表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
589/651

閑話:出来のいい子(前編)


評価&ブクマ、ありがとうございます。

ハワード視点です。






 ハワードは伯爵家の嫡男として生まれた。

 辺境地といえど、伯爵家は裕福だ。周辺では一番爵位が高い。

 両親はハワードに多くのことを望んだ。ハワードはそんな親の期待に応えようとする。するとある時から、両親は1人の子供の話をよく口にするようになった。

 近くのランスロー領に神童と呼ばれる子供がいるらしい。


「いいかい、ハワード。お前は伯爵家の跡取りだ。この辺では我が家が一番、爵位が高い。それがどういうことなのかわかるかい? お前は誰にも負けてはいけないということだよ。例え、それが神童と呼ばれている子でも」


 物心ついた頃から、繰り返しそう言い聞かされた。ハワードは当然、その子のことを意識するようになる。

 だが、貴族同士であっても顔を合わせる機会はそうそうない。貴族の子供はある程度礼儀作法が出来るまで、お茶会やパーティには連れて行ってもらえなかった。

 ハワードは必死で、作法を覚える。貴族として人前に立てるよう努力した。


 幸か不幸か、神童と呼ばれる子は女の子だ。普通より早く何でも出来るとしても、自分のライバルにはならない。だが、両親がことある毎にその子のことを引き合いに出すのは鬱陶しかった。

 そのもやもやした気持ちを本人にぶつけてしまう。

 5歳の時、両親が開いたパーティでハワードは初めてマリアンヌに出会った。


 マリアンヌの母はとても綺麗な人だ。ハワードはまだパーティへの参加を許されていない時、噂の美女を見てみたくてこっそり覗き見したことがある。

 周りにいた婦人達とは明らかに一線を画していた。美しすぎて、他の婦人達は最初から張り合うことを諦めている。

 その人の娘ならマリアンヌもさぞかし可愛いだろうと思った。そういう意味では、興味みある。しかし初めて見たマリアンヌは驚くくらい普通だ。

 決して、不細工なわけではない。それなりに可愛く、愛らしい子供だ。だが、母親の美しさは欠片も引き継いではいない。


(本当に親子なのか?)


 ハワードがそう思うくらい、全く似たところがなかった。そしてそれは父親の男爵にも同様だ。

 ランスロー男爵と言えば、近隣では有名な美男子だ。物腰が柔らかく、誰にでも親切で評判がいい。当然、凄くモテていた。だが、美人過ぎる夫人と張り合うほど無謀な人はいない。2人はおしどり夫婦でも有名だ。

 そんな華やかな外見の2人の子なのに、マリアンヌはどちらにも似ていない。

 そのことを訝しく思うのはハワードだけではなかった。

 出生に関する噂もマリアンヌにはいろいろ流れている。


 子供というのは残酷だ。

 大人なら躊躇うようなことを、時に平然と行う。

 ハワードが密やかに流れている噂の一つを、マリアンヌにぶつけた。

 動揺する顔を見られたら、それでいい。深く傷つけるつもりはなく、軽い気持ちだった。

 しかし、ハワードの目論見は外れる。マリアンヌは全く動揺しなかった。

 自分が誰に似ているのか、堂々と宣言する。

 それを周りにいた大人も聞いていた。その中には、先代のランスロー男爵夫人の顔を知っているものもいたらしい。確かに似ていると、囁かれる声が聞こえた。


 ハワードは自分が利用されたことに気づく。マリアンヌはわざと、周りに聞こえるような大きな声で話した。周りに、自分のことを周知させるためだろう。

 事実、その日以降、マリアンヌの出自を疑う噂は聞かなくなった。


 そのたった一回の出会いは、ハワードにとっては大きな出来事だった。

 マリアンヌのことが気になって、仕方なくなる。

 だがそれ以降、マリアンヌがパーティに顔を出すことは無かった。

 まだ早いと、マリアンヌの両親は判断したらしい。


 会いたくても会えない、そんな時間が続いた。

 焦れた時間は恋に変わる。

 いつの間にか、ハワードはマリアンヌのことが好きになっていた。





気づいたら、恋です。 笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