1金板
女子学生と男子学生がにらみ合っている。痴話げんかだろうか。
「おい!!ちょっと待てって!! 話し合おう。何が気にさわる事があったのか?」
「……」
女子学生の様子がおかしい。目に光がなく、まるで死んでいるようだ。
「おい!加納!!返事しろよ!?」
「ぐぐぐう……うるうるる……」
言葉まで怪しい。
女学生 加納陽が襲い掛かる。
東條征輝は今年高校生になったばかりだ。
入学から数か月、友達をつくり、部活に入ったり、いろいろあって初夏が訪れる。
征輝は課外授業のため山の研修施設に来ていた。
学校行事なので学年全員参加しており、高校一年生の夏休み前までに親睦を深める目的である。
「おーい男子ぃ。遊んでないでご飯炊いてよ~」
女子がもう使い古されたフレーズを使って注意をする。
大体男子高校生は基本、まだまだだ。いや多分還暦過ぎてもの間違いだが、勢いと無謀さが違う。
薪拾いの寄り道のくだらない山の探索や、いたずらなどまあいろいろやるわけです。
「まてて、光押すなよ押すなよ!!」
「がーんばれっ♪、がーんばれっ♪ 征輝もっと頑張ってくれ♪」
歌っているやつは星川光。れっきとした男でしかも180cmはある巨漢である。が、恥ずかしい名前をしている。
川のそばにある洞に何かある。山の中には不釣り合いの金色の金属らしきものだ。
竹の竿を途中で調達して、竿を握って片方をもう一人の同級生、武藤に持ってもらっている。こいつもいい体しているが、身長は人なみでラグビー部に所属している。ラグビー部には星川もかなり勧誘を受けたが断っていた。ま、おちゃらけた性格なので当然と言えば当然である。3人の中で軽量な征輝が適任だったので、ひろう係になったのだ。
「もう少しだ。」
征輝が手を伸ばすと、ズルっと武藤の足元が滑った。
ざぱーん!! 小川にマサキが落ちた。この辺も王道をいく展開である。
「さすが征輝。期待を裏切らない。」
星川が笑いを浮かべながら言う。
「くそう。つめてー。パンツは無事か?」
征輝はジャージに手を突っ込んで確認する。まあ無駄な確認なんですが。
「それよりその金の板、早く取れよ。どうせ濡れるんだし。」
武藤は上半身ががずぶ濡れの状態でマサキに指図する。
「まだ水が冷たい。全身ぐしょぐしょだ。」
マサキが、金の板を確認すると、若干の腐食が見られる。
「金じゃないみたいだ。」
「やっぱりこんなところに金の延べ棒なんて落ちてないか。」
武藤は上半身ずぶ濡れ、下半身は泥だらけで言う。
「マサキがもうちょっとがんばって無傷でとれば、ボーナスがあったかも知れないのに。」
光クンはふざけている。
「表はツルツルで裏面はグルグル模様が掘ってある。何かの工芸品か、出土品か?」
金色の板は、コミックサイズくらいの大きさで、鏡面の部分とラーメン鉢の模様のようなものが刻まれている面があった。
「もう一枚あるぞ。うっわきたねえ、腐ってる、これは青銅か?」
やはり、文様が刻まれているようだが、腐食でまともに見えない。
マサキは汚い方はそこら辺に捨てて綺麗な方だけジャージのポケットに入れた。
「とりあえず、火のあるところに行こうぜ。服を乾かさないとな。」
武藤は、シャツを脱いで絞りながら、マサキに言った。
「初夏とは言え、寒くなってきた。とっとと焚き火で乾かそう。」
炊事をしている女子の所へ戻ると、それはそれは罵倒のあらし。
「あんたら!!何してんのよ。仕事しなさいよ。」
「水鳥ちゃん。東條君と武藤君。びしょぬれだよ。寒そうだよ。」
天使と悪魔が居た。天使は加納陽で悪魔は纐纈水鳥だ。
「とりあえず、火に当たらしてもらうよ。ジャージがびったびただ。」
征輝と武藤はジャージを脱いで火にかざし、半裸状態でいた。
みどりは嫌な顔して言う。
「あんたらのストリップは見たくないから死んでくれない?」
「みどりちゃん。寒そうなんだから上着とかかけてあげないと。」
と、ひかりは自分のジャージをぬいで渡そうとしていた。
「俺たちの事はほっといて、料理を作ってくれ、あったかい食べ物があればいい。」
マサキは、そんな気遣いはいらないと拒否する。
「そう……でも羽織るものでも……毛布とか持ってこようか?」
「大丈夫。俺たちはいけてる。」
武藤は強がりを言い放つ。
カラーン、カラカラ
マサキのポケットから金色の板が地面に落ちる。キャンプ場の炊事場はコンクリートで舗装されているため、金属音が響く。
「なにこれ?」
ひかりがその板をみて手を伸ばす。マサキも拾おうと手を伸ばすとひかりの方が先に金板ふれ、マサキは光の手に上から被さる様に触れた。
「あ……」
「ごめん……」
「いいよ。でもこの板はなに?」
「さっき川で拾ったんだ。きれいだったから。そしたら川にハマったってわけだ。もう一枚あったけどそっちは緑色で汚かったから捨ててきた。」
「何かしらね、この文様。何かの儀式に使うのかな?神社か遺跡か何かの装飾品じゃない?川から流れてきたのかな?」
「上流にそんなものあったっけ、もう一枚の方もそんなもんか。」
「さあ……でもバチが当たりそうだし、社会の宇野先生に預かってもらいましょう。」
「なんか価値があるものだったらどうする?」
「その時は、第一発見者として、教科書にのるわ。」
「そんなより金が欲しい。博物館とかで発掘品とか見てあの人が~とか、これは~とか言うやつは考古学マニアしかいない。」
「うん……」
ひかりは妙に納得して料理に戻った。
火に当たり、ジャージを乾してやっと正常にもどったころ。カレーが出来上がった。
「うーん。いまいち?」
「さっさと食え。」
「みんなと食べるご飯はおいしいね。」
この班の最後の一人、一柳美幸が言う。この班の最後の良心である。
「纐纈さんよ、もう少し優しくできないか?モテない女になるぞ。」
「あんたからモテたいとは思わないけど!」
「せっかくかわいいのにさ、もうちょっとやさしさを感じさせればいいのに。」
「かわいいなんてありがとう。って、優しくなんてしないわよ。」
「早く食べて、次の課外授業の準備をしましょ。」
カレーを食べ終わり、かたずけを終えみんな足早に宿舎に戻る。
すぐに山のオリエンテーリングが始まる。
マサキは宿舎から引き返しさっきの緑色の板を、川の泥の中から拾い出しビニール袋に入れ持ち帰った。ひかりの言った通り価値があったらめっけもんだと。
「ぶぇーっつくしゅ!かぜでもひいたかな?」
マサキは豪快にくしゃみをした。
マサキたちの班はオリエンテーリングを実施していた。
「さすがに6月でも水遊びは早かったのよ。男子ってばかねー。」
みどりが罵る。
「女子がいじめるよ。☆衛門なんか出してよ。」
武藤が星川にボケを振る。
「しょうがないな~。ほれ青大将~」
おもむろに藪から蛇をひきだしてきたのだ。
「キャーーーーーーーーーーー」
女子たちは逃げ出した。
さすがに班が離散しては、活動にならないので、男子は女子を探すことになった。