいします。」
「ご迷惑なんてそんな……。というかやっぱり! さっき声を聞いたときに、もしかしたらな……とか思ってたんですよ。お花見のとき、こちらに来るっていってましたもんね」
「はい! 覚えていてくださり光栄です。ですが敬語じゃなくて大丈夫ですし、気軽にネリアとでも呼んでください。私はまぁ、一応こんななりですから。元々こういう喋り方なのであまり気にしないでください」
久し振りに会った同級生の様なのりで社交辞令的な挨拶をかわしていると。
目の前のガルムから、まじまじとした視線が送られて来るのがわかった。
さっきまで感動の再開ムーブをかましていたことだし、ネリアさんを私に取られたとでも思っているのだろう。
「じゃあ次はガルムの番ね」
「え〜、なんで私もやらなきゃいけないの。だってみんな私のこと知ってるし、せめて最後じゃないと主役感薄れるからいや!」
「はぁ……しょうがないな。じゃあ最後でいいからちゃんとやってね。こういうのはとりあえずやっとくのが大切だから」
「へいへいよ〜」
”お願いだからしょうがない”とでも言いたいのか、全身を脱力させて返事をするガルム。
さすがのこの有様にはネリア達もびっくりしたのか、なんとも言えない顔をしている。
誰かこのふにゃけた野郎をどうにかしてくれないだろうか。
もし今私がサーファーだったら、溺れている中で3秒くらい時間をおいてから助けてやる。
「次は誰にしましょうか?」
くだらないことを考えている内に、ネリアさんが指揮を取ろうと動いてくれた。
でも、この家の主として決して客人任せのままではいけない。
そう思った私は、次の自己紹介に名乗り出る。
「はい、次は私がやりますよ。ガルムが迷惑かけてますし」
「いえいえ、全然迷惑なんて思ってませんよ。でも、他に誰もいないみたいなのでお願いできますか?」
彼女はそう言ってはいるが、確実に迷惑をかけているこの状況で、申し訳無さがこみ上げて来る。
あとで人間界のお見上げでも渡そう……。
「えーっと、私の名前は小野って言います」
「人間の人!」
「い、今は普通の会社で働いていて、社会の役に立てるように頑張っています」
「よっ! 社畜の鏡!」
「……3ヶ月くらい前から、ガルムと2人で暮らしていています」
「しらすのなまこ!」
自己紹介をしているという最中、ガルムが謎の合いの手を入れ始めた。
友達も見ているというのに、一体何をしたいのだろうか。
(しかも最後は何言ってるのかわからなかったし……)
「自己紹介ありがとうございました! 社会貢献も素晴らしいですが、お体を壊さないように気をつけながら頑張ってください!」
ガルムと同じ神という立場だというのに、深々と頭を下げるネリアさん。
言葉遣いも仕草も、どれ1つとっても繊細で丁寧。
神の本来あるべき姿を模写したかの様な存在。
もしもーー
もしも、家に来たのが彼女だったら。
意図せぬ内にそんな事を考えてしまう。
「そうだったらどれだけ楽なことか……」
「どうされました?」
「あ、いえ、なんでもないです」
危ない危ない、つい口が滑ってしまった。
こんなことガルムに聞かれたら、またケンカになってしまう。
一方その頃、ネリアさんは寝ているメルティを起こしていた。
「メルちゃん、起きてください! 出番ですよ!」
「んえぇ? がるむ〜、ほらしょうぶしろよ〜」
「はぁ、この手は使いたくなかったのですが……。メルちゃんの好きな人、今から誰か教えま〜す!!」
「ーーえ!? ちょ、ちょっとまって! ネリアほんとにそれだけは!」
「おはようございます。メルちゃん」
どこの世界にも、”お姉ちゃん代表”みたいな人はいるのだろうか。
その洗練された手さばきに、少しばかり魅了される。
だがそれだけではない、同時に訪れたとてつもなく嫌な予感が私を襲う。
周りをぐるりと見渡してみると、その理由がわかった。
ガルムが、なにかをひらめいた様な顔でニマニマと見ているからだ。
どうせまた、しょうもないことを考えているのだろう。
そうこうしている内に、メルティが準備を終えたようだ。
「えー。私の名はモルフィザコ・メルティリア。天界十二神の1神であり、すべての破壊を統べる神! あとそこにいるお前、いくら質の良い人間だといえども所詮は人間。立場をわきまえた後、感謝と礼とおかしを貢ぐがよい!」
【メルちゃん……?】
「ね、ネリア。いや、これはその……あの」
「このも、コネも、そのも、あのも、ありません! やっとの思いで人間界に来たのに、変なやつだと思われたらどうするんですか!? だいいちメルちゃんがついて行きたいって言ったから、一緒に来たのに!」
「ーーそういえば……なんで人間界に来たんだ?」
ネリアさんとメルティのドタバタ。
見覚えのあるその光景に、唖然としていたとき。
ガルムがズバリと切り込んだ。
どうやらこの内容には、ネリアさんも答えづらい理由があるようで。
ニッコリとした優しい顔から、段々と深刻な面持ちになっていくのがわかる。
……じ、実はーー
S■O■S
話を聞いていく内に、ガルムも暗い表情を浮かべることが多々あった。
ネリアさんの話をまとめるとこう。
1、ガルムがいなくなってから天界は荒れ、1部天使や神たちが反逆を行っていること。
2、いなくなったガルムの代わりに、他の同僚さんたち(ネリアさんたちを含める)に大量の仕事が流れていること。
3、この世界には、天界以外の他の世界として冥界や魔界などがあるということ。
そして4つ目、その別世界の人たちが、この機を良いことに天界や人間界に攻め込んでいるということ。
私も、その驚愕する内容に言葉が詰まる。
1、2番目はガルムを天界に返せば済む話。
だが4番、これが一番やばい。
「攻め込んでいるって……それ戦争じゃないですか! 今すぐ止めないと!」
「あー小野、それは無理だ。諦めろ」
ガルムから出た予想外の一言。
神がするとは思えない合理的じゃないその展開。
ネリアさんたちを見ても、みな同じ表情をしている。
「なんで……」
「なんでもなにも。『やめよう』って言って通じる相手なら、2億年も敵対なんてしてないからだよ」
「におく……ねん?」
「あれ、言って無かったっけ。そう、私達は2億年前からバチバチなの。……あ! でも年齢が2億歳ってわけじゃないからね!? これは私達が生まれるより前からってことだから!」
ガルムの述べる内容。
これが全て正しいのであれば、人類きっての大ピンチ。
しかも、その原因がガルムで今は私の家に住んでいる。
「……ガルム。もし人間界が滅んだらさ、それって私も共犯になるのかな?」
「え……いや大丈夫だとは思うけど。戦争とか戦いとか言ってるけど、実際はお祭りみたいなものだし」
「そうなの?」
「うん」
ネリアさんたちも、ガルムの意見に賛同するように首を振る。
その瞬間、なんだか先程までの緊張感が抜けて、一気に安堵した気持ちで包まれた。
「そう、ネリアさんたちも言うなら大丈夫そうだね。あ〜心配して損したよ。……っていうかガルムって本当に神様だったんだ」
「え!? 今まで信じて無かったの!?」
「まぁ、中身すっからかんのハチジェットくらいには……」
「信用感ゼロ!?」
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