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オッサン専用店

工君のお話。

異世界でのオッサン専門店を始めてから暫く。

あちらでの売り上げも評判も上々。

もちろん、こちらの世界での売り上げも上々。


今まで営業してなかった時間帯の販売には少しの不安もあったが、そんなもんは工君の存在でなんのその。

早朝と夜の営業は、最初こそ人がまばらだったものの、桜田さんの親バカ炸裂な宣伝効果&工君(兄の為に頑張って働くバイト君)が可愛くてしょうがないオバ様方が、早朝はお一人で。夜は家族連れで。代わる代わるご来店いただく様になりました。

と言っても、家計のお財布を握っていらっしゃる主婦の方々は、しっかりしてらっしゃる。

早朝にいらっしゃる方は、早いもの勝ちの朝食用のお惣菜(焼き魚や出汁巻き卵などの朝作るには面倒な品々)やお昼用の安いお弁当を。

夜に来る方は少し遅い夕飯or旦那さんのおつまみのお惣菜やお稲荷さんなど。

勿論、パックジュースやアイス、洋菓子なども。

賞味期限のある商品の【値引き品】をご購入していく方が多いです。

これは当店としても大変ありがたい。

廃棄はなるべく少なくしたい。けど、自分たちで食べるには限度があるからね。

普段は周囲の方と物々交換したりもするけど、毎日は無理だしね。

ちなみに、一緒に来店した他のご家族の方々は、お子さんは《50円以下の安い》お菓子やアイスを狙い。

お父さん方は《駄目で元々!とりあえずお願いしておこう!》と冷え冷えのアルコール。

をおねだりしている姿をよく見ます。

お父さん方は何回かに一回、買ってもらえていて

【営業時間が伸びたおかげで、前よりも嫁さんと一緒に来れる回数が増えたから、お酒を買ってもらえる頻度が上がった!!ありがとう!!】

と、工君の存在を喜んでいるオッサンが多数。


更に、私自身が【工君を雇った結果が赤字】なんて絶対に嫌だったのもあって、工君を雇うのとほぼ同時に早朝割引きと深夜割引きを発動!!

今まで営業していなかった時間帯に来店してくださった方には、【お買い上げ商品の中から1商品限定5%off(一部の商品を除く)】のサービス!

そのおかげか、普段は時間が合わなくて来なかった人とか、町でまとめ買いしてた独り暮らしの方が毎日の様に来てくださるように。

更には、工君という《若い男》が居るからか、若い男の子が夜の時間帯に来るようになった。

中学生とか高校生とかの。

夜は私はPC作業でレジは工君の担当なので、今までは買いにくかったものも買いやすくなったんだとか。

工君は話しかけない限りお喋りしないタイプの青年なので、買い物しやすいのかもしれない。

勿論、女の子特有の買い物だったり、緊張しちゃう子なんかは私を先に呼んで世間話してから、その流れで私にお会計を頼んでくるけど、工君は自分の前に来ない限りお客さんを見ないタイプなので気にしてない様子。

『いらっしゃーせー』とか『ありがとーございまーす』みたいなドアが開いたりお会計の時は挨拶はするけど、特に相手を見たりしない。

これが一部の子達には好評だったりする。

見られてる感じしないから《こいつコレ買ってんのか》とか思われたり《さっさとレジ来いよ》って急かされてる感じしなくて好き。らしい。

しかも、元々がこの辺の人じゃないから、身内感が薄くて変な気恥ずかしさもない。

工君の《お客さんに全然興味がないところ》が若者からしたら買い物しやすいらしい。

まあ、話しかけてきた人とはちゃんとお話しするし、敬語も頑張って使ってるし、お年寄りにも優しいし、何の不満もない。

見た目めちゃくちゃ怖いけど、お客さん威嚇したりもしないから、割と真面目そうな子達もビビらずに買い物していく。

この前も『不良が怖くて学校には行けないけど、あの人(工君)は平気。僕のお祖母ちゃんに背中叩かれても困惑するだけだった。それ見てたからなんか平気。・・・みっちゃんも怖くないけど、昼間は他のお客さん多いし、皆が話しかけてくる。学校行けって。だから嫌。あの人(工君)は全然話しかけてこないし、寧ろ、僕の存在無視だから気楽で良い。』と、引きこもり気味の子でも一人で閉店間際にお買い物に来てた。

