建造費を支払え!艦政本部借金地獄!
南雲機動部隊の真珠湾攻撃は大成功、真珠湾の戦艦をすべて沈めただけでなく、飛行場や港湾設備、さらには燃料タンクまで完璧に破壊した。
さらには道に迷った艦上攻撃機がミッドウェー沖で敵空母を発見、攻撃隊を送りこれを撃沈せしめた。
当然のことながら海軍だけでなく、陸軍や国民、政府高官らも大喜び。新聞は大々的に報道するし、ニュース映画も派手な脚本で日米開戦を伝えた。
しかしそんなお祝い気分に一切染まれないのが海軍艦政本部である。艦政本部はとても重大な問題を抱えていた。
時は1937年に遡る。海軍では呉で大和型一番艦を、佐世保で二番艦を、舞鶴で三番艦を、大神で四番艦を、岡山県は玉野で五番艦を、今治で六番艦を同時建造していたが、3月から9月にかけての間、建造がストップしていた。大きな設計変更が行われたからである。
この変更には、船体構造の変更と、窓を廃止してエアコンを完備する設計変更が含まれており、この変更のために実に半年の期間を要したのである。
建造期間が半年の延びるとその分だけ建造費が膨れ上がる。予算承認の時点で建造費はカツカツ、空母の予算まで食っていた。そして膨れ上がった建造費はどこから持ってくるかというと、これまた空母の予算であった。
問題はここからである。予算が減ってしまったため、海軍は翔鶴と瑞鶴の建造費用を払えていないのだ!
いや、完全に払えていないわけではない。翔鶴の建造費の七割は払った。瑞鶴も一割は払っている。しかし払い切っていないのでは詐欺である。船泥棒である。盗んだ船で挙げた戦果では国民の戦意は下がるだろう。どうにかしなくては。
といった具合に悩んでいると、平賀造船中将が現れて下記のように一言。
「俺が土下座してきてやる。」
もちろん四大財閥より下の造船所に造船中将が頭を下げたとあっては海軍のメンツはぶっ潰れてしまう。皆平賀中将を止めようとするが、通電しているニクロム線にいくら水をかけても冷えないのと同じように、彼は周囲が止めるのも厭わず青森行きの列車に乗り込み、ささっと青函連絡船にのりついでしまった。
平賀中将は札幌の北海道炭鉱汽船の本社にたどり着くなり、社長に向けて頭を下げた。
「申し訳ありませんが、これ以上建造物を支払えません。この平賀が腹を切ってお詫びします。」
「待て、おい秘書、平賀中将をお縛りせよ!」
「かしこまりました。」
このようなやり取りがあったかどうかは定かではないが、艦政本部に帰ってきた平賀中将の体には縄できつく縛られた跡がくっきりと残っていたという。
そして、社長は平賀中将を縛らせた後、とある契約を持ちかけた。
曰く、「建造費を払えないのは理解した。なんか馬鹿でかいフネ作ってるらしいな。それなら金が足りんのも仕方がない。空母の金はチャラにしてやる。ただし、10年後までにうちの新商品を最低20万丁買うこと。」
とのことだった。
無理やり契約書を書かされた平賀中将は青ざめた顔をして艦政本部に帰ってきた。そして、真珠湾攻撃を経て今に至るのだ。
艦政本部で何度も行われている会議の議題、それは
「どうやって北海道炭鉱特製20ミリ機銃を1947年までに20万丁買うか」という議論である。
すでに空技廠には話を通して、零戦に一機辺り4丁積んでもらうことにはしているが、それでは量が足りない。
さて困った。困ってしまった。
皆困り果てて悩んでいると、とある若い造船少尉がある案を出した。
「いっそのこと、海軍で使う銃を全部北海道炭鉱特製機銃にしてしまえばいいのでは?」
「それがダメだったから悩んでおるのだ!」
「じゃあ陸軍に話つけてきます。」
「????」
「あっ、ちょっと待て!」
このようなやり取りがあったかどうかは定かではないが、その会議があったとされる日の翌週、陸軍が北海道炭鉱特製機銃を「一式汎用機関砲」として正式化したのである。
すぐさま海軍を経由して一式汎用機関砲は陸軍の各部隊に配備された。そして配備された翌日から戦果を挙げ始めた。
まず一式戦闘機隼や九七式戦闘機に機首機銃として装備されたものが大戦果を挙げた。
銃弾が大型であることにより従来機銃より射程距離が延び、また初速が速いことから命中率も上がった。さらに信管が簡素で起爆しやすい上に弾殻が薄く爆薬量が多いため、被弾した敵機は見るも無惨に一撃爆散した。(なおこれは北海道炭鉱特製肥料改造火薬の威力が大きいのも相まって本当に無惨に爆散している)その威力たるや第64戦隊の加藤隊長をして「ここまで大威力だと敵が可哀想に思えてくる。」と言わしめるほどであった。
続いて戦果を挙げたのは九七式中戦車と九五式軽戦車に主砲同軸機銃、早い話が副砲として装備されたものである。
こちらも交戦するなり大戦果を挙げた。ただしこちらで戦果を挙げたのは徹甲弾である。
まず敵軽戦車を文字通り蜂の巣にした。側面への攻撃に限れば主砲による射撃はもはや不要だった。
また敵戦車のキャタピラに向けて射撃すれば用意に切断できた。大口径機関砲で徹甲弾をたくさん叩きつければ当然の結果とも言える。
最後に紹介するのは機関銃部隊である。なんと92式重機関銃だけでなく、96式軽機関銃さえも駆逐して配備された。
結果は当然ながら大成功。しかしあまりに大威力すぎて敵兵の死体が原型をとどめておらず、召集兵が敵を可哀想に思うようになり後に戦意の喪失に繋がっていく。
これにより、なんとか予定購入数の半分に目処を立てることができた艦政本部はひとまず安心するのだった。
しかし艦政本部の受難はまだまだ続く…