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カインプロジェクト(全年齢版)  作者: 五十鈴川飛鳥
2/17

2金板

 道を先に行ってしまった女子たちの後を追って三人は走る。


「どこ行ったんだ?一本道だろ?」

 マサキが一番足が速いので、二人から先行していた。二人はというと武藤はそこそこ、星川は歩いてるんじゃないか?


 若干進んだところで、纐纈(こうけつ)水鳥(みどり)と一柳美幸を見つけた。

「やっと追いついた。」


「びっくりしたわよ。まったく。」

 マサキが走り寄ってきたところに、みどりはやっと落ち着いたといった雰囲気で話した。

「どこから出したのかしら?あの蛇。」

 美幸は首を傾げ、人差し指をあごにあてていた。


「ほんとそこら辺にいたのをすぐ捕まえたのか?」

 それにしては準備がいい。


「ああ、思い出しただけでゾッみっとする。」

 みどりが腕を組み腕をさする。


「あれは、誰でも気持ち悪いよ。」

 マサキがみどりに同意する。



「ところで加納は?」


(ヨウ)ちゃんなら、お花を摘みにって沢の方に行ったわ、落ち着くまであんまり……って、東條君!!……」


 マサキは話半分、途中で沢の方に下りて行った。

 かなり下の方に沢があった。谷になっているのでかなり険しい。


 加納(ひかり)を沢をのぞき込んで下を探したが見つからなかった。

 そんなところを下りていくと少し平坦になっている場所があった。


 ひかりがうずくまって、口に手を当てている。俗に言うキラキラをリバースしている現場だ。


 女の子ならあんまり見られたくない現場である。お尻丸出しを想像した方は残念。どっちも見られたくない現場だが。


 マサキは無神経にひかりに近づいていくと、ひかりは苦しそうに肩を震わしている。


「加納さん大丈夫?」

 マサキが話しかけると、ひかりが振り返る。

 その姿はゾンビの様によだれを垂らし、目の焦点が合わない。


「相当調子が悪そうだ。お茶でも飲むか?」

 と、マサキが水筒を差し出すと、ひかりは手で払いのけた。

 ただ、その勢いはかなりのもので水筒は沢の方まで飛んで行った。


「そんな拒否の仕方しなくても……」


「ぐるるるるうるう……」

 ひかりが犬のようにうなる。


 ここにきてようやくマサキはひかりの様子がおかしいと気づいた。


「はっ!!」

 マサキはとっさにひかりからバックステップで離れると、ひかりが襲い掛かってきた。


 マサキが地面に伏して、その上をひかりが飛んでいく。その距離は6mくらい飛んでいる。

 中学生の男子幅跳びでも6m飛べば結構飛ぶ方だが、ひかりは女子だ。剣道部で陸上経験はない。


 マサキとひかりの立ち位置が入れ替わり、双方にらみ合っている。


「どうしたってんだ。俺が悪い事でもしたか?」

 下手をしたら恥ずかしい場面を覗くところで、その場合は多分高校3年間を棒に振る事態だったので、悪くないとも言えない。


 ひかりは、ぐるるると言いながら、カクカクと動いている。本当にゾンビの様に不自由に動いている。

 その割には跳躍力が半端なく、水筒を吹っ飛ばした腕力も女の子の、いや人のものとも思えない。


「……ヨコセ、レンキンをヨコセ……、レンキンをヨコセ……」

 ずっと、同じ文言を繰り返す。


「レンキン?あの金板の事か?でもあれは加納が持ってるだろ?」

