第8話
どのくらい眠っていたでしょう。天使の赤ちゃんは突然目を覚ましました。
ビックリして大きく目を見開いています。砂浜をごろんと転がって手をついて立ち上がりました。砂をはらうのも忘れて翼を広げてパタパタ。大急ぎです。
海の上を飛びながらけんめいに翼を動かしてどんどんスピードをあげます。
何が起きたのでしょう?
天使の赤ちゃんは言葉も記号も知りません。ですから考えるということはないのです。ただ感じるのです。
生きものの苦しみと喜びにはとても敏感です。赤ちゃんがこの星に落っこちてから、何万年も何億年もたちました。けれどもずっと生きものはいませんでした。
この星になにが起きても苦しむ生きものはいません。だから天使の赤ちゃんは安心しきっていたのです・・・
ものすごいスピードであっと言う間に大きな海のまん中まで飛んできました。スピードを落としてぐるぐるあたりを旋回します。海面の近くまで降りてそっと中をのぞきこみます。
赤ちゃんには見えるのです。小さな小さな生きた有機物が海の中を漂っています。時どき一つの生命が二つに分かれます。その時、魂のかけらも二つに分かれます。
不思議なことに魂のかけらの大きさは変わりません。こうしてちっちゃな命がすこしずつ増えています。