10赤銅
女が市街地を歩いていた。鳩胸で目が切れ上がり口が大きくあごがしっかりしている。綾瀬はるかの残念な部分と逆な感じの妙齢の女だ。
女が22時頃の人気のない家路を急いでいると、後方から車がやって来た。とても運転がふらふらしていて、巷でたまに会う運転免許をどうやって取ったんだと疑問に思うような運転で、ワンボックスが後方から走ってきた。ワンボックスは女の横で止まり、横引きのドアーが開くと、中から腕なのか何なのか触手なのかが出てきて、女をつかみ”ちゅるん”と女の体が真横に向きそのまま飲み込まれていった。
「でゅふぅwwwwwww。女wwwwwww。柔らかいwwwwwww。」
その正体不明の物体は、全体的にアレっぽい複数の長くてフニャフニャの先太りのブツが生えていた。
「でゅふぅでゅふぅでゅふぅwwwwwww。」
正体不明の物体とは別に横から見るとアレな感じで、顔がマツタケで体がナマコで、全体的にアレっぽいが人間形態のソレが車を走らせた。
「なんですか?あなたは?なんで?なんで?どうしてあなたは線状なんですか?何者なんですか?」
非常に可憐な声の女の質問を無視して、車は街の灯に消えていく。その現場からカラス二手に分かれ飛んで行った。
「ムニンお帰り。」
カラスが無人の神社の鳥居を飛んで行った先に、顔だけを正面を向き、黒髪ツインテ、出るとこでて、引っ込むとこ引っ込むスタイル抜群の、黒セーラー服の、声が少年の残念な奇跡の美少女が立っていた。
カラスが灯篭に止まり、鳴かずに目をぱちぱちさせていた。
「ムニン。そう。フギンが追っていったのね。奴らのアジトを突き止められそうね。」
少女は寂し気に佇んでいる。
6月~7月にかけて試験期間の練習が制限される。運動部は夏の大会へ向け練習に充てる時間が多くなる。2期制の高校なので 中間テストが7月、学期末試験は9月にある。
梅雨なので屋内練習や筋トレメニューが主体で、梅雨の晴れ間に大会へ向け屋外練習をする。
陸上部がトラックを走り、ラグビー部がタックルやパントを繰り返し、道を挟んだグラウンドでは、ソフトボール部と女子ホッケー部が同じく練習をしている。
マサキは写真部に幽霊部員の名前貸しをしていたが、帰宅部同然だった。しかしひかりの部活が終わるまでの時間を暇つぶしに、カメラを借りて写真を撮っていた。
「あぶなーーーい!!」
マサキが銀杏の前でカメラを構えていると、やりが飛んできた。
マサキが声に反応してが飛んできたときには避けるすべもなかった。
「おおう!!」
槍はマサキの足元に刺さった。
「おしい。」
10mくらい先から、槍のフォロースローの態勢で女子がけらけらと笑っていた。
「危ないじゃないか。十九条。」
マサキが女子の方に顔を向ける。
「いやらしい写真撮ってるんから、ちょーっといたずらしたかったの。」
十九条明日香は、マサキとおな中の女子で、陸上部に所属していた。中学では短距離を中心に競技していたが、高校になって念願の七種競技を専門にした。
「別に十九条を撮ってたわけでもなく、ボーっと構えていただけだよ。」
「未練があるんじゃないの?陸上部入れば?」
「棒高跳びの専門トレーナーもいないし、ポールもいいのが無いし、大体アップライトが設置できないからやる意味がない。」
「別に棒高跳びにこだわらなくても、やりとか円盤とか三段跳びとか楽しいかもよ。」
「大体が楽しくないだろ。陸上って。」
「そう?」
マサキは十九条明日香の誘いを断り、松原の方へ歩いて行った。
「あぶなーーーい。」
先ほどと同じシュチュで、まったく違うかなり本気でボールが当たるコースでラグビーボールが飛んできた。
「おおう!!」
マサキはかなり本気でよける。
「わりぃわりぃーーーーー」
「武藤!!馬鹿野郎!!気ぃ付けろ。50mダッシュ10本だ。」
武藤が蹴ったボールがそれて、マサキの方に飛んできた。それを顧問の先生に見つかりペナルティを受けた。
マサキは気を取り直して、第二グラウンドに向かい、ホッケー部のヒロイン、桃園春香目当てに女子ホッケー部に向かう。
さわやかな見た目で可愛い。
方や、ソフトボール部はごつい。いや、怖い。