親御さんからは『久しぶりにあの子が一人で外出した。嬉しい。』ってお礼言われた。

態度変わったら嫌だからと工君には伝えてないけど、保護者の桜田さんにもお礼を言ったらしく、桜田さんは凄く喜んだらしい。



ちなみに、少し落ち着いたとはいえ、工君への《貢ぎ物》は健在である。

日々、お惣菜やお菓子やジュースというお供え物。いや、《ご褒美》を手渡ししながらお喋りしていく お婆ちゃん達の姿は、まるでアイドルとの握手会にテンションの上がる御婦人達である。

滅多に遊びに来てくれない お孫さんと重ねて可愛がってる部分もあるんだろうけど。

私的には工君のおかげで大量顧客GETだぜ!!

という感謝の気持ちでいっぱいです。はい。

皆さん、我がドラッグストアで購入した物を工君に渡してくれるからね。


そんな現象の張本人である工君は、少し戸惑い気味。

口元を引き攣らせながらも一人一人から手渡しで受け取り、【あざっス】と会釈する工君は私的には少し

不愛想の枠に入るのだが、お婆ちゃん達には【思春期の子っていいわねぇ~可愛いわ~】になるらしい。

おば様方&お婆ちゃん達はとても逞しいです。

そんな工君をねこっ可愛がりしている皆さんに、工君の妹ちゃんが好きそうなお菓子を探って、情報を流している人間がいます。

犯人は・・・。

私です。はい。


だってさ、商品を並べる時に女の子向けの御菓子見て、

「あいつが好きなやつ・・・。」

って言ってたから、今まで触れてこなかった妹ちゃんの話かと思って

「最近、このキャラクターのお菓子、女の子たちに人気だよね~。少しお高めだけど、ご褒美に買って貰う子とか多いみたいで売上げ良いし、追加で発注しようかな。どう思う~?」

と続けてみたんだよね。したら、

「・・・そっすね。ウチの妹もまだ好きらしいんで。売れるんじゃないっすか?」 

って、まだ箱を眺めてる工君の口から、初めて妹ちゃんの話が出て

「妹ちゃんも好きなんだ?じゃあ、箱潰れたのとかいる?中身は無事な奴。箱潰れてるから売りに出すのもな~ってお店に出してない奴。3つくらいあるよ~。」

って在庫の方を指差して聞いてみたら、食い気味に

「いる!・・・ッス。」

と勢いよく答えた後、モゴモゴと

「いつも食い切んねぇ位の菓子貰って消費できねーんで、送ってんすよ。腐らせるのもったいねーし。兄貴の書く手紙も一緒に入れてやってるんで、ついでに。」

と、念を押すように言い訳の様な説明を始める工君。

【余ったお菓子を仕方なく送ってやってる】

みたいな感じで言ってたけど、絶対、妹ちゃんの好きな物選んであげてるだろ。

なんだかんだで良い子だもん。工君。

だから、工君の妹ちゃんが好きな アクセサリーが付いてるお菓子とか、可愛いシールのついてるお菓子とか、巷の女の子に大人気の変身アニメのおもちゃが付くチョコレートとかの情報をおば様方に流してます。

おば様方は【うちの子にはまだ早かったみたい】とか【買ってあげたんだけど、うちの子、同じの持ってたらしくて】と中身がダブったことなどを理由にお裾分けしてる。

おば様方曰く、この時の工君は困惑よりも嬉しさの方が少し強めに表情に出るらしい。

話してる間も少しソワソワしてるらしい。

『やっぱり妹の為とはいえ、男の子が女の子用のお菓子買うのは恥ずかしいんでしょうね~。みんなと情報を共有して被らない様にするから、これからも気にかけてあげてね。』とお願いされた。

