8青銅
「お姉ちゃんの敵を討てない……、そんな……いやだ……」
七海はギリギリと顔を目や口を歪ませる。
マサキは、竹やり構えマンガで得た情報で突きや返しをしていた。
「すーなーちゃー」
神槍には及ばないが、さばこうという意思はある。
「悪あがきしないで、大人しくしてくれませんか?」
ひかりが真琴に喉元に木刀を突き当てる。このまま突けば喉がつぶれ呼吸ができなくなる。
「人間とは思えない力と速さでしたね。さてはあなた尸ですね。意思疎通ができるということは……饕餮。」
「私は死んでいる。そう死んでいるらしい、実感がないけど。でも私は私……だと思う。」
玄武の傀儡にしては、行動が自立的すぎると思っていた真琴は合点がいった。
「では、あなたは元の意思があるのですか?饕餮がなぜそんな非合理的な選択をしたのか。」
「私は……彼に命をつないでもらったの……」
真琴はひかりの言葉に気配だけマサキの方に向けた。マサキは相変わらず3~4mの竹を器用に振り回していた。
「彼がそうなのですか。では彼が饕餮のマスター。では深雪様は、玄武は……18歳くらいの女性の尸は……。」
「知らないわ。私も詳しく説明できないの。それにおしゃべりする余裕なんてあると思って?」
ひかりが木刀状の枝を喉に押し付ける。
「もっと、もっと根を張るのよ。もっと力強く。」
七海が青龍のカードに念を込める。錬丹金板の巫女は内丹術で気のつながりを持っている。金糸でつながらないだけで、その実はカードの精神浸蝕を受け入れている。精神のバランスと気の圧力で均衡を保っている。精神が乱れる事は生と死の占有率が死へと傾く。
「もっとよ!もっと!!」
七海が願えば願うほど、尸に組換えようと、青龍は七海を喰らおうと金糸を肉に突き立てる。金糸が脳髄に届けば取返しがつかない。しかし金糸が彼女の末端神経から信号を送り彼女の精神を支配し、もっと攻撃的な形に変えていく。
『当方の浸蝕は回線を切ればよい。尸なれば、自滅プログラムを走らせれば肉体が崩壊する。勝ったな。』
「ふざけた事を言ってんじゃねえぞ。問題をややこしくするな。ゾンビを増やすのかよ。で、壊死させるのか!?」
マサキは金板の話を防戦一方の中、ふざけるなと思いながら聞いていた。思わず声がでた。
『問題ないだろう。障害は除くものだ。』
「何を言っている!?」
真尋がマサキが突然、言い出した言葉に不安がよぎった。
「まさか、七海様が尸に堕とされるとでも?」
真尋がマサキの牽制から距離をとり、攻め手を緩めた。そして。
「おい、貴様。誰と話している。壊死とはどういう意味だ。」
「え?……ああ!そうか、板っきれのこいつの言葉は聞こえないか。……板の奴は金糸とか脳とかにハッキングできる。そして中枢を崩壊させるんだ。」
手をポンと叩き、先日の件を思い出して言った。
「おい!なんだと!!崩壊させるだと!!今の七海様は尸なのか?」
『現状は、気を強制的に吸い取られているが、時間の問題だろう。』
マサキが金板の言葉を声にする。
「まだ大丈夫だ。気のエネルギー補給源になっている。」
「それはマズい!早く青龍の龍脈を絶たねば!」
「真琴!!七海様の危機だ!!青龍に喰われる、尸にさせるな!!さっさとカタズけて七海様を助けるんだ!!」
真尋が叫ぶ。
真琴に真尋の声は届くも、ひかりの睨みを逃れようがない。
「くっ!!」
「あのこ……私と同じに……だめよ……」
ひかりは、自らの境遇と同じにならんとする娘に同情、そして自分もカードに喰われるという恐怖が甦る。
ひかりがひるんだ瞬間を見逃さず、真琴は側面に回転、腹ばいから飛びひかりの死角に入り、七海の方へ走った。
真尋も同じく、マサキを避けて七海の方へはしる。
真琴が七海の隠れている木陰に向かうと。
「ぐあああああああ!!」
木の根が地面から襲い、ふっ飛ばされる。同時に木のツルがムチのように真琴を打つ。
真琴は七海の前で倒れた。
真尋はタイミングが遅かったおかげで、打撃を避け距離をとる。
七海はみるみるうちに、ツルに体を包まれ、木の根や枝の台座を作り出し、その中に納められた。
「このままでは、あの捕食袋の中で食い尽くされてしまう。」
真琴は立ち上がり、追撃から逃れ、真尋とともに植物の攻撃を避けながら、近づく機会を伺う。
「金板!!なんとかしろ!!」
『もちろん、崩壊因子は送り込む。そうすれば、直に崩壊する』
「いや、助けろ!!ひかりの時みたいに。」
『それは聞けぬ事案だ。障害は排除する。問題ない。』
