5青銅
休みの日ひかりは、マサキに連絡を取った。電話ではなく、金板を通じたものだ。
ひかりの家は電車で一駅ほど、自転車で15分というところか。
ひかりの家の近場の喫茶店にマサキは呼び出された。
マサキが軽快に自電車を飛ばし喫茶店到着した。ひかりが四人掛けのテーブルで紅茶を頼みぼんやり外を見ていると、マサキが窓の外に見えたので、ささっと髪型を直し、表情を作ってマサキを出迎えた。
マサキが喫茶店の扉を開けると左右を見回した。ひかりが笑顔で手を振るので、テーブルまで歩いて行った。
「お休みに呼び出してごめんなさい。」
ひかりは上目づかいでマサキを見る。
「いやいいよ。事情が事情だし。」
マサキは椅子を引きその椅子に掛けた。
「あのね、東條君。私の体はどうなったの?あの後考えたのだけどよく分からなくって。」
『娘は死んだのだ。そして永遠の存在となった。』
金板が答える。
「突然しゃべるなよ。」
マサキが小声で金板相手に話をする。
『周りには聞こえていないのだろう。それに音声を用いずとも会話可能だろう。娘とお前はワシを介して会話できる。』
「いや、やめてくれ。」
マサキは自分の心がひかりに読まれるのは勘弁してほしいと思った。
「金板さん。私は生きていないんですね。」
ひかりはうつむいて伏し目になった。
「大丈夫。俺が元に戻して見せる。先ずは調べる事ばかりだけど。」
マサキが根拠のない返答をすると。
『携帯はないのか?それにここに来る途中に機械が走っていただろう。それに王の宮城らしき大型の建物、塔があった。あれらはどうやって造ったものか。』
金板が、流れを遮り勝手な事を言い出した。
「今はそんな事言ってる場合じゃないだろうが!!」
マサキが心の中で怒ると。
『情報集めには重要だ。宮城なら書物もあるだろう。機械の構造が判れば利用もできる。』
「じゃあ図書館に行きましょう。県図書館が近いから。」
あいにくひかりの意識は混濁している。起きていられる時間が限られている。にもかかわらず図書館行を提案した。
「たしかに近いけどそれでも、5分くらいかかるぞ。加納さんの体調では難しいんじゃないか?」
『ワシが体を動かすから問題ない。何なら走って行ってもいい。』
「やめろよ。仕方ないから加納さんは自転車で、俺は走っていく。」
「大丈夫よ。市内バスが走ってるから。」
てっきり、自転車移動と思い込んでいたマサキは、ああそうかと一緒に並んで行けると思って残念。
マサキはひかりをバス停まで送った。一足先にマサキは図書館に向かった。
バスがやって来てひかりがバスに乗り込むと、かわいいフリルいっぱいの青い服を着た幼女が乗り込んできた。
幼女一人くらい珍しくないが同じようにフリルいっぱいの黒い服、それが数人、とても目立っていた。
他の乗客も乗り込んでひかりが席に座り、図書館へ向かった。
ひかりが外を眺めていると、図書館の停留所にとまるボタンを押すと、幼女たちはそのボタンの音と光っているボタンに興味を示していた。
ひかりが降りると、幼女たちもあわてて降りてきた。しばらくして最後にスーツの男が降りてきた。
図書館の中にひかりが入ると幼女たちも同じように入り口まで来たが、自動ドアに戸惑っているようだった。
マサキとひかりが図書館のロビーで合流した。
『ここは宮城ではないのか。では宮城はどこだ?』
「皇居は東京だよ。別に政治をしてないけど。」
『宮城でもないのに立派なものだ。』
「結構あるぞこれくらいの建物。」
『生贄といい、建物といい、豊かなものだ。』
「調べものはどんなのが知りたいの?」
ひかりがどこに向けていいかわからない言葉をかけると。
マサキがプラケースに仕舞われた金板を取り出した。
「うまい事収納ケースがあってよかったよ。こんな腐食だらけの板素手で持ちたくなくてな。」
「可愛くないよ。あっ、可愛いといえば、可愛い服を着たちっちゃい子が一緒に降りたのよ。」
ひかりが先ほどの集団を思い出して言った。