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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第三部 第四章 王宮生活
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理解不能

サブタイトル、波乱の予感としようかと思いましたが、こちらで





 昼過ぎまで寝ているとさすがに元気になった。

 メアリを呼んで、着替えを持ってきてもらう。

 昨日より簡素な普段用のドレスが用意された。


「もう大丈夫なのですか?」


 メアリに心配される。


「ちょっと疲れただけだから平気です」


 言い訳しながら、とても気まずかった。

 わたしが起き上がれなかった理由をみんなが知っている。

 誰もそれを口に出さないが、その分、居たたまれなかった。


「ラインハルト様は?」


 それを誤魔化すように、問う。

 姿が見えないのが気になっていた。

 1人になりたくて部屋から追い出したのはわたしだが、いなければいないで気になる。


「朝食を食べた後、王宮に向かわれました」


 メアリは答えた。


 ちなみに、着替えはほぼわたしが一人で行っている。

 メアリにしてもらうのは、最後に紐を結ぶくらいだ。

 美少女に見えても、メアリの中身が男性であることをわたしは知っている。

 着せてもらうのは不味いと思った。

 だがドレスは基本、一人では着られないように作られてある。

 背中を紐で結ぶのが一般的だ。

 それは自分では出来ない。

 しかしそれ以外は自分で着ることが可能だ。

 ランスローにいた頃は一人で着られるよう、ドレスはこっそり改良していた。

 だがさすがに王宮ではそんなわけにはいかない。

 どうしてもメアリの手を借りなければいけなかった。


「ちゃんとお仕事に向かわれたのなら、何よりです。わたしが心配だから休むとか言われたらどうしようと思ったわ」


 わたしはほっとする。

 その言葉にメアリは意外な顔をした。


「具合の悪い奥様を残して仕事に向かわれたのですよ。薄情だとは思わないのですか?」


 問われる。


「薄情かしら?」


 わたしは首を傾げた。


「ここにはメアリもいるし、アントンや他のメイドたちもいる。わたしに何かあっても、世話をしてくれる人はたくさんいるわ。いてもたいして役に立たないラインハルト様はここにいるより、王宮でラインハルト様にしか出来ないことをしていただくほうが有意義だと思わない?」


 逆に尋ねる。


「普通はその様には考えないのですよ」


 メアリは苦く笑った。


「旦那様のおっしゃったとおりですね」


 そう続ける。


「ラインハルト様は何て言っていたの?」


 わたしは問う。


「心配だから側にいるなんて言ったら、叱られそうだから仕事に行ってくるとおっしゃいました」


 それを聞いて、わたしは声を上げて笑った。


「その通りね。意外とわたしのこと、よく見ているのね」


 感心する。


「愛されていますね」


 メアリは優しく笑った。


「そうね。自分でも、不思議だけれど。わたしのどこがそんなに気に入ったのか、未だにわからないわ」


 わたしは首を傾げる。

 メアリはただ笑った。

 何も言わない。

 そこは嘘でもお世辞を言うところだと思ったが、何も言わないメアリにわたしは好感を持った。


「お食事はどうしますか?」


 そう聞かれる。


「もちろん、食べるわ。昨日からちゃんとしたものを食べていない気がするの。しっかりと食べたいと伝えてください」


 伝言を頼んだ。






 わたしが食堂でのんびりと1人の食事を楽しんでいると、ラインハルトが戻ってきた。

 わたしが起きたことが伝わったらしい。

 ルイスも一緒だ。

 ルイスと会うのはなんだか気まずい。

 わたしが起きられなかった理由は伝わっているだろう。

 目を合わせられなかった。

 ラインハルトはわたしの向かいの席に座る。


「マリアンヌ。体調はどうですか?」


 心配そうに問われた。


「ご覧の通り、元気です」


 食事をしながら答える。

 並んでいたのは手の込んだがっつりとした料理だ。

 病人の食べるものではない。

 にこっと笑うと、ラインハルトは露骨にほっとした。

 かなり心配だったらしい。


(そう思うなら、無茶しないでください)


