シスコン
評価&ブクマありがとうございます。
マリアンヌもブラコンですけどね。
わたしは少しずつ、自分が出来るとを増やして行った。
チートな能力なんて何も持たないわたしは地道に努力を重ねるしかない。自分が天才肌でないことはよく知っていた。何でも上手に出来るわけではないし、たいして器用でもない。だから経験を積んで、出来ることを増やすしかなかった。
(チートな能力を持たないその他大勢なんてこんなものなのね)
地道に努力するしかないことに、ちょっと疲れた
植物を育てたら何でもよく育つ能力とか、そういうチートさが今さらだが欲しい。
(まあ、世の中そんな風に上手くいくわけはいんだけどさ)
苦く笑いながら、今日も朝早くから畑に向かった。
畑で野菜を作り始めてから、10年以上が経つ。おかげでわたしもちょっとした農家並みには農作業に詳しくなっていた。作付け面積は狭くても、いろんな種類の野菜を季節ごとに植えている。
シエルももう直ぐ、16歳。わたしが家を出る日は遠くない。
(問題はシエルにどう説明するかだな)
たわわに実った夏野菜を収穫しながら、わたしは頭を悩ませていた。
わたしが家を出る計画を父は知っている。最初は鼻で笑われたが、時間をかけて本気であることを証明した。
納得はしていないのだろうが、黙認はしてくれるらしい。
何年も畑仕事を頑張る娘を見て、引き止めることは出来ないと感じたようだ。
しかしシエルには話すタイミングがなく、まだ知らせていない。
畑を作った時や狩りの獲物を捌く時、一人で生きて行くために必要なことだという話は何度もしているが、それが家を出て一人で暮らすという意味とは繋がっていないようだ。
シエルの結婚相手に望む一番の条件が、わたしと仲良く暮らせることだと父から聞いて、驚いた。
シエルは結婚後も、わたしと一緒に暮らすつもりでいたらしい。
言われてみれば、シエルが結婚したら家を出ると、はっきり伝えたことはない。
なんとなく伝わっていると思っていたが、なんとなくではダメなのだろう。
だが、それを告げるのはとても気が重かった。
わたしが手塩にかけて育てたシエルは、完全にシスコンに育ってしまった。
何よりお姉ちゃんが一番で、わたしを大切にしてくれる。
姉としてはとても嬉しかった。わたしもシエルが可愛くてならない。
母にそっくりなシエルは生まれた時から美人な赤ちゃんだ。そして年々、可愛さを増していく。
大人に近づいてきて中性的な美しさは消えてきたが、その分、男の子っぽい格好良さが増してきた。
姉の贔屓目を差し引いても、モテるだろう。
事実、手紙や招待はたくさん届いているようだ。しかしそれを一切、わたしには見せてくれない。
相手が誰か知ったら、余計なことをするだろうと言われた。
そんなことはしないと否定したいところだが、やらない自信が逆にない。
シエルのために張り切る自分の姿を想像するのは容易かった。
シエルの判断はたぶん正しいだろう。
だが、シエルにまだ彼女がいないのも、婚約者が決まっていないのも、わたしのせいだと思うととても後ろめたかった。
(ちゃんと話して、わたしのことは気にしなくていいと伝えよう)
駕籠いっぱいに野菜を収穫して、わたしは屋敷に戻る。シエルときちんと話をする時間を取ろうと、決めた。
朝食の席で、話を切り出すタイミングをわたしは探していた。そわそわして落ち着かないわたしに、シエルは気づく。
「姉さん?」
不思議そうな顔をされた。
わたしは苦く笑う。
「今日、2人で出かけない?」
わたしは誘った。
「何処へですか?」
シエルは問う。
「ピクニックに」
わたしは答えた。
馬車で30分も行くと、広々とした原っぱがある。母が生前、好きだった場所だ。父と3人で、母の思いつきに付き合って何度も訪れた。
「いいですね」
シエルは微笑む。
「じゃあ、午後のお茶の時間に合わせて出かけましょう」
わたしは約束した。
シエルはわりと忙しいのです。




