依頼
.
< 090 - ×××× - ×××× >
「うーーーーん」
オカルト好きの友人のお墨付きな、信頼のおける幽霊退治屋だという話だが、やっぱりなかなか電話をかける勇気はでない。
スマホと、電話番号をメモった紙を目の前に置いてからかれこれ1時間が経った。
その間ずっと唸っている俺。
……と、トイレからするカラカラという物音。
音と気配的にトイレットペーパーが無駄に床に落とされてるかのような、あの猫がよくするヤツをされてる気がする。
かまってほしいのか??
先に断っておくが、今日家にいるのは俺一人。そう、たった一人だ。
同棲するような彼女はいないし、心霊現象が見られるようになってから友人も呼んでいない。それからトイレットペーパーにイタズラするようなペットもいない。
この際ペットでも飼っとけばこんな物音にもずっと気づかないでいられたのかもしれないが、あいにく養える余裕は当分出ないだろう。
「はぁ……」
ため息をついた。
こんな状況を解決できるツテはこの電話番号しかないのだと、改めて確認する。
深呼吸して、正座して、目を閉じて。
カッと目を見開いた。
やるしかない。
スマホのロックを解除し、ホーム画面に映し出される今は亡き姉とのツーショット。
こんな時姉さんがいたらどうしたのだろうか、なんて思うがずっと姉頼りの情けない弟ではいられない。
意を決して、数字を打ち込む。
プル……
「はい。こちらGHOST FRiLLです。何のご依頼でしょうか?」
いやワンコールかよ。
そう突っ込みたい気持ちを抑え、聞こえてきたのは美麗なテノールだった。
巷でよく聞く”イケボ”というやつだろうか。前テレビでインタビューを受けた街中の女子高生が騒いでいたが、あの声優は爽やかな感じだったな。しかも顔までイケメン。おまけに高学歴高身長。
最近の声優は声だけじゃないのか、と妙に感心した覚えがある。
とりあえず何か答えないと、と声を絞り出す。
「はい、幽霊退治の依頼なんですが__」
.
俺は友人に”GHOST FRiLL”を紹介してもらった時と同じように事の発端から今までのことを話した。
電話に出てくれた美麗なテノールの声の主は萬というそうだ。
名字なのか名前なのかは分からないが、そこは名刺でも貰えば解決するだろう。そもそも呼ぶ時は萬さん呼びで良さそうだし。
萬さんは”GHOST FRiLL”に勤めている社員だそうで、実際に幽霊を祓う人はまた別にいるんだとか。
敬語といい、話し方といい、とても丁寧な対応で、彼女が出来たことの無い俺は漠然と「モテそうだなー」と思うしかなかった。20何年しか生きてないが、優しい男がモテるのはマジである。あと顔の良い男と財力のある男。これがモテの三銃士だ。
萬さんに事情を話すと、幽霊退治を快く引き受けてくれた。
詳しい打ち合わせの日程と場所も決まったし、とりあえずこれで一段落ついたといったところか。
ここら辺で一度電話中にとったメモに目を落とす。
打ち合わせの日程は5月30日。
落ち合う場所は俺の最寄りの駅前。
そこからは萬さんが案内してくれるらしい。
案内させるなんて悪い、事務所の方まで向かいますよとは言ったのだが、言葉が流れるように喋る萬さんにいつの間にか丸め込まれてしまった。
あの話術はどこに行ったら学べるんだろうか、それとも天性のものなのか。
会ってもないのに失礼な話だが、詐欺師にも向いてると思う。
____「辿り着けないでしょうし」
ふと萬さんの言葉が頭をよぎる。
事務所に出向くと言って丸め込まれた時のやつだ。
そんなに入り組んだところにあるのか?
そもそも萬さんはこの他にもなんか色々言ってたのになぜこの一言がひっかかったのか。
嫌な予感、というわけでもないが、何かありそうな予感はする。
嫌な予感ではないだけいいのかもしれないが、これだけ神経質になってるんだ。少しのことでも気にしてしまう。
とりあえず睡眠薬でも飲んで強制的にでも身体を休ませよう。
そう思い、台所に水を取りに行った。
.