この高校には女子しか募集しない実業課があり、女子の部活動が超強い。ソフトボール部もホッケー部も全国区の部活で、女子が超強い。男子部?野球部?なんですかそれ?食べ物?ってくらい。
そして太ももがすごい。盛り上がっている。腕もよく見ると太い。
しばらく、太ももを堪能?したあと、体育館へ行く。バトミントン部は桜井沙樹という有名な選手がいた。
体育館の側道を通り、ようやく柔剣道場へ辿りつく。
ひかりの練習が終わって、今日も無事に終わった安堵感を感じつつ帰宅する。
女の子は大体がグループ行動する。よって一緒に帰るとうわさになってしまうので、別々に帰る。
とある夏休み前の日、纐纈水鳥がスカートをぱたぱたさせて、
「あっついわーーーー涼みたいわーーーー」
周りも同感で、蒸しだこ状態。
「水泳部はいいわよね、毎日入れるじゃない。」
「練習だから。寒い日だって入らないといけないの。」
水泳部の御手洗鮎美がみどりのうだっとした愚痴に答えた。
同じく水泳部の鈴木祐樹が
「学校のプールはあんまり入らない。クラブのプールの方が多いよ。温度調整されてる室内プールでないと練習にならない。」
「じゃあプールを開放しなさいよ。」
プールの使用許可は生徒が許可していないのに無茶を言う。
「どっか、良い感じに水のあるところないかな~」
みどりがかなり投げっぱなしな発言をすると。
ひかりやマサキが、
「市民プールとか行けばいいじゃない。」
と言えば。
「いーやーよ~もっとおしゃれなのがいい~」
とわがままを言う。
「海水浴とかベイビーチとか、コーストリゾートとか行けば?」
夏らしく浜に行くか、遊園地併設のプールに行けと、さすがにひかりも投やりになってしまう。
「遠いし、お金かかるじゃん。誰か別荘とか、プライベートビーチとか持ってないの?」
「法律が許すのか?」
「じゃあさ、無人島持ってない?島ごとなら関係ないでしょ。」
「あるか!!んなマンガみたいな奴がおるか!?海なし県に島持ちがいるか?」
「島は無いけど、宿泊施設の優待券はあるけど。」
ひかりが思い出した。
「え?マジで!?」
「私んち、工務店なんだけど趣味のつながりで、お父さんが釣りに行ったりするのよ。全然違う業界だけど建築関係の仕事したりして、その関係で宿泊優待券があるの。」
「へーぇ。ひかりんちお金持ちだったんだ。」
「いや、自営業は結構あるぞ。多かれ少なかれ、ゴルフとか釣りとかの趣味つながりで仕事取ったり。」
鈴木は電気工事屋の息子だった。
「ありえん。サラリーマンにはありえん。」
みどりさんはサラリーマン世帯の様だ。
中途半端な進学校の親の構成に少なからず社長が存在する。かといって超進学校と違い大企業でなく、中小企業の親父の子女は中途半端に知能があるので、中途半端な大学に行き、中途半端な就職をする。
「ヨウちゃん。わたしも行っていいかな?」
「お前だけかよ。」
「みどりちゃん。みんなでいこっ?ね?」
「みんなって誰?」
「みどりちゃんとあゆちゃんと、東條君と鈴木くんと……」
「僕はダメだよ、練習があるし、シードに入ってるから。」
鈴木は水泳が強かった。
マサキがひかりにこそこそ話で。
「俺もいいのか?」
「しょうがないでしょ。それにとーてっちゃんがいないと私の体維持ができないし。」
金板の饕餮は、ひかりからは”とーてっちゃん”呼ばわりである。
「4人だとさびしいからあと何人かさそいましょ。日帰りでいいなら10人くらいでも。」
「じゃあさ、一人ひとりずつ。やむ負えないばあいは増えると。」
みどりが一人ずつ誘うと言い出したが、すでに例外を作ろうという気だ。
「いつにする?無人島行。」
無人島ではない。
「花火大会があるから、8月初旬にしましょ。」
花火大会が終業式の日と次の週に2回ある。高校生にもなって色気のない花火大会にはしたくない者ばかりなので、家族で見に行く以外は、カップルで行こうと思うのである。当然このメンツでも同じで、グループで行こうとは言わなかった。マサキにとってはこの夏、花火と海という2回のチャンスがあった。
「とりあえず、花火大会にひかりをさそうとして、海にはだれを誘おうか。」




