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次元最強のガルム様  作者: 神無月 雄花
第1章 天界と人間界
13/21

7「ガルムのアルバイト」③

▼▼◎?◎



「いらっしゃっせ〜!」


 まだ開店前の朝イチから、喫茶店ではあまり馴染みのない挨拶をするガルム。

 アルバイト用の制服を着た彼女は、楽しそうにいきいきとしている。

 だが、昨日の件(面接)もあって”いきなり接客は難しいだろう”と判断したマスターは、カウンター席の向かいにある厨房に案内した。


「当店では、色々なものを作っていてね」


 そうして見せられたのは、ハンバーグやオムライス、その他数多くの料理が載っている見開き2ページのメニュー表。

 喫茶店といえば、”コーヒーとわず「かながらのデザート”というのが主流だ。

 数年前、開業当初に毎日来てくれた人のリクエストで、ここまで商品が増えたとマスターは語る。

 一方、話を全く聞いていないガルムは、メニュー表をまじまじと見ながらよだれをずるずると垂れ落とす。


「どうだろう、メニュー表(ここ)にあるものなんかは作れるかい?」

「はい! 食べれます!」

「いや、そうじゃなくて……」


 ガルムの返答に困惑するマスター。

 しかし彼は、人を見た目で判断してはいけない事を知っている。


(もしかしたらこの子も……”やればできる”んじゃないか!?)


 根拠もない自信が、脳内にすっとよぎる。

 次の瞬間、マスターはガルムの腕を引っ張り「これを作ってみてくれ」と、オムライスのレシピシートを渡す。

 ガルムは露骨に嫌そうな顔をするが、なぜか乗り気のマスターに気圧され、料理をする(作る)ことになった。


「やってみますか、知らんけど」


 マスターは、厨房の入り口に背をかけながら佇んでいる。

 ガルムが厨房に入ってから、あえて中を覗かないようにしているのだ。

 あえて言うならば、愛弟子の卒業試験のようなものだろうか。

 先程から妙に感じている、彼女の可能性に賭けてみた。


 そうしていざ料理が始まると、背後から伝わってくる彼女の緊張感。

 卵や野菜、米などを炒める食欲をそそる音。

 そして、秘伝のソースを使った香ばしい匂い。

 これらに対して「やはり、やればできるじゃないか」と、うなずいていた時。

 突如、マスターの脳内に”|ガルムと切磋琢磨した思い出《見覚えのない記憶》”が浮かび上がる。


「ねぇマスター。これでみんな喜んでくれるかな?」

「大丈夫だよ。君は今まで頑張ってきたのだから。必ず”美味しい”と言ってくれるさ」

「本当?」

「あぁ、本当だとも。君の腕はもう、僕の事なんかとっくに越しているよ」

「へへへ……やった!」


 ”あ、あぁ。あああ。”


 頬を伝う生暖かい感触。

 大粒の光が、”感情(思い)”を乗せてこだまする。

 そう、マスターは……泣いていた。


 だが、時は残酷。

 余韻に浸る間もないまま、ガルムは料理を終える。


「マスタ〜出来たよ〜。あれ、なんか目赤くない?」

「大丈夫、そんな事無いよ。さあ、食べようか」


 そうしてガルムの指摘を軽くあしらい、4人用のテーブル席へと座るマスター。

 目の前に置かれたのは、注文したオムライス。

 見た目は普通。

 香りも正常。

 よくわからないのは、ケチャップで描かれた謎の絵くらい。


(体に頭が生えただけの、猫みたいな、犬みたいなやつ)


 五感上の安全確認を済ませた後、スプーン1杯分の量を頬張る。

 すると……今まで感じたことのない衝撃が、彼の脳を破壊する――


「うがあぁぁぁあぁっぁ!」


 彼は知らなかったのだ。

 人間界に来てからというものの、食べるものは全て”小野の手料理”か”外食”。

 そんな彼女が”オムライス(まともな食事)”など、()()()()()()()()()()()()()()”事を。


 天井を見るように顔を上げ、瞳からは今にでも”竜の息吹(ドラゴンブレス)”を吐くかのように光線が出ている。 

 先程の感動を全てひっくり返すような、”ひどい”なんて言葉じゃ表せない味だった。


(これはヤバい。この子は、本当に料理が出来ないのか……) 


