17赤銅
「ちょっとはしゃぎすぎたかも……」
みどりが海の家の日陰で目を覚ましたとき、事は大体収束していた。
記憶が改竄され、年甲斐もなくイルカと遊んでしまい、熱射病で倒れたのだと錯覚している。
家族連れや、子供たちも同様に何事もなかったかのように遊んでいた、
マサキとひかりとカレンは海の家のテーブルを囲んでいた。
「体は大丈夫か?」
「ええ。お腹が空いただけ。」
「そちらさんは何か食べるかい?」
「じゃあさ……イカ焼きとフランクフルトと、名物のタコ焼きとクリームソーダ。」
カレンは不貞腐れている。そしてこれでもかとおごらせるつもりだ。
「ちょっと食いすぎじゃね?」
「さっきはよくもやってくれたわね。これぐらい当然よ。それにそっちの人はすごい量食べてるじゃない。」
ひかりは海の家の食べ物を食い尽くさんが勢いで食らいついていた。
「力を使うとお腹がへるの!!」
「あなたたちが敵じゃないと思うけど、金板は危険だから早く引っぺがさないと、その人さっきのみたいな化け物になるわよ。」
『そんなヘマはしない。何人かは神人にした実績はある。』
「誰と誰よ。そんなの聞いたこともないわ。」
カレンが知る限り、仙人や天女になったような話を伝え聞いてない。
「何としても、人間に戻らないと将来設計も立てられないわ。だから、とうてっちゃんの本体を探さないと……」
ひかりが箸をいったん休めた。
「本体がどんなもので、どんな手掛かりがあるというの?本宮でもわかってないのに」
カレンが、頬づえをついて、ストローをつまみ、マサキに向けて先を向けた。
『大きさからいって、島に擬態しているとも思って来てみたが、違ったようだな。全長は1kmを超えている。楕円形でドーム状の形状であるから、”霊亀”候補に挙げていた。』
「聞いてないぞ。」
『言ってないからな。あくまで可能性の話であって確定ではない。未確定の情報で動くのは危険だからだ。』
「ここが饕餮の本体だったかも知れないって?大体、霊亀なんて四霊でしょ?四凶と全く逆じゃないの。鏡の話は?それがないと通信できないんでしょ?」
カレンがやっぱり、ストローで人を差して文句を言う。
「言ってる事がいまいち理解できないんだが、霊亀を見つければいいんだな。で、霊亀と饕餮の関係は?」
「饕餮は四凶、全てを貪り食う。霊亀は四聖、仙人が住む蓬莱山を背負っている。かなり違うのよ。」
カレンがやっぱり偉そうに言う。
『それは、合体した結果そうなる。形態変化というやつだな。』
「スーパーロボットかよ。」
『変形はしない。』
「カードだと解除キーじゃないの?朱雀のカードもそうだけど、生命力のプロテクト開放だよね。」
『違う。次元確率の操作だ。』
「は?そんなの修行で聞いたことない。」
『難しいからな。だからお前の姉は大学で学んでいるのだろう。』
「お姉そんなことやってたっけか?」
カレンが少し離れて止まっているカラスに問いかける。
『人の意思を次元に反映するために、対消滅ジェネレータと制御装置を動かすための、さらにユーザーインターフェースを動かすためのAIが金板の役割だ。』
「ややこしいな。」
「それで、簡単に言うとどうなの?」
マサキは首をひねり、ひかりが面倒だとばかりに饕餮に聞く。
『ワシはワークステーション端末で、その先にスーパーコンピューターがあって、動力にスーパー原子炉があって、因果を操作する装置が”霊亀”だ。』
「ぜんぜん簡単じゃない。」
「お姉に話して教えてもらわないといけないじゃないのよ。」
カレンは面倒くさいとため息をつく。
「あんたの友達が目を覚ましたみたいだし、私は帰るわ。あと連絡先。これ携帯の番号。」
「おお?携帯?ポケベルじゃなくて?」
「本当に030から始まってる。へー。」
時代設定は90年代です。なので、バブル絶頂期のコギャルが公衆電話で数字をたたき、パソコンも出始めでインターネットも一般家庭に浸透しかけている、まだ女子学生がブルマを履いていた時期です。
「なにかあったら連絡するから、そっちの番号も教えて。」
「ポケベルと自宅の番号と……」
『携帯の帯域が分かれば通信を乗っ取る。直通が可能だ。』
「なんでもありだな。」
そうして、カレンは海の家から去っていった。カレンが携帯をかけると、高級車がすぐさまやって来て、黒服がドアを開けてカレンが乗り込むと走り去っていった。
「なんか疲れたような、スッキリしたような。」
ゆかりが体を伸ばして、寝起きの体を覚醒させていた。
「なんでか寝てしまったけど、なんか調子がいい。」
稲葉は、カレンの気を受け通常より調子が良いようだ。
「遊び過ぎたかしらね。なんかちょっとだるい。着替えて横になりたいな。」
久美子が熟れた体でくったりしていた。
「イルカは見たし帰るか。」
「帰っちゃうの?もうちょっとイルカと遊びたい……」
「お土産買う時間なくなっちゃうよ。」
「それは大変。」
民宿に戻ると、事件が待っていた。
みどりがワンピースであるにも関わらず、着替えに手間取っていた。
「やばい。パンツがない。」
みどりは調子こいて水着を着てきて、替えのパンツを忘れた。
「お兄ちゃん。パンツ私の持ってない?」
「なんでだよ?」
「パンツがないの。お兄ちゃん盗んでない?」
「水着なんか下に着てきたからだろ。ひとみの責任だろ。ノーパンで帰れよ。」
「見えちゃうじゃん?」
「じゃあテープでも貼っとくか?」
「もういい。タオルでふんどししちゃう。」
ふすま越しのそんな兄妹の会話をよそに、みどりは気が気でない。
「子供じゃないんだし、ノーパンだとバレたら……」
みどりとひとみが着替えが終わり、ひとみがふすまをあけた。
不自然に股を気にしているみどりは、歩き方が変だった。
やっぱり、いやうっかり、みどりは敷居につまずいてしまった。
ばたんと倒れ込んで膝をついてたちあがろうとしたその眼前にマサキが居た。
ワンピースの裾が片膝立ちで股間がモロ露出していた。
「あ」
「あ」
「き……」
マサキはみどりの口をふさいだ。
「まて!まず落ち着こう。」
「見たでしょ!?」
みどりはプルプルと怒りと恥ずかしさで震えていた。
「いや。」
「いいえ、見たわね。正直いいなさい殺すわよ。」
「いいえ。見てません。」
「じゃあ、毛は?」
「ちょろっと。」
「み・た・じゃ・ない。」
「はい……」
「ちょっと来なさい。」
マサキの耳をひっぱり、ふすまの向こうの密室に連れて行った。
「だまってなさいよ。そして、今のは忘れろ。いい!!」
「はい。」
「しゃべったら、あんたがパンツを盗んで食べたって言うからね。」
「なんでだ?俺は無実だ。」
「わかったなら、コンビニでパンツ買ってきて。」
「でも女物……」
「私が行ったらバレちゃうじゃん。それからサイズはSだから……」
「?!、ひとみのも買ってくるという口実で2枚組を買えば!!」
「私が小学生並みとでも言いたいのか?」
「でも多少小さくてもノーパンを回避できるぞ。」
「ちっ!しょーがねー。」
マサキはひとみを連れコンビニへ行き、無事、妹がパンツを忘れてすいません的に女物のパンツを手に入れた。
みどりは事なきを得て、電車内で爆睡して、子供パンツを衆目にさらしたのだった。