 マサキはひかりに話しかけるが、繰り返し同じ事しか言わない。


 ひかりは、マサキに再び襲い掛かる。マサキが横によけるとすぐ対応して、腕を伸ばしてくる。

 マサキのジャージをひっかけると、上着から例の板が落ちた。


「レンキン……」

 ひかりが、ビニール袋に近づいて拾あげる。


「あっちに興味があるみたいだ。この隙に……」

 マサキが山道にもどろうとすると。


『おい、お前、ワシを置いていくのか?』

 マサキの頭に声が響く。

「だれだ!!」


『ワシは錬丹金、早くワシを助けぬか』


「って誰だよ……加納か?」

 周りに人はひかりしかいない。


『ワシはここじゃ、偽金がワシの金糸を奪おうとしておる。早うせぬか。』


 ひかりは、ビニール袋に入った緑青だらけの板を拾い上げた。ビニール袋の上から板をなめた。


「チガウ……キンシ……ナイ」

 ひかりは、板を放り投げた。



『早う拾え。ワシをこの袋から出して、ワシの金糸を開放するのじゃ。』


 マサキがビニール袋に目を向けた、ひかりは何かを探してる。


『早うせぬと奴が去ってしまう。奴の金糸が宿主を潰す前に金糸を奪わねばならん。』


「なんだって?」


『金糸で人形を動かしているが、制限なく限界を引き出す。おのずと壊れる。』


「おい!!なんだそれは?一体何が起こってるんだ!!」


『生物を傀儡にする場合、奴が宿主の神経、筋肉に神経瘤(コントロールポイント)を作り金糸で繋げる。』


「じゃあ、加納はどうなる!?」


『宿主の意思は奪われ、肉体は損傷し生物学的死に至る。生ける屍になるのだ。完全支配できるまで時間が掛かるが、支配後は一体で千を相手にできるほどの力がある。』


「おい!!じゃあ加納は死んでるってのか?」


『まだ、そこに至っていないようだ。金糸も足りてない様だからな。しかし時間の問題か。いずれにせよ人が支配にあがなう事叶うまい。』


「どうやったら助かるんだ!!」


『まず、奴を倒せ。首筋に金糸の瘤があるはずだ。そこにワシを接触させれば、そこから浸食(ハッキング)をかける。うまくいけば支配が解ける。』


「支配が解けた後は?」


『金糸を壊死させる。手遅れになっていなければよいが。』


 マサキは緑色の板を拾い上げた。


「よし!!やってやる!!」


『この袋に入っている限りは、金糸の存在を悟られない様だ。警戒されないで近づけるだろう。』


 マサキは後ろを向いているひかりに忍び足で距離を詰める。本当にひかりが警戒している様な様子がない。


「本当によちよち歩きだ。」

 マサキがひかりの真後ろに着くとひかりの首筋に板を引っ付けた。

「よしこれで……」


 ひかりは直ぐに左側から振り返り、右腕で殴り掛かる。


 腕はマサキに少しかすった。逆向きだったので早くよけられたが、軽く吹っ飛んだ。


「おいい!!話が違うじゃないか!?」


『袋越しではない。直接だ。』


「それを早く言え!!」


 マサキはひかりと対面で控えている。


『うまく後ろに回り込めば何とかしてやる。』


「どうしろってんだよ!?」


『奴は単調な攻撃しかしてこない。所詮複製品だ。なんとでもなる。』


「簡単に、言うなよ!!」

 マサキが側面へ回り込もうと移動すると、マサキの移動する方へ飛んできた。マサキが移動を終える前に。今度は逆に移動すると、同じく先に立たれた。後ろに下がろうとするとマサキを飛び越えた。ひかりが後ろ向きから振り返って再び向かい合う。


