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閑話: 甘えっ子

評価&ブクマ、いつもありがとうございます。

内容的にマリアンヌが出てこない回が続くので、ちょっとしたなごみ回を。






 社交界に顔を出した翌日、たいていシエルは不機嫌だ。お茶の時間になっても、その不機嫌はおさまらない。2人でお茶をしているというのに、ずっと憮然としていた。父は外出していて、今日はいない。


「何かあったの?」


 心配して声をかけると、シエルはむっかりと頬を膨らました。


(……何、この可愛い生き物。お持ち帰りしたいっ)


 心の中でわたしは萌えた。だがそもそも家にいるので、お持ち帰りのしようがない。


(こんな可愛い子が弟なんて。前世のわたしはさぞかし徳を積んだに……)


 違いないと思いかけて、そんなことはないなと否定する。前世を覚えているわたしは自分が徳なんて積んでいないことをよく知っている。むしろ、好き勝手に生きてきた。


「……何もない」


 明らかに嘘だとわするタイミングで、シエルは否定する。これはきっとわざとだろう。わたしに心配して欲しいに違いない。お姉ちゃん子のシエルは基本、甘えたさんだ。わたしにずぶずぶに甘やかして欲しいらしい。

 その要望に応えるのは全く構わないが、シエルの将来はちょっと心配になる。未来のお嫁さんにも同じことを求めて、果たして相手は応えてくれるだろうか。10代の女の子にはちょっと荷が重くないかなとか考えてしまう。


「シエル」


 わたしはポンポンと自分の太股をドレスの上から叩いた。


「膝枕してあげる。おいで」


 優しく呼ぶ。


「……」


 シエルは何も言わず、わたしの隣に来た。横になって、わたしの腿の上に頭を置く。

 そっとわたしはその髪を撫でた。柔らかな金髪は手触りがいい。


「パーティで何か、嫌なことでもあった?」


 問いかけた。


「パーティは基本、嫌なことしかないよ」


 シエルは答える。ため息をついた。


「自慢話とマウントの取り合いで、くだらない」


 ばっさりと斬り捨てる。


「そうね」


 わたしは同意した。ドレスと宝石のことしか話題がなかった女の子たちの会話を思い出す。その時のわたしたちはまだ子供だったが、話題は大人とさして変わらなかった。


「姉さんは社交界に未練がないの?」


 シエルが問う。


「全くないわ」


 わたしは即答した。


「ただただ、面倒くさかった」


 本音をこぼす。


「誰か親しい友達とかいなかったの?」


 シエルはさらに質問を続けた。そんなこと聞くなんて、珍しい。


「友達なんていないわよ。いたら、パーティに出なくなっても付き合いくらいは続けているでしょう? その場で顔を合わせたらくっついてくる子はいたけど、それはパーティの時間だけ。プライベートでは手紙一つ、やりとりしたことがない。そういう子を友達とは言わないとわたしは思っているわ」


 冷たいことを言うようだが、それは本心だ。


「そう」


 シエルは納得したように頷く。


「姉さんが後悔していないなら、それでいいや」


 そう続けた。


「わたしのこと、心配していたの?」


 意外な言葉に、わたしは驚く。


「姉さんは僕のために全てを犠牲にしたから」


 シエルはぼそっと呟いた。


「そんな風に思ってはいないわよ」


 わたしはにこやかにシエルに微笑む。よしよしと頭を撫でた。

 シエルは少し照れながら、顔をこちらに向けた。何も言わずしがみついてくる。その背中を優しくわたしは撫でた。





シエルはハワードのことを気にしています。


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