華 2
細切れですいません><
昨日の夜から父とルイスはよく二人で話し込んでいる。
問題が起こったというわけではなく、周辺の貴族たちについての情報交換をしているようだ。互いに持っている情報を照らし合わせて、補完しているらしい。
ルイスは妙に楽しそうだ。
生き生きしている。
策略を練るのが好きなのだろう。
「お父様」
わたしは呼びかけた。
父がこちらを見る。
「おおっ」
声をあげた。
「綺麗だね。髪飾りもペンダントもとても似合っているよ」
嬉しそうに目を細めた。
その隣でルイスが何か言いだけな顔をしている。
「馬子にも衣装って言っていいですよ」
この世界にこの言葉があるのか知らないが、言ってみた。
そんなことを言いたそうな顔をしている。
「なんだそれは?」
予想通り、ルイスは首を傾げた。
説明する気がないわたしは流す。
「何か言いたげな顔をしていたから、聞いただけです」
にこりと笑った。
「その髪飾りもペンダントも見たことあると思っただけだ」
ルイスは答える。
「本当ですか? 母のなんです」
私の言葉に父も頷いた。
当然、父は母の物だと知っている。
「ああ、だからか」
ルイスは納得した。
「肖像画の中で叔母上がつけていた」
教えてくれる。
「そういえばその肖像画、見せてもらっていません」
暇がなくてすっかり忘れていた。
「これから見る機会はいくらでもあるだろう」
ルイスは当たり前のことを言う。
本人に悪意はなかった。
だがわたしと父はドキッとしてしまう。
養女の件が頭を過ぎった。
「そうですね」
わたしはただ頷く。
その反応に、ルイスは自分の失言に気づいた。
だがそこで謝罪をするのは傷口を広げるだけだと知っている。
「今日のパーティ、ラインハルト様はわたしのエスコートで忙しいと思うので、ルイス様は存分に暗躍してください」
わたしは強引に話題を変えた。
「そうさせてもらおう」
ルイスは頷く。
そんなことを話している間に、気の早い客はもうやって来てしまった。
昼少し前から客たちは集まり出した。
父やわたしと一緒にラインハルトも客を出迎える。
最初は父だけが客を出迎える予定だった。
ラインハルトはエスコートのためにわたしの横に居る。
だが父に挨拶した客は必ずわたしとラインハルトのところにもやって来る。
それならいっそ三人で並ぶ方が効率的だと気づいた。
父とラインハルトが並んで出迎える方がより関係が密接な感じもする。
わたしはラインハルトの隣でただにこにこと微笑んでいることにした。
三人で出迎えた方が客はスムーズに流れる。
父と王子が仲良さげにしているので、挨拶がまとめて一度で済んでしまうからだ。
私の仲良しアピール大作戦は今のところ順調に進んでいる。
わたしには初対面の貴族が多く、基本的な対応は父に丸投げした。
今日のホストは父なので、わたしがでしゃばる必要もない。
むしろ、控え目にしていた方が好印象だろう。
黙ってラインハルトに寄り添っていた。
大半の客の目当ては滅多に会うことが出来ない王子様の方なので、わたしはただ微笑んでいれば事足りる。
(ある意味、楽だな)
そう思って油断していた。
「元気そうだね」
話しかけられて、びっくりする。
相手は微笑んでいた。
穏やかな紳士という感じがする。
なかなかイケメンだ。
どちらかというと父とタイプが似ている。
どことなく見覚えがある気もした。
「ハワード様ですか?」
尋ねる。
確証があって聞いたわけではなかった。
パーティの出席者でわたしが知っていそうな心当たりがそれしかない。
「そう。覚えていてくれて嬉しいよ」
喜ばれて、胸が痛んだ。
(実はあんまり思い出せていません)
そんな本当のことを言えるわけがない。
「ハワード様も元気そうで何よりです。また後でゆっくり」
遠まわしに、今は話している暇がないと伝えた。
実際、客の流れを止めるわけにはいかない。
「そうだね。では、また後で」
ハワードはにこやかに立ち去って行った。
(ごめんなさい。パーティが終わるまでにはちゃんと思い出すようにします)
わたしは心の中で約束した。
視線が無意識にハワードを追いかける。
(いたっ)
腰に回された手に力が込められて、はっとした。
ラインハルトがこちらを見ている。
目が笑っていなかった。
客には笑顔を向けているのに、なんだか怖い。
(機嫌を直してください)
わたしはしなだれかかった。
甘えてみる。
この場で出来るのはこんなことくらいしかなかった。
(こういうの、好きじゃない)
心の中で言い訳する。
だが、ラインハルトに機嫌を直してもらわなければならなかった。
その気持ちが伝わったのか、ラインハルトは手の力を緩めてくれる。
わたしはほっとした。
ラインハルトはてきぱきと客をさばいていく。
父との良好な関係もアピールすることも忘れなかった。
客たちは王子とランスロー家の関係を親密だと判断するだろう。
(王子様の底力を見た気がする)
わたしは心の中で感心した。
さすが厄介な貴族の総本山である王宮育ちだと思う。
わたしの方は貼り付けた作り笑顔がそろそろ限界でひくひくし始めていた。
(まだ終わらないの?)
そんな心の中のわたしの叫びが、何故かラインハルトには聞こえたらしい。
「そろそろ終わりです。もう少しだから、頑張って」
耳元に囁かれた。
(聞こえたの?!)
わたしは驚いたが、もちろんそんなことはない。
疲れた顔をしていたからのようだ。
実際、わたしはとても疲れている。
昨日からくたくただ。
(二度とパーティなんて、開かない)
そう心に固く決めるくらいには限界に達している。
尤もそれは準備の大半を自分がしたからと、準備から開催までの時間がなさ過ぎたせいだろう。
「頑張ります」
小さな声でわたしは応えた。
まだ続くのです><




