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将来設計 1

評価&ブクマ、ありがとうございます。

将来を考えます。





 シエルが生まれたことにより、わたしは跡継ぎではなくなった。

 神童だなんだともてはやされても、女の子は所詮女の子だ。男の子が生まれれば跡継ぎはそちらになる。周りはそんなわたしを気遣ってくれた。

 わたしは10歳くらいから父の仕事を手伝っている。それには次期領主がわたしであることを周知する目的もあった。手伝いながら、わたしは仕事を覚える。前世の知識を活用し、システムの改革も行った。尤も、わたしが持っている農業の知識なんてたいしたものではない。今までよりはいろいろ便利になり、効率が少し良くなる程度のものだ。だが領民達には感謝される。

 次期領主として、認められつつあった。

 そんな今までの努力が無駄になることを、周囲は嘆く。だがわたしは悲観していなかった。むしろ、肩の荷がおりてほっとしている。

 そもそも家を継ぎたかったわけではなかった。出来るなら、気楽に生きたい。領主などという責任のある立場は遠慮出来るなら嬉しかった。


(その他大勢のわたしには不相応だしね)


 心からそう思う。

 そしてなにより、わたしは弟が可愛いかった。シエルが領主になることに、何の不満もない。


 母に良く似たシエルは愛らしかった。きゃっきゃっと声を上げて笑う姿は控え目に言っても天使だと思う。

 尊すぎて拝みたい気分だ。


 生後半年が過ぎ、シエルの首は座る。安心して抱っこが出来るようになった。離乳食を食べさせるのも、オムツを替えるのもお風呂に入れるのも。手伝ってはもらうが、ほとんど一人でやる。

 大変だが、それ以上に充実していた。


(まさか子育てする日が来るとは)


 前世を通してはじめての経験に、戸惑うことも多々ある。だが案外、薄い前世の知識が役に立った。


 シエルはすっかりわたしに懐く。自分を守ってくれる人だという認識はあるようだ。ぎゅっとしがみついてくる。

 頼られていると感じる度、シエルはわたしが守るという決意を新たにする。

 母の死を嘆き悲しむ暇がないほど、毎日は慌しかった。


 父はわたしとの約束を守ってくれる。

 再婚の話は全て断ってくれた。ついでに、数は少ないがわたしの嫁入りの話も断ってくれているらしい。少なくとも、シエルが16歳になるまで、わたしは嫁ぐつもりはなかった。そしてシエルが16歳になるころには、わたしは28歳になる。そんな年のわたしに嫁ぎ先などあるわけがなかった。あったとして、後妻がいいところだろう。そこまでして嫁に行く必要性をわたしは感じない。


 だが、シエルが成人した後も家に残るのはそれはそれで問題がある気がした。

 わたしのような小姑がいたら、シエルの嫁取りが難しくなるだろう。

 ランスロー家は貧しいわけではない。だがそれほど、裕福でもなかった。条件はそこそこなのに、小姑がいたらいい嫁は来ない。

 自分の将来を考える必要をわたしは感じた。それは婿を取るより、嫁に行くより、ある意味、難しい。貴族の令嬢には基本、この二つしか選択肢はなかった。

 わたしは第三の選択肢を探す必要に迫られる。


(どう考えても、領地の片隅で1人暮らしが妥当だな)


 散々考えて、そう結論を出した。

 一人で生きて行くために、自給自足を検討する。幸いなことに、ランスローは気候が温暖な穀倉地帯だ。自給自足には向いている。

 だが、いきなり手を出して上手くいくはずがない。今のうちから準備することは必要だろう。

 幸い、わたしには時間があった。


 わたしは今、社交界からきっぱりと距離を置いていね。

 領主になることもなく、嫁にも行かないことにしたわたしに人脈作りの場である社交界は必要なかった。領主としての勉強もやめる。自分の時間は全部、シエルに費やしていた。その時間から、畑仕事の時間を作ればいい。


(まず、屋敷からそれほど離れていない場所に土地を確保しよう)


 そう決めて、ランスロー家が領地内に所有している土地の調査から始めた。私有地は誰も手入れしていないので、基本的に放置されている。屋敷から歩いて十分ほどの場所に適度な広さの土地があることを知った。

 シエルを抱っこして、散歩と称してその土地を見に行く。

 そこは何もない原っぱだ。


(ここに小屋を建てたり、畑を作ったりするのは可能なのだろうか?)


 知識のないわたしにはわからない。


「おや、お嬢様。こんな場所で何しているんですか?」


 近くの農家のおじいさんが通りかかった。彼はこの辺では大きな農家の1人だ。家族や一族も多く、手広く農業を営んでいる。父の仕事について廻っていた頃、何度か顔を合わせていた。


「こんにちは。実は考え事をしていたんだけど、聞いてもいいかしら?」


 これ幸いにと、アドバイスを求める。

 この場所に畑を作り、近くに農作業小屋を建てたいのだと打ち明けた。


「ほう」


 おじいさんはなるほどという顔をする。肩に担いでいた農具で近くの土地を掘り起こした。


「なるほど」


 土に触れて、そう言う。


「ここを畑にするのは可能ですよ。小屋はそうですね……、あの辺とかに作ればいいでしょう」


 教えてくれた。


「ありがとう」


 わたしは礼を言う。

 おじいさんはそれににこにこと笑みを返してくれた。


「でもその畑、誰がやるんですか?」


 当然の質問をされる。


「……わたし」


 とても言い難く思いながら、打ち明けた。


「……」


 おじいさんは黙り込む。とても驚いていた。何も言わないのは、精一杯気を遣った結果だろう。だがその沈黙がわたしには辛かった。







貴族の令嬢が畑仕事するのは異常事態です。

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