4金板
マサキとひかりが研修施設に着いた時には、班のみんな、他のクラスも皆宿舎に戻っていた。
ひかりをおんぶしてマサキが帰ってきたときには、担任や学年主任が待ち構えていた。
普通に心配をしてくれ、ひかりは施設の救護室へ運ばれ、マサキは一通りのねぎらいを受け、研修施設の部屋に戻っていた。同部屋の6人は風呂に行っていて空だった。
”「どうしたらいいんだろう?ひかりはどうなってしまうのか?」”
『案ずるな。整備をしていれば永遠に稼働する』
金板がマサキの心の声に答えた。
「おわぁぁぁぁ!!」
マサキは、びっくっ!として思わず声がでた。
「お前、俺の心を直接読むことができるのか!?」
『無論、今までどうやって話しかけていたと思っている。』
「じゃあなにか?今まで俺が思っていた事が何でもわかるのか?」
『欲望と理性がせめぎ合っておった。心配ない。生き物は大体同じだ。人間も悠久の昔より大して変わらん。』
「わあぁぁぁぁぁぁ」
思わず声が出てしまうのも不思議ではない。マサキは黒歴史を胸の奥から、かき混ぜられた思いだった。
「お前!!これ以上俺のに関わるな!!今すぐ!!」
マサキは金板を窓から外へ遠投の態勢をとった。
『やめろ!!やめるんだ!!そんなことをしても、意味がない。あの娘の命運もワシが握っている。ワシを投げ捨てたら、あの娘は元に戻らんぞ。』
マサキはスローイング態勢を解いた。
「そうだな……仕方ない。」
「俺の言葉は、声に出さなくても伝わるのか?」
『ああ、問題ない。回線がつながっている。無形の思考は意思疎通はできないがな。やはり言語形態でなくては論理的思考の理解は難しい。』
「日本語でもいいのか?」
『言語形態が整っているなら問題ない。何なら二進法でも問題ない。』
「コンピューターかよ。」
『コンピューターとは何だ?』
「計算機だよ。画像とか音楽も表示できるしゲームとかもあるけど。」
『ワシは世界の因果と意思をつなぐ物理演算機として生まれた。そのコンピューターの言語形態はいかなるものか。』
「携帯もゲームも今は持ってない。でも誰かこっそり持ってきてるかもな。いやあるだろう絶対。」
『何かしらの電磁波は感じられる。これか。通信機器だな。』
『解析するのに生贄が欲しい。用意できるか?』
「なにを言ってるんだ。」
『今の世を知らねばならん。制御機能のある機械があれば、憑代とする事が可能だ。』
「じゃ、なんでひかりにとり憑いたんだよ。」
『生物は、替えが利く。生贄も自力で消化できる。機械は整備が必要だ。生贄も制限がある。しかしながら生物より強力である。』
「動力があって動けばいいんだな。」
『ワシは無機物だから基本的には動けば問題ない。饕餮も機械だ。』
「お前何千年も前とか言ってなかったか?自動で動く機械だと?」
『過去が現代より劣っているとは限らんし、異なる原理も発見されていないだけだ。』
「中国四千年だろ?エジプトよりも最近だろ?」
『歴史や遺物が人間が忘れているだけだろう。あるものはある。』
「どこにあるんだよ。」
『行方不明だ。探してもらわなくてはならん。』
「……どうにもなんねえな。」
マサキは首を横に振り眉間にしわを寄せた。
『神鳥と神鏡が健在ならは、饕餮を呼び出せる。』
「神鳥?鳳凰か?鏡ってえと古墳からでる銅鏡か。それでどうして呼び出すんだ?」
『天に向けた鏡から発せられた信号を神鳥が受け取って、別の鏡に反射する。機能していれば応える。』
「その鏡は?どこ?」
『分からん。』
「どうにもなんねえよ。まったく……」
『これからは、加納陽という拡張体がある。調べものや移動に事欠く事はなくなる。しばらく付き合ってもらう。』
「ひかりの意思は無視か。」
『無論、無視はできないが、人に戻るには協力が不可欠だ。それにワシも饕餮あっての存在だから利害は一致している。』
「仕方ない。付き合ってやる。必ずひかりを元に戻せよ。」
『今の状態は力も知識も寿命も人を超えるというのに何が不満だというのか。天王どもはそれを求めていたというのに。』
「今時、不老不死は制約付きと相場が決まってるんだ。なんかあるんだろ?」
『精気を補う必要がある。人と同じ力であれば、多少人より食物を、生肉、生き血を摂取すればよいだろう。それ以上の力であれば、オスの生贄の精を儀式に従い取り込む。同一種なら性交をして精を移すことも可能だ。天王はオスばかりだったから、別の方法を模索したがとうとう実現しなかった。』
「もしかして……淫魔化しているのか?……俺がひかりと……。」
マサキは股間が熱くなる感覚を得た。
『生命力の枯渇は本能、食欲も性欲も本能。過去大抵、淫に堕ちる者ばかりだ。鼎を用意し生贄を捧ぐか、あの洞のような龍脈を探すべきだ。』
「……ありえん。」
『肉食は月に一度だ。』
「は?月一でいいのか?下手したら毎日食えるぞ。」
『なんだと!!生贄は貴重だぞ。毎日殺しているのか?』
「多分な。飽食の時代だから。」
『世の中変わるものだ。なら問題ないな。』
マサキは安心して、風呂に行く事にした。
晩飯には間に合った。星川は悪びれもせず飯を食っていた。星川のポケットから爬虫類っぽいしっぽが出ていた。
星川の蛇はおもちゃの蛇だった。種を明かしをしたら、つまらない結果だ。
ひかりの体調が戻らず、晩飯の座敷には居なかった。
翌日、ひかりは両親が迎えに来ていち早く帰宅した。
校外学習の次の日は休養を含め、学校が休みだった。