とまあ、妹ちゃんとの関係も良好らしく、一安心。


そんなこんなで

営業時間を増やして、売り上げも増加。

工君へのお給料と光熱費なんかを引いても余裕の黒字。

しかも、体力仕事を全て率先してやってくれる工君がいるおかげで、お店自体の効率もかなり良くなった。

更に、少しづつだけど工君と仲良くなってる気がする。

先日、工君と橘君の会話で


「桜田のおばさんが、惣菜持ってきてくれるから食費浮くって言ってたんス。飲み物も食後のデザートも嬉しいって。だから家賃とか光熱費なんかいらねーから貯めとめけって・・・。でも、俺も兄貴も住まわせて貰ってんじゃないっすか。米炊いたり、みそ汁だって作って貰ってるんすよ。野菜系も出して貰ってて。払いたいんすけど、どーしたら良いっすかね?」

って橘君に相談してて。

橘君はきょとんとした後に、少し真剣に考えて、


「そりゃ言葉通り、いらねーんじゃね?だってお前、めちゃくちゃ総菜貰ってんじゃん?デザートもだけどさ。それ持って帰ってんだから、かなり食費浮いてるって。ぜってー。確かに、米とかみそ汁作ってくれんのは有難いし、払いたい気持ちも分かるけどよ。働いててもお前は未成年で、保護者は桜田さんたちだろ?あんまり顔潰すなよ?頼ってもらえねーのって寂しいじゃん?だからさ、その辺は無理に《払う》じゃなくて、《ありがとうございます》言っとけ。んで、欲を言うなら桜田のおばさんの方にもちゃんと《ご飯ありがとう》言っとけ。《みそ汁美味い》でも《おかわりしたい》でも良いからさ。そーゆーのって嬉しいんだぞ。な!みっちゃん!」


って、突然、全開の笑顔でこっちに話を振るな、橘君や。

君は少し頭を使おう。

私がこれで返事したら、2人の話を聞いてたの丸わかりじゃないか。

まあ、答えるけどね。


「そうだねー。私は橘君の考えに一票かなー。桜田さん達はさ、工君たちが可愛くてしょうがないんだよ。可愛くて大切で大好きだから、何でもしてあげたいのよ。どうせ大きくなったら工君は恩返しする側になるんだし、今はお世話されときなよ。工君がかなり稼げるようになってさ、桜田さんたちに恩返ししようと思った時に《あの時、自分たちは何もしてあげられなかったから、そんな資格無い。自分に使いなさい。》なんて言われたら寂しくない?・・・もしさ、妹ちゃんに何か買ってあげようとしてさ、《お年玉で自分で何とかする。いらない。》って言われたら寂しくない?まあ、私は女だし、男の人と違う感覚かもしれないけどね。」


最近では、少し踏み込んだこともズカズカ言うようにしてる。

工君はプライベートなことは割と話してても無視する。

というか、橘君が私に話を振ってくるけど、お店に関係ない事だと工君はスルーすることが多い。

大体が【次の髪型どうする?・このピアスどう?・このパンツどう?・カップ麺は何派?】みたいな くだらない内容がほとんどだし、私はスルーされても気にしないし、橘君は《コレはみっちゃんに聞かない方がよかった?ごめんなー。》みたいな軽い感じなので、変にこじれたりギクシャクもしないが、スルーされるんならと、最初から割とぶっちゃけて話すことが多くなった。

結果・・・。


「・・・そうっすね。片付けとかは手伝うようにしてるんすけど、《美味い》とか《おかわり》とかは言えてねぇっす...。兄貴が言った後に頷くくらいかもしんねーっす。ちょっと気を付けてみます。あざっす。・・・桜田のおばさんも女の人だし、てんちょーも《一応》女だし、そっちも覚えとくっす。」