「くそう!!逃げ場なしか!!」


 マサキが再び後ろに逃げると、マサキを飛び越えて、後ろ向きで着地した。振り返る速度が結構遅い。


「!!」


 マサキは後ろ向きに背中を見せて下がると、やはり飛び越えていった。マサキはそのままスタート態勢をとった。


「よし!!いける。」


 再びマサキが下がると、ひかり飛び越えるタイミングで、マサキはビニール袋を破りクラウチングスタートの体制から全力疾走した。


「ここだ!!」

 マサキがひかりの首筋に板をつきたてる。


『では行くぞ。』

 錬丹金は瘤に接触すると熱を帯び演算を開始した。


 金糸を伝い、次々と障壁を突破していく。生物を操っている瘤にたどり着き、無力化した。ひかりのポケットの金板に金糸が延び、本体中枢を破壊していく。


 バタッ。


 ひかりは、その場に倒れた。


『終わりだ。この娘の中枢はまだ壊れておらん。』


「よかった。死なないんだな。」


『いや、死んでおる。』


「なんだと!!話が違うじゃないか!!」

 マサキが板に向かって怒声をあげる。


『正確には、操り人形のままで、自分の意思で動くことままならん。』


「じゃあずっと植物人間だってのか?」


『意思はある。ただ体の制御が金糸に入れ替わっている。金糸を取り除くには深く食い込んでしまっている。』


「金糸がとれると言っただろう!!何とかしろ!!」


『金糸が神経の代わりになっておる。金糸で代替をすればよいが、奴は無効化したからな。別の制御板が必要だ。』


「別の制御板だと……」


『なんじゃ?その手は……おいやめろ。ワシをどうするつもりだ。』


 マサキが近場の石を持って振り上げる。


「なにって?お前と取引がしたいんだよ。」


『それは取引とは言わん。脅迫だ。』


「加納の金糸を制御するんだ。お前が。」


『可能だかよいのか?この娘はワシになってしまうぞ。』


「死ぬよりましだ。何とか助けてくれ。」


『まあ待て、ワシ自身でなくてもちょうどそこのニセ金があろう。そこに無線で制御して生命活動を補助しよう。』


「おい。無線ができるってことは、接触しなくて良かったんじゃないか?」


『そこは回線(チャンネル)が開いていないとできんからな、それに奴は速度が遅いから直結の方が確実だった。』


「で、どうやる。」


『わしと奴を重ね合わせろ。そしたら回路形成して、中のコアを取り出して、その娘の瘤に埋め込め。』


「本当にできるのか?」


『意外と簡単に入っていくから問題ない。しばらくかかるから、お前とワシとその娘は接触を維持する。そうしないと娘は屍のままだ。』


「え?」

 マサキは戸惑う。だって女の子とずっとくっついてないといけないとか。


「とりあえず、道に戻らないと心配している奴もいるし。」


『二人は好き同士とか夫婦とかなんとか言って、ごまかせばよいだろう。』


「な、訳ねえから。もっと怪しまれるわ。」




 マサキはとりあえず、ひかりをおんぶして上がっていく。道には班のみんなが待っていた。


「あんた……変なことしてないでしょうね?」

 みどりが訝しい目で見ている。


「加納さんが気分が悪くなったみたいで、倒れていた。」


「大丈夫ヨウちゃん?」


 一柳美幸が心配そうに顔をのぞき込む。


「俺は、加納さんを宿舎まで連れていくから、みんなはオリエンテーリングを続けてくれ。」


「そうはできるか?俺らも戻ろう。マサキだけでは疲れてしまうだろう。」


 武藤が気を使っていってくれるが、それは目的が果たせない。


「大丈夫だよ。加納さん軽いし。」


「本当かよ。でも心配だな。」


 マサキはそそくさと下山の途についた。


「板、後どれくらいかかる。」


『板とは無礼な、錬丹金は至高の金、自然に得られる金とは格が違うのだ。敬え。』


「そんなこと言ってると水に浸けるぞ。」


『それはやめろ、錆だらけになる。磨かねば金色を維持できん。』


「おかしいな、至高の金なら錆もしないし、磨かなくても光るはずだけど?」


『いや、いくつかの過程を経て鍛えられた銅金は自然金とは比較にならんのだ。』


「いや、それは青銅じゃないか?価値の低い。」


『なんと無礼な!!価値が低いだと?おぬし物を知らんな。』


「今だといくらでも出来るし、金は埋蔵量が少ないから貴重だし、化学的性質もいいし。」


『そこまで言うなら、証拠を示せ!!ワシが卑しいのかを。』


「いくらでも証拠はあるさ。町に戻ったらいくらでも。」


『自信があるようだな。しかし間違っていたら謝罪してもらうぞ。』


「いつまでもおんぶもできないから、どれくらいなんだ?」


構文(プログラム)も回路も在りもので突貫でできているが、問題は”気”の供給源だな』


「”気”?中国拳法とかの?」


『”気”は世界を構築する力の一つ。生物にしろ器物にしろ持つ因果だ。物体が存在できるのも気力という場がそれを望むからある。逆に望まなければ存在は消えてしまう。娘の気だけでは不足している。』


「じゃあ、俺の気を使えば?」


『まあ、方法が無い訳ではない。ちょうどお前は雄、雌の陰にお前の陽を()めて、精を(はら)に注ぐ……』


「ちょっと待て。それは、せっく……」


『性交ではないぞ、錬丹術だ。接触を伴う体交法と意識による神交法があるが、接触式の方が人間はよいのだろう?』


「その辺は合意がないと……」


『別によかろう。嫌いではあるまい。この娘も好いているようだしな。』


「え?」


『うむ。お前が望めば好き放題にできるが、なんにしても魂が足りない。陰陽の交わりは一人分の魂を作り出すには手っ取り早い。』

「いや、でも、まあ、うーん。」


 マサキの中で何かが戦っている。


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