「なんだと!!じゃあお前をこのまま遠投するぞ!!」
『そんなことをしたら、助けられんぞ。それでもいいのか?』
「お願い。たすけてあげて。なにか理由があるみたいなの、女の人が行方不明みたいで事情があるみたい。死体になったら話を聞くことも、分かり合えることもできないもの。」
ひかりはマサキの傍に来ていた。
『だが、敵である。如何なる報復を受けるやもしれん』
「いいえ。多分大丈夫。そう思うの。」
ひかりは根拠はないが、尸のカンなのか女のカンでそう思った。
「でもあの高さにあの防御をどうやって破るんだ。」
マサキは真尋と真琴が立ち向かっている現状を見て、詰んでると思った。
「この木の枝は刃物のような形でしかも切れ味もいいから、あの枝くらい切れる気がするの。」
ひかりが木刀の特徴を説明した。
『殺傷能力を高めるためその様にしたようだ、刃物相当に切れる。柄の部分はワシの所業だがな。』
「じゃあこの竹やりは?」
『それはただの竹だ。おぬしが望めば硬くもできるし、ねばりがあり良くしなる棒にもできる。使い方は知っているだろう。』
「どういう意味だ?」
『そういう競技をしていたのだろう。上半身と下半身が均等に鍛えられ、毎日逆立ち歩きもして、方向を変える練習をしているだろう。棒があればあの高さに届く。』
「なぜ分かる!!」
『ワシとおぬしは繋がっているのだぞ。それにかなりの身体能力がある理由を知る必要がある。』
「なにを勝手な。でもお前は何を俺にさせる気だ。」
『なに、簡単なことだ、あの球状体の上から娘を引き剥がす。幸いあの球状体は上方向からの攻撃を想定していない。』
「対空技はない?そんな馬鹿な。つうか、できるか、んなこと。」
『大丈夫だ、極力障害を除く。穴も適正にあけてやる。服も高質化してやろう。娘。お前は援護だ。前面の攻撃を薙ぎ払え。』
「簡単に言うのね。」
ひかりはあきれて言う。
『やらなければ救えないぞ。どうする。』
「やればいいんだろうが。やれば。ちくしょう。でも久々だからな。去年の秋からやってないし、学校に設備もないからな。ぶっつけだぞ。」
『じゃあ準備する。木気を操作する。その竹を柔軟にする。助走路も整える。では、娘は露払いを頼む。』
「うん。じゃあ私は敵を引き付けるから、がんばって。」
ひかりは七海に走り寄り、剣で攻撃をさばいていった。
「じゃあ、準備運動とイメージだ。」
マサキが棒を溝にかけしならせる。棒を上に垂直に上げ徐々に下げながらボックスに差し込むイメージを固める。ボックスに差したら、反り上がるイメージと体を返すイメージで動く。最後に突き放す。助走から距離を再確認して踏切位置と助走距離を決める。」
「あなたたち。話を聞いて!あのこを助けたいの。マサキをあの子のとこまで飛ばせて。」
「なにを言っているんだ?」
真琴と真尋は突然の申し出が理解できない。
「大丈夫。私も助かったのだもの。助かるわ必ず。」
「信用できるか!」
攻撃をさばきながら、3人が七海の前で問答する。
「私は死んでいます。でも元に戻すために饕餮が必要なんです。饕餮を見つけるためにも私はあなたたちと分かり合いたい。何も知らないうちから嫌い合うなんて嫌だもの。」
「饕餮は我が一党が長年守護してきたものだ。返してもらう。しかし、死人を蘇らせる事が叶うなら、七海様も救えるというなら……」
「ええ、救いましょう。死ぬのは嫌だもの。」
マサキが助走に入る。ポールを構え走り出す。ボックスまでの距離の間真上に構えていたポールを倒し、ボックスめがけてポールを突っ込む。助走の勢いがポールをしならせ、合わせて踏切し上空へ逆立ちで上がっていく。上がりきる前に体の向きを変え、棒を突き放す。
その間、真琴、真尋、ひかりが迎撃しながら助走路を確保していた。その真ん中をマサキが駆け上がっていく。ボックスは七海の直下。かなり怖い。なにせ背中を向けるのだから。
「そこ!!」
ひかりが、マサキに向けた攻撃を斬撃して、マサキをフォローする。
マサキが頂点に到達して、七海の上方からそのまま落ちた。70kgが落ちた。七海に絡まったツルごと七海が落ちていく。
七海は真尋と真琴がキャッチした。
マサキはひかりにお姫様抱っこされた。
エネルギー補給源を絶たれた植物の球体から生贄を奪い返そうとツルが襲い掛かってきた。
しかしツルは目前で止まり、枯れ始めた。
『供給源が無ければ、自滅させても構わんのだろ。』
金板がウイルスプログラムを発動させていた。