 心の中で呟いた。

 もっとも、今後はラインハルトも自重するだろう。

 今朝、わたしが起き上がれなかったことはちょっとしたトラウマになったようだ。


「ラインハルト様は昼食を取られたのですか?」


 一人で食事をしているのが気まずくて、わたしは尋ねる。


「さきほど、王宮で父と」


 ラインハルトは答えた。


「明日はマリアンヌも一緒にと誘われました。どうしますか?」


 問われた。

 ラインハルトの聞き方から察するに、断ることもできるようだ。

 だが断ればあれこれ言われるのは目に見えている。


(またポンポコと会うのか。変な無茶振り、されなければいいけど)


 そう思ったが、もちろん口には出さなかった。


「わかりました」


 素直に頷く。


「ところで、ラインハルト様は何のために戻ってこられたのですか?」


 何か言いたげにしている様子に気づいて、水を向けた。

 ラインハルトは一つ、ため息をつく。


「お茶の時間に、兄上を招くことになった」


 不本意そうに告げた。


「マルクス様ですか?」


 違うだろうと思いながら、わたしは聞く。

 ラインハルトにはもう1人、兄がいた。

 わたしはまだちらりと顔を見たことしかない。


「いいや。第一王子のフェンディだ」


 予想通りの言葉が返ってくる。

 ラインハルトは困った顔をした。


「何のためにいらっしゃるんですか?」


 わたしは尋ねる。


「結婚の祝いを持ってきてくれるそうだ」


 ラインハルトは浮かない顔で呟いた。

 わたしは困惑する。


「それの何が不味いのですか?」


 わからないから、聞いた。

 言葉通り受け取れば、結婚を祝福してくれていることになる。

 ラインハルトが渋い顔をする必要はないだろう。

 だが、言葉通り受け取ることは出来ないのだと思った。


「今まで、第一王子の方からこちらへ接触してくることはほとんどありませんでした」


 ラインハルトの代わりにルイスが説明してくれる。


「もちろん、王族として顔を合わせる機会はありますし、先日のお妃様レースのようにご協力していただくこともあります。ですがそれは公務の一環です。個人的な交流は一度もありません」


 ルイスはわたしをじっと見た。

 わたしはその視線の意味がわからなくて、戸惑う。


「これまでも確かに、祝いの品をやりとりする機会はありました。ですがそれはどちらも使用人が届けるだけです。王子が自ら、お持ちになることはありませんでした。しかし今回は自ら祝いの品を届けるから、こちらに来たいと所望されました。それで、お茶に招待することになったのです」


 つまり、祝いの品をわざわざ自分で届けるというのが緊急事態のようだ。


「どうしてそんなことに?」


 わたしはルイスに聞いた。


「わかりません。ただ……」


 ルイスは眉をひそめる。

 わたしを睨んだ。

 睨まれた理由がわたしにはわからない。


「祝いの品は“米”だそうです」


 その言葉に、わたしの身体はピクッと震えた。


(ん?)


 目をぱちくりと瞬く。


「それって、わたしがルイスに取り寄せてくれと頼んだものかしら?」


 まさかと思いつつ、尋ねた。


「どうやらそのようです」


 ルイスは頷く。


「何故、取り寄せを頼んだお米がフェンディ様のところに届いているのかしら?」


 わたしは顔が引きつるのを感じた。


「何でだと思いますか?」


 ルイスに問われる。

 わたしはわからないと首を横に振った。


「私にも、わかりません」


 ルイスはため息をつく。


「ただ、フェンディ様がこちらにいらっしゃるのはマリアンヌ様のせいなのは確かなようです」


 責めるように見つめられた。


「そんなことを言われても……」


 わたしは困る。

 ただご飯が食べたいだけなのに、どうしてそんなことになるのか理解できなかった。







ただご飯が食べたいだけなんです。><

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