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予選二日目 2

評価&ブクマ、ありがとうございます。

二日目、ラインハルトはそんなことを考えていました。






 ラインハルトはルイスからあたりの小箱を二つ、手渡されていた。合格させたい相手がいたら、渡していいと言われる。

 そう言われて頭に浮かんだのはマリアンヌのことだった。

 地味で、どこにでもいるような普通の女性だ。メイド達も含めて、王宮で働く者は容姿端麗が多い。出入りする貴族達も自分の容姿に自信がある者がほとんどだ。いわゆる美人をラインハルトは見慣れている。

 だから逆に普通の令嬢が新鮮なのかと、自分でも思った。理由もなく、気になってしまう。


(いや、違うな。理由はあった)


 ラインハルトは心の中で呟いた。

 無意識に周りを仕切ったり、困っているのを放っておけなかったり。誰もが自分のことだけ考えていたあの状況で、彼女は周りのことを考えていた。それが気になった。

 そして今日、彼女は宝箱を探しもせずに荒らされた庭を埋め戻している。

 変わっていると思ったが、まさか、レースを途中で棄権して帰るつもりだとは思わなかった。しかも、弟の妻にならないかと自分を誘う。

 唖然としていると、マリアンヌは焦ったように言葉を続けた。


「もちろん、将来、国王になるかもしれない王子妃の方が素敵なのはわかります。綺麗なドレスも華やかなパーティも何でも思い通りになる権力も、辺境地の男爵夫人にはありません。でもその分、重責を背負うこともなく、気楽ですよ。わたしたちと楽しく仲良く暮らしてみませんか?」


 にこっと笑う。


(悪くない)


 正直、ラインハルトはそう思った。田舎で気楽にマリアンヌと暮らせたら、楽しいかもしれない。思わず、笑ってしまった。


「それはとても素敵な提案ですね」


 そう言うと、マリアンヌは安堵を顔に浮かべる。だが、それれをOKの返事だ受け取っていいのか迷っているようだ。


「一つ、聞いてもいいですか?」


 遠慮がちに問う。


「何でもどうぞ。一つと言わず二つでも三つでもいいですよ」


 マリアンヌはにこにこ微笑む。そうやっていると、美人ではないが愛らしい。それなりに胸もあってスタイルも悪くなかった。抱きしめたら柔らかそうに見える。

 今まではプライドが高くて口うるさい貴族の女性と褥を共にするなんてごめんだとラインハルトは思っていた。全く気が休まりそうにない。だがマリアンヌの隣でなら、熟睡できそうだ。

 にやけそうになる口元をラインハルトは引き締める。


「マリアンヌ様がお妃様になりたくない理由はなんですか? そして何故、このレースに参加したのでしょう?」


 そのつもりはないと言いつつ、レースに参加した理由が気になった。


「お妃様になりたくないのは、わたしには荷が重いからです。わたしのようなその他大勢ではなく、例えばフローレンス様のような主役を張る人がお妃様にはなるべきです。この国の将来を守っていく人なのですから、人格者で頭のいい人がいいと思います」


 マリアンヌは完全に他人事として意見する。


「それがわかっていてこのレースに参加したのは、どうしても王都に来たい理由があったからです。長い間、絶縁状態だった祖父に呼んでもらえたのですから、このチャンスを逃すわけにはいかなかったのです。将来、男爵家を継ぐ弟のために」


 真面目に語った。


(そう言えば、彼女の母は家出をしてランスロー家に嫁いだんだったな)


 ラインハルトは思い出す。王都の華と呼ばれていたフローレンスのラブロマンスは実は結構有名だ。表立って口にする者はいないが、メイド達の間では伝説になっている。実は彼女は妃に選ばれることが内定していたという話も王宮では流れていた。それはあくまで噂だが、ない話ではないとラインハルトは思っている。気が強く野心家である第二王妃より、彼女に嫁いできて欲しかったと嘆く声はラインハルトでさえ何回か聞いていた。


「それにわたし、どういうわけか最後の10人に残れる自信があるんです。ついでに、賞金を貰おうかなとちょっと欲が出ました」


 マリアンヌは笑って、小さく肩を竦める。貴族らしくなく本音を語る彼女にラインハルトは好印象を深めた。


「賞金は何に使うつもりだったんですか?」


 くすくすと笑う。


「生活費です。弟が結婚して家を継いだら、わたしは屋敷を出るんです。その時に住む家とか自分の畑をすでに持っています。自給自足の生活をするつもりですが、それでも現金って何かの折には必要でしょう? その時に使う資金にしようと思っていました」


 思いもしない返答が返って来た。


「自給自足って何ですか?」


 問う。


「自分で食べる野菜とかを自分で作ることです。わたし、自分の畑で野菜を作っているんです。我が家の食卓には、すでに半分くらいわたしが作った食材が調理されて並んでいるんですよ」


 マリアンヌは自慢した。貴族の令嬢が畑で野菜を作っていることに、ラインハルトは普通に驚く。


「凄いですね」


 感心した。


「一度、遊びにいらしてください。遠いですけど」


 マリアンヌは笑う。それが社交辞令ではないことはわかった。


「ありがとうございます。ぜひ」


 ラインハルトは頷く。一度、マリアンヌの故郷を見てみたいと思った。


「じゃあそろそろ、わたしたちも宝箱を探しに行きましょう。 わたしには必要ないけど、フローレンス様には必要でしょう?」


 マリアンヌは気遣ってくれた。

 こうして話をしている間にも時間は過ぎていく。宝箱を見つけた女の子たちがはしゃいだ様子でゴールに向かう姿が見えていた。


「そのことなんですが」


 ラインハルトはふっと笑う。


「実はわたくし、宝箱をすでに見つけましたの。……二つ」


 そう言って、ポケットから二つの箱を取り出した。


「二つ?」


 マリアンヌは首を傾げる。ゴールに持って行けるのは一つだけだ。


「昨日のお礼に、箱を一つ差し上げたくてマリアンヌ様を探していましたの」


 一つ、ラインハルトは差し出した。

 だが、マリアンヌは受け取らない。


「その箱はわたしには必要ないので、どなたか別の方にあげてください」


 断られた。

 ラインハルトは自分でも驚くほど、ショックを受ける。


「いいえ。わたくしはマリアンヌ様に差し上げたいのです。どうか、この箱を貰ってください。そしてもし中身が当たりだったら、明日もう一日だけわたくしと会ってください」


 ラインハルトはマリアンヌの手を握った。

 マリアンヌは一瞬、奇妙な顔をする。だが、何も言わなかった。


「でも……」


 ただ、困っている。

 ラインハルトはここぞとばかりに押した。


「お願いします、マリアンヌ様」


 目をうるうると潤ませて懇願する。ラインハルトは自分の容姿が他人に与える影響を知っていた。


「わかりました。もし、当たりだったらもう一日だけ、お会いしましょう」


 マリアンヌは押し負ける。

 そしてこの瞬間、ラインハルトはマリアンヌを選ぶことを決めた。






早々にターゲットを絞ることにしました。


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