ってな感じで、《一応》を付けたりするけど、桜田さんの奥さんや妹ちゃんの話や、周囲のおば様方の話なんかになると、女性代表の意見として割と真面目に聞いてくれる。

仕事の話はもちろん、真剣に聞いてくれるし、メモも取る。

良い子なんだよなぁ。


「あっ!!工!!来週発売のコレ予約して!!みっちゃんには内緒で!!親にも内緒で!!」

って、本人がいる前でお願いしている橘君は本当にちょっとおバカだと思うよ。

工君は確認の為かこっちをじっと見てるし。

いいよ、いいよ、どうせいつものエロ本だろうから。

お金はとりなさい。先に。

とジェスチャーを加えながら頷くと、

「良いっすよ。コレっすね?先に代金支払ってください。手書き用の伝票持ってくるんで、待っててください。」

と、伝票を取りに行く工君。

伝票に書いても、PCに打ち込み作業するの私だから、内容はモロバレなんだけどね。

黙っておいてあげよう。

そんなこんなで久しぶりに橘君と二人きりに。


「なーなー、みっちゃん。聞いて良い?正直さ、この店にとって工って必要?」

と、凄く真剣な眼差しの橘君。


「うん。必要だけど、なんで?突然?何があった?」

君にそんな顔させるなんて、何があったのよ。

高校落ちても爆笑してた君が。


「んー、工の為に営業時間増やしたじゃん?正直、どうなん?遅い時間まで空けてるとさ、それだけで電気代とか暖房費とかかかんじゃん?みっちゃんの寝る時間も減っただろうし。負担多くね?今まで普通に営業出来ててさ、何の問題もなかったのに、負担増えて大変じゃね?嫌にならん?」

って・・・・。


「そっか、橘君は知らないからあれかもだけど、工君が来てから、売り上げ増量だからね。爆上がりだからね。完全大黒字だからね。しかも、夜間は今まで私が一人寂しく店舗のパソコンでポチポチと発注してた時間に工君が来てくれて店舗開けてくれてるんだからね?寝る時間、変わってないからね。むしろ、一人で寂しかった時間が無くなって、少し心に張りが出てきたよ。重いものも持ってくれるしさ。助かるよね。しかもさ、工君、時々、本当に時々だけど、《ご褒美》のおすそ分けしてくれるから。優しいからね、基本。」

と、ここまで話していると


「そっかー!!良かったー!!いやー、工がうだうだ心配してたからさ、気になってさ!!」

って食い気味にかぶせてきた橘君はいつもの橘君である。


「工さ、急な話だったし、この店にとっての重要人物な桜田さん、いわゆる最終兵器を通じてみっちゃんにバイトのお願いしたじゃん?普通だったら無理じゃん?一人雇うために営業時間拡大とか、今のままでも営業出来てんのにもう一人分給料出すとかさ。しんどいはずじゃん?だからさ、工の奴、焦った勢いで桜田さんにお願いして、トントン・・・・トントン・・・なんだっけ?なんか、あの、トントン帽子?に話進んだから、困惑っつーかさ、働いてみて桜田さんの人気知って、だから無理して雇ってくれたんじゃないかってずっと相談されててさー。【んな訳ねーよー。みっちゃん、無理なことは無理ーって言うし】って言っても信じねーし、グダグダうるせーし。っつー訳で、良かったなあ!!工がいて嬉しいってみっちゃん言ってんぞ!!」

と、私の後ろに向かって満面の笑みで手を振る橘君はやっぱりおバカだと思う。

工君が聞いてた事、私にバラさなくても良いじゃないの。

工君、きっと羞恥心で伝票握り潰してるわよ。


「・・・・・・そっすね、迷惑じゃなかったみたいでヨカッタッス。あ、てんちょー。橘さん、このエロ本欲しいらしいんで、発注おねしゃーす。」

と、エロ本のタイトルの伝票を私に手渡す工君。

頭に血管浮かばせて橘君を睨んでるけど、耳真っ赤。

可愛いな、青年。

でも、拗ねるだろうからイジならないよ。

「りょうかーい。橘君、毎度、エロ本購入あざーす。」

と返事をして、伝票をそのまま、PCに入力する。


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