 だが、ここで素直に”まずい”なんて言ってはいけない。

 素直は時に、むやみに人を傷つける刃と成る。

 そう、私は”それ教える為”に彼女を雇ったはずだ。

 どうにかして自我を保ったマスターは、極力ガルムを傷つけないよう、できるだけ優しい言葉で伝えようとする。


「こ、個性的な味だね〜。な、なにかアレンジなどを加えたのかい?」

「いや、レシピ通りにやったけど……。やっぱり、ダメ? ・・・だった?」


 ガルムは上目遣いで、その大きな金眼を輝かせ、今にでも泣き出しそうな顔をする。

 ”これはヤバい”マスターの理性は、もはやボロ雑巾のように風穴だらけだった。

 こんな時に、中身もなにもないフォローしか思い浮かばない自分に後悔をする。


「ぼ、僕はいいと思うよ〜!」

「本当!?」


 彼女の純粋な笑顔が、マスターの心に染みる。

 だが、己が身を削り取って場を繋いだ事に、マスターは安堵した。

 祝と言っては何だが、この喫茶店名物のコーヒーでも飲んでほっと一息つこう。

 厨房のカウンター側に設置された棚を開けて、カップを取り出す。


「う〜ん今日はこれ……かな」


 使う豆を4種ほど選び、流れるような手付きで進めていく。

 何時もやっている工程だからこそ、”今日は調子が良い”という事がわかる。


「良い日になるといいな」


 淹れたての香ばしいコーヒーを飲みながら、マスターはそう願った。

 しかし、この世界はいつでも無常。

 今訪れては行けない危機が、ドアを開けた時の鈍い音を立てながら襲来する。




「こんにちは〜。今、大丈夫ですか?」

「あぁ、すいません。まだ開店前でして……」

「・・・え? もう午前10時ですけど。今日は休業……でしたか?」


 この喫茶店の開業時間は午前9時。

 マスターは急いで時刻を確認し、息を飲む。


「すいません気が付きませんでした! 大丈夫です。お好きな席にお座りください!」

「はい。ありがとうございます。」


 来店したのは、ショートカットの綺麗なお客さん。

 テーブル席の方を見た彼女は、驚きと困惑で埋め尽くされる。

 それもそのはず、そこにはバイト服を着たウエイトレスが寝ていたのだ。

 彼女は、意図してそのテーブルに座り。

 熟睡するガルムに声をかけた。


「こんにちは」

「ん、んむむうぅ〜」

「もうお店開いてますよ〜」

「んん……?」

「起きてください!」

「んあ!?」


 突如として聞こえてきた、心の底を呼び起こすかの様な不思議な声。

 夢の世界に居たガルムは、一瞬にして現実へと連れ戻された。

 気がつくと、目の前には名も知らぬ女性が一人。

 頬杖をつきながら、優しい目でガルムを見ている。


「あ、起きましたか。ウエイトレスさん、仕事のお時間ですよ」

「え、もうそんな時間!?」

「はい。なので注文お願いします。ではこの、”特性コーヒーのモーニングホワイトシロップ付き、マスター仕立てのベイクド黒ごまサラダの温玉チーズ乗せセット”というのを1ついただけますか?」


 寝起き早々に聞かされた、呪文の様な言葉の羅列に困惑するガルム。

 バイト初日の彼女はもちろん、それが当店の商品名だということを知らない。

 だが、いくら”聞き逃した”からと言って、こんなくそ長い商品名をもう1度言ってもらうのも気が引けてしまう。

 そうして、テンパりにテンパりを重ねた彼女は、勢いのまま注文を了承した。


「とまき、あれ……モーニダイアロンダイト付き、バスター利上げの? ・・・バイクサラオチ……ん?」


 中途半端に起こされた眠気と、よくわからない呪文で頭が占領されたガルムは、足取りがおぼつかないまま厨房まで歩いた。

 席で待つ彼女は、心配そうな目でガルムを見つめる。

 この状況を楽しんでいるのか、決して助けは出さずに。


「ま、マスタ〜。注文が、はいりまし、た……」


 目がぐるぐる巻きになっているガルムを見て、マスターはぎょっとする。

 注文内容を確認しても、しどろもどろな回答しか帰ってこない。

 そう、時間が経つに連れ事態はさらに悪化していたのだ。

 何度も頭の中で反復している内に、ついにはうろ覚えであった原型すらも忘れてしまった。


「どれかな……?」


 マスターはメニュー表を見せ、ガルムの記憶から注文(返答)を確認しようとする。

 脳がオーバーヒートして煙が出ている彼女は、残された力を使い、震える指先で呼応した。



「おまたせしました。コーヒの純粋割り、ココアロットミルクティーです」

「え、あ。頼んだのちが……。ありがとうございます」


 力を使い果たしたガルムは、スタッフルームで倒れている。

 注文と持って行った品が一致しないことは、その場の空気感でマスターに伝わっていた。

 しかし、ミルクティーを持った彼女が”ありがとう”と言っているので、この事実は隠蔽されることとなった。


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