閑話: 幸せの形
評価&ブクマ、ありがとうございます。
マリアンヌ視点です。
婚約から2年後、アドリアンとオフィーリアの結婚式は予定通りに行われた。さらにそのほぼ1年後、オフィーリアは男の子を出産する。
それにより、アドリアンは皇太子になる資格を得た。それを機に国王は退任を決める。ラインハルトが即位することになり、アドリアンは皇太子になることが決定した。
それはつまり、わたしが王妃になると言うことでもある。
正直、気は重かった。だが、逃げられないこともわかっている。気分転換に、オフィーリアの所に孫の顔を見に向かった。
疲れているであろうオフィーリアにベッドに横になったままでいいと告げて、わたしはベビーベッドに眠る赤ちゃんの顔を見る。
赤ちゃんはすやすや寝ていた。アドリアンは母やシエルにそっくりだが、この子はそうでもない。だが顔立ちなんて関係なく、ただ可愛かった。
(子供より孫の方が可愛いっていうけど、本当かも)
心の中で呟く。
何の責任もなく、ただ可愛がるだけでいいなんてとても気楽だ。首が据わったら構い倒そうと心に決めて、起こす前にそっと離れる。
オフィーリアの側にある椅子に座った。
「すごく順調に予定通りね」
オフィーリアに囁く。
「ええ。予定通りです」
オフイーリアは頷いた。にこやかに微笑む。
オフィーリアとアドリアンの間に男女の恋愛感情はない。だが、2人の仲は決して悪くなかった。例えるなら、運命共同体という感じがする。オフィーリアは積極的にアドリアンの業務を手伝っていた。同時に、女性の雇用を積極的に推し進めている。それは女性の社会進出に一役買っていた。
(わたしよりずっと上に立つことに向いている)
オフィーリアを見ているとわたしはそう思う。
それに、オフィーリアはわたしが思っていたよりずっと計画的な人だ。効率よく最短で妊娠するために妊活も厭わない。基礎体温や生理周期を記録し、妊娠に適した時を割り出した。その時だけ、アドリアンと子作りに励む。それはかなり事務的で、見ているこっちが不安になるくらいだった。しかしわずか数回でそれは成功する。アルステリアには妊活の秘伝書のようなものがあるそうだ。それを活用したのだと後から聞く。
そんなものがあるなんて知らなかったと驚いていたら、メアリにこの国にも似たようなものがあると教えられた。王家にも伝わっているらしい。そんなこと一度も聞いたことがないと拗ねたら、必要無いから言わなかったと言い返された。
(確かに、必要無かった)
自分とラインハルトのことを顧みると、そう思う。むしろ避妊方法を教えて欲しいくらいだ。もちろん、そんなことは口には出さない。
「これで、わたしは自分がやりたいことを頑張ってもいいんですよね?」
オフィーリアに問われた。オフィーリアはキャリアウーマンタイプだ。育児より仕事がしたいらしい。権力を必要としたのも仕事をするためだ。この国では女性が仕事をするのは難しい。
「ええ。妃としての務めは十分に果たしたわ。だから、これからは貴方のしたい仕事をしていい。協力は惜しまないわ」
わたしは約束する。
「でも、今さらこんなこというのはなんだけど……。本当にアドリアンで良かったの?」
オフィーリアが幸せになれるのか、心配する。アドリアンは我が子だが、夫としてはお勧めできる人物ではない。アドリアンにとって大切なのはオーレリアンだけだ。
「むしろ、アドリアンで良かったです」
オフィーリアは即答する。
「アドリアンはわたしを愛することはないですが、他の女性を愛することもありません。アドリアンにとって、特別なのはオーレリアンだけでしょう?」
わたしに問うた。
「ええ。そうよ」
わたしは頷く。
「他に女を作り、その人が男の子を産むことがなければわたしはそれでいいのです。息子が皇位争いをしたり、そのことで母親としてわたしが神経をすり減らすのは嫌なのです。その心配がないのがわたしとしては一番いいことです」
オフィーリアははっきり言った。
「幸せの形は人それぞれね」
わたしは苦く笑う。そういう意味では、アドリアンとオフィーリアは利害関係が一致しているようだ。だから、仲良く出来るのだろう。
「ええ。わたしはちゃんと幸せです」
オフィーリアのその言葉を聞いて、わたしはほっとした。
「できるだ早く、貴女に王妃の座を明け渡してあげるわね。王子妃より王妃の方がきっとできることは多いはずよ」
約束する。
「それはお義母様が王妃の座を退きたいだけですよね?」
オフィーリアは笑った。
「そうとも言うわね」
わたしは素直に認める。王妃なんてわたしには荷が重い。
(早くラインハルト様と2人で田舎でスローライフが送りたい)
密かな野望をわたしは持っていた。
何が幸せなのか、決めるのは自分です。




