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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第三部 第四章 王宮生活
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米騒動 1

このタイトル使いたかったのです。




 わたしとルイスは困惑していた。

 米を手配したことが、第一王子が乗り出してくるような大事に発展する理由が思い当たらない。

 そしてそんなわたしたちをラインハルトは不思議そうに見ていた。


「米とは何ですか?」


 当然の質問をする。

 米はこの国では一般的な食材ではない。

 知らないのも無理はなかった。


「穀物です」


 わたしは説明する。

 それ以外、答えようがなかった。

 聞くだけ無駄だと思ったのか、ラインハルトはルイスから話を聞く。

 ルイスはわたしが米を欲しがり、取り寄せる手配をしたことを話した。


「……」


 ラインハルトは考え込む。


「その米が何故、兄上の手元に届いたんだ?」


 首を傾げた。


「それがわからないから困っているんです」


 わたしはため息をつく。


「それ以外に何かした覚えはないんですか?」


 ラインハルトに聞かれた。

 わたしは苦笑する。


(何をすると思われているのだろう?)


 逆に聞きたかった。


「何もしていません」


 首を横に振る。

 ラインハルトは少し安心したように表情を緩めた。


「とりあえず、お茶の準備をしてお待ちしましょう」


 わたしはラインハルトに言う。

 向こうが来るというのだから、こちらは待つしかない。

 用件はわからないが、話は聞いてから考えればいいと思った。


「ところで、フェンディ様というのはどんな方なんですか?」


 質問しながら、わたしは食事を続ける。

 食べている途中なので、止める気はなかった。


「この状況で、よく食事が喉を通りますね」


 ルイスは感心する。

 苦く笑った。

 ルイスはラインハルトの斜め後ろ辺りに立っている。

 胃の辺りを手で押さえていた。


「通りますよ。だって、悪いことはしていないもの」


 わたしは答える。

 ご飯を食べたくて手配を頼んだだけだ。

 咎められる覚えはない。


「それより、フェンディ様のことを教えてください」


 質問の答えが返ってこないので、もう一度せがんだ。

 ラインハルトは困った顔をする。


「兄上のことはよく知らない」


 気まずそうに答えた。


「第一王子とは顔を合わせる機会も少ないし、個人的に言葉を交わしたことは一度もない。どんな人なのかもわからない」


 首を横に振る。

 第一王子派閥と第二王子派閥は犬猿の仲だ。

 ラインハルトはマルクスと仲がいいので、第一王子側からは第二王子側だと思われている。

 実際は第二王子派閥と親しくなんてないのだが、人は見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じない。

 事実なんて関係なかった。

 第一王子とは疎遠になる。

 今まで交流は全くなかったそうだ。

 そんな第一王子が突然、祝いの品を持っていくなんて言い出したのだ。

 ラインハルトが驚くのも当然だろう。

 困惑するのも理解できた。


「せっかくだから好きなお菓子でも用意してお待ちしようと思ったのですが、わからないのなら仕方ありませんね。料理人の得意なお菓子でも作ってもらいましょう」


 わたしがそう言うと、ラインハルトやルイスはきょとんとする。


「そのためにどんな人なのか聞いたのですか?」


 ルイスに問われた。


「ええ、そうですけど。他に何かあるのですか?」


 わたしは逆に聞く。


「いえ、別に」


 ルイスは首を横に振った。


「?」


 わたしは首を傾げる。


「マリアンヌ様に裏も表もないのを忘れていました」


 ルイスはぼそっと呟いた。







 お茶の時間より少し早めにフェンディ王子はやってきた。

 年配の側近を1人連れている。

 ルイスの態度から、それがアルフレットとルイスの父親だとわかった。

 わたしにとっては伯父になる。

 大公家にいた時、一度も顔を合わせることがなかった唯一の人だ。

 二人の父親だけあって、整った顔立ちをしている。

 ロマンスグレーという言葉がぴったりな人だ。

 王子より伯父様の方が気になる。

 そちらばかり見てしまった。

 視線に気づいたらしく、伯父様に苦笑される。

 彼は米の袋を抱ええていた。

 思ったより小さい。

 5キロくらいの袋だ。


(もっとたくさん欲しかったのに)


 少ししかないことに、わたしは不満な顔をルイスに向ける。

 ルイスはそれを無視した。


「ようこそおいでくださいました、兄上」


 ラインハルトは笑顔で兄を出迎える。

 その言葉を聞いて、今は米どころではないのだとわたしも思い出した。

 うっかり米に向かっていた意識を王子に戻す。


「結婚おめでとう、ラインハルト。そして、マリアンヌ」


 フェンディの視線がわたしに向けられた。

 意味深なニュアンスを感じたが、心当たりはまったくない。


「ありがとうございます」


 わたしは礼を言った。

 スカートの端を掴んで持ち上げて挨拶する。

 改めて、フェンディの顔を見た。


 フェンディはさすがラインハルトやマルクスの兄弟という感じがする。

 王子様で、キラキラしていた。

 顔立ちも整っている。

 三人の中では一番、気性が激しそうだ。

 そう見えるのは、赤っぽい髪の色のせいだけではないだろう。

 マルクスとは真逆のタイプに見えた。

 考えるより、身体の方が先に動くアクティブな感じがする。


(どう見ても体育会系ね)


 心の中で、わたしは呟いた。

 意思の強そうな目をしている。

 個人的には嫌いなタイプではない。


(仲良く出来たらいいのに)


 難しいのだろうが、そう思った。


「今日はお茶に招いてくれて、ありがとう。ささやかだが、結婚の祝いを持参したよ」


 言葉と共に、側近を振り返る。

 ルイスの父親はぐいっと一歩、前に出た。

 米の袋を差し出す。

 それをルイスが受け取った。


「ありがとうございます、兄上」


 ラインハルトは礼を言う。


「いいや、礼には及ばんよ。マリアンヌが米を所望していると聞いたのでね」


 意味深な顔でわたしを見た。


(所望はしていました。でも、そんな目で見られる理由は全く、わかりません)


 わたしは心の中でぼやく。

 フェンディが何か勘違いしているのはわかった。

 たが、どこに勘違いする要素があるのか、わたしにはまったく理解できない。


(ただご飯が食べたいだけなのですと説明して、わかってもらえるかな?)


 無理だとわかっていたが、そうであることを願った。



3つくらい続くかなって思っています。

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[一言] >フェンディはさすがラインハルトやマリウスの兄弟という感じがする。 